Persona〜Sleep of Rebirth 作:氷室狼
夢が壊れていく 夢が壊していく
胡蝶は人を羨み 人は胡蝶を妬む
決して相容れぬ筈の夢と現の中で、自分達は何なのかなんて、考えた事も無かった…
「次はヤマト坂上、ヤマト坂上。市営地下鉄ヤマト第二線はお乗り換えです。この電車は当駅を出ますと、終点の蘇我まで止まりませんので御注意ください。」
朝のの通勤ラッシュに揺れる通勤電車、そこで彼は降りる筈の駅の手前で目を覚ましていた。
「ん…降りる駅か。」
新興都市ヤマト市、それはかつて千葉県にあった山を核で吹っ飛ばして埋め立て用の土を確保して東京湾を埋め立てるという多少どころかかなりイカれた発想によって計画され、流石にそれは駄目だとしながらも結局は都市部の人口流入の緩和の為に余った土砂などを運んで作られた千葉市西側の新興都市である。
当初は環境的にも大反対であったが、外国からの労働力を入れたりして都市部の設備がキャパシティオーバーを起こし、大規模な公共事業による景気回復も兼ねて強行的に建設が進んだのだ。
「1320円…って5円足りねぇ!」
そしてそんな都市に彼…音無 歩夢は諸事情で引っ越す事になったのだったが、いきなりICカードのチャージが足りずに改札機で足止め。
「なーにが横浜から千円くらいで足りるだよ。足りないだろ。てか本当に3日前に言うなよクソ親父。」
歩夢の父親は外務省の官僚で、それがいきなり海外赴任するというので急遽コネで色々と便宜の計れるヤマト市にいる親戚の家に預けられる事になり、如何せん決まって本人に告げられたのが3日前なので大慌てで荷造り等して今に至る。
「親しい奴とか特に居なかったのは逆に幸いだけどさぁ、もうちょっとフォローしろよ。」
乗り越し精算機でなけなしの千円札を突っ込みながらボヤくも、既にそのボヤきがヤマト市に入った者特有の現象が起きているとは、彼自身知るはずも無かった。
彼は"横浜の近く"ではあっても"横浜"から来た訳ではなく、少なくとも元の学校では気の抜けない相手くらいは居た筈なのに…。
「えーっと、確かヤマト市東ニ丁目の4の12だから…ここからまっすぐ東か。」
かくして彼はその不穏に気付く事もなく、旅行カバンを引き摺りながら居候先のマンションに向かう事に。
途中には特大ショッピングモールなどが軒を連ねており、とりあえず買い物等は苦労しないのを確認しつつ、駅から700mほどの所の48階建てのタワーマンションに到着。
「埋立地に無駄に高い物建てるなよ…。」
付近にも高い建物はあれど、その中でも一際高く聳えるそのマンションの42階が親戚の住む所との事。
元々はヤマト市内に移した省庁の分社に努める者の公務員宿舎として建てられたので、官僚家系の音無 歩夢の父親の従兄弟が住んでいても別に不思議ではない。
「4201っと…。」
「はい、どちら様で?」
「音無豊の息子の歩夢です。本日よりそちらにお世話になると連絡が行ってると思うのですが…。」
「あー、はいはいそうだったね。じゃあ上がってきて。」
入り口のインターホンで出たのは男性の声で、それから直ぐにオートロック式の入り口のドアが空いてエレベーターホールへ。
曲がりなりにも高級マンションである為に、こうしたセキュリティーはかなり強固らしい。
そうして若干待たされながらも四基あるエレベーターの一つが一階に到着し、歩夢が乗り込もうとすると…。
「乗りまース、ちょっと待って下サイ!」
「はい?」
バタバタとした足取りで来たのは金髪碧眼の少女。
「13階でお願いしマス。」
「あ、はい。」
普通に日本語なものの語尾が若干違和感あるので、日本在住の外国人なのかハーフなのかと思いながらも13階のボタンも押して閉めておく。
「助かりましタ。このエレベーター、なかなか来ないデスから。」
「どういたしまして。」
実際に高層になればなるほどエレベーターはなかなか来なくなるので、家に忘れ物などしよう物なら大変な時間ロスになってしまう。
かくして13階でその少女は降り、再びエレベーターは上昇して42階へ。
「高いなぁ…。」
廊下に出て最初に感じたのはその高さ。
上には上があるとは言え、高さ100mを超える高さからの眺めは格別。
向きが南側なので正面方向には辛うじて埋め立てを免れた袖ヶ浦方面が眺められ、その右奥には木更津の工場地帯までが何とか見える程。
それ以前に、埋め立てられたとは言え東京湾が一望出来るのが大きい。
「こんな所の家賃とか考えたくねぇよな。」
どうせ色々な手当で格安になってるんだろうけど…という言葉を飲み込みながらも、歩夢は4201のインターホンを押して応答を待った。
「いらっしゃい、久方ぶりだね。」
そうしてドアを開けて出迎えたのは、好意的に言って恰幅の良い部類に入る中年男性…ヤマト市の市議会議員でもある音無 礼歩(れあ)
しかし、歩夢はその久方ぶりという言葉に強い違和感を抱いた。
「失礼ですが、お会いした事ありました?」
「そうだね、君が記憶に無いだけで会ったことはあるよ。」
しかし歩夢からすれば記憶に無いし、それどころか父親に親戚がいて市議会議員だったなども三日前に初めて知ったくらいである。
勿論忘却していたという可能性は無きにしも非ずだが。
「それはさておき、知っての通り今ちょっと立て込んでてね。君の父上が隣の部屋を借りたそうだから、君はそちらで寝泊まりすると良い。はい、これ鍵とパスワード。」
「はぁ…。」
知っての通りも何も知らんがなと思いながらも、歩夢は鍵とメモに書かれたパスワードを受け取って隣の部屋へ。
が、中に入って色々と驚愕。
「広っ!」
まず広さは3LDK、加えて色々と電子機器は備え付けでソファーにベッドまで置いてある徹底振り。
何をどう考えても、高校生一人が住むには贅沢極まりない部屋であった。
「いやいやいや、ちょっと待て何だこれ。」
そしてしれっとテーブルの上に置いてあったのは、この部屋の契約書。
名義は歩夢の父親の豊、保証人は礼歩となっていたが、そこにある金額を見て更に驚愕。
「敷金、礼金、頭金無しの一年契約で先払い式の96万円!なんだよその格安!?」
96万円という事は月々8万円でこの部屋を借りた事なのだが、明らかに相場の二割程度。
しかも敷金、礼金、頭金無しは明らかに異常。
「あー…上級公務員の特権は色々知ってるが、これはヤバい奴だ。」
昔、親と旅行に行った際は手当出たと言っていた上、職場から連絡したら高級旅館の予約は楽だったと聞いてたので、その便宜の強さは知っていたが今回は流石に桁が違った。
「と、とりあえず持って来た物でも整理するか。」
そうして驚いてばかりでは始まらないとして、歩夢は旅行カバンに入れていた洋服やら何やらを適当に衣服用の引き出しに押し込んでいく。
が、片付けていく途中、歩夢はとある物をカバンの中から見付ける。
「何だこれ?蝶のブローチ?」
それは、黒い蝶のブローチ。
しかしながら歩夢はそんな物を持ってた記憶も無いし、更にそれをカバンに入れた記憶も無い。
「うーん、間違って入れたのか?」
とはいえ今更戻すと言う訳にもいかず、引き出しの一番上の小物入れに入れておく。
そしてとりあえず大方片付いた所で、歩夢は強烈な眠気に襲われた。
「やばっ、ここ三日マトモに寝てないのが来たかも…。」
かくして、歩夢は何とか気力を振り絞りながらもベッドに倒れ込み、そのまま意識を失ったのだった…。
「お客様ー、乗車券を確認しますので起きてください!」
(此処は電車内か…何だコレ?)
が、意識を失うと同時に響く声によって起こされると、歩夢は黄昏の中を進む青い電車のクロスシートに座っていた。
そして視界の先に座っていたは、右手を広げて此方に向けている青い鉄道乗務員の制服を来た少女と、やたらと鼻の長く尖った子柄な老人の姿。
「私の名はイゴール。お初にお目にかかります。そして此方はサフィー、同じく此処の住人です。」
「本日は黒い駅始発のこのベルベットルームに御乗車いただきありがとうございます。停車駅は青い駅、紫の駅、黄色い駅、虹色の駅、白い駅、赤い駅です。では、放送は車掌サフィーが担当致しました。」
「ここは夢と現実、精神と物質の狭間の場所…
いやはや、貴方は久方ぶりのお客人です。
ここにお越しになられる方は、何某かの契約をなされた方、もしくはその内に秘める"力"を発露された方ですが、貴方は最初から契約を済ませて此処に来た随分奇特な方のようだ。」
しかしながら、とりあえず夢みたいな物と認識する事は出来ても、それ意外は訳が分からなかった。
そもそもベルベットルームだの、契約だのと言われても全く理解出来ない。
「まだ状況を理解出来ぬのも無理はありません。ですが貴方は"力"を伸ばす運命にあり、その過程で必ずや私共の手助けが必要となるでしょう。」
「お客様が持つ黒い蝶のブローチ、それが此処の乗車券となっております。」
そう言われ、初めて歩夢はいつの間にか胸ポケットに入っているブローチの重さを感じていた。
と言うより、余りにも次から次に言葉が飛んできてそれどころでは無かったと言うべきか。
「貴方は失礼を承知で申し上げるならかなりイレギュラーな御方だ。あえて名付けるなら"ワイルド"の鏡面…"リバースワイルド"と呼ぶべきでありましょうか。」
「リバース…ワイルド?」
「左様、ワイルドは0であり無限の可能性、様々な旅を経て死をも乗り越え、そして世界へと至る無色の旅人。
しかしリバースワイルドは、世界から旅を初めて今に至る旅人でございます。」
「旅人って、俺はそんな旅なんか…。」
「ですからイレギュラーだと申し上げた。
貴方はその旅路を折り返し、再び愚者へと歩み出さねばならない"運命"にあるのです。
では、これを渡しておきましょう。」
そうして差し出されたのは、逆位置の愚者の大アルカナを上にした無色のカードの束。
「ワイルドは絆の力によって自らの力を伸ばす。故に貴方も絆を育んで孤立した愚者の旅路を助けるのです。
では、貴方が"力"を発露する時まで暫しのお別れです。」
そう告げられると、まるで此処に来た時のように歩夢は強烈な眠気に襲われ、再び意識を失っていたのだった。
「つーっ…何だあの夢。」
そして気付いた時には、歩夢はベッドの上で目を冷ましていた。
「11時37分…一時間くらい寝てたのか。」
まだ時計も設置してないのでスマホで時間を確認するも、どうやら一時間ほど寝ていただけらしい。
その割には、夢とは思えない程にはっきりとした内容を見ていたと思うも、いつの間にか胸ポケットには例の黒い蝶のブローチと、横には愚者のカードを上にしたカードの束が。
「夢じゃない…何だコレ?」
しかし、カードを広げてみると愚者とは別に既に一部絵柄が描かれているのが一枚。
「ナンバー3…女帝?」
スマホで調べると、椅子に座った女帝のカードらしいのだが、カードには逆さまになった椅子と錫杖しか描かれていない。
どうやら描き途中のようだ。
「訳わからんって…。」
そうして悶々と悩んでいると、不意に部屋のインターホンが鳴ったので応対。
「そろそろ荷出しは終わっただろ?昼食もかねて買い出しに行くぞ。」
声の主は親戚の礼歩らしく、モニターの先ではしっかりとシャツにスーツを着ていた。
「はいはい、少々お待ちを。」
"我々は庶民とは違う、だから如何なる時も襟を正して歩け"と言うのが父親の口癖であったが、どうやら礼歩も同じ"人種"らしい。
となると一般的な普段着で行くとどやされる可能性があると考えた歩夢は、慌ててジーパンからチノパンに替え、上もシャツとジャケットに変更。
「ついでだし付けとくか。」
そして何か思う所があったのか、例の黒い蝶のブローチをジャケットの襟に付け、更にわざわざ履きなれない革靴を履いて外へ。
「お待たせしました。」
「…よろしい。相変わらず良い教育を施しているようだ。」
そう言われた時、歩夢の中には様々な思いが去来したが、そこら辺は喉の奥に留めておいた。
そもそも彼らはそういう"人種"であり、庶民など歯牙にもかけない性格なのだと。
周りと同じように遊ぶな、友人は餞別しろ、常に周りより高見であれ等、普通では考えられない考えが普通である。
そして自分の息子でも無能であるとの烙印を押したならば、平気で親戚の家に養子に出すし、逆に親戚の家に有能なのがいれば引っ張ってきて養子にする。
それを身を持って見知っているからこそ、官僚の息子らしい身だしなみや態度を演じてきたのだ。
「車を出すから一階で待っていろ。」
かくしてエレベーターで歩夢は一階で降り、暫く待っていると地下駐車場から白い高級車が上がって来るのが見え、止まって扉が開いた所で乗り込んでシートベルトを装着。
勿論、見栄っ張りだなぁとか、わざわざ1kmも歩かない先のショッピングモールに行くのに車使うなよとか、だから太るんだよピザなどは、思っても顔にも出さない。
「よし、先ずはランチだ。ステーキで良いな?」
「お任せします。」
そうして車が止まったのは、どう見ても高そうな鉄板焼きの店。
「いらっしゃいませ。」
「ランチ二人分。10年物のシャンベルタンも出してくれ。」
「かしこまりました、奥のお座敷にどうぞ。」
そうして奥の座敷で案内され、先ずは手拭きとワイン、高級そうな烏龍茶を出されていく。
「此処は値段が手頃だから来やすい。」
ランチで一万円とか手頃なのかと思うも、そう言ってる辺りは行き付けの店なのだろうと把握。
いつの間にか出されたアミューズ(先出し)も、クラッカーの上に生チーズと生ハムにその他が乗った凝った物で、味は悪くないとは思ったのだった。
「買い出しが終わったら明後日からヤマサンだから、顔出しだな。」
「ヤマサン?」
「知ってるだろう?公立だが制服の値段で振り落としてくれるから変なのが少ない。」
「高校ですか…。」
パッと下でスマホを弄ってヤマサンと検索をかけると、ヤマト市立第三高校 偏差値63と出たのでそれなりの学校らしい。
ただ検索の候補に制服 高いとか、金持ち学校だの出て来る所を見るに、だいたいお察しでもある。
実際、タワーマンションなどが立ち並ぶ中心部に建っている辺り、金持ちな子息子女を対象としてるのは明らかだった。
しかし、その中にヤマサン 夢繋ぎという物が出て来た時には歩夢は目を見開いた。
「他人の夢に入れる…蝶の翅…。」
それはまるで先程のベルベットルームとやらの夢を見た時のようで、非常に不思議な儀式。
ただ他人の夢に入った者がその後どうなったかについては、割と悲観的に書かれていた。
「オードブルお持ちしました。」
かくして、そうこうしてる間に前菜やら魚料理やら次々に来たので検索どころでは無くなり、とりあえず目の前の料理を片付ける事に。
メインの肉料理、パスタ、スープ、デザートと結構な量を平らげた後、再び車でショッピングモール方面へ。
「鍋、皿、フライパン、米と調味料一式、洗剤…やたらと庶民的だな。料理なんかせずに食いに行けば良いものを。」
「外食は栄養価が偏るから作った方が良いんです。」
そうして必要な物を全て箇条書きにしておいて礼歩に渡すも、栄養価が偏ると言われて少し引きつった表情に。
どうやら自分の体格がアレな事を少しは自覚していたらしい。
しかしながら、なんだかんだで箇条書きした物は全部カード払いで買って後で郵送にする辺り、意地でも重労働はやる気無いようだったが。
「はい、ではこれからそちらに。10分程度で着くと思いますので。」
買い出しが終わると、今度はその流れでヤマサンことヤマト市立第三高校へ。
立地としては高いマンションに囲まれた場所で、かのマンションからはショッピングモールを挟んで反対側で徒歩10分と言った所。
公立高校にしては広い部類に入り、武道場やテニスコート、天文台などが見受けられた。
「お待ちしておりました、音無様。」
そして出迎えたのは、恐らく校長と教頭らしき人物と、若干ガタイの良い男性教諭。
歩夢からすれば若干仰々しい出迎えだと思えたが、考えたら市立高校である以上は市議会議員の礼歩には平身低頭で遜るのは当たり前でもあった。
同時にそれは、恐らく校内では基本的に教師からは腫れ物を扱うような感じになる事が確定した事でもある。
「えーっと前の高校では評価は大分良いようですね、相変わらず流石です。」
相変わらずも何も知らねーよ、というツッコミを面談中に何度か入れておくも、回数が10回を超えた辺りから突っ込む気力も失せてくるもの。
当たり前のようについこの間まで居たような感じで話されるので、下手をすると本当にそうだったと思わされてしまう。
まるで本当にそうだったと暗示をかけられたかのように。
「教科書等は予備が有りますのでそちらで。制服の方も近いサイズを探します。」
「余り物か…まぁ明後日からなら仕方無い。」
「サイズは少し大きめで。まだ身長伸びるかもしれないし。」
後は教科書や参考書に問題集の話をして、軽く身長測って制服の寸法合わせ。
制服が高いとは歩夢も聞いていたが、わざわざダブルブレザー系の制服の裏地にカシミアを使い、指定セーターもカシミアかアルパカを使うと聞いた時には馬鹿じゃねーのとツッコミ。
ただでさえボッタクリとか言われる学校制服にそんな付加価値を乗っけているので、一式込みで余裕で20万円を突破。
しかも私立じゃなくて公立なのだが、周囲の地価が高い為にお金持ち学校として定着したので許されてるらしい。
「全て込みで37万円か…まぁ私立よりは安いな。」
「父から幾ら供与されたんですか?」
「家賃合わせて300万だな。バイトなんかさせるなと厳命されたのと、金銭面の管理だけは厳重にしろとな。」
「はぁ…。」
そしてそれとなく聞いた金の話は、なんだかんだで歩夢の想定内。
ただスマホの方から支払いが可能なのは良いが、どうやら明細は全て礼歩行きになるようなのでコッソリ自由に何かを買うというのは事実上防がれている様子。
金額の大小よりもコレが非常に辛い。
「で、これから夕食や夜はどうするんだ?住民票とかの移動は済んでるからやる事無いだろ。」
「教科書の確認でもしてる。」
かくして帰り道の問いは模範解答で済ませ、そのまま車に乗せられて帰宅。
が、勿論家に帰った刹那に即座にラフな格好に着替えると、そのままショッピングモールへと一人でUターン。
「さーて、土地勘無いからサッサと頭に入れないとな。」
日本有数の広さとテナントを誇るショッピングモールのジュネスマリンタウンは、テナント数が500を越える程。
なので、まずはどんな店やどんな物があるのか把握しておきたかったのだ。
「映画館、本屋、CDショップ、ゲーセンやカラオケは西館か。服や食料品に家具は南館っと。」
一通り回りながら本屋で地図と観光案内のような書籍とノートとペンを購入、そのまま喫茶店に入ってアイスティーを飲みながら確認。
それによると、駅を挟んで家から北西1km地点にあるヤマト市役所を中心として様々な行政施設や商業施設などが軒を連ねているらしく、美術館や博物館なども市役所の近くにあるらしい。
「移動は市バスが便利っぽいな。チャージ式の市民優待パスポートを市役所で申請すると220円の所が100円で乗れるっと。」
更に駅の東側はタワーマンションや大型ショッピングモールが多く高級感を漂わせているが、西側は新市街と言われながらも閑静な商店街などもある様子。
という事は、野菜などを大量購入する時は例えバス代を加味しても西側で買った方がお得であると思案。
「行列の出来るカレー屋に昔馴染みの喫茶店や古本屋ねぇ…むしろ西側の方が面白そうだな。平日の市役所で市民優待パスポートを手に入れたら行ってみるか。」
そう呟くと、歩夢はアイスティーを飲み干して食料品売り場へ。
「米は夕方に来るから肉野菜か…。豚肉が安いし玉ねぎとエリンギ、卵辺りで豚丼が楽か。」
かくしてもはや主夫のような感じで夕食の素材をカゴに入れていくが、これは父親が家を空けて金だけ置いていった事の名残り。
適当に外食してろと言われたが、自分で作った方が安上がりなのに気付いていつの間にか自炊し、余った金をキープしていたのだった。
最も事実上口座を礼歩に押さえられた現状、下手に動かすと何を言われるか分かったもんではないが。
「…531円になります。」
微妙に不貞腐れているような若い女性店員にサッサと小銭を出してから帰路に向かうも、その途中で何人か取巻きを連れた非常に長身かつ軽薄そうなイケメン学生が横を通り抜けていく。
「さーて、次は新しく開いたアクセサリー屋で好きなもん買ってやる。」
「素敵!」
「よっ、太っ腹!」
やたらと派手な時計やら何やらを着けて居る上に学校の制服らしい服装を着崩していたが、特に目立ったのはオレンジとピンクが混ざったような特大の蝶のようなペンダント。
蝶ネクタイのサイズよりも更に大きく、横幅が胸部の半分近くある程なので嫌でも目に付いたのだった。
とはいえ、その派手さと横を通り過ぎた際の香水の臭いもあり、即座に歩夢からすれば成金みたいな派手好きの嫌な奴との烙印を押したが。
「制服同じじゃ無くて良かった、あんなの居たら面倒だ。」
かくして歩夢は、面倒そうな奴には関わらないとばかりにサッサと帰路に付く。
「どうした鳴海、サッサと行こうぜ?」
「あ、ああ…そうだな。」
だが横を通り過ぎて歩みを速めた歩夢に対し何か感じる所があったのか、その長身の学生…鳴海はふと後ろを振り返って歩夢の方を一瞥し、そしてまた前を向いて歩き出すのだった。