Persona〜Sleep of Rebirth   作:氷室狼

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一章五節

 

 

召喚していたモルペウスが消える…否、仮面を残して黒い球体状に変化する。

彼は夢幻の創作者、夢の中では誰でも無いし、誰でもある事が可能。

故に逆位置の愚者は彷徨し、別のアルカナへと変わる。

 

「レイチェル・ソーン!」

 

黒い球体を卵のように割って中から顕現したのは、シルエットだけならアイリスのレイチェルとほぼ同じペルソナ。

しかし顔にはモルペウスと同じ仮面が張り付き、身体には茨のような黒い紋様が絡み付いていた。

 

「なんデス…それは…!?」

 

それをレイチェルと呼ぶのかモルペウスと呼ぶのか甚だ難しい問題ではあるが、それはともかくとして少なくとも喫緊の欲求だった近接攻撃能力を行使出来る事を本能的に把握した歩夢は、頭痛の残滓に耐えながらもラクカジャを使用して突撃。

 

「右側は頼む!」

 

「わ…分かりまシタ!」

 

そして二体のレイチェルによる近接攻撃が開始され、機械のような両腕でドラゴンシャドウの爪や時折吐かれる火球を防ぎながらも、確実に殴打を叩き込んでいく。

結果、僅かな隙に二人同時のアッパーがドラゴンシャドウの顎にクリーンヒットし、今まで見せなかった程に大きく仰け反る。

 

「今デス!」

 

次の瞬間、アイリス側のレイチェルがドラゴンシャドウの左腕を掴んだのを見て、歩夢側のレイチェルも倣って右腕を掴み、そのまま後方へと投げながら床へと叩き付ける。

床が大きく抉れる程の威力だったそれはドラゴンシャドウの後頭部から諸に入り、そのままピクリとも動かなくなった。

 

「はぁ…はぁ…流石に疲れた。」

 

その直後、歩夢は疲労感から床に座り込むと、レイチェルの姿をしていたモルペウスは再び一瞬だけ黒い球体状になってからいつも通りの姿になり、そして黒い蝶のブローチになって歩夢の服に戻っていく。

 

「今のは…なんだったんデス?」

 

「分からん、何か色々思ってたら出来た。」

 

「でも…確かにソレは…っ!?」

 

そうしてアイリスが自身のペルソナを消しながら次の言葉を紡ごうとした瞬間、床に倒れていたドラゴンシャドウが発火、あっという間に燃え上がって消えたかと思うと、其処には一人の長身の人物が代わりにジーパンに黒のジャケットを着てうつ伏せ寝で倒れていたのだった。

 

「これが今回の…って一気に冷えてきた。」

 

またそれと同時に、茹だるような熱気が一気に冷めてくるのを感じる。

どうやらかのシャドウが熱気の発生源なのは間違いなかった様だったのだが…

 

「いてて…あのアマ…いきなり何しやがる…。次見かけたらぜってぇブッ飛ばす。」

 

「えっ!?」

 

二人で荒れた呼吸を必死で治していたのだが、そうこうしているうちに倒れていた人物が前のように霧散せずに起き上がってきたのを見て、思わず二人は後退り。

 

「あっ?何だテメェら?てか此処何処だ?」

 

そうして起き上がったのは、どう見ても身長175cmの歩夢よりも更に身長が高いであろう女性。

うつ伏せだった上に髪も其処まで伸ばしてる訳でも無かったので、当初は男性と思っていた歩夢だったが、何がとは言わないがアイリスよりはしっかりあるので、どう見ても前から見たスタイルは女性である。

 

「で、此処は夢の世界だ?良く出来た夢があったもんだなオイ。」

 

「案外…理解早いデスね…。」

 

「一般人だけしか居ねぇ司令部なんて有り得ねぇからな。」

 

かくして、とりあえず説明の為にすぐ下の司令室に下りて休みながら話したのだが、不承不承とした態度ながらも飲み込みは早かった。

何でも彼女…雪城遥(ゆきしろ はるか)の父親は自衛官らしく、施設内の構造や内部組織は多少把握しており、鏡のように左右反対になったとは言え自衛隊施設の中である事は理解していたらしい。

因みに、まさかの歩夢やアイリスと同年代との事。

 

「それで、何で此処ニ?」

 

「新年度からオヤジの赴任先が変わるってんで、挨拶周りに同伴してたら変な奴見つけてな。追ってたら変な所に出ちまったんだよ。」

 

「はぁ…。」

 

「声からして女だったが、好き勝手言いやがってムカついたからぶん殴ろうとしたら、何か影みたいの寄越されてから記憶にねぇ。」

 

「影?アイツもペルソナ使いって事なのか?」

 

「ペルソナ?んだそりゃ?」

 

かくして再びの説明タイム。

とは言え、詳細は殆どアイリスに丸投げしたが。

 

「んな心理学用語だの何だの言われても分かるかってんだ。」

 

「まぁ…それが普通の反応だよなぁ…。ってか、何かさっきより冷えてきてないか?」

 

「あ?確かにちっと肌寒くなってるような気すんな。」

 

「まさか…。」

 

此処どころか外まで熱気の影響下にあったのは雪城遥のシャドウらしき物が暴走状態にあった為だが、彼女の話から察するに此処はそれ以前からある模様。

そしてドラゴンシャドウが消えても此処は熱気が消えた以外の変化はない。

つまり熱気は此処の主の想定外の事態であり、此処の主は未だ健在という事でもある。

 

「あれを見て下サイ!」

 

「港の方角か。」

 

窓から外を見ると、港に繋留されているイージス艦の周囲の海水が凍り付いていくのが見えた。

だが、遥は別の方角を見ていたが。

 

「おや?貴女は見覚えがある、確か雪城艦長の娘さんでしたか。」

 

「テメェ…確か近江二等海曹か…。」

 

「おおっと、顔も名前も覚えられてましたか。人の顔を直ぐに覚えるのは艦長譲りですな。」

 

「過ぎた"教育"やらかして寮で謹慎食らった馬鹿なんか直ぐに覚えるっての。」

 

階段近くにいつの間にか立っていたのは、金色の目をした海上自衛隊の制服を着た男。

そして遥の言葉の通りなら、この男が海上自衛隊内のイジメ問題の実行犯らしい。

 

「これはこれは手厳しい、でもそんなの何処でもやってる事じゃないですか。」

 

「んな事言ってやらかす馬鹿がいるから、国民から自衛隊の風当たりが酷くなるんだろうが。」

 

「クックック、やっぱり雪城艦長の娘さんだ。全く同じ事を自衛官でもないのに言ってくるとは思いませんでしたよ。」

 

そう言って哄笑を上げる男…正確には近江二等海曹のシャドウだったが、その足元から床が徐々に凍結していく。

 

「しかし、綺麗事しか知ろうともしないのも艦長譲りですな。だから貴方達は真相に至らない!」

 

「なっ!?」

 

「レイチェル!」

 

「モルペウス!」

 

そして次の瞬間、幾つもの氷の刃が地面から殺到。

だが間一髪でアイリスのレイチェルが間に割って入り、同時に歩夢のモルペウスが抜刀しながら頭上から奇襲。

 

「おやおや、これはこれは…。」

 

モルペウスの刃はすんなりと彼に入っていくも、その直後に彼は雪になって消滅。

 

「チッ、ダミーみたいなもんか。」

 

冷気の発生源がイージス艦方面である以上、本体はそっちに居るのは当たり前。

しかしそれでも、危害を加えようとしてくる以上は撃破を考えたのだ。

 

「…オイ、んだそりゃ?」

 

が、それよりも遥にとってはいきなり二人から謎の人型が出て来た方が驚きだったようで、開いた口が塞がらない様子。

 

「あー、さっき言ってたペルソナって奴だな。」

 

「夢じゃねぇよな…って夢の世界って奴だったか。」

 

「また説明しマス?」

 

「要らねぇよ!」

 

そしてとりあえずはペルソナを戻しておくも、段々と寒気が増している為に薄着だったのが手伝って寒くなってくる。

 

「ヤバ、今度は冷えてきた。」

 

「んな薄着してんのが悪いんだろうが。」

 

「それまで暑かったんだよ。どっか上着ねぇか…。」

 

「確かに少し冷えマス。」

 

「上着?あー、ちと付いて来い。てかこっちも寒いし。」

 

かくして、遥は司令室の引出しから鍵を拝借して司令部の地下へ。

そして其処の奥の扉を開けていく。

 

「よし、細かい所も同じで良かったぜ。ついでに電気も点くし。」

 

開けた先はどうやら海上自衛隊の倉庫らしく、様々な物がダンボールなどに入れられて積まれていた。

 

「こんな所あるのか…。」

 

「普通は入れねぇが、司令室に将官用のマスターキーがあんのは知ってたからな。で、此処なら予備の制服あんだろ。」

 

「なるほど、海上自衛隊の制服をお借りする訳デスね。」

 

「ついでに水入れるだけで沸騰して食えるレトルトとかあるし、補給には事欠かねぇよ。まぁサッサとヤキ入れてやりたいから、早く終わらせろよ?」

 

「てか、さっきの奴が雪城艦長とか言ってたが、そっちの父親って自衛隊でもかなり階級上なのか?」

 

「あ?艦長つったら一等海佐に決まってんだろうが。たまに海将補もやるが。」

 

「つまりは…大佐って事?」

 

「あー、自衛隊は大中少じゃなくて一等、二等、三等だから大佐みてぇなもんだな。」

 

そう言う遥だが、其処まで自衛隊の内部事情や階級を知らない二人としては頷くのみ。

 

「確か缶詰の近くに…よし、御丁寧に置いてあんな。」

 

そうこうしてる間に遥が冬用の制服の入ったダンボールを見付けたらしく、缶詰の箱に入っていた十徳ナイフで無理やり切り開き、中の制服を取り出して二人に放り投げた。

 

「野郎用だが勘弁しろよ。」

 

「着れれば問題ないデス。」

 

「てかそっちも着るのか。」

 

「寒ぃんだよ!しゃぁねぇだろうが!」

 

半袖な二人は仕方無いにしても、元々長袖のジャケットを着ている遥も更に上から制服を引っ掛けていた辺り、どうやら寒いのには弱い様子。

まぁ中身のシャドウが凄まじい熱気を纏っていた辺り、そう言う事なのだろうと歩夢は納得したが。

 

「てかねぇな…装備品は此方の倉庫じゃねぇのか?」

 

「装備品?」

 

「銃とかは流石に使えねぇが、他にも色々ある筈なんだよ。第三倉庫の方か?」

 

そうして適当にマスターキーで倉庫を開けて確かめてく遥だったが、その内の一つを開けた瞬間にそれはいた。

 

「なんだコイツら!」

 

「シャドウ!?こんな所ニ!」

 

倉庫の中に居たのは何体ものシャドウ。

しかも絶賛増殖中で、みるみるうちに増えていく。

 

「ちっ、さっさと潰せって事かよ!」

 

狭い密閉空間で多数相手にするのは流石に分が悪いと見た歩夢達は、急いで階段を上って一階から司令部の外へ。

だが、其処にも既に何体かのシャドウが徘徊。

 

「面倒な事になってきたか…。」

 

「突破しマス。」

 

「今どっからんなもん出した…?てか普通にぶん殴った方が早そうに見えんだが。」

 

「シャドウはほぼ同じ存在であるペルソナの攻撃しか有効ではありまセンので。」

 

「んなもん試さなきゃ分かんねぇよ!」

 

即座に剣とガントレットを構えた二人に対して、いつの間にか男物のレザーの指空き手袋を嵌めていた遥がそこらのシャドウに正拳突きをかましてみるも、不定形なのも相まってほぼダメージ無し。

 

「チッ、ふやけやがって!」

 

が、それで諦める事無く近くの長い単管を片手で握ったかと思うと思いっきり振り下ろす。

しかしながら、シャドウは少しばかりは黒い所が削れたくらいで微々たるダメージ。

 

「なんつー馬鹿力…。」

 

「ペルソナを介さないでダメージ与えるのは初めて見まシタ。」

 

とは言え相手が悪いだけで6kg以上ある2.5m単管を片手で振り下ろし、更に床のコンクリが抉れる程だったので、シャドウではなく並の人間相手だったら間違いなく一撃必殺級。

 

「マジで効かねぇのかよ。」

 

尚、その削れたシャドウはきっちりアイリスがガントレット付きの右手でボディブローを叩き込むと、まるで陶磁器が割れるかのように砕け散ったので、威力ではなく根本的に攻撃の属性が違う事が見て取れた。

また歩夢の片手剣も、両断したシャドウが霧散していく事から、ペルソナ由来の物で無ければ有効では無いと言うのは間違い無い様子。

そして何故か、倒されたシャドウはトンボ玉を落としていく。

 

「ちっ、足手まといかよ俺は。」

 

そう忌々しげに吐き捨てる遥だが、歩夢やアイリスは既にとある結論を導き出していた。

そもそも夢の世界を認知し、その内部に入っていく事が出来た時点で、彼女にはペルソナ能力の素養があるのではないか?と

シャドウとペルソナは本質的に同じ物、ならば先程のドラゴンシャドウは本体を守る為に咄嗟に漏れ出たペルソナが暴走していた物の可能性がある。

そうで無ければシャドウが跋扈するこの場所で、外の時間で数日間も無事で居られる筈が無い。

 

「まぁ…そのうちに何とかなるだろ…うん。」

 

「どういう意味だ?」

 

かくして適当にシャドウをいなしながら進んで行き、辿り着いたのは氷漬けになったイージス艦。

そしてその上に立つのは近江二等海曹のシャドウと、黒いフードを被った先程の女。

だが、その女は3人を見るなり怒りで身を震わせる。

 

「⋯っとに最悪な事してくれたわね!私の楽しみを否定してやってくるなんて⋯!」

 

「テメェの楽しみなんざ知るかよ。たっぷりヤキ入れて海に放り込んでやるから下りてきやがれ!」

 

「冗談じゃないわ、身も心も徹底的に破壊し尽くして、ワザと少し残した希望を粉微塵にした瞬間の顔を見る最大の愉しみを…私の最高の娯楽を…邪魔されてたまるものですか!壊したい、こわしたい、コワシタイ!私の役にたたないのは、全部壊して何が悪いのぉっ!」

 

そう叫ぶ女からは、もはや狂気としか言いようが無い感情の発露が飛び出し、これには流石に三人どころか隣の近江二等海曹のシャドウまで流石に引いて言葉を失うレベル。

どうやら何かを壊す以前に、本人が完全に壊れている様子。

が、その感情の発露と共に周囲から氷柱が突き上がる事から、彼女が何かしらの力を持っているのは間違いなかった。

 

「やれやれ、これは契約も破棄されかねないですね。流石に手段を間違えましたか。」

 

「契約?私は契約なんて結んだ覚えは無い。情報提供料として私の玩具になる素晴らしい約束しか無いわ。」

 

「ああ…やはり…。」

 

「ではこうしましょう、あの子達を殺しなさい。そうすれば望む形にする事もやぶさかではないわ。」

 

そのザマを見て近江二等海曹のシャドウが正帽を深々と被り直しながら全てを諦めた表情になるも、直後に海から突き出した氷の刃が貫いたかと思うと、ホワイトアウトする程の吹雪が巻き起こった。

そして、吹雪の明けた先に見えたのはいつの間にか陸上に上がっていた氷漬けのイージス艦。

しかし船首の部分には近江二等海曹の頭部がついており、トップのアンテナ部分には明らかに人の右手らしき物が生えていて鎖が巻き付きながら正帽を掴んでいる他、横からは左手が出てその鎖の先端にある錨を引っ張っていた。

 

「んだよコレ、ハボクックかよ!?」

 

「我は夢、真なる夢、ただの射干玉の夢。」

 

「これも…シャドウなんデス!?」

 

恐らくそれが内面の現れなのか艦首の顔は虚ろな表情で、右手では正帽を顔に被らせようとするも、対する左手が手に錨が刺さりながらもそれを引っ張って右手の動きを阻止しているという歪な動き。

しかし、そんな動きをしながらも機関銃部分が動いて三人に標準を合わせ、次の瞬間には氷の弾を連続発射。

 

「チッ、また長引きそうだな。レイチェル・ソーン!」

 

避けながらも今度は開幕から歩夢はアイリスのレイチェルをモルペウスに模倣させて召喚、恐らく弱点であろう艦首部分へ突撃させる。

が、読んでいたとばかりに艦首部分が分厚い氷に覆われて防ぎ、更に横からのアイリス本人のレイチェルとの同時攻撃も大きなヒビが入って割れるものの、また直ぐに凍って塞がっていく。

 

「また硬い奴かよ。」

 

「今度は直ってしまいマス。」

 

「もう一回だ、次は当てる。」

 

「分かりまシタ。」

 

そして再び氷の機銃を避けながらも二人のペルソナが突撃、再度氷が割れる。

 

「モルペウス!」

 

その瞬間に変化を解除、モルペウスのエイハを割れた氷の隙間から叩き込む。

 

「よし、これで少しは…っ!?」

 

が、ベースがイージス艦という守りに特化した艦船だけあって、エイハの艦首部分への直撃も軽微。

それどころか攻撃を受けた事で本気になったらしく、艦橋に取り付けられたミサイル・セルから大量の氷槍を空中に打ち上げて広範囲に降り注がせる。

 

「なんて無茶苦茶な。」

 

建物の影に隠れてやり過ごすも、今度は建物ごと破壊してくる有様。

次に撃たれたら今度こそ隠れる場所も無いので、短期決戦にしなければならない。

しかも今回は一人非戦闘員がいる始末。

 

「あの、一つ思い付いたのデスが。」

 

「何か気付いたか?」

 

「先程ダメージを受けたくないというイメージで軽減出来たナラ、逆に相手の防御が弱くなるイメージをしてみたらどうでショウ?」

 

「そんな事出来るか⋯?」

 

かくしてそんな事をアイリスが提案して来たため、半信半疑でかのイージス艦を覆っている氷が割れるイメージを思い浮かべる。

するとモルペウスが薄く青色に発光しながらステッキを向け、そのイメージ通りに氷がヒビ割れて崩れ落ちた。

 

「あ、マジで出来たわ。」

 

相手の防御能力を落とす補助系スキルのラクンダにより一時的に防御能力が落ちた事を確認すると、二人のペルソナは氷の機銃を躱しながら一気に接近、艦首目掛けて攻勢にかかる。

氷の防壁が無い為、そのまま仕込み刀と拳が艦首の頭部にクリーンヒットし、湯気のたつ燃料とも血とも思える液体が流れる。

が、それが危機的状況だとはこの瞬間の二人には分かる筈もなかった。

 

「オイ、その液体から離れろ!引火するぞ!」

 

「えっ…!?」

 

イージス艦の主電源はガスタービンエンジン、そしてその燃料となるジェット燃料は効率の為にあえて引火点を下げてあるのだ。

その為にある程度の温度のある状態で、何かしらの火の元があると一気に燃え上がってしまう。

それを知っていた遥が叫ぶも、時既に遅し。

そしてそれは、恐らく理性の象徴だったであろう左手から錨が引抜かれ、抑えられていた正帽を掴む右手に巻き付いた鎖が弾き飛ばされた事で着火。

 

「ヤバっ…!」

 

瞬間的な点火によって起こる爆発が二人のペルソナを弾き飛ばし、そのまま地面に叩き付ける。

 

「っつー…。」

 

「イタタ…。」

 

故にフィードバックで痛みが走るも、その直後に二人が見た光景は痛みすらも一瞬忘れる程の絶望だった。

 

「んなん…アリかよ…!」

 

爆炎の向こうに見えたのは、漏れ出たジェット燃料が凍結しながらも迫って来る光景。

更にはイージス艦その物も再び凍結し始め、その護りを強固に。

加えて正帽が右手によって艦首に乗せられた瞬間に声にもならない絶叫が上がり、ますます凍結の速度は上がって遂にはモルペウスとレイチェルすら凍結させられた上、次々と打ち上がっては落ちる氷塊の下敷きに。

そして二人は氷結したまま倒れていき、遥も降ってきた氷塊を受けて地面に這い蹲される。

かくして何もかもが人知れず終わったかに見えたが、氷結する世界の一点で一人だけが尚も前を見据えていた。

 

「くっそ!なんでこんな時に力が無ぇんだ!つっ!?」

 

それは渇望にも似た何か。

氷塊に下敷きになりがらも己が無力だと思い知らされた瞬間、遥は激しい頭痛を覚えると同時に一本の両手剣が目の前に降ってくるのが見えた。

そして、声が遥の脳内に響き渡る。

 

「汝は我、我は汝。

我は力ある者、食らいつく顎、掻き毟る爪、爛々たる眼燃やしたる人殺しき。

屍山血河に身を窶せど、汝は力を求めるか?

その身が火炎で炙られると知って尚?」

 

「ああ⋯ゴチャゴチャ抜かしてねぇで…全部寄越しやがれ!」

 

頭痛に耐えながら藁にもすがる思いで何とか手を伸ばしてその両手剣を握ると、熱気と共に強い鼓動が脈打つのが感じられた。

何でも良い、ただ力を寄越せという欲求が手を焼くような感覚となるも、遥の目には迷いなど無い。

 

「分かりました、ならばその覚悟を我に見せて御覧なさい。

例え一振りの剣に首を落とされても、地に付す瞬間まで必ずその双眸を敵に向けている事ね。

さぁ呼びなさい、我が名を。」

 

「ぶっ壊せ⋯ジャバウォック!」

 

かくして、けしにぐの剣はその怪物の首から引き抜かれ、怪物が彼女の中から目を覚ます。

雪城遥のペルソナ、ジャバウォックとして。

 

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