閃の軌跡 SSオリジナルカップリング集   作:雷電丸

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フィー×エリゼ

「…はぁ、やっぱり厚着してくれば良かったかな」

 

 

 溜め息交じりの呟きを拾う者は誰もおらず、少女は雪の中を慣れた足取りで歩いていく。温泉郷と謳われるここ、ユミルに来るのはもうこれで何度目なのか忘れてしまった。だが、相当な数であることは間違いない。恐らく──いや、絶対に同じクラスの仲間で見れば、ユミルが実家である青年を除いて1番多いだろう。

 

 何気なく空を見上げると、どこまでも澄み切った青空が広がっていた。何気なく息を吐くと寒さを象徴するようにあっという間に白く染まっていく。しかし、少女の格好は明らかにこの寒さに似つかわしくない。短いホットパンツを穿いた下半身は、素足をほとんど露出しており、しかも上半身はお臍を出していると言うありさまだ。動きやすいように──そう思ってこの服にしたのだが、ここに来るならせめてコートでも着てくれば良かったかもしれない。

 

 

「ま、今更だね」

 

 

 もうすぐユミルに到着する。そうすれば温まる機会はいくらでもあるのだからと割り切り、彼女──フィー・クラウゼルは足早に郷へと向かった。

 

 彼女の予想通り途中で魔物に出くわすこともなく、あっという間に郷に到着した。郷の住人に軽く会釈をして、友人の家へ歩いていく。と、そんな彼女を歓迎するように真横から黒い影が飛び出してきた。

 

 

「あぅ……」

 

 

 小柄なフィーはその影を受け止めきることができず、そのまま押し倒されてしまう。彼女を押し倒したのは、友人の飼っている愛犬のパドだった。パドはフィーにかなり懐いており、尻尾を振って喜びを表したかと思えば顔をぺろぺろと舐めてきた。

 

「もう、くすぐったいよ、パド」

 

 

 そう言いつつ、嫌ではないので優しく頭を撫でてやる。何度かフィーの訪問を知らせるように、家へ向かって大きな声で吼えるパド。それに気づいたのか、家の中からぱたぱたと足音が聞こえてきた。

 

 

「パド、どうしたのですか? あ……フィー、さん」

 

「うん、エリゼ」

 

 

 扉を開けたのは、フィーの親友エリゼ・シュバルツァーだった。パドを撫でて落ち着かせ、フィーに手を差し出して立ち上がらせる。

 

 

「すみません、パドが……」

 

「ううん、大丈夫。私も久しぶりに会えて嬉しかったから。

 久しぶりだね、エリゼ」

 

「はい」

 

 

 互いに嬉しそうに微笑し、久しぶりの再会に安堵する。フィーとエリゼは同い年と言うこともあって、かなり親しい。最近ではエリゼの兄であるリィンよりも親しいかもしれないと思うほどだ。

 

 

「ロープウェイではなく、歩いてきたのですか?」

 

「うん。運動にいいかなぁと思って」

 

「冷えたでしょうし、鳳翼館で温まりましょう」

 

「じゃあ、エリゼも一緒に行こうよ」

 

「いいのですか?」

 

「もちろん」

 

「では、準備をするのでちょっと待っていてください」

 

 

 そう言って、エリゼは1度フィーを家に上げる。そしてフィーにタオルを渡して保温されてあるお湯をカップに注いでココアを出す。そうしてから入浴用のタオルなどを取りに部屋へと戻って行った。その間、フィーは暖炉の前に座って冷えてしまった身体を少しずつ温めていく。

 

 

「フィー、来ていたのか」

 

「リィン。さっき来たところ」

 

 

 しばらくそうしていると、玄関の扉が開かれ、外から戻って来たリィンと出くわす。ある程度雪を払ったようだが、まだ頭にいくらか残っている。どうやら外で雪掻きに精を出していたようだ。

 

 

「何か飲むか?」

 

「んー……いいや。エリゼと鳳翼館に行く約束をしているから」

 

 

 既に湧いていたお湯でココアを作ってもらってある。フィーはエリゼが淹れてくれたそれを堪能し、コップを置きに流しに向かう。そこでちょうどエリゼが階段を下りてきた。

 

 

「ココア、どうでしたか?」

 

「美味しかったよ。サンクス」

 

 

 エリゼは荷物を持っているので、彼女に一言断ってから流しに置いてくる。そして彼女と並んで内湯と外湯が併設されている鳳翼館へと足を運ぶ。また玄関でパドが駆け寄ってきたが、頭を撫でると嬉しそうに一鳴きしてから離れた。

 

 

「最近はどうしていたんですか?」

 

「Ⅶ組のみんなのお手伝い、かな。園芸部で育てている花もだいぶ咲いてきたよ」

 

「忙しそうですね……でも、元気そうで良かったです」

 

「私も。エリゼが元気で良かった」

 

 

 たわいない話をしながら歩いていくと、程なくして鳳翼館へ着いた。受付で一礼し、女湯へ向かう。脱衣場も保温されているが、扉の向こうにある温泉の温かさが伝わってくる。

 

 

「それにしても……エリゼ、スタイルいいよね」

 

「な、なんですか、突然?」

 

 

 入浴着に着替える途中、フィーの視線を感じて彼女の方を見ると、羨ましそうな視線を向けてきた。困惑するエリゼを無視し、その綺麗な肌をじっと見詰めるフィー。その視線に耐えられなくなり、エリゼは自分の身体を抱き締めるようにして腕を回す。

 

 

「羨ましいなぁって」

 

「そ、そんな……フィーさんだって肌綺麗ですよ」

 

「そうかな? エリゼほどじゃないと思うけど。

 それに、なんかエリゼの下着、大人っぽいような?」

 

「あ、それは……その、アルフィン殿下が強引に渡してきて……」

 

「そうなんだ。てっきりエリゼの趣味かと思った」

 

「違います!」

 

 

 顔を真っ赤にして反論するエリゼが可愛くて、フィーは笑みを浮かべる。彼女と親友と言う間柄になれたことが、凄く嬉しい。

 

 

「でもそれって……マリアージュ・クロスのやつだよね?

 私の知らないうちにエリゼはどんどん大人になっていくね」

 

「フィーさんまで殿下みたいなこと言わないでください……!」

 

「ふふっ、ごめん。でもエリゼ、本当に綺麗だよ」

 

 

 微笑し、フィーはそれだけ言い残すと先に内湯へ入って行った。残されたエリゼは、自分でも分かるほど顔が赤くなったまましばし拗ねたように唇を尖らせる。

 

 

「もう、意地悪なんですから」

 

 

 だが、別に嫌と言うわけではない。こうしたやり取りも、親友だからこそのものだ。エリゼも入浴着に袖を通してから内湯に向かう。既にフィーがのびのびと湯船につかっており、気持ちよさそうだ。隣に座り、共に溜め息を零す。

 

 

「気持ちいいね」

 

「はい、とても……あら?」

 

「ん、何?」

 

「いえ……もしかして?」

 

「エ、エリゼ?」

 

 

 まじまじとエリゼの視線が太腿あたりに注がれ、今度はフィーの方が戸惑ってしまう。先程仕返しかと思ったが、彼女がそんなことをするような性格ではないことはよく分かっている。つまりそれ以外で何か気になったのだろう。いったい何が──考えを巡らせていると、あることを思いだし、次第に焦りを覚えていく。

 

 

「ど、どうかしたの?」

 

 

 エリゼが視線を向けている場所へ何気なく手を置いて誤魔化そうとするフィーだったが、それを赦すまいとエリゼの手がたおやかに重ねられ、やがてフィーの手をどかしてしまう。

 

 

「やはり……フィーさん、その傷は平気なのですか?」

 

「…うん、もう痛まないよ。これはほんと」

 

「もう……怪我をしていたなんて」

 

 

 フィーが命がけで貴族連合と戦っていたことは知っている。だが命を懸けること自体は彼らと決着がついてからも続いていた。自分が通っている士官学院の教官であるサラや、遊撃士の手伝いが主だが、もちろんその中には危険なものも多数存在する。もしフィーに何かあったら──エリゼはそれが心配で、こうして目ざとく傷を見つけては口を酸っぱくして注意してくるのだ。しかしそれを邪険に思うことはなく、寧ろ心配してくれている人がいるのだと実感できて嬉しかった。

 

 

「ごめん。でも、私はこうしてここにいるよ」

 

 

 そっと頬に触れ、綺麗な髪を撫でる。最初こそ心配そうな顔をしていたエリゼだったが、やがてフィーの言葉を信じ、頬に当てられている彼女の手に自分の手を重ねる。

 

 

「フィーさん……」

 

「うん、エリゼ」

 

 

 温かいお湯に包まれながらも、相手の体温を確かに感じながら2人はのんびりと温泉を堪能するのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 温泉から出た後は再びエリゼの家に戻り、彼女の部屋でたわいない話に花を咲かせる。

 

 

「そういえば……フィーさん、私に戦いを教えてくれませんか?」

 

「いきなりだね」

 

 

 唐突な申し出に、フィーは面食らう。エリゼとてレイピアを使って戦うことができる。しかもアーツを扱うのが得意でもある。前衛も後衛もこなせるだけあって、フィーは何を教えられるか首を傾げてしまう。

 

 

「私、もっと強くなりたいんです」

 

「んー……じゃあ、とりあえず外に行こっか。どこかいい場所、知ってる?」

 

「はい、もちろん」

 

 

 壁に飾られてあるレイピアを手に取り、エリゼと共に部屋を出ていく。途中でリィンに見つかったら何を言われるか分かったものではないので、彼に出くわさないよう足早に家を出た。

 

 おあつらえ向きの場所へ案内してくれるエリゼの後ろ姿を眺めながら、フィーは何故エリゼがあんなことを言い出したのか、その理由を考えていた。なんとなくだが見当はついている。きっと自分だけ戦えていないことに不服なのだろう。同い年のフィーは幼少の頃からずっと戦いに身を投じており、アルフィンは皇女としての責務を果たしている。そんな中で自分は──そんなところだろう。

 

 やがて開けた場所に出ると、エリゼはレイピアを抜いてフィーと対峙した。

 

 

「本当にやるの?」

 

「はい、もちろんです」

 

「…そ。分かった」

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「それは私の台詞だよ」

 

 

 双銃剣を構え、エリゼをしっかりと見据える。実力は確かにフィーの方が勝っているが、手を抜くつもりはない。あまり怪我をさせないよう細心の注意を払いながら、2人は互いの得物をぶつけ合った。

 

 独特の金属音と火花を発し、レイピアと双拳銃を拮抗させ合う。膂力はほぼ同じと言ったところか。エリゼの方が身長があるので、フィーに押し切られることもなく刃を拮抗させることもできるようだ。

 

 フィーはエリゼの力を確認すると、次の手に移った。相手が押してくる力を利用しながら後ろへ跳んで離れると、瞬時に双銃剣の銃口が火を噴いた。もちろん無暗に怪我をさせないよう注意しながら。それでも、エリゼは怯むどころかフィーに向かって走ってきた。途中で出鱈目に動いて狙いを定めさせまいとする動きに、思わず目を見張る。

 

 

(まさか、そこまで必死だったなんて……)

 

 

 生半可な気持ちではないと思っていたが、フィーの予想を上回るほどにエリゼの動きは素早く、鋭いものだった。やがて着地したフィーへ、エリゼが足元に雪をすくって寄越してくる。目眩ましのつもりだろうが、フィーは物音に敏感だ。死角を取られたとしても後れることはない。

 

 やがて真横で雪を踏みしめる音がした。迎撃のためにと思って双銃剣を構えるフィーだったが、すぐにエリゼの姿が現れることはなく、なにより真っ白な景色の向こうで何かが光ったように見えた。

 

 

「…ピンチ、かも」

 

 

 そう呟いたフィーの表情は、しかし楽しそうだ。

 

 

「アクアブリード!」

 

 

 フィーの予想した通り、エリゼは突っ込んでくるのではなくアーツを使ってきた。急いでその場を離れると、木陰に身を隠す。そしてエリゼが手応えを感じずにその場で警戒しているのを確認してから手榴弾のピンを外し、怪我をしないであろう位置へ向かって放り投げる。

 

 

「あっ……!」

 

 

 エリゼの視線が、一瞬だけ手榴弾に逸れた。その僅かな隙をついてフィーもアーツを発動させた。

 

 

「やっ!」

 

 

 3つの氷の刃が、エリゼ目掛けてまっすぐに飛来する。その内の2つを避け、残り1つはレイピアを一閃して破壊する。その間にフィーは距離を詰めようと駆け出す。それに気づいてエリゼも駆け出した。だが、足を止めるつもりか、フィーは銃口を向ける。当然、ただの脅しではなく発砲され、エリゼは思わず怯んだ。それを見るや、更にスピードを上げるフィー。また剣戟を行うのか──エリゼのその予想は打ち砕かれる。

 

 

「え……?」

 

 

 なんとフィーは、先程発動させたアーツで作った氷の刃の上を滑り、エリゼの股下を通り抜けたのだ。そして素早く背後に回り込んだ彼女は双銃剣を構えた。

 

 

「チェックメイトだよ、エリゼ」

 

「…残念です」

 

 

 エリゼはレイピアを鞘におさめ、振り返った。その顔には笑みが浮かんでいたが、無理をしているように見える。フィーも双銃剣をしまい、今まで抱いていた疑問をぶつけることに。

 

 

「エリゼ……どうして強くなりたいと思ったの?」

 

「それは、その……」

 

「もしかして、自分が何もできていないからって考えていたりする?」

 

「ど、どうして……!」

 

「…私も、同じことを考えたりしたから」

 

 

 フィーは後ろ手に手を組み、なんとはなしに青空を見上げる。まるでその時のことを鮮明に思い出すかのように。フィーは幼少の頃、猟兵団に拾われてそこで育てられた経緯がある。そこで学んだことは数多く、自分の戦い方もそこで知りえたことだ。

 

 

「私、兄様やフィーさんばかりが前線に出るのが耐えられなくて……私だって、戦えるのに……!」

 

「うん、分かるよ。

 でもね、エリゼにはエリゼにしかできない戦い方があるんだよ」

 

「私にしか、できない……?」

 

「そうだよ。何も前に出るだけが戦いじゃない。

 エリゼは私が帰りたい場所を守ってくれている……それが、エリゼの戦いだよ」

 

「フィー、さん……」

 

「まぁ、すぐには納得できないよね。だからって、私はリィンみたいにエリゼに無理強いさせたりしないよ」

 

「…はい」

 

 

 手を差し出すと、エリゼは嬉しそうにその手を握り返してくれる。2人はそのまま手を繋いで郷への道を歩いていった。

 

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