別冊星達のミュージアム 第4号   作:苗根杏

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2作目は、はると饅さんの作品です。
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スーパーLiella!最強バトル

 ──なんだ、これは。

 

 東音羽の第一声は、ありきたりながら、現状を簡潔に示したものだった。

 

 目の前にひたすら広がっているのは一面の荒野。日本国内かも定かではない、だだっぴろい広大な土地。荒々しくも雄大な山々が背後に控え、果てしなく広大な面積からは、一日かかっても巡りきれないであろう自然の雄大さを感じる。

 

 しかも、彼の両腕両脚は無様にも伸ばされ、縦横無尽に広がってしまっている。いわゆる、十字架への張り付けというものだ。宗教画のような──あるいは侍や忍者がいるような浮世絵の世界でしか、見ることのないもの。いくら罪を犯したといえども、現代社会でこのような判決(ジャッジメント)を下されることはないだろう。

 

 更に、ダメ押しのように鎖で手首足首は縛られ、がんじがらめに固定されてしまっている。抜け出そうとしても、音羽の心もとない膂力では当然うんともすんとも言わない。八方ふさがり、万事休すとはこのことのように思われた。

 

「く……誰か助けて……!」

 

 幸い、口には何も嵌められていなかった。彼は持ちうる限りを尽くして、大声で叫んだ。しかし、人の気配のない果てしない空間に声を投げかけても、ひたすらに空虚なだけ。ただ、様々な方向から乱れたやまびこが返ってきたのみ。

 

 万事休す、そう諦めかけそうになったところ。

 

「……かのんちゃん?」

 

 いや、誰もいないわけではなかった。彼の『共感覚』が作用し、澁谷かのんの存在を察知したのだ。

 

 ──『共感覚』とは人の感情を『色』として捉える力。人に秘められたキラキラとした無限の可能性を、見抜くものだ。人それぞれの個性や表現する音楽世界との関わりも深く、相手の心情を読み解く──とまでは言いすぎにせよ、自らの身も傷つけかねないほど強力なもの。高い音楽的センスを宿す彼だからこそ持つことのできる、大いなる力(ギフト)といえる。

 

 それによると、先ほどの叫びに呼応して『色』が見えたという。かのんのものを、よりによって音羽が間違えるわけない。彼は確信を強めた。

 

「かのんちゃんっ、いるなら出てきてくれないかな?」

 

 おそるおそる、声を飛ばす。もちろん、返事を期待してのこと。

 

 すると、『色』が荒ぶる。誰かやって来てくれたか、と音羽は期待で色めきだつ。

 ──しかし。

 

「みんなを守る天使の歌声! オレキャット!」

 

 返ってきたのは、予想外に勇ましい声だった。確かにかのんの物、なのだが。腹の底から声が出ていてやたら威勢がいい──というか、プロ顔負けの発声を発揮している。しかも、オレキャットとかいう謎の名前まで名乗っているし。

 

 何がどうしてこうなったのか、一体何がそこまで彼女を突き動かすのか、音羽は理解しきれずにいた。

 

「か、かのんちゃん!? なにやってるの!?」

 

 しかし彼の戸惑いをもろともせず、異変は続く。

 

「銀河を駆ける伝説のスター! ミドキャット!」

 

 続いて、明朗快活な声──平安名すみれのもの。こちらもまた、ショウビジネス仕込みの大胆に見せつけるようなポーズを決め、ノリノリだ。

 

「え、ええっと……ビーストパワーは正義の証っ! アカキャット!」

 

 ところどころ小声になりながらも、米女メイが続ける。三人とも、黒を基調に赤の差し色を入れたパンクロックのような荒々しくもキュートな装いをしている。

 

「いくよ!」

 

 気合いのこもったかのんの号令に合わせて──。

 

「華麗に舞って奪い取れ! チャンピオン戦隊キャッチュ!」

 

 獣の咆哮のような掛け声に合わせて、バンと立ち上がる三色の爆発。魔法のように、どこからともなく立ち上がるカラフルな煙たち。火薬の匂いも、灼熱の空気も確かに肌で感じる。幻ではなく、現実のもの。

 

 合わせて、三人は荒々しくも魂の込められたダイナミックなポーズを決める。一糸乱れぬ、三つの心で繰り出される晴れ晴れする動作だ。

 

「え、えぇ……?」

 

 音羽は驚きを隠せなかった。この三人の組み合わせ自体は『CatChu!(キャッチュ)』というユニットで見慣れてはいるものの──その三人がまるでヒーローもののようなド派手な名乗りを決めているのだから。

 

 今の彼は、自分が拘束されている状況も相まって、余計頭がこんがらがってしまっている。

 

「み、みんなは一体何を……」

 

 疑問を投げかけようと音羽は声を上げる。しかし。

 

「ていうか、アンタの『オレキャット』ってなによ。打ち合わせから思っていたけど、やっぱり締まり悪いじゃない」

 

「オレンジだったら、そうするしかなくない? すみれちゃんのメンバーカラーだって本当はメロングリーンなのにしれっと緑にしちゃってるし」

 

「それを言ったらアンタもマリーゴールドでしょうが」

 

「ま、まあまあ……先輩方落ち着いて。二人とも息ピッタリだったじゃねぇかよ」

 

 メイが静止をかけるものの、かえってかのんの堪忍袋の尾が切れる。

 

「落ち着いてなんかいられないよ! おとちゃんとゴニョゴニョ……その……エンゲージするために毎日影ながら練習を重ねてきたっていうのに……!」

 

 頬を赤らめて恥じらいを見せる姿は、青春ロードを突き進む年頃の少女なのだという他ない。それ以外の状況がいささかカオスすぎるだけで。

 

「……? かのんちゃん、僕の声も聞こえてないみたいだし疲れてるのかな……」

 

 しかも、恋愛方面に鈍感を極めた音羽のことだ。メンバーを巻き込んで、何かふざけているのだろうと思い込んでしまった。

 

「バッ……! それは私のセリフよ……!」

 

「あーっ! すみれ先輩まで! オトちゃん先輩だって見てるんだぞ!」

 

「いいでしょ。音羽のことでしょ、どうせ気づかないし」

 

「そ、そんなぁ……」

 

 今度はすみれの怒りが立ちのぼり、一触即発取っ組み合いの喧嘩。メイが割り込んで止めようとするものの、暴れまくる二人を止められない。

 

 険悪になっていく場の空気に、自分が縛られていなければと歯痒さを覚える音羽。拘束から逃れようと腕をより強く動かすも、自分をめぐって争っているなど露ほども考えていないだろう。

 

「この前だって、自分のジャージを何の躊躇いもなく貸してくれたし……悪いからって言っても屈託のない笑顔で勧められたから断りきれなくて……」

 

「あーっズルい! 私なんか、お店手伝ってもらったお礼に簡単な手料理食べさせてもらったぐらいしかないんだよ!」

 

「そっちの方が自慢じゃないの! こちとら雨の日に相合傘で家まで送ってもらったぐらいしか……」

 

「わ、私は歌褒められて頭撫でられたぐらいしか……」

 

 仲裁しようとメイは自分のエピソードを持ち出すも、雲行きは怪しいまま。

 

「むちゃくちゃいいじゃないの!」

 

「羨ましい!」

 

 すみれとかのんの声がリンクし、またしても烈火の如く燃え上がる。

 

 その後も、あーでもないこうでもないと言い合って、まさに猫の喧嘩。正義を守るヒーローの姿とも、歌で想いを伝えるスクールアイドルとも無縁な光景が繰り広げられていた。

 

 どうしたものか……音羽が遠目で困惑し尽くしていると、別の三つの『色』が現れた。

 

「はーっはっはっは! 仲間割れとは無様なものね、澁谷かのん!」

 

「クーククク! ここで会ったが年貢の納め時デス!」

 

「生徒会長の権力に基づき、実力を行使します!」

 

 遠くから見える姿は、優雅なスカートのシルエットを示している。エレガントな生地や模様は、なんとも高級さと気品を漂わせており、パフォーマンスに妥協は許さないさながらプロ集団の気配を纏っている。

 

 そんな三人もお約束とでもいうべきか、次々に名乗りを始める。

 

「歌は力! ジョーズに噛み切る、カレイドシャーク!」

 

 身体を一直線に伸ばし、地面と水平になるように全身を傾ける。ヨガのような独特なポーズを見せつけながら、ウィーン・マルガレーテが登場した。

 

「好きの電撃、見せつけマス! カレイドラゴン!」

 

 カンフーを彷彿とさせる構えで、唐可可が大胆な名乗りをあげる。

 

「心を結ぶ魔法の力! カレイドチビ!」

 

 どこからともなく取り出した魔法の杖を構え、凛々しく決める葉月恋。

 

「クールアンドビューティー戦隊……カレイドスコア」

 

 先程のチームとは打って変わって、宝石のようなキラキラしたシックさで名乗りをこなしていくメンバーたち。音羽の目には万華鏡のような神秘的なエフェクトが見えた……気がするとかしないとか。

 

「……恋ちゃん!?」

 

 恋の幼馴染としては、なおさら驚きを隠せない音羽。

 

「……黙っていて申し訳ありませんでした。それでも、これだけは音羽くんであろうと秘密なのです」

 

 彼女は呟きながら俯き、憂いを帯びた表情を浮かべる。

 

「そんなに重要なことが……僕としたことが気づけずにいたなんて……クッ!」

 

 幼馴染の悲鳴を聞き逃さないように、心がけてきた。特に過去の軋轢があってからはなお、自分の弱さを曝け出し、相手の弱さに寄り添うよう心がけてきた。Liella!のサポーターとして、人として、それが正しい道と信じて──。

 

 それなのに隠し事をされてしまっていた。もちろん人それぞれプライバシーがあるし、個人にはそれぞれのイマジネーションがある。しかしその片鱗さえ──見抜くことができなかった。その事実だけが、今となっては音羽の胸に深く突き刺さる。

 

「……音羽、今にも自分を責めそうな顔になってるけど」

 

 見かねたマルガレーテが助け舟を出す。彼の音楽的センスはもちろん人格面を高く見込んでいるだけあり、黙っているわけにもいかないのだろう。

 

「ああっ……! 音羽くんは何も悪くないんです、私の単なるワガママで……!」

 

「いいや、ククとしては乙女心はわかってほしいデス」

 

「そんなぁ!?」

 

 まさかの仲間割れ、二対一。こちらも一触即発の状況になってしまった。

 

「ありゃりゃ、みんなもっと仲良くしなくちゃダメだよー?」

 

「その声は──!」

 

 嵐千砂都の到来に、期待の色を隠せない。スクールアイドル部部長にして鬼軍曹とも呼ばれる彼女なら、この事態に収集をつけてくれるだろうと。

 

 しかし、現れたシルエットは臨戦態勢まっしぐらだった。

 

「だって私たち五人に、数で勝てるわけないんだからさ」

 

 放たれているオーラは前二つのユニット以上とも思える程の凄まじさで、ただ者ではないと一目でわかるキングの気配を纏っている。

 

 思わず、音羽の口から嘆きにも似た言葉が漏れ出した。

 

「そ、そっちもか……!」

 

 二度あることは三度ある、とはいうものの。あまりにもお手本のような流れに、状況が状況でなければ直接ツッコミを入れてやりたい気持ちにさせられる音羽なのだった。

 

「みんな、準備はいい?」

 

「はいっす。どんな壁だろうと……イケイケドンドンで乗り越えてやるっす!」

 

「スクールアイドル粒子反応あり。音ちゃんをgetするためなら……本気で勝ちに行く」

 

「勝ってナンボ、お宝(プレシャス)を掴むんですの!」

 

「タイムイズマニー。ASAPで私たちのシークレット・ミッションを遂行しましょう」

 

 最高学年の千砂都に続いて、桜小路きな子、若菜四季、鬼塚夏美、鬼塚冬毬が続々と横並びで姿を現す。メンバーカラーを取り入れたタータンチェック柄のビスチェ風コーデに、アームカバーやベルトなどラフな印象を受けるユニット衣装だ。

 

「トランプカードは数あれど、ワイルドカードはただ一人。スモーキーブルージャー!」

 

「鬼に金棒、マニーのマスター! オニナッツピンクジャー! ですの♡」

 

「It's morphin time. アイスグリーンホワイトジャー」

 

「目指すは無敵のスーパースター! メイズイエロージャー!」

 

「みんな大好き、満月のマル。ピーチピンクジャー!」

 

 それぞれの名乗りが終わると、洗練されたフォーメーション移動を難なくこなし、それぞれが一番映える位置に鎮座する。その見事さに、一同は思わず息をのむ。

 

「ダンスのリズムで心をつなぐ! ダンシング戦隊シンクライズ!」

 

 五つの力を一つに合わせた決めポーズが、盛大に披露された。千砂都が指揮を取っていることもあるが、後輩たちの元々のポテンシャルや、必死に食らいつこうという姿勢が一つの芸術作品を形作っているのだ。ふっと、荒野に拍手が巻き起こる。

 

「アイスグリーンホワイトジャーって何よ……他の人もだけど、名前長すぎるでしょ」

 

 しかしそんな空気が気に入らないのか、カレイドシャークことマルガレーテがボヤく。

 

「それが……お約束」

 

「いやそうでもねぇだろ……」

 

 ドヤ顔で決める四季、冷静にツッコむメイ。別ユニットとはいえ、ゴールデンコンビとも呼ばれる二人のやり取りは健在だ。

 

「前から気になっていたのですが……ピーチピンクとオニナッツピンクはどう違うのですか?」

 

 今度は夏美に、恋の純粋な疑問がのしかかる。

 

「うぐっ……色の濃さとかいろいろ違うですの。そもそも、このオニナッツのメンバーカラーという時点で他よりも特別ですの!」

 

「……夏美ちゃん。千砂都先輩が凄い目でこっちを見てるっすよ」

 

「……おっと、失礼しましたの。それはそうと、この勝負で勝つのはダンシング戦隊シンクライズで間違いありませんの!」

 

 小さな体躯を振り絞った仁王立ちながら、絶対に勝つという強い意気込みを感じさせる圧巻の物だ。夏美の気迫に、他のユニットも負けていられないと気合を入れ直す。

 

「チャンピオン戦隊キャッチュこそが世界一……いや、宇宙一よ!」

「そんな風に言っていられるのも今のうちデス、すみれ。伝説の戦士たちと呼ばれたクールアンドビューティー戦隊カレイドスコアの前にひれ伏すのデス!」

 

「呼ばれてないし……ていうか、いちいち正式名称で呼ばないとダメなの?」

 

 可可は仲間ながらもマルガレーテ的にはどうにも引っかかるようで。今回の戦いにも、あまり乗り気ではないのだろうか。

 

「あのー……」

 

 白熱する口撃の最中、音羽がおそるおそる口を挟む。

 

「具体的に、何をして勝負するの? あと、僕ずっとこんなのなんだけど……」

 

「こほん。内容は様々、料理対決や歌唱対決、それぞれの争いで一番優勢だったもの……つまり、この戦いの勝者が音羽くんを好きにすることができるのです」

 

「僕、誰かの物にされちゃうの!?」

 

 戦いの結果がどうであれ、待ち受ける結末は晴れやかなものではない。よからぬ想像が一瞬にしてよぎり、彼は青ざめた。彼のピュアすぎる叫びに、ゴクリと唾を飲み込んだメンバーがいることは言うまでもない。

 

「……いや、みんなに限ってそれはないはずだ」

 

 思考の邪念を振り払い、信じることを決めた。……正確には、このジェット気流のような展開に乗っかることを決めたともいう。どのみち、縛り付けられたままではどうすることもできない。

 

「わかった。僕はサポーターとして、この戦いを見届ける。それで……何をすればいいかな?」

 

「正当なジャッジをお願いしたいのです。──私たちの繰り広げる戦いの」

 

「うん。おとくんが決めたことなら、誰も文句は言わないよ」

 

「OK。異論はない」

 

「あー、もうこうなりゃヤケだ。……おし、頑張るぞ!」

 

 周りも次々と頷いて、戦いのボルテージは上昇していった。皆の(ソウル)が滾っていく中、司会進行担当の恋がどこからともなくマイクを取り出し、要旨を告げる。

 

「早速、第一回戦を開始します。皆さん、事前に言われたお題は覚えていますか?」

 

「あ、決まってるんだ」

 

「事前に打ち合わせしていますからね」

 

 淡々と述べる恋に、『まるで現実の裁判のよう』とかのツッコミを挟む余地もなく。

 

「第一回戦は……料理バトルです。音羽くんを一番楽しませた相手に一ポイントです!」

 

 恋の号令をゴング代わりに、三人が音羽の前に並び立つ。

 

「まずはどなたが出ますか?」

 

「はいっすー! シンクライズからはきな子が出るっす。早速ですけど……これ、どうぞっす!」

 

「自分で作ったの!? すごいよ……!」

 

 彼女が差し出したのはサンドイッチだった。パンの形が少し崩れてはいるものの、栄養バランスを意識した具材や、食べやすいサイズが的確に保たれている、まさに『愛』がこもった軽食。本人は自信なさげながらも、手間暇かけて用意されたのが一目でわかる。

 

「早速食べてほしいっす……あ! きな子が直接、あーんするっす。では失礼して……」

 

 両手が縛られている音羽は、自分から食べることができない。きな子はサンドイッチをお弁当箱から取り出して、音羽の口元に持っていく。緊張や尊敬や憧れ、思慕──様々な感情が入り乱れて、その手は震えている。

 

「……うん。美味しいよ」

 

 サンドイッチを口にすると、自然と彼の口角が緩んだ。

 

「……ごめんね?」

 

「ううん、全然大丈夫っす。いつも先輩にお世話になっている分、少しでも恩返しできるのなら……こんなに嬉しいことはないっす」

 

「ありがとう」

 

 音羽は根っからの優しさを覗かせて、ニコリと微笑んだ。

 

「そう言ってもらえるだけで……満足っす!」

 

 本人さえ気づかぬうちに、きな子の頬が赤らんだ。その一コマに、嫉妬の視線が突き刺さっていたとか、いないとか。

 

「……では次は、私たちカレイドスコアの出番ですね」

 

「フン。私が胃袋を掴んであげる。準備はいいかしら?」

 

 次鋒は自信たっぷりのマルガレーテ。早速、片手には収まり切らないサイズの紙袋を悠々と持ち上げ、この戦いに向ける自信のほどが窺い知れる。

 

「これは、なんともデンジャーです」

 

 漂う匂いは鼻腔を刺激し、きな子とはまた違ったタイプのアプローチに対抗ユニット一同は警戒を強める。

 

「油断ならないわね……」

 

 準備を進めていたすみれも、横目で様子を探ってしまうほど。

 

「さあ。私が本当の食事を教えてあげるわ!」

 と、自信たっぷりに取り出されたのは。

 

「『超力バーガー』大盛りデリシャススペシャルセットよ!」

 

 常人ではとても食べきれない、ピラミッド型の巨大バーガーだった。星や逆三角のマークなど、独特の文様が至る所に作られていて、見ごたえも十分。味の評判もよく、ネットではもっぱら評判の品物だ。この状況においてはあまりにも大きすぎること、それだけがネックだった。

 

「た、確かに『既製品は禁止』とは言われてはいませんが……」

 

「決めるのはおとくんだからね。私たちは従うだけだよ」

 

 同じユニットのメンバーであっても戸惑いを隠せない恋に対し、かのんはいかにも余裕の構えを崩さない。自分たちの、あるいは自分の勝利は揺るがないと絶対の自信を有しているからだろうか。

 

「べ、別にあなたのために用意したんじゃないんだからね!」

 

「……あながち嘘とも思えない」

 

「そこの四季先輩、うるさい!」

 

「……いや、これはおとくんに対して『家庭で一緒にご飯を食べよう』っていう高度なメッセージなんじゃないかな?」

 

「そこの千砂都先輩もうるさい!」

 

 コテコテのツンデレに茶々を入れられ、どうにもやりづらそうにしているマルガレーテ。そもそもこの戦いの趣旨を理解していない音羽が聞いても、クエスチョンマークが浮かんだままなのだが。

 

「……ええい! とにかく、食べなさい!」

 

 らちが明かないと、マルガレーテが活路を開く。事前に用意した、食べやすいように小分けされた『超力バーガー』が音羽の口に入る。一口サイズでありながら、野性味のあるパティからは肉汁あふれて口内を包む。

 

「お……おいしい!」

 

 漏らした感嘆からは、食品の旨味と彼女の審美眼が間違っていないことが証明された。

 

「うう~、きな子負けちゃうっすか……?」

 

「心配いりませんの、思いやりでは今のところ一番ですの。ただ……」

 

 夏美はきな子を慰めつつも、最後の参加者平安名すみれのただならぬ意気込みを肌で感じ、身構える。はたしてどのようなメニューが飛び出すのか、油断ならない。

 

「それでは最後はキャッチュより、すみれさん。どうぞ、よろしくお願いします」

 

 アナウンスに合わせ、すみれは決戦の舞台へ赴く。まさに究極の救世主の如く、ランウェイを突き進む姿はその場の空気を一瞬にして掌握したといっても過言ではなかった。これから、彼女主役のライブが幕を開ける、そう錯覚させるだけの凄味があった。

 

 音羽の前に辿り着いたすみれは、片手でさっと小包みを取り出す。

 

「はい、これ。忘れてたわよ」

 それは落ち着いたデザインでそこそこサイズもある、男物の弁当箱だった。

 

「……? これ、僕のじゃないけど……」

「いいから」

 

 促されるまま弁当箱を覗くと、彼の好物ばかりが敷き詰められていた。

 

「すごい……! でも、どうやって?」

「当たり前でしょ。だって……」

 

 髪をかき上げ、得意げに語ろうとするすみれ。

 

「わ、私は……おっ、音羽の……およ……」

 

 流れるように台詞を言っていたかと思えば、突如言葉を詰まらせる。そのまま立ち尽くし、ブレッドのようにこんがりと、カッと顔中を赤く染めてしまう。

 

「……すみれちゃん?」

 

「……まあ、つまり。そういうことよ!」

 

「……どういうことなの」

 

 相変わらず鈍感な音羽には恋心はわからないが、彼女の『色』がひどく荒ぶるのだけは感知できた。言葉をかけようにも、なんとも手を出しがたくそのまま無言になってしまったのだが。

 

「あちゃー、策士策に溺れるってやつだね」

 

「途中までは上手くアクトできていたのですが……すみれ先輩らしいといえばらしいです」

 

「でも、あそこまでやられると負けてはいられないデス」

 

 一世一代のすみれの挑戦に、一同は思い思いの感想を述べる。その後、なんとかすみれのお手製弁当をふるまうことには成功したものの、どことなく気まずい空気が流れたとか。

 

「それでは、結果発表のお時間です。音羽くん。誰が一番でしたか?」

 

「うーん……みんな素敵だったけど、すみれちゃんが一番良かったよ」

 

 悔しがるものもいるものの、ひとまず勝者を称える拍手が巻き起こる。

 

「というわけで、一回戦の勝者に感想を聞いてみましょう」

 

「……うぅっ」

 感極まったのか、その場に立ちながら泣きくずれてしまった。

 

「すみれさん!? まだ一回戦ですよ!?」

「だって……これ以上の思い残しはないもの……っ!」

 

 今まで積もりに積もった想い、それが音羽に褒められたことで途端にリミッターを忘れて解き放たれ、形になって表れたのだ。

 

「ありがとう……!」

 

 ボロボロと涙をこぼしながら、料理対決は幕を閉じた。

 

 その後も次々と勝負は進んでいく。

 

 二回戦、生け花対決では恋が新体操のような美しい作品でかのんと夏美に勝利。

 

 三回戦のクイズ対決ではメイがオタク知識、そして痛いとも思えるほどの妄想力をフル活用して可可と千砂都を下す。

 

 四回戦、射撃対決ではマルガレーテがターゲットをビュンビュン撃ち抜き、四季とメイを倒す。

 

 五回戦、折り紙対決は折り目正しい冬毬がオリジナリティを発揮しつつ、見事結果を収めた。

 

 そしてラストの六回戦。お題はもちろん──歌。音楽の力で結ばれた十二人にはふさわしいお題。

 

「これが最終バトルです。なお、勝者のポイントは倍になります。みなさん、全力で臨んでください」

 

 ここまでで勝敗はそれぞれ二勝、二勝、一勝。キャッチュとしてはなんとか勝利してしまいたいところ。もちろん、シンクライズにも勝利の芽はまだある。カレイドスコアも手は抜けないところ。

 

「キャッチュからは、私が出ます」

 

 やはり、というべきか澁谷かのんが手を上げた。

 

「かのん先輩。負けないっす!」

 

 シンクライズからは桜小路きな子がエントリー。

 

「カレイドスコアは私が出ます。皆さんの想いも背負って、全力で歌わせていただきます」

 

「……ぶちかましなさい」

 

 様子を見守るマルガレーテが、恋のアクセルをそっと押した。

 

「はい!」

 

 ここに、三人のソルジャーたちが集結した。それぞれの技を競うため。それぞれの力を高め合うため。そして、それぞれの願いを叶えるため。

 

 程なくして、自然にブレスが重なり、それぞれの歌唱が始まった。

 

 その時の光景は、音羽の目に次のように映ったという。

 

 恋の歌声は、雄大で深みのある穏やかなものだった。

 

 まるで、風にそっと揺れる大樹のような青い新緑の色合いが、ゆりかごのように温かく包み込む。幼いころから紡ぎあげてきた絆や思いやり、そのありがたみを改めて実感するのだった。

 

 きな子の歌声から伝わるのは、大自然の壮大さだ。

 

 北の大地で生まれ育った彼女だからこそだろうか──穏やかなだけじゃない荒々しい自然の色が容赦なく音羽にものしかかる。しかし、それすらも照らし悠々と一歩ずつ進んでいく力強さこそ、きな子の歌に込められた魅力だ。

 

 そして、かのんの歌声。

 

 かつて絶望のどん底に立たされた音羽を光ある所へ引き上げてくれた、温かく勇気づけられるもの。どんな暗闇にも手を伸ばし、傍でそっと支えてくれる存在。いつもそこにある、青空のように自由で雄大な世界観。

 

 歌と歌とが重なり合うことで、その魅力は磨き上げられ、100万倍にもなる。総じて、フラッシュのような強い輝きの込められた素敵な歌のコンビネーションだった。

 

「……ふうっ」

 

 発表を聞き終え、音羽は感嘆の声をあげる。いつも以上に心のこもった歌に、音楽の世界に浸っていただけある。

 

「さあ、誰が一番でしたか。さあ!」

 

「私だよね、ね?」

 

「きな子を選んでくれると嬉しいっす……!」

 しかし勝負の世界は沈黙を待ってはくれない。三人は早速詰め寄り、判断を求める。

 

「ごめん……一番なんて決められない……!」

 

 音羽としては心からの最大限の賛辞のつもりで発した言葉だった。が、三人はどうも納得がいかなかったようで。

 

「そ、そんな……こんなのあんまりだよぉ……」

 

「っす……」

 

「こうなったら延長戦です! 今度こそ、音羽くんの心を射貫いてみせます!」

 

「ズルいデス、レンレン! 次はククも参加するデース!」

 

「っ、私が出る」

 

「待ちなさいったら待ちなさい!」

 

「わ、私だって負けたままじゃ終われないわ!」

 

 参加していなかったメンバーたちも、これ幸いと次々と乱入してくる。もちろん、音羽を自分のものにするためである。

 

 動機こそ不純であれど、元々歌うことが大好きなメンバーたち。互いの心をさらけ出し、カラフルな世界を形作っていく。殺風景だったはずの採石場は、それぞれが発する色でどんどんと色づいていくのだった。

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