Persona〜Sleep of Rebirth   作:氷室狼

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一章二節

 

 

「むぐぐ…あと5分…。」

 

知ってる曲を目覚ましにしたのは良いが、逆に聴きたいが故に止めたく無い現象が起きたのが朝6時半。

そこから何とか起き上がり、仕度しながら卵焼きとソーセージと鮭を大型フライパンで同時に焼くという横着技をかまし、弁当箱に押し込んでおく。

 

「まぁこんなもんか。」

 

残りはご飯に適当にふりかけをかけ、梅干しを乗せたり昨夜茹でてあったブロッコリーを入れるなどして、弁当が出来たのが7時少し前。

後は焼いたトーストにバターとシナモンシュガーを乗っけて、それを食べながら備え付けのテレビで天気予報を確認。

 

「今日は晴れ時々曇り…にわか雨は無しと。」

 

かくして、全て片付けて着換えも終えて7時40分という予定通りの時間となり、後は家を出るだけ。

 

「さて、10分余ったな。」

 

日付はヤマト市に来てから二日後の月曜日、歩夢はヤマサンことヤマト市立第三高校に初登校する日。

先日、早くも制服と教科書やら参考書が届いたので、それらを眺めたり纏めたりしてるだけで丸一日潰れてしまったのだ。

基本的に片付けだの掃除だのは必要に迫られればやるのだが、そうで無ければ億劫な歩夢にとって、ノートの準備やら何やらは結構な苦行だったりする。

まぁそれでも時間にはきっちり終わらせようとするので、こうして少し余った時間はヘッドホンで音楽を聴いて気持ちを入れ替える事にしていた。

 

「よし、行くか。」

 

そうして時刻は7時50分、家を出た歩夢は下りのエレベーターへ。

 

「あれ?」

 

「あっ…。」

 

途中で何人か乗ってきたりしたのだが、途中の13階で特徴的な金髪碧眼の少女が乗ってくる。

それは一昨日此処に初めて来た時にエレベーターに乗り合わせた少女だったのだが、前回は互いに私服で今回はヤマト市立第三高校の制服だったので、まさかの同じ学校だと判明。

加えて23期生という事を示す刺繍もあるので同級生だと分かる他、髪を青い蝶のヘアクリップで留めていた。

 

(同じ学校だったのか…。)

 

そしてエレベーターが1階まで降りて、そのまま予定通りのルートでヤマサンへ。

とはいえ、このタワーマンションからヤマサンへ行くルートは目の前の横断歩道か歩道橋を渡ってマリンタウンの横を抜けていくのが近いので、どうしてもその少女と付かず離れずで同じ道を行く事に。

かと言って、二回目とはいえ実施的に初対面みたいな異性に声をかけられるクソ度胸が歩夢にある訳でもなく、何も言えないまま校門の前まで到着。

 

「確か職員室に顔出せって事だったな。」

 

校門まで来てしまえば続々と入っていく生徒達に紛れて少女は見失うのは自明の理で、仕方無くも歩夢は制服が来た時に書かれてあった言付け通り、二階の職員室へと向かう。

 

「川本先生はいらっしゃいますか?」

 

「おぉ、来たか!」

 

そうして担任となる先生を探すも、袖を捲ったワイシャツで体格の良い中年の男性教諭という事で直ぐに発見。

しかも声もデカいのだが、どうやら歴史の担任らしい。

 

「よし、とりあえず名簿と時間割り。今日は実技系無いから大丈夫だろ。まぁ20分まで待ってなさい。」

 

そうして渡された時間割りを見ると、確かに一限目の数学IIから始まって現文、英語表現II、オーラルコミュニュケーションII、世界史、数学B、古文と月曜である事を抜きにしても眠くなりそうな授業の連続である。

しかも七時間授業なので、今日行こうと思っていた市役所には行けそうに無いと軽くげんなり。

名簿に関しては特に興味ないので無視。

かくして適当に時計の針見て時間を潰しながら時刻が8時20分になった所で、担任に連れられる形で2年A組へ。

 

「一回目は奇跡である、二回目は偶然である、三回目は必然であるとは言うけど…。」

 

一応A組は文系特進という扱いらしいが、まさかのそこでも件の金髪碧眼の少女が。

まぁ同学年なら8分の1で一緒になるだろうが、それにしてもここまで一緒だと何かを感じざるを得ない。

 

「そろそろ予鈴だからサッサと入れ!」

 

良く通る声によって何人かが慌てて入って来て、30分の少し前にはホームルーム開始。

 

「えー…今学期二人目になる転校生だ、仲良くしてやってくれ。」

 

後はありきたりな自己紹介だけ終わらせて後は座席決めだったのだが、まさかの少女の前の窓際の席。

まぁ空いてる席がそこしか無かったのもあるが。

 

「あー、それと金曜出した世界史の宿題は後で確認するのが面倒だから今回収するからな!後ろから集めて持ってこい!」

 

「えーっ!?授業開始してからじゃないのか!」

 

「かわもっちゃんの意地悪!」

 

そして何やかんやありながらも、ホームルーム後は転校生恒例の質問攻めタイム。

が、これが歩夢にとっては苦痛を通り越して苦行以外の何者でも無かった。

 

「あれー、前は理数系の方が得意じゃ無かったか?」

 

「久し振り、俺だよ山田だよ。」

 

「横浜だっけ?結局戻ってきたんだな。」

 

「ここ結構体育会系みたいなノリのクラスだから、お前みたいな大人しいのは苦労するぞ。」

 

まるで"前から知っていた"かのように、見も知らぬ面々から扱われるのは、ぶっちゃけホラーの域である。

しかも何故か其処では大人しい理系の同級生だったというキャラが確立されているようで、前々から文系で言うべき所は言うスタンスの歩夢からすれば、全くの別人に間違われていると叫びたい程。

 

「やべっ、チャイムなった。んじゃ後でな!」

 

「…後もへったくれもねぇよ…。」

 

まさか授業開始のチャイムが苦行からの解放の福音の音色に聴こえるとは生まれてこの方感じた事が無かったが、全く知らない不特定多数が古くからの知人のように振る舞ってくると言うのはそれ程に怖気が走るのだ。

まるで自己の自我を否定されているような、自分が自分で無くなるような、そんな気分にすら誘導されそうになる。

 

「(X^3+x+2)^6の時のx^6の係数を答えられる奴居るか?まぁ基礎も基礎だからだから誰でも良いが…壁側の三番目…音無か、ちょっと式書いて答えてみろ。」

 

まぁそんな気持ちは当然ながら誰にも分かってもらえなさそうなので顔にも出さずに授業を受けていると、テレビに出ている何処かの手品師みたいな見た目の先生から当てられて数学の問題を解かされる羽目に。

 

「x^3の二乗と、xの三乗かけるx^3、xの六乗のパターンの和なので答えは481っと…。」

 

「うむ…完璧だ。戻ってよろしい。」

 

さほど難しくは感じない二項定理の問題だったのでサクッと式を書いて答えを出すも、何故か半分くらいから歓声が上がる。

 

「これ位は文系だろうと当たり前のように模試や入試に出るからな。サクサク解けるようにしとけ。」

 

「うげー。」

 

そうして嗚咽に似た声が漏れるのは、どうやら理数系が苦手だから文系に来たパターンらしい。

 

「やっぱりお前理系じゃね?」

 

「やっぱりも何も元から理系じゃない。」

 

「そだっけ?」

 

何故か知らない隣の奴から言われるも、歩夢からすれば理系という選択肢は物心ついた時から無かったし、選ばせても貰えなかった。

 

「世の中は文系の者が、計算しか出来ない馬鹿を動かしてやって回っているんだ。」

 

そう理系などもっての外のような父親のせいで、文系に進むのは始めから決まっていたような物。

それで軽くキレて数学もそこそこ出来るようにしたのもあるが、理系など言った事は無い。

と言うか動物園とか博物館とか自分の小遣いで行くまで行った事無かった程なので、生物とか科学系はむしろ苦手な部類である。

 

「よーし、今日はここまで。明後日までに問題集の15から20ページまでやっとけ。」

 

そうして数学の授業を終えて、また質問攻めタイムが始まる前に出された宿題やってるフリして色々とシャットアウト。

 

「真面目だなぁ。」

 

「真面目なフリする時だけは真面目だよ。」

 

「なんだそりゃ?」

 

その意味が分からないようじゃ分かってないと流しながらも、サクッと10分以内に半分片付けて次の現文へ。

現文は数学以上に惰性で何とかするも、次の英語二連で眠気がMaxに。

かくして昼休みになって素早く弁当を流し込むと、話しかけられる前に図書室に直行。

 

「全く…こりゃ対人恐怖症になるな。」

 

話しかけられる事がここまでホラー地味てると、一人の方が色々と気楽でもある。

そうして図書室で適当に本を読んでるフリをしてると、斜め前の女子二人が何事か話してるのが聞こえてきた。

 

「ねぇ、美山君の髪の毛持ってるなら貸してよ。」

 

「また夢繋ぎ?ほどほどにしときな、戻れなくなっても知らないよ。」

 

「だって気になるじゃん、好きな相手が何考えてるのとか、どんな夢見てるのかとか。」

 

「夢を知って幻滅しても知らないよ?めぐみの奴、陸上部の誰かの夢見た後に色々ショックで一週間以上寝込んでるってさ。」

 

「何それ?初耳なんだけど。」

 

「美山はそうした事に繋がる噂は聞かないけど、内面知るリスクは大きいからね。はい美山の髪の毛、後で飲み物奢ってね。」

 

会話を聞きながら横目で見ると、ガラスケースのような物を渡す大きなリボンを髪にした女子の姿。

だが、他の所からも似たような会話が聞こえてきたりして、これが例の"夢繋ぎ"だと把握。

 

(他人の夢なんか知って何が面白いのやら。)

 

そんなオカルトみたいな物が当たり前のように会話に出てくるのがどうかと思いながら適当に読み終わった書籍を戻しに行くと、ふと非常口らしき所が青く光ってるのを発見。

 

「なんだコレ?」

 

思わず図書委員を呼ぼうとしたが、まだ誰が図書委員なのかを知らない事もあり、そのまま非常口のドアを開けてみると、突如として青い光が溢れ…

 

「おや、またお目にかかりましたな。」

 

其処は、ベルベットルームと呼ばれた例の電車の中で、いつの間にか歩夢は前のように電車の椅子に座っていた。

そして目の前には、相変わらず長鼻の老人であるイゴールの姿が。

 

「あー、いきなりストレス溜まりまくって遂に起きたまま夢を見るように…。」

 

「冗談は迷う方の迷鉄だけにして下さい。」

 

かなり本音だったのが、青い乗務員の服装をしたサフィーとか言う少女に冗談と一刀両断され、思わず歩夢は右に目を逸らす。

 

「ある意味では夢と言えるかもしれませんな、此処も貴方のいる世界も。そして、貴方はそんな夢の世界に違和感を感じている。」

 

「よく御存知で。知らない奴に前から知ってたみたいに言われて、しかも前の俺とは違うとか言われたら違和感も感じる。」

 

「宜しい。貴方はやはり持っておられるようだ。貴方の力の目覚めの時は近いようですな。」

 

「どういう事だ?」

 

「それは貴方自身…いや"貴方達"の目で見てもらわないといけませぬな。」

 

そうイゴールが言うやいなや、何故か車窓は黄昏の街中から急に地下らしきトンネルに入っていく。

 

「間もなく青い駅、青い駅。生きる意味を知りたい方はお降り下さい。」

 

「生きる意味?」

 

「それは別の乗車券が必要な代物ですので、ほどほどにお考え下さい。」

 

かくしてサフィーが一昔前の切符を切る改札鋏を鳴らすパチンと同時に、歩夢の意識は図書室の非常口の前に戻っていた。

 

「何だよ、此処に来てから色々おかしいだろ…。」

 

時間を確認すると、どうやら殆ど変わっていないらしく、一瞬の間の白昼夢のような物だったようだ。

 

「夢の世界ねぇ…だったらこの夢は悪夢以外の何物でもねぇな。」

 

ボヤいた所で何も変わらないが、ボヤきたくもなるという物。

そうして暫くした所で昼休みを終えるチャイムが鳴り、教室に入った所で黒板の前に立っていたのはシュメール人らしき仮面を被った2Aの担任。

 

「川本先生、なんですかそれ?」

 

「今日やる所だ。分かりやすいだろ?」

 

「頼みますから陸上部の時に被らないで下さい。微妙にホラーです。」

 

「おう、そこまで要望があるなら被っててやる。」

 

生徒からのツッコミに軽く答えた川本と言う教師だが、流れ的にこんなのが通常運転らしい上に陸上部担当らしい。

かくして始まったのはメソポタミア文明に関しての授業だが、所々で即興劇をやらかしたり割とやりたい放題。

 

「前も言ってるが、教育委員会の連中には言うなよ。ただでさえ変な事教えるなって目ぇ付けられてるんだから。」

 

「へいへい。」

 

「という事で本日の運命の一戦と行こうか。ラガシュ・ウンマ戦争という記録上は最古の戦争だな。

神話の系譜だとニンギルスがラガシュ、イナンナやイシュタルと呼ばれる女神がウンマ側とした都市戦争が起きて、そして英仏の百年戦争宜しく百年近く争った後に世界初の国際停戦条約が結ばれると。」

 

そうして真面目に授業してる時もあるのだが、シュメール人の仮面で逆に集中出来なかったり。

 

「おっと、いつの間にか後五分か。じゃあ最後にメソポタミア文明で生み出された物をプリントに書いといたから忘れんなよ。」

 

最後はプリント配ってノートに貼り付けて終了。

分かりやすいんだか分かりにくいのかイマイチ分かりにくい授業だったが、印象に残ったのは事実である。

が、反動なのか数学Bと古文に関してはまた眠くなっていたが。

 

「終わったー。」

 

「お、また例の奴始まるぞ!」

 

「また?男はこれだから。」

 

そしてホームルームが終わった後に、何故か男子生徒が担任の川本に腕相撲を挑んでいた。

 

「今日こそ柔道部の面子にかけて勝たせてもらいます。」

 

「よし来い、川本勝春が受けて立つ!」

 

何やってんだよと思いながらも歩夢も覗いてみるも、まさかのガチで腕相撲をやっており、最終的に柔道部らしい生徒が根負け。

 

「ハッハッハ、ラーメン奢りはまだまだだな秋山!」

 

「ぐー!」

 

何でも自分に腕相撲で勝ったらラーメン奢るという謎のルールがあるらしく、たまに男子生徒が挑むのが恒例らしい。

が、勝った生徒は今のところ居ないとの事。

 

「何やってんだか…。」

 

そりゃ教育委員会に目を付けられると考えながら、歩夢は勝敗が決した辺りでカバンを持って下駄箱の方へ。

が、其処で妙な物を発見。

 

「何だアレ?」

 

下駄箱からは校門が見えるのだが、その隣に黒い校門らしき物があるのだ。

しかし、まるでそれに誰も気付いて無いようで、他の生徒は何事もなく普通の校門を通って外に出て行く。

 

「見えてない…のか?」

 

靴を履きながらそれに近付いてみると、黒い校門の周囲だけまるで夜の町並みのような感じになっている。

 

「これは一体…。」

 

「ちょっとそこ退いて下サイ!」

 

「はい!?」

 

そうして気になって調べようとした刹那、後ろから声が聞こえると同時に件の金髪碧眼の少女が駆け抜けて来て、その黒い校門らしき所に入っていく。

 

「何なんだよ…てか見えてんのか?」

 

入っていくのを見送ったのだが、見えるイコール入れるという事が分かった以上、中はどうなっているのかと言う好奇心が生まれた。

 

「ちょっとだけ入ってみるか…。」

 

かくして、最初はそっと右足を伸ばして入れる事を確認、そのまま左足も出してその校門らしき所に入っていく。

が、そして其処で見えたのは…

 

「いやいや、何でまた学校なんだよ。」

 

入った先にあったのは、夜の中に聳えるヤマサン。

しかし左右反転しているようで、いくつかの文字は鏡文字になっていた。

 

「鏡の世界とか、ウサギでも出て来るんじゃ無いのか?」

 

何かの物語みたいだと思いながらも、一応は警戒しながら進んでいく。

 

「校庭は何の問題も無し、後は校内…って何だよコレは!?」

 

誰も居ない校庭を眺めてから校内に入るも、明らかに異様な空気が其処にはあった。

まず感じたのは鉄臭い血の臭い、そして見えたのは壁一面に血で描かれた文字。

 

「Die Akiyama love Tatebayashi…死ね秋山と愛してる館林?」

 

だが、何故かその異様の風景の中にありながらも、すぐに歩夢は自らが冷静になっていくのを感じていた。

この街その物が元々異様なのだから、これしきの異様さは気にならないと言わんばかりに。

 

「足跡…上の方か。」

 

そして冴えてきた頭で周囲を観察すると、床に付着した血液のおかげで階段で上へと向かう足跡を確認。

どうやら急いで向かったせいか、靴に血が付着する事も構わずに一段抜かしで向かったらしい。

流石に靴が汚れるのは困ると思った歩夢は、逆に出来うる限り血がつかない場所を歩いていく。

 

「He is mine My only prince…彼は私の物、私だけの王子様って所か。で、これがその彼と。」

 

階段を上がって二階には再び血による文字が描かれており、更に何枚もの写真が額縁に入れられて貼られていたり、破かれながら血に染まっていたりされていた。

額縁に写るのは一応は二枚目に入るであろう生徒で歩夢は知らない顔だが、これが先程の血文字の名前の館林だと直感した。

逆に破かれていたのは、先程先生と腕相撲していた秋山と呼ばれた柔道部の生徒の写真。

 

「まだ上かって…こりゃキツイな。」

 

それらを一通り確認すると、歩夢は再び足跡を追って三階へ。

其処にあったのは、天井から赤い糸で吊り下げられて首吊りをさせられた何体ものマネキン。

しかもそのマネキンには顔の部分に顔写真が貼られており、何人かの女子生徒や先程の秋山の顔写真もあった。

とはいえ、ここまで来ると何となく背景が見えて来る。

 

「四階…あーあ、もう何も言えねぇ。」

 

四階まで行くと、廊下が全て館林らしい写真ばかり貼られている。

だが、その写真は小さい頃から最近までの物まで揃っていた上、小学校時代辺りからは一緒に馬鹿やってる同級生らしき姿も。

 

「幼馴染で固い男の友情か、はたまたそれ以上の関係なのかは知らんが、余り異性に興味無い奴の夢を見た為に幻滅通り越して絶望したって事か。そして、これが本音と。」

 

中学辺りからは陸上部っぽい感じでたまに他の生徒も写り込んでおり、高校時代もそれの延長線上。

が、その先は写真ではなく一つの巨大な絵画が掛けられていた。

手を繋ぐ一組の男女とその背景で剣に刺されて殺されている男の油絵で、その右下にはMegumi Tanakaの署名。

 

"めぐみの奴、陸上部の誰かの夢見た後に色々ショックで一週間以上寝込んでるってさ"

 

「昼休みの会話はこれか…。となると、此処は例の"夢繋ぎ"って奴なのか。…っ!?」

 

ある意味で憐れでもあり、知らなくて良い事を知ってしまったが故の悲劇。

その絶望が夢になってしまったらこうなるなと感じたその瞬間、更に上の方から何かが激突する音が響く。

その音に慌てて階段を上り、天文台もある屋上に辿り着いた先にあったのは…。

 

「カレハ…ワタシノモノダ…!ダレニモ…ワタサナイ!」

 

其処に居たのは巨大な鳥籠を右腕で抱え込む黒い老婆のような姿の怪物と、ふらつきながらもそれと相対する少女、そして人間の倍以上はあるような人型のような物。

 

「貴方だけの物じゃ…ない!」

 

「ワタシダケ…ワタサナイ!」

 

「レイチェル!」

 

黒い老婆のような怪物が何処から取り出したのか刃物を左手に握って少女に向かうも、少女が後退りながら叫ぶと同時に人型が動いてそれを受け止める。

しかし、まるで既にフラフラな少女と同じように力出しきれないのか、勢いを殺しきれずに押し倒されていく。

が、押し倒された瞬間に人型が霧散したかと思うと、今度は逆に少女の方が肉薄すると同時に跳躍、いつの間にか両腕に嵌められていたガントレットによる脳天への一撃。

 

「ガァッ…!」

 

これが効いたのか、老婆のような怪物は悲鳴のような声を上げながら倒れるも、その一撃で体力を使い果たしたのか少女の方も後ろ側に倒れていく。

加えて両腕のガントレットも霧散。

 

「お、おい!」

 

信じられないような光景を見せられて立ち竦んでいた歩夢だったが、これには思わず駆け出して支える。

 

「貴方…ワ…?」

 

「とにかく休める所に。」

 

「まだ…籠の中…ニ…。」

 

「そんな事より自分の身を心配しろ。」

 

見ると身体のあちこちには血こそ流れてないものの擦り傷だらけで、打ち身や痣も確認出来た。

何か事情があるにしても、立つことすらマトモに動けそうに無い状態では身の安全の方が最優先だと考え、少女を背中に背負う形で屋上から階段で下りていく。

 

「確か一階に保健室があったな。左右反対だから下りて左か。」

 

女子にして高めなので歩夢と余り変わりない身長もあり、割と背負うのに苦労しながらも一階の保健室に到着。

 

「色々あるけど使えるのか?」

 

とりあえず少女をベッドに横にさせ、薬品棚を色々漁って消毒液らしき物や包帯を物色。

 

「消毒用アルコール…だよな。読み難い。」

 

置いてある物まで鏡文字で書かれてるので多少手間取りながらも、エタノールらしい瓶を開けると臭いがするので、一応は本物と同じらしい。

ついでに冷蔵庫らしき所からは生理用食塩水も数本あったので出しておき、確認も込めて一本は自分で飲んでみる。

 

「間違いなく本物だ。ま、とりあえずこんだけあれば大丈夫だろ。」

 

そうして幾つか抱えてベッドの方に戻って来ると、体力回復が早いのかもうベッドから起き上がっていた。

 

「まだ休んでた方が良いと思うけど?」

 

「大丈夫…デス。」

 

「とりあえず色々漁ったから適当に使ってくれ。」

 

「ありがとう…ございマス。」

 

かくして歩夢が暫く後ろを向いている間に、サッサと少女は消毒液などを使ったり包帯を巻いたりしていく。

そうして音がしなくなった辺りで振り返り…

 

「あー、そろそろ良いか?」

 

「なんデス?」

 

「ここ何処?あれ何だよ、てか何なんだよこの辺は!?」

 

 

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