Persona〜Sleep of Rebirth 作:氷室狼
1ー03
「ペルソナ…シャドウ…夢の世界…いやはやサッパリ分からん。てか理解力が追い付かない…。」
「ですよね…。」
そうして少女…北条アイリスと名乗った彼女が語った事は、はっきり言って歩夢の想像を越えていた。
アイリスの両親の専門分野である形而上認知心理学という学問においては、人間の夢はもう一つの世界を形成して精神はそこに居るし、同時に本人もそこにも居るという前提があるらしく、そのもう一つの世界がこの夢の世界であり、ヤマサンで言う所の夢繋ぎの正体。
そこに居る精神を便宜上シャドウと呼び、当人が封じ込めたい意思などはこの夢の世界に常駐している他、寝ている間の人の精神もまた此処に迷い込むとの事。
しかし中には夢の世界でも自己を確立する者がおり、夢の世界に常駐している筈の自分の別の意志を手懐けると、それはペルソナとなって本人の力となるらしい。
「簡単に言えバ、抑圧された欲求が形をなしたのがシャドウ、それを飼い慣らしたのがペルソナという事デス。」
「そーなのかー…。」
「私も御伽話だと思っていたんですが、十日前に此処に連れて来られて偶然この力を発現して、何とか納得しまシタ。」
「ふーん、って事は元々ヤマト市に居た訳じゃないのか。俺と同じだ。」
「エッ?」
「ん?」
そう話した所で、二人は互いにとある違和感を覚えた。
本来なら違和感ですら無い当たり前の事なのだが、このヤマト市では当たり前では無い事が当たり前である。
「えっと、まさかとは思いますが私を前々から知ってイタとか?」
「無い無い、初めて会ったのは一昨日だろ?ちょうどその日に此処に来たんだし。」
「デスよね…という事は。」
「"前からヤマト市にいたから知ってる"とか、スゲー気持ち悪いと思ってた…てか現在進行形で思ってる。」
何故か互いに周りが勝手に昔から知ってると言われている事に違和感を覚えていた事もあって、妙な親近感というか安心感を覚えた。
「デスよね、それが普通デスよね。私も勝手にお淑やかなハーフのお嬢様だと言われまシタ。」
「周りからのイメージなんか、アレ。で、話を色々戻すと何でこんな所に入ったんだ?」
「一週間ほど前、一人のクラスメイトが此処に取り込まれていくのを見たんデス。でも翌日から、そのクラスメイトはまるで元から居なかったミタイに…。」
「あー、此処に来た奴は昔から居た扱いになるから、逆に此処から居なくなった奴は昔から居なかった扱いになるって事か。んで、捜してみようと。」
「はい、そしたらアレに襲われてペルソナが使えるようにはなったんですが、なかなか勝てなくて…。」
「なかなかって…まさか何回も戦ってたのか?」
「一週間前から毎日です。此処まで苦戦したのは最初と今日だけデスが。」
が、一週間前から毎日と聞いて歩夢は絶句。
アイリスがヤマト市に来たのは十日前、そしてクラスメイトが此処に取り込まれたのは一週間前。
詰まるところ、ほぼ初対面で殆ど縁もない相手を助ける為に、一週間連続であんな化物と相対していた事になる。
「お人好しってレベルじゃねぇぞ…。」
「でも自分の力で助けられるかもしれナイなら…。」
「自分の身を顧みない献身は自己満足って誰かが言ってたな。とりあえず、今日の所は戻った方が良い。」
「そうデスか…っ!?」
そう言われて少し俯いた直後、アイリスは何かに気付いたのか立ち上がる。
「あのシャドウ、起き上がって三階辺りに来てマス!」
「ぜ…全然聞こえねぇぞ…。」
「昔から目と耳は良いんデス。早くしないと出入口を塞がれます。」
「はいっ!?」
それを聞いて思わず歩夢は保健室の窓を開けて其処から飛び出すも、次の刹那に窓ガラスが割れる音と同時に校庭に降ってきたのは先程の巨大な鳥籠を抱えた老婆。
また先程は歩夢の方からは見えなかったが、鳥籠の中には一人の男子生徒が気を失ったまま閉じ込められているのが見えた。
「ちっ、先回りされたか。」
「ニガサナイ…ワタシノユメ…シラレタラ…!」
しかもちょうど校門の前に立っているので、どうやら元の世界に戻す気も無いらしい。
「下がってクダさい、私が気を引きマス!」
「いやだから、他人に命かけ過ぎだって。」
幾ら回復力が高そうでも、まだ負傷してるのには変わりないアイリスが右手を振ると同時にペルソナ レイチェルを召喚。
それは毛皮のコートを着たような女性の姿だったが、コートから出ている両手だけはまるで血の付着した機械のような手であった。
「打ち落とせ、レイチェル!」
そして右手に刃物を持った老婆の攻撃をレイチェルは左拳で弾くと、そのまま右拳のアッパーが諸に命中。
が、次の瞬間に老婆は口から刃物を出したかと思うとそれを歯で咥えて一閃。
「つっ!?」
持っている刃物を防ごうとする心理を逆手に取った奇襲によってレイチェルへのダメージが入り、それがフィードバックされたのかアイリスが胸の辺りを押さえながらも前を見据えるも、その直後に更に老婆の口からは長い刃物が…。
「ヤバッ!?」
その刃物が再度一閃されようとした瞬間、まるで時間が無理矢理に止められたかのように世界が静止。
そして、歩夢以外が止まった世界で目の前に降って地面に刺さったのは一本の剣。
それを恐る恐る手に取ろうとして触れた刹那、歩夢の脳裏に声が響いた。
「汝は我、我は汝。
汝は夢に創られる愚者を望むか?
それに否と答えるならば、その剣と力を望むが良い。
さぁ叫べ、謳え、汝の内に秘める力を。
我は夢幻の創作者、夢は汝が支配せん!」
それは内なる声にして、まるで昔から知っていたような感覚だった。
この気持ち悪い夢や、気持ち悪い夢のような街になど染まるものかという渇望が何故か膨れ上がってくるのを感じ、その想いを剣に乗せて地面から引き抜くと同時に剣が霧散、そしてそれは顕現する。
「良かろう、その意志を承った。我は夢幻においては無限の可能性を持つ者なり、さぁ叫ぶがよい我が名を!」
「魅せろ、モルペウス!」
現れたのは紺色の燕尾服を着て白い仮面と白黒の道化のような帽子を被り、背中からは白と黒のグラデーションがかかった翼が生えた男のような存在で、右手には長めのステッキを持っていた。
そして、夢の時間は動き出す。
「ッ!?」
完全な奇襲だった筈の老婆の刃物は、モルペウスの突き出したステッキが弾き飛ばす。
勿論、時間が止まっていた事にすら気付かなかったアイリスも老婆も、不意の乱入者に驚愕。
「まさか…ソレは…ペルソナ!?」
「ふむ、夢の中で傷付いた者か。造作も無い事。」
モルペウスの介入によって驚いた老婆が後ろに跳躍したのを確認すると、モルペウスはアイリスの方を一瞥しながら左手の指を鳴らす。
そしてそれと同時にディアが発動、アイリスの傷などがたちどころに治っていく。
「何ですか…コレ…?」
「色々と…凄いな…。」
「次からは汝の意思で使え。今回は我の顕現記念に色々魅せてやろう。」
そうモルペウスが語るないなや、老婆は遂に抱えていた鳥籠を離して両腕に刃物を装備。
そのまま奇声を上げながら向かって来るが、モルペウスが左手を振ると同時に漆黒の火炎とも言うべき攻撃…呪怨属性のエイハが殺到、怯んだ隙に肉薄したモルペウスがステッキを振り抜く。
「グギャァァッ!」
ステッキだと思われていたのは仕込み刀だったらしく、白刃が煌めいた時には老婆の絶叫と同時に両腕が両断されて宙を舞う。
「では、御機嫌よう。」
更に振り抜いた時に空中に浮かんだ仕込み刀ステッキの鞘部分を跳躍しながらキャッチすると、吹き矢の要領で夢見針を発射、見事に命中して老婆が前へと倒れながら鳥籠と共に霧散していく。
そして、霧散した所に倒れていたのは…。
「えーと、誰だこの人?」
老婆の姿が霧散した中から出て来たのは、どう見ても三十路であろう女性。
とある女子生徒がめぐみの奴とか、描かれていた絵などからも同級生くらいかと思っていたのだが、どうも想像と違っていた。
「田中めぐみ先生、家庭科の担任デス。」
「教師ぃっ!?」
アイリスが告げた答えは、歩夢が最大級の呆れの声で返す。
確かに例の女子生徒はクラスとか言わずに、めぐみの奴としか言っていない。
また同じ女子生徒ならば老婆の姿になるか?という事もあるし、家庭科の担任ならマネキンが置かれてたり包丁捌きが得意でも不思議ではないので、正体が仄めかされていたのも事実。
だからといって、軽く見積もって自分の年齢の半分くらいであろう生徒を異性として見て、しかも執着した挙げ句に夢まで確認して暴走するなど、流石に歩夢の想定外。
当然ながら歩夢の内面では"体裁と常識とか考えろよ!"などのツッコミが無数に去来しては消えていく。
だが呆れているとその場を強い揺れが襲い、それと同時に老婆の中身であった教師は黒い霧に包まれたかと思うと霧散。
「夢の主が人々の夢に溶けた以上、この場は人々の夢に飲み込まれる。あくまでも歪に拡がった夢だからな。」
「って事は…色々ヤバい!」
「では、次に呼ばれるまで我は汝の中で眠るとしよう。」
かくしてモルペウスは弧を描いた右手で帽子を取り、仰々しい一礼と共に透けるように消えていく。
「えっと…とりあえずコイツ運ぶか…。」
「は…ハイ。」
アイリスからしても色々と聞きたい事はなどはあったが、それよりも先ずは第一目標である男子生徒の救出を優先。
歩夢と左右で挟むように肩を貸して校門の方へ向かうと、其処は普通のヤマサンの校門に。
そして夢の世界の学校は朧気になりがら消えていく。
「保健室まで運びマス?」
「こっ恥ずかしいからその辺で寝かしとけ。そのうちに起きるか明るさ的に部活組に見つかるだろ…多分。それとも他の奴らに見つかって最初から最後まで説明するか?」
「はぁ…。」
保健室まで運べば、色々と説明する羽目になりそうという歩夢の考えにより、校門近くのベンチに座らせておく事に。
「時間は…30分くらいしか経ってないのか。もっと経ってる気がしたが。」
「寝始め30分は夢を見るレム睡眠と言われてマスので、それくらいだと思いマス。」
「うーん、身体の疲れは無いのだが精神的にガッツリ疲れた。確かに変な夢見て起きた後みたいだ。」
「確か近くに350円でドリンクバーが注文出来るファミリーレストランがあったはずデス。」
「あー…じゃ其処で良いや、少し休憩したい気分だ。」
かくして、二人はヤマサンからさほど離れていないファミレスへ。
ただ中は学校近くという事もあってヤマサンの生徒などがそこそこ居たが、余り気にせずにドリンクバーを注文し、歩夢はコーヒー、アイリスは紅茶を持ってくる事に。
「危機的状況でペルソナ能力の発現…私と同じデス。回復や遠距離攻撃まで使えるのは凄いデスが。」
「色々使えて器用な奴だなぁとは思う。」
「じゃあ、この調子で他の場所も直して行きまショウ。」
「へいへい、他の場所だろうと何だろうと…って他にもあんの!?」
軽く生返事したが、まさかの他にも夢の世界が開いているという事に歩夢は驚いてコーヒーを吹き出しそうになるも何とか堪えた。
「あー、一応場所だけ聞いとくか。何処にあるんだ?」
「ヤマト市南の海上自衛隊の基地の近くです。」
「自衛隊の基地?そんなもんあったか?」
「はい、マップで見るとこの辺デスね。」
そしてスマホのマップで見ると、確かに南側に海上自衛隊 横須賀地方総監部付 臨時自衛艦隊司令部と記載された区域があった。
「こんな所によく見付けたなぁ…。」
「この辺だけ周囲一帯の気温が高いらしいのデスが、ヒートアイランドで片付けられてるようデス。この時期の平均気温は13度から15度なんデスが、この一帯だけ一昨日から22度を記録してマス。」
「夏日一歩手前じゃないかよ…なんだその特異点みたいな所は。」
「現実への干渉力が高いと、中の気候が漏れ出す事があるみたいデスね。恐らく、学校の時よりも強力なシャドウがいるようデス。」
「うげー…。」
「という事で、今から確認に行きまショウ。」
「待て待て、今日は色々疲れてるから明日以降にしてくれ。」
が、今から確認しに行くというアイリスの言葉を聞いて、思わず歩夢は静止。
少し居ても分かったが、アイリスは人助けが出来るならそれが見も知らぬ人でも助けようとする性格らしい。
それは崇高な精神なのかもしれないが、問題なのはそれに対して自分の身を殆ど案じない事。
今も確認と言っておきながら、問題がありそうだと判断したら解決しに行く気満々なのが見て取れた。
「分かりまシタ、明日は六限目で授業が終わるのでホームルーム終わったら直ぐに…。」
「暑苦しそうだからいったん戻って半袖用意してからじゃないと熱中症になるぞ…。漏れ出た熱気だけでこの気温、中は夏日相当でもおかしくない。」
「それも…そうデスね…。」
そして助けると決めたら周りが見えなくのもあるようで、今も学校終わったら直行すると考えていた様子。
「じゃ、明日という事で。そろそろ戻るわ」
「何で払おうとしてるんです?」
「普通に払える金額だからだが?」
「私が巻き込んだような物デスし、私が払いマス。」
「いやいや、自分の物くらいは自分で払うって。」
利他的過ぎるなぁと思いながらも置いて店を出ると、先ずは色々と調べ物の為に家に帰る事に。
時刻は六時を回っているので、ある意味で良いタイミングではある。
「使える物は何でも使えってな。」
サクッとスマホで簡潔なメールだけ送信しておき、同時にそれに関する理由も脳内で捏造しておく。
そしてマンションの前に着いた時には、了承の返事が返ってきたので、そのままエレベーターで42階へ。
「報連相とは殊勝な心掛けだ。」
「学校内で立ち回るのも大変なもんで。」
着いた先に居たのは、ある意味では保護者役の音無礼歩。
先程のメールは、色々と連絡や相談したい事があるので夕食どうか?との内容。
それに対しての返信は、分かった寿司の出前三人前取っておくだったが。
そうして、かなり資料とかが積み上がった礼歩の方の家で寿司を食べる事に。
「で、相談とは何だ?」
「ヤマト市の歴史に関する資料とか無いかなと言うのが一点、後は南側の海上自衛隊基地とか言ってる奴が居たから、ちょっとそれについても知りたいなと。その辺分からないと周りの話についていけそうに無い。」
「ヤマト市の歴史なんてせいぜい20年経つかその辺だから大した物は無いが、確か市役所が発行してるのがあったから探しておこう。海上自衛隊の基地に関しては此方の管轄外だが、確か前市長の政策の一環だったとは記憶している。」
「前市長?」
「大々的な街活性化プロジェクトだ。火力発電所や海上自衛隊を始めとした公共設備を多く受け入れる代わりに、ジュネスのショッピングモール誘致やマンション建築にこぎ着け、国とも掛け合って総合体育館や博物館を建設させた。」
「任期満了で退任されたのが惜しまれる様な市長だったんですね。」
「いや、任期満了ではなく純粋な選挙戦で今の市長に負けただけだ。」
そう言った時、歩夢は少し礼歩の顔が陰った事に気づいた。
少なくとも結果は出した筈の市長がそうそう選挙戦で負ける訳がないので、何かあった事を伺わせる。
「前の市長は激動の市政だった、それ故に反発も大きかったのだろう。今の市長はそこを徹底的に突いて市長となったが、市長になった瞬間に手の平を返してプロジェクトの引継ぎをした。」
「…選挙の時だけポーズですか。」
「常套手段だ。しかし今の市長が優れているのはその権力維持能力だが、まさかそれに関する事が高校まで流れてるとはなは。」
そうして礼歩が出したのは今週の市報で、そこには海上自衛隊基地内で起きた自衛官のイジメ問題についてと、ジュネス・マリンタウンの責任者が前市長と金銭的なやり取りがあった事の双方を、現ヤマト市長の夜虎平和が糾弾した内容が載っていた。
「この件は市が先んじて把握し、事実確認を行った。またイジメを受け自殺未遂を起こした自衛官はヤマト市民である事から、被害者の損害賠償請求の裁判費用を市で出す事を決定している…。」
「どうせ裁判にはならずに示談になる。ジュネスの方は責任者が変更になるだろう。」
「負い目を作らせてで不戦勝…と。」
「その辺りが狡猾な所だ、しかし上に立つものとして必要な能力でもある。」
そこら辺は中々に込み入った事情がありそうなので、礼歩も賛同せずとも否定せずといった雰囲気。
優秀な為政者でも権力維持能力が劣るなら、無能でも権力維持能力に優れる者に敗れ去るのが社会の理。
その辺は、否が応でも歩夢は父親から聞かされていた事でもあった。
「ただ、そうした社会関連が普通に飛び交うような学校なら色々と問題無いが、組む相手は間違うな。」
「分かっています。」
曲がりなりにも市議会議員らしい言い方をされたが、歩夢は別の事を思案していた。
(海上自衛隊のイジメ問題…それが"夢の世界"とやらに関係してるのか?)
もしそうなら、結構厄介な事になるとも。
しかしながらアイリスの思考回路を鑑みるに、何があっても絶対に行くだろうとは思ったが。
かくして、ある程度は聞きたい事は聞けたので食後は少しばかり資料を持って行って隣の自分の家に戻って色々と明日の準備をした後、そのままベッドに倒れるように眠りに付いたのだった。
そして…
「どうやら、"力"にお目覚めになったようですな。」
彼の意識は、ベルベットルームにあった。
最も、歩夢としても予測通りであったが。
「目覚めた力は"モルペウス"ですか。これは中々に興味深い。」
「ようやく始発駅に到着したという訳ですね。まるで鈍行のようなスピードです。」
「追い込まれないと発露しないとは思わなかったんだから仕方無いだろ。」
「ですが、とりあえずは青い駅を発車したのは良い傾向です。」
そうサリーが言うやいなや、車窓は地下のトンネルのような場所を抜けて再び黄昏の市街地へと戻っていく。
「さて、先ずは貴方のカードを見せて貰えますかな?」
「カード?…ああこれの事か。」
そしていつの間にかポケットに入っていたカードの束を確認した歩夢は、言われるがままにそれをイゴールに渡すと、イゴールは不思議な力でそれを宙に浮かばせて並べて見せた。
「ふむ、既に縁ある者と何人か出会っておられるか、直に出会う運命のようですな。」
全て上下逆さまな逆位置ではあったが、既に愚者と女帝のカードはしっかりと柄が描かれていた事から、恐らく女帝のカードはアイリスの事だったと理解。
が、他にも恋人、戦車、剛毅、死神のカードも縁が描かれ始めているのは想定外だった。
こればっかりは、どれが誰だか分からない。
「さて、力に目覚めた事でもう一つ説明せねばなりませんな。貴方の持つリバースワイルドという能力に。」
「何か違いがあるのか?」
「そもそも普通のペルソナ能力とは一人に一つのペルソナしか持ち得ないのです。所が稀に、複数のペルソナを持つ事が可能なペルソナ使いがいる、これがワイルドと呼ばれる物。仮面を変えているとも言えますが。」
「いわゆるなんでも屋ってか。」
「リバースワイルドは仮面を変えるのは少々他のワイルドより苦手では御座いますが、仮面を残したまま他のペルソナを使う事が出来るようですな。」
「何だソレ?差がわからん。」
「然るべき時が来れば自然にお分かりになると思います。」
そうイゴールが言うも、前と同じく何か起きるが何時起きるかは分からないという事を歩夢は理解したので、これ以上の追及はしなかった。
「一つ聞きたい。貴方達は何故か俺がペルソナ能力とやらに目覚める事を知っていたし、更にそれを後押ししてるようだが、何の目的があってやっているんだ?」
「それは非常に難しい質問です。しいて申し上げるなら、"自分という存在の存在理由を知る為"ですかな。」
「自分の存在理由?」
「少々込み入った話になりますので、そうですな…貴方が全てのカードの絵柄を埋めた時にでもそれはお話しましょう。さて、そろそろ次の駅のようです。」
車窓はいつの間にか黄昏の市街地から、砂漠のような場所へと移り変わり、時折砂嵐が舞う。
「次は紫の駅、紫の駅で御座います。自分を見失いたくない方はお乗り換えです。」
「どんな乗り換えだよ…。」
「こういう案内が得意な物でして。」
そうしてサリーが改札鋏を鳴らすのと同時に、歩夢の意識はベルベットルームから離れて行ったのだった。