Persona〜Sleep of Rebirth 作:氷室狼
「おはよう。」
「おはようございマス。」
「館林って言ったっけ?アイツ2Cの方に入っていったな。」
「そうなんデス?前は2Aだったんデスが。」
翌日、歩夢達の登校時間中に昨日救出した館林が2Cに入っていくのを発見。
とはいえ、まるで前からそのクラスに居たように振る舞っていたし、周りもそう扱っていたのだが。
「前は貴方の席だったんデスが、押し出されたのでショウか?」
「知らね、よく分からん。」
それとなく話を聞く限り、風邪を引いていた扱いで本人も周りも納得していたので、とりあえずそういう事になったらしい。
「で、今日は海上自衛隊基地の方だったな。ルート確認したらマリンタウンの西側辺りからヤマト港行きのバスが出ていて、南大通りで降りると近い。」
「タクシーの方が早くないデスか?」
「タクシーで自衛隊基地に行こうとする高校生が居るか?」
確かにタクシーなら早いのだろうが、意外とタクシーと言うのは顔が覚えられてしまうのを歩夢は知っていた。
しかも市報や他の資料を昨夜見るに、今イジメ問題で報道陣がそこそこ来ている可能性も考慮すると、目立つような交通手段は取らない方が得策だと判断。
「で、何デスかそれ?」
「自衛隊基地内の見取り図。一月にイベントやってた時に配ってた奴らしい。」
「そんなの何処で手に入れたんデス?」
「市政に詳しくて利用出来るのが身近に居るもんで。あと此方が今自衛隊内で問題になっているイジメ問題の新聞切り抜き。」
「私なんか今日に備えてパンチの練習しかしてませんでシタ…。」
「…おーい。」
が、対するアイリスは結構なまでの脳筋な返答をかまし、歩夢が思わず滑り落ちそうに。
曲がりなりにも2Aは文系特進クラスなので勉強は出来るのだろうが、こういう所は抜けてるらしくフォロー必須らしい。
「あ、そろそろ授業始まりマス。」
「はぁ…なんかいきなり疲れた。」
思い返してみれば、歩夢のペルソナのモルペウスはオールレンジかつ回復も可能だったのに対し、アイリスのペルソナのレイチェルは近接特化のように見えたので、結構内面が反映されているのかもしれないと思考。
「さて、とりあえず今日の授業を切り抜けないとな。」
火曜日は六限で終わるので月曜よりは楽な上、体育やら芸術系の選択科目やらと言った実技系が集中してるので、やたらと眠くなるといった事は少ない。
「飛び箱なんて何時以来だったか記憶に無いが、案外跳べるもんだな。」
四限目の体育を終えて昼休憩を挟み、五限目は家庭科の授業だったが、まだ担任は代理の先生らしい。
とはいえ、"まだ"出てこれないと言われているので、まだヤマト市内にいる事は確からしい。
「夢繋ぎで誰かの夢見てショックだったらしいよ田中先生。」
「誰の夢見てんたんだろうねぇ。まさか生徒じゃ無いだろうし、合コンか何かで知り合った人がサクラだったとかじゃない?」
そのまさかですよと心の中でツッコミを入れつつも、同時に世の中は色々面倒だなぁと黄昏れている間に家庭科の授業は終了。
そして六限目は異常に眠い古文の授業。
「おい、今日はこれで終わりと思って気を抜くな!えーっと音無、これに続く内容言ってみろ。」
そして眠そうにしてるのを堪えていたのが見透かされたのか、何故か当てられる羽目に。
内容は百人一首である。
「すみの江の 岸による波 よるさへや⋯夢の通ひ路 人目よくらむ」
「チッ、知ってたか。」
「えー、アイツ覚えてるのかよ。」
担任が微妙に悔しそうにしていたのと周りから少しばかりの称賛の声が上がったが、別に気にする事でもないのでスルー。
まぁちょうど自分の名前から連想して、夜やら月やらと言った歌だけ覚えていたのもあるが。
内容としては有名な千早ふる…の次に来る百人一首第18番、藤原敏行の波"よる"と"夜"をかけた歌で、人は昼どころか夜までも、それどころか夢の中でさえも人目を避けている事を詠んでいる。
「30番までは全部覚えてこい、中間で出すからな。」
「うえー…。」
「勿論、他からも出すから覚悟しとけ。」
歩夢からすれば暗記で点が取れるなら楽なもんだろと思える所だが、周りはそうでもない様子。
かくして古文の授業も終了し、更にホームルームも終わった所で先ずは家まで即座に帰る事に。
「半袖持って来といて良かった…。」
半袖Tシャツに着換え、更に上に長袖の柄入りワイシャツを引っ掛けたり腕時計を着けたりして、軽いウエストバッグに色々入れておいて外へ。
エレベーターで降りていくと、もう既にアイリスはワイシャツとスパッツつきのスカートで待機済み。
何というか、スパッツ着用を見るにアクションが大きめな事の弊害を一応理解していたようだ。
「あれ、また誰か引っ越してくるのか?」
「そうみたいデスね。」
そうしてマンションから出た時、前には引越し業者のトラックが来ており、家具などを運び込んでいた。
「まぁ隣は何する人ぞだから別にどうでも良いが。」
誰かが来る事に関心があっても、誰かが来た事には関心が無いので、そのまま歩夢達はジュネスマリンタウン近くのバスターミナルへ。
近くのコンビニで水を複数買ってからヤマト港行のバスに乗り込み、そのまま南下して目的の南大通りに到着。
が、降りるないなやその異常さには直ぐに気付いた。
「蒸してるな⋯。」
腕時計に付いてる温度計で見ると気温は22.1℃を記録しており、バスターミナルでは15℃くらいだったので7℃以上差がある事になる。
しかも潮風のはずなのに生暖かい風が流れてくるので、体感気温は更に高い。
「やはり気温が上がってマスね。」
「こりゃサッサと片付けないと暑い範囲が拡がっていくな。問題は前みたいな入口が見付かるかどうかだが…。」
暑さを諸に感じながらも海上自衛隊基地の入口の方へ向かうも、其処には既に何人かの報道陣や記者の姿が。
「損害賠償請求の裁判費用を市が持つ事について、一言お願いします!」
「そちらの方ではどのような対処を…!」
「現在関係各所と協議しており、詳細な内容はお話出来ません!」
どうやら自衛隊の広報担当などが入口で対処してるようだが、マイクや録音機を向けられて辟易している様子。
「イジメなんて馬鹿な事する奴がいると、組織全体が大変な事になるって例だな。」
「なんでそんな事をするんでショウか?」
「まぁ色々あるんだろうよ。さて、この辺は22.7℃だから最低でももう二箇所ほど測りたいな。」
「二箇所?」
「一番気温が高い所が入る所って事は、何箇所か気温を測って一番高い所の近くって事だろ?何箇所か測れば、それが統計的に出せる。」
かくして、入口から西側の方に少し歩いた所では気温は26.4度まで下がったので、今度は東側を探索。
「23.4℃…この辺になると上がるな。」
東端まで来ると気温は上昇してきたので、その辺りを重点的に探してみると…
「向こうになんか見えマス。」
「どこら辺だ?」
「あの車が出て行った辺りデス。」
「よく見えたなぁ…全然分からん。」
見付かったのはヤマト港近く、物資運搬の為の車両通行口の前。
どう見ても300m以上ある距離からアイリスが発見したのは、熱気が漏れ出る自衛隊基地が向こうに見える場所。
学校にもあった夢の世界への入口である。
「暑苦しそうだが行くしかねぇか。」
かくして意を決して入った先は、初夏のような暑さを誇る左右反転した自衛隊基地内。
ただし空は赤く染まっていたが。
「時計は止まるんだな、まぁ仕方無いか。」
前は確認しなかったが中では腕時計の針は完全に停止しており、時間は入った時刻で停止。
また、いつの間にか着ていたTシャツには黒い蝶のブローチが付いていた。
「誰かが切符とか言ってたが、そういう事かよ。」
「どうかしまシタ?」
「いや…てかそんなの着けてたか?。」
「アレ?いつの間にか付いてマス。」
それを怪訝な表情で見るアイリスだったが、その後ろ髪には青い蝶のヘアクリップ。
しかしそれを取って触れた瞬間、何かの気配を察して二人は奥の方を見た。
「何か居るな。」
「はい、シャドウが居マス。」
理屈じゃなく本能的な感覚で其処に何か居るのを理解するや否や、地面の一部が水溜りのように黒く染まり、其処から仮面を被った黒い不定形のような存在が浮かび上がってくる。
「やれってことかよ…!」
だが本能的に分かったのはもう一つ。
歩夢が黒い蝶のブローチを握り締めると同時に、それは昨日モルペウスに変化した剣へと変化。
そしてそれを右手で構えると、まるで昔から剣を握って振っていたように感じられた。
「こういうデジャヴなら…悪く無い。」
物心つく前にチャンバラくらいはした事はあっても剣道やフェンシングをした記憶は無い歩夢だが、剣を八双に構えながら踏み込んでそのまま袈裟斬りする様は初心者のそれでは無い。
「一丁上がり。」
かくしてペルソナを出すまでもなく一体のシャドウを撃破したのだが、撃破されたシャドウは液体のように飛び散って消え、其処にはやや大きめのトンボ玉のような物が残された。
「何だコレ?」
拾い上げてみるも、特に変わった様子も無ければ店で見るような品よりは少し柄がある程度の品物。
「綺麗なガラス玉デスね。」
「紐を通す穴があるからトンボ玉って言うんだけどな。シャドウが落とした。」
「何かに使うんでショウか?」
「知らね、新手が来たようだから今は考えてる暇無さそうだ。。」
だが、それを考えるよりも早く周囲の地面が黒く染まり、何体ものシャドウが出現。
どうやら先程のシャドウは斥候のような役割らしく、侵入者を探知して集まってきたらしい。
「ペルソナ!レイチェル!」
それを見て即座にアイリスはペルソナを召喚、近い所のシャドウへ突撃していく。
「魅せろ、モルペウス!」
逆に歩夢は召喚したモルペウスで夢見針を使わせ、中距離からの攻撃に終始する事に。
ペルソナ攻撃は威力もあるし物によっては遠距離攻撃も出来るが、武器が変化している以上は自分達の防衛能力がガタ落ちするという事でもある。
「ま、そう来るだろうな。」
だからこそ、それを理解したシャドウが後ろから来る可能性も考慮して、歩夢はモルペウスを側に置かせて後ろからの奇襲を防止、後方から向かってきたシャドウはモルペウスの仕込み刀が一刀両断。
加えてアイリスの横を抜けてきたシャドウは、即座にモルペウスを剣に変えて切り捨てる。
「よし、だいたい分かってきた。」
「何がデス?」
「ペルソナの使い方だよ。何でもかんでもペルソナで攻撃すれば良いってもんじゃ無い。」
猪突猛進タイプのアイリスのフォローをしながらもモルペウスを操作していて分かったのは、直ぐに倒せる相手ならペルソナを出すよりも武器形態の方が楽という事。
「そういう物デスか?」
「意外な感じだが、ペルソナに攻撃させるより自分で攻撃した方が疲れない。」
「余り変わらない気がしマス。」
「あ…うん、こっちは結構差を感じるんだが。てか暑いし、少しでも体力は温存しておきたい。」
「ならサッサと終わらせまショウ。ようやく昨夜の練習の成果が出てきまシタので。」
が、アイリスは暑さを物ともしてないのかレイチェルによる肉弾戦でシャドウを片付けていく。
かくして、しばらく倒した所でようやく目に見える範囲からシャドウは消滅。
「ふぅ、少し疲れまシタ。」
「すこ…し?」
とはいえ、最後までペルソナを使用していたのにも関わらずアイリスは多少汗を描いた程度。
逆に歩夢の方が暑さで辛かった程である。
「それで、とりあえず何処に行きまショウか?」
「真っ直ぐ進んだ所にある司令部だな。一階に休憩室もあるみたいだし、先ずは休める所を確保しよう。」
そうしてペットボトルの水を飲みながらも司令部方面へ向かう事にしたのだが、むしろ司令部方面の方が暑く感じるという異常事態。
「暑い。もしかして暑さの原因ってこの中か?」
「そうかもしれマセン。」
「うげー、これ以上の暑さは勘弁してくれ。」
しかしながら暑さの原因を取り除けば終わると考えてる現在、冗談抜きでサッサと片付けた方が良いと思って中に入ると、其処には自衛隊の制服を着たような大型シャドウの姿が。
「チッ、こりゃ一筋縄じゃ行かなそうだ。モルペウス!」
発見するや否や歩夢は後方に下がりながらモルペウスの夢見針を放つも、余りダメージを受けていない様子。
「打ち落とせ、レイチェル!」
続いてアイリスのレイチェルが踏み込みながらのフックを叩き込むも、やはり少し後退った程度。
「下がれ!」
逆にその直後、そのシャドウの右手に炎が灯ったかと思うとそのままレイチェルの方へ投擲され、レイチェルは紙一重で回避。
「炎って事は、コイツが暑さの原因か!?」
「かもしれマセン。」
「じゃあ少し気合い入れないとな。物理系は効きにくいって事は…。」
物理攻撃は余り効かない事を把握した歩夢は、今度はエイハをモルペウスに打たせて確認。
すると今度は、明らかに大きく仰け反った上に制服が焦げて黒いシャドウの素体が一部露に。
「此方なら効くと。」
「思うんデスが、それどうやっているんデス?」
「出来るって事は分かってるから、後はイメージみたいなもんだな。」
「イメージ…難しいデス。」
レイチェルは近接物理特化のような所があるので、どうにも遠距離攻撃という物はやりにくいらしい。
最も、これはモルペウスが多才なのもあるのかもしれないが。
「っと、そりゃそうなるよな。」
仰け反った所にもう一発エイハを叩き込んだモルペウスだが、相手のシャドウは何とか耐え切って今度は歩夢の方向へ炎を投擲。
しかも、右手に灯っていた炎は今度は両手になっており、絶え間なく投げてくる。
「っとと、そんなのアリかよ!」
慌ててコンクリの柱の後ろに隠れるも、相手は執拗にコンクリの柱に炎を投げてくるので、反撃の余裕が無い。
「まずいデスね…。」
「ああ、後一発か二発くらい当てれば倒せると思うんだが、このままじゃ隙がない。」
「…分かりマシタ、何とかシマス。」
「…無茶はするなよ?隙は作ってみる。」
その状況に意を決したのか、アイリスは覚悟を決めた目に。
またアイリスの性格をだいたい理解してきた歩夢も、あえて止める事はせずに飲みかけの水入りペットボトルをコンクリの柱から後ろ手に投擲。
当然それは相手シャドウが狙いすまして炎を当てるが、同時に小規模の水蒸気爆発が発生。
「行きマス!」
その煙に紛れてアイリスとレイチェルが飛び出て一気にシャドウに肉薄、渾身のストレートをかますもシャドウの炎を纏った左手が止める。
「まだデス!」
が、更に其処からレイチェルは踏み込みながらの頭突き…もといヘッドバットをシャドウの脳天に叩き込み、それに思わず相手シャドウがフラついた所で後方に跳躍。
「よし、これなら。」
そしてそのチャンスに歩夢のモルペウスがエイハを打ち込み、フラついた所に更にもう一発叩き込んだ所でシャドウは蒸発するように消えていき、先程よりもかなり大きいトンボ玉を落とした。
「何とか…なりマシタね。」
「無茶するなって言っただろうに。」
「もう少し熱いと思いマシタけど、むしろ頭の方が痛いデス…。」
そうして即座にモルペウスのディアをアイリスにかけるも、アイリスの右手は所々軽く赤くなっていた程度。
明らかに炎のフィードバックを受けた感じではないと思えたが、ふと歩夢がレイチェルの方を見ると薄っすらと青い光が覆っているのが見えた。
「…何かしたのか?」
「えっと…出来る限り攻撃を受けたくナイと思っただけなんデスが…。」
「あー…そういう事か。」
恐らくはダメージを食らいたくないというイメージが、それを軽減する補助系のスキル…ラクカジャとして発現した様子。
「少しはお役に立てたでショウか?」
「十分過ぎる。で、問題は全く暑さが緩和されてない事なんだが…。」
「アレが原因じゃ無かった…という事デスか?」
「みたいだな。」
シャドウを撃破したは良いが結果として暑さは全く変わって居ない、否それどころか更に不快度を増してると言っても過言ではない。
「どうやら、もっとヤバいのが居るらしいな。」
そう呟きながらシャドウの落としたトンボ玉を拾って正面を見るも、その先には上へと上がる階段と其処に揺らぐ陽炎。
かくして一階にあった食堂の給水器などが生きている事を確認したり、そこで水分補給を行ってから二人は熱気立つ階段を上る。
「何だ…コレ、コレが熱気の原因!?」
「えっと…ドラゴン?」
上った先の屋上にあったのは、電波塔らしき構造物に太い鎖で拘束されている赤いドラゴンらしき生き物で、そこからは熱波が放出されているのが分かる。
そして、近くには後ろを向いて黒いフードを被った人物がフェンスの近くで腰掛けていた。
「シャドウ…いや人間?⋯どちらにしても面倒ね。」
「女性の声?誰だ、お前は?」
「誰?うーん、良いじゃない誰でも。しいて言うなら"求道者"って所かしら?私からすれば貴方達が何故こんな所に居るのかが知りたいけど。」
「実は⋯。」
「言わなくて言い!」
声からして女性らしきその人物は後ろを向いたまま、まるで演技をするかのように話し、純朴なアイリスが本当に理由を話そうとするのに対し歩夢は慌てて静止させる。
人攫いにお嬢さん、何処から来たの?と言われて本気で答えそうな危うさがあるアイリスだが、普通に考えれば声色からして成人した女性がこんな所に居るほうが異常なのだ。
「あーあ、駄目ね。たまに気合い入れてサービス残業してたら暑苦しいのが襲ってくるし余計な侵入者まで来るし、最近は厄日が続いてるわ。責任感が強すぎるのも困りものね私。」
「お前も侵入者じゃないのか?」
「うるさいわね⋯コッチは壊したい物を壊せなくてイライラしてるのに、近くで存在しないでちょうだい!」
が、直後に急に激昂して存在の否定にかかる女。
それは傍から見れば情緒不安定にしか見えなかった。
「まぁ良いわ、仕事は既にあらかた終わってるし誰がどうなろうと知った事じゃない。憂さ晴らしに坊やが壊れるのを想像して愉しむわ。」
「何を言っている⋯まるでこの事態はお前が引き起こしたような言い草だな。」
「だとしたら何?私の愉悦以外に関係の無いことでしょ?」
そうして喋るだけ喋るとその女は振り返り、何処にでも居そうな眼鏡をかけた顔を見せながら屋上のフェンスへと跳躍したかと思うとそのまま飛び降りてしまい、同時に熱気の元であろうドラゴンを拘束していた鎖が弾け飛び、シャドウ特有の金色の目が光る。
そして、大気を揺るがす程の咆哮と共に歩夢とアイリスの方へ向き直った。
「何か滅茶苦茶ヤバそうだな…さっきの奴いけるか?」
「やってみマス。」
即座に二人はペルソナを召喚、レイチェルによるラクカジャをかけた所でドラゴンシャドウの方が先に動いた。
「っ…!?」
切り裂き攻撃を予測して避けたモルペウスだが、動きは鈍重でも威力は絶大なのか後ろのコンクリの壁には深々と爪痕が残る。
「食らったらアウトだな…ありゃ。」
加えて避けた所でエイハを放つが、殆どダメージを受けた様子無し。
更にエイハの影に紛れてレイチェルがストレートを打ち込むも、此方も余り効いた感じではなかった。
むしろ零距離で火球を吐いて反撃してきた程。
「硬いデスね…。」
対するレイチェルもダッキングで火球を強引に防いでドラゴンシャドウの顎へとアッパー。
が、これも効果が薄い様子で中距離からのモルペウスによる夢見針すら刺さらないという有様。
「頑丈ってレベルじゃねぇな…。どっか弱点無いのか…。」
動きが遅いのが幸いだが、兎にも角にも攻撃がなかなか通らない。
そうこうしてる間にも今度はドラゴンシャドウによるショルダータックルがレイチェルに命中、大きく後退させたかと思うと上空からのモルペウスの仕込み刀の一撃を爪で防ぎ、逆に反対の爪で一閃。
「っつ!」
「大丈夫デスか!?」
ラクカジャがかかっていて尚もペルソナからのフィードバックで腹部を抉られたような痛みが走り、何とか気力でディアを発動。
「なんつー攻撃力だよ…!」
腕の部分が機械のようになっているレイチェルならばドラゴンシャドウの爪なども防げるだろうが、そうでもないモルペウスは其処まで防御面が強く無い。
加えて器用な代わりに接近戦も其処まで強く為、遠距離攻撃が効かないとイマイチ決定打に欠けるのだ。
かと言って支援に徹するにしても、レイチェル単騎の力ではドラゴンシャドウには押し切られるし、現時点で押され気味。
「くそっ、此方も火力と耐久力があれば…!」
だが、心の底からそう思った瞬間に、"それ"は起きた。
(汝は我、汝は…ナんじワ…ナなんじハハ)
「何だ…いきなり…!」
急に起きたのは強烈な頭痛、加えて爛々と輝く満月の下で人々が黒い泥に溶けていくイメージが脳裏を過ぎる。
そして脳内で銃弾の音が弾け、"女帝"のカードが砕け散った。