別冊星達のミュージアム 第4号   作:苗根杏

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1作目は、シトネさんの作品です。
ハーメルン→ https://syosetu.org/user/334059/
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響く音、新たな挑戦。

 

 弦楽器、管楽器、鍵盤楽器──。

 無数の楽器がそこらに並べられ、奏者たちを待ち受ける楽器屋は、音楽好きにとっては宝物庫と言っても過言ではない。それは音羽も例外ではなく、おもちゃを前にした子供のように目を輝かせている。

 

「うわぁ……!」

 

 楽器の聖地とまで呼ばれる御茶ノ水。結ヶ丘のある原宿とは少し離れたこの場所に、音羽は新たな楽器を求めてやってきた。

 

「久しぶりにこっちの楽器屋に来たけど……やっぱり凄いね」

 

 同行するのは、ギターを嗜んでいるかのんだ。普段は近場の楽器屋に通っているが、今日は音羽に付き添って少しの遠出だ。

 

「それにしてもビックリしたよ。おとちゃんがギターを始めたいなんて」

「この間曲を作ってて思ったんだ。もっと音楽を知りたいな、って」

 

 音楽に対する飽くなき探究心。それが原動力となり、音羽はここへやってきた。とはいえ、ピアノと歌を専門としていた音羽はギターの造詣が深くない。

 

 そこで音羽が頼ったのがかのんである。ギターの知識があり、それらを使って作曲ができるレベルの実力を有している。これ以上ないほどの人材である。

 

「それでギターを?」

「うん。ギターってロックとかポップス、あとはブルースとか、いろんなジャンルで使われてるから、まずはそこから始めてみようかなって」

「それなら任せて!」

 

 それはかのんにとっても嬉しい相談だった。同じ趣味を持つ相手が増えるのだから当然である。それに、彼の幼馴染の恋とピアノの話題で盛り上がるのを内心で羨ましく思っていたのだ。

 

 ギターといえばやはりバンドなどのフロントマンを務めるイメージがあるからか、楽器屋の中でも特に品揃えが豊富だ。入口を潜ればすぐに無数のギターが並んでいる。価格帯は主に壱万円から五万円ほどのいわゆる初心者向けの商品だ。

 

「わ、思ってたよりも安いんだね」

「この辺りは入門用のものかな。もう少し奥にいけば想像してるような値段のがあるよ」

 

 通路にところ狭しと並べられた楽器を避けて進めば、楽器屋特有の木材と金属、そして塗料や清掃用具などの薬品の入り混じった匂いが漂って来る。楽器屋に来たという実感の湧いてくる匂いだ。

 

 その匂いの源である楽器たちの前に立ち、音羽は悩みながら唸った。

 

「アコースティックとエレキ、どっちがいいかな……?」

 

 アコースティックギターとエレキギター。同じギターでありながら全く違う楽器とも言えるその2つで、音羽は悩んでいた。どちらもそこにしかない魅力があり、優劣をつけられるものではない。

 

「わたしのはエレアコだけど……。おとちゃんは曲作りにギターを使いたいんだよね?」

「うん。ゆくゆくはそうしたいなって」

「じゃあ、エレキがオススメかな。エフェクターで色んな音が出せるし、録音もやりやすいから」

 

 直に録音するしかないアコースティックギターと異なり、エレキギターの音は電気信号である。直接パソコンやスマホに録音が可能であることは、曲作りをする中で便利な要素だ。

 

 かのん自身、作曲をする中でエレキだったらな、と思ったことは何度もある。

 

 ちなみにかのんの所有するエレアコというのは、アコースティックギターの音をエレキギターと同じように電気信号として出力できるギターのことである。

 

「色んなカタチがある……」

「エレキギターは種類が多いからね。結構引き心地が違うから、試しに持ってみる?」

 

 そう言ってかのんは近くにいた店員に許可をとって、ギターに触れる。試奏用の椅子に座った音羽は、渡されたギターをぎこちない手つきで構えた。

 

 テレキャスターと呼ばれるタイプのギターだ。特徴的な左右非対称の形状に、歯切れのよい音色が特徴だ。曲名にその名前が使われることも多く、ギターを知らずとも聞いたことのある者は多い名だ。

 

「ギターって、思ってたり大きいんだね」

「でしょ? アコギだと厚みもあるからもっと大きいんだよ。ほらおとちゃん、ちょっと弾いてみて!」

「う、うん……!」

 

 ピックを握り、恐る恐る弦を弾く。力加減に慣れていないため弱々しいが、確かに開放弦が響いた。弦の振動が、ボディの木材を通して身体に伝わってくる。音が身体を芯から揺らすのを感じる。

 

「わぁ……!」

 

 真横のアンプから聞こえてくるのはメロディも何もない音だが、確かに鳴ったその音に感動を覚えた。ピアノとはまた違う、音を奏でる感動。音楽という魔物に、音羽はすっかりと取り憑かれているのだ。

 

「どう? おとちゃん」

「すっごく楽しいよ! 他にももっと試してみたいくらいに!」

 

 音羽の要望に応え、かのんが見繕ったギターを次々と試していく。

 

 形状や素材、さまざまな要素で変わる音の一つ一つに感動する音羽をみて、かのんは昔の自分を思い出した。楽器に触れるだけで湧き上がってくるあの感動を、いつしか忘れてしまっていた。

 

「──かのんちゃん?」

 

 音羽の声に、かのんはハッと我に返る。

 

「ううん。何でもないよ」

 

 音羽が蘇らせてくれた大切な思いを、また忘れないようにそっと胸の奥にしまい込む。

 

 やはり私は音楽が大好きだ。そう思える理由が、大切な思い出が、また一つ増えたのだった。

 

「さっき見ていて気になったのがあったんだ。それも弾いてみていい?」

「もちろん! いくらでも付き合うよ!」

 

 

 

 

 ◇

「ワン、ツー、スリー、フォー……ハイストップ!」

 

 結ヶ丘の屋上で、今日もLiella!は練習をしている。まだしばらく先の予定のライブに備えて、基礎を固めようとトレーニングを行っている。

 

 筋トレや柔軟を終えれば、次は振り付けや歌詞を覚えていく──そんないつも通りの練習風景である。

 

 唯一違うところがあるとすれば、いつもなら彼女たちのサポートを行っている彼がそこにいないことだろうか。

 

「音羽、今日もやってるわね」

 

 Liella!の掛け声とは別に、微かに聞こえてくる音がある。

 

 部室から聞こえてくるギターの音色。それはただの音ではなく、明らかに曲を奏でていると分かる。ピアノ経験者の音羽にとって、指の可動域といったギター初心者にとっての壁は障害にならず、いつの間にやら上達していた。

 

「ドンドン上手になってマス!」

「音羽くん、家でも夢中になって練習してるみたいですよ」

「なら、私たちも負けないように頑張らないとね!」

 

 休憩を終え、練習を再開する。今日も彼女たちは次の勝利を掴むために励んでいる。

 

 そして彼女たちを支える少年もまた、己に出来ることを全力で頑張っている。そんなLiella!の何気ない日常の一ページだ。

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