閃の軌跡 SSオリジナルカップリング集   作:雷電丸

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クロウ×アルティナ

 貴族連合が所有する白銀の艦、パンタグリュエル。その甲板で1人、クロウ・アームブラストは何気なく蒼い空を見上げていた。先程まであった喧噪はとっくに失せたと言うのに、未練がましくある一点を見詰めてしまう。

 

 

(…ったく、感傷に浸るような歳でもねぇってのに)

 

 

 かつて潜入したトールズ士官学院で苦楽を共にしたメンバーと思わぬ邂逅をしたせいで、変に気持ちが浮ついてしまった気がする。それでも決意が変わることはなく、例え敵対しようともこの道を選ぶと決めたクロウの決心は揺らぐことすらなかった。

 

 

「戻るか」

 

 

 いつまでもこんなことをしていたって仕方がない。クロウはやがて空から視線を外し、唯一甲板と艦内を繋ぐ出入り口を通って部屋へと戻っていく。だが、その途中で人影を見つけて足を止めた。膝を抱えて縮こまっているので、もしかしたら見逃していたかもしれないその人影は、しかしクロウの存在に気づくこともなくその場でじっとしている。

 

 

「アルティナ……? 何やってんだ、こんなところで?」

 

 

 そこにいたのは、黒の工房から貸与と言う形で貴族連合に組みすることとなった少女──アルティナ・オライオンだった。黒兎(ブラックラビット)のコードネームを持つ彼女は、漆黒で彩られた傀儡のクラウ=ソラスを操作して戦う。その実力は貴族連合の参謀を務めるルーファスの折り紙つきだ。もちろんクロウも彼女の強さは評価している。

 

 

「おーい、起きろ」

 

 

 近くで声を強めに出してみるが、アルティナは起きる気配がない。ついさっきまで脱走者を追いかけ、相手の仲間が合流して一触即発気味だっただけに、緊張がほぐれたことでまた眠気に負けたのかもしれない。

 

 アルティナは小さな寝息を立ててぐっすりと眠ったまま、起きる気配がない。クラウ=ソラスと同じように黒一色で統一された服を着ているが、胸元からお臍にかけてひし形に切れ込みが入っており、太腿が露出されていて寒そうだ。ここに放置していると風邪をひいてしまいそうなのでとりあえず部屋へ連れ帰ることに。

 

 

「…殴られたりは、しないよな」

 

 

 他意はないが、アルティナに触れようとするとクラウ=ソラスがいきなり現れて攻撃される可能性がある。悪意はないと両手を挙げてアピールしつつアルティナに近づき、そっと抱き抱える。特にクラウ=ソラスが現れたりすることはなかったので、どうやら攻撃されずに済みそうだ。彼女を起こさないよう細心の注意を払いながら艦内を歩いていく。

 

 ほどなくしてアルティナに割り当てられた部屋まで到着し、ドアを開けて中へ入る。ここに来るまで誰にも目撃されなかったのはありがたい。そしていざベッドに運ぼうとした時───

 

 

「ぅん……?」

 

 

 ───眠気から解放されたのか、アルティナが目を覚ました。寝ぼけ眼でクロウをしばらく見詰めるアルティナだったが、今の状況に気付いてすっと左手を挙げる。

 

 

「何だ?」

 

「…クラウ=ソラス」

 

 

 アルティナの静かな呼び声に即座に反応したクラウ=ソラスが、その身を具現させる。そして腕と思しき箇所でアルティナをクロウの腕から離させると、反対側の腕を後ろへ振りかぶる。

 

 

「ちょ、ちょっと待て……!」

 

「不埒な輩に聞く耳など持ちません」

 

 

 どうやら話を聞いてはくれなさそうだ。振りかぶった拳は当然の如くクロウへ当たり、彼の身体は部屋の隅っこまで吹っ飛んでしまう。ありがたいことに重厚な造りとなっているこの部屋では、受け身さえきとんと取れば隣接している部屋に迷惑をかけずに済む。

 

 

「ったく……何で仲間に殴られなきゃならねぇんだよ」

 

「…妙ですね。私の記憶が改竄されていなければ、私は部屋に戻る前に眠りについたはずですが」

 

「あぁ。甲板から戻る途中でお前さんを見つけたんだよ。

 あんなところにいたら風邪をひくからここに連れてきたんだ」

 

「……そうですか。クロウ・アームブラスト、貴方もリィン・シュバルツァーと同様に何か不埒な行為に及ぼうとしたのかと思いました」

 

「するわけねぇだろ!」

 

 

 痛みを耐えながら憤慨し、クロウはやれやれと溜め息を零す。しかしここへ連れてきたリィンも彼女が使役するクラウ=ソラスに殴られたかと知ると、寧ろざまぁみろと言った気持ちになる。

 

 

「まぁ、私に害意を持って近づいたのであれば、クラウ=ソラスのメーザーアームが炸裂しているでしょうし、その痕跡がないと言うことは貴方に害意はなかったと言うことですね」

 

「それを分かっておきながら殴ったのかよ……」

 

「…それはさておき」

 

「おい」

 

「クロウ・アームブラスト。紅き翼・カレイジャスの動向を探らなくてよろしいのですか?」

 

 

 完全に無視されてしまった。もう注意しても聞いてくれないだろうと思い、クロウはアルティナに座るよう促してから彼女の問いに答えることにした。

 

 

「探らなくても自然と耳にすることになるさ。無駄に正義感の強い奴らだからな」

 

「なるほど。では、私は今後も雇い主であるクロチルダ様の命を最優先とさせていただきます」

 

「おう、そうしてくれ。

 あんな性悪な魔女に無理難題を押し付けられたら、ちゃんと言えよ。いつも頑張り過ぎって感じだし」

 

 

 労いの意味を込めてアルティナの頭を優しく撫でるクロウ。最初は驚いた表情を見せたが、すぐに戸惑いのものへと変わり、アルティナはそっぽを向いてしまう。

 

 

「まったく……貴方と言いリィン・シュバルツァーと言い、何故そうも頭を撫でたがるのでしょうか?」

 

「撫でたいっつーか……まぁ、いわゆる友好とか労いのためだな」

 

「そうなのですか? クロチルダ様が『クロウはロリコンだから要注意しなさい』と仰っていましたが」

 

「あの性悪め……」

 

 

 いったいどちらが先にこんな不毛な文句を言い始めたか憶えていないが、別に不仲と言うわけではない。互いに信頼出来ているし、なによりそれなりに付き合いもある。これくらいで本当に腹を立てていたらきりがないのだ。

 

 

「ところで……ロリコンとはなんなのですか?」

 

「あー……まぁ簡単に言うと、幼女を好きなやつのこと、だな」

 

「なるほど。正しくクロウ・アームブラストとリィン・シュバルツァーに言えることですね」

 

「だから俺は違うっての……」

 

「しかし……貴方の説明を聞く限り、成熟していないと言うことと同義と推測します。

 それは女性に対して失礼でしかありません……クラウ=ソラス」

 

 

 クロウがまさかと思うより早く、アルティナは再びクラウ=ソラスで思い切りの良い一撃を繰り出そうとしてきた。

 

 

「と、ところで、お前腹へってないか?」

 

「……多少は」

 

 

 クラウ=ソラスがアルティナの指示で攻撃をする前に、クロウは彼女の興味の対象を変えることに。どうやらずっと寝ていただけあって、お腹が空いているようだ。

 

 

「なら、今から作ってやるよ」

 

「これから料理をするのですか?」

 

「あぁ」

 

「…では、私も同行します。予てより料理そのものに興味があったので」

 

 

 失礼だとは思ったが、アルティナは命令を忠実にこなすか、睡眠しているかばかりだと思っていただけに意外な言葉だった。驚いているクロウの表情を見て、アルティナはいつもの変化の少ない表情をむっとしたものへ変える。

 

 

「今、失礼なことを考えていたように思います」

 

「考えてねぇよ」

 

 

 危うく『エスパーかよ』と口走ってしまいそうになったが、なんとか思いとどまることができた。そしてアルティナを伴って厨房へ向かう。一流のコックが一緒にいるだけあって、備え付けられているキッチンや包丁などは上等なものだ。

 

 

「さて……そんじゃあ、キャベツを切ってくれるか?」

 

「任務了解です」

 

 

 得意料理であるフィッシュバーガーを作ることにしたクロウは、アルティナの前に半月に切られたキャベツの塊と包丁を置く。こんなことを任務と称してしまうあたり、世間とずれているのかもしれない。よもや変なことはしないと思うが、一応釘を差しておくことに。

 

 

「まさかとは思うが……クラウ=ソラスで料理しようなんて思っていないよな?」

 

「私がそのような暴挙に出るとでもお思いなのですか? 心外です」

 

「いや、なんと言うか……」

 

 

 士官学院に潜入していた際に出会った、ミリアム・オライオンと言う少女がアルティナの駆るクラウ=ソラスと同型で白く彩られたアガートラムと言う傀儡を持って戦うのだが、彼女は何故か料理の際にそのアガートラムでやろうとしたと聞かされたことがあったのだ。しかし彼女とアルティナの関係性を分かっていないので、思わず閉口してしまう。それに気づいてか、アルティナは溜め息を零した。

 

 

「特段、私に気を遣う必要性はありません」

 

「え?」

 

「ミリアム・オライオンとの関連性を気にしているのではないのですか?」

 

「まぁ……当たりだ」

 

「でしたら、なんら問題はありません。あくまで貸与された身でしかありませんので、機密事項に抵触することに関しては話す気は毛頭ないので」

 

「さいですか」

 

 

 頭を掻き、アルティナの言葉に戸惑いを覚える。関連性と言う言い方では、寧ろ物のような響きを禁じ得ない。しかしクロウは彼女をちゃんとアルティナ・オライオンその人として見ている。そのような言い方は気に入らなかった。

 

 

「まぁ、とりあえず切ってくれ。何か分からなかったら、遠慮なく聞いていいし」

 

「了解」

 

 

 すると何を思ったのか、アルティナは包丁を手に取るとそれを真上まで振り上げた。呆然とするクロウを他所に、包丁はキャベツ目掛けて一気に振り下ろされる。

 

 ヒュンッと風を切る音がしたかと思えば、キャベツはばっさり切られてしまう。それだけならまだ良かったのだが、思いの外アルティナの膂力が強かったのか、まな板にも見事な一文字の傷が出来上がっている。

 

 

「ちょ、ちょっと待て! アルティナ、ストップだ!」

 

「…何でしょうか?」

 

 

 再びキャベツに向かって第二撃を行おうとしたアルティナを既の所で止めるのに成功する。振り返った彼女は、何がいけなかったのか分かっていないようで、どうして止めるのかと不思議そうな顔をしている。

 

 

「そんな力を入れてやるもんじゃねぇんだよ。ほれ、貸してみろ」

 

 

 アルティナから包丁を受け取ると、クロウは慣れた手つきでキャベツを千切りにしていく。役目を奪われたアルティナは不満そうにそれを見届ける。

 

 

「そんじゃあ……魚を切ってくれ。ただ縦にスライスするだけだから楽だし。

 あー、頼むから指を切るなよ」

 

「了解しました。今度こそ任務を遂行します」

 

「いや、そんな意気込まなくていいから。つーか、袖をまくらないと危ないぞ」

 

 

 はっきり言って危なっかしくって目を離すのが怖かった。しかしずっと見ていてはこちらの作業が進まないし、なによりアルティナが不服になるのが目に見えているので結局は自分の作業に集中するしかなかった。

 

 それからしばらくはアルティナも素直に質問をしてきたのでキャベツを切断した時のような問題は起こらずに済んだ。クロウも彼女も、そこで安心してきたのがいけなかったのだろう。

 

 

「あっ……!」

 

 

 アルティナは包丁で指を切ってしまった。彼女の悲鳴を聞いて、すぐにクロウが手を取って傷を確認する。血がうっすらと出ているが、傷はかなり浅いようだ。

 

 

「絆創膏を持っているから、指をちゃんと洗えよ」

 

「…はい」

 

 

 面倒をかけてしまったと思っているのか、いつもより静かな声だった。アルティナが言われた通り傷を洗うと、自ら絆創膏を施してやる。

 

 

「どうした?」

 

「…いえ」

 

 

 その時驚いた表情を見せたアルティナに気付き、首を傾げる。しばらく黙っていたが、やがて口を開いてくれた。

 

 

「このように、絆創膏を貼ってもらったのは、これが初めてだったので」

 

「それはまた……なんと言えばいいのやら」

 

「先程も言いましたが、私に気遣いは無用です。寧ろ……困ります」

 

「何でだ?」

 

「その……どう反応していいのか、分からないので」

 

「へ~」

 

 

 それを聞いたクロウは、意地の悪い笑みを浮かべた。それにアルティナも気付き、むっとした表情となって警戒する。

 

 

「そりゃあ、さぞからかい甲斐があるな~」

 

「…やはり貴方は、相当なロリコンのようですね。クロチルダ様に報告します」

 

「うっ……それは止めてくれ」

 

 

 ヴィータの名前を出され、クロウはすぐさま大人しくなる。どうやら頭が上がらないようだ。これは良い収穫になったと、アルティナは心の中で微笑むのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

「おっし、できあがりだな」

 

「…ほとんどやらせてしまいました」

 

「まぁ初めてなんだから仕方ねぇだろ」

 

「ですが……」

 

 

 なんとかフィッシュバーガーを完成させた2人だったが、アルティナは満足できていないようだ。

 

 

「しょうがねぇな……ほれ」

 

「…これ、は?」

 

 

 そんな彼女に、デザート用に作ったプリンを差し出す。しかしアルティナは戸惑ってばかりで素直にそれを受け取ろうとしない。

 

 

「なにに対する報奨なのですか?」

 

「頑張ってくれたお礼と、しょげているお前への励ましだよ」

 

「そのような施しは無用です。気遣われるような結果は残せていません」

 

 

 どうやら何を言っても無駄のようだ。クロウは大仰に溜め息を零し、スプーンで一口分だけすくってから向き直る。

 

 

「アルティナ、命令だ。口を開け」

 

「何故そのような命令をされるのか分かりませんが……了解しました」

 

 

 そしてアルティナが言う通りにしてくれたと見るや、その小さな口へと強引にプリンを食べさせた。

 

 

「あっ、む……ぅん」

 

「美味いか?」

 

「…はい」

 

「なら、それでいいだろ。一々全部を気にしていたら、疲れちまうぞ」

 

「……では、お言葉に甘えていただきます」

 

「おう」

 

「しかし……無理矢理食べさせるのは頂けませんね」

 

 

 素直にクロウの言葉を呑み込んだアルティナだったが、その表情はすぐさま不満なものへと変わっていく。そして片手を挙げると、それに応じるべくすぐさまクラウ=ソラスが姿を現した。

 

 

「やっぱり?」

 

「えぇ。どう考えても、よくない行動だったと」

 

「だ、だよな」

 

「…まぁ、自覚があるのなら構いませんが」

 

 

 そう言って、アルティナはクラウ=ソラスを下がらせる。それに安堵し、クロウは感謝の意を籠めて彼女の頭を優しく撫でた。

 

 

「ありがとな、アルティナ」

 

「……やはりロリコンなのですね」

 

「だから違うっての……」

 

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