シビュラシステム召喚 作:公安のわんわんお
作者はアニメ全編と劇場版二作を履修していますが、時系列の不備などがありましたらすみません。また、世界観の解釈には一部妄想が含まれます。ご注意ください。
西暦2118年1月15日
日本国首都東京 厚生省公安局
天も貫かんとする摩天楼。
夜闇の空を照らすサーチライトが、幾つも聳り立つビルとビルの間をすり抜け、光っている。
ホログラムの広告看板は、絶えず押し付けるかのようにして、抗精神療法の薬剤サプリを人々に勧めている。
深夜ということもあり、地上を歩く人々は疎になり始めていた。街がそろそろ寝静まる頃、それは起きた。
「……君たちも違和感を感じたか?私もだよ」
立ち並ぶビルの中に、一際尖った黒い円錐の形を組み合わせたようなビルが存在した。
厚生労働省公安局の本部ビル。この国を守り、支配するシビュラシステムの尖兵たちが働く、治安の象徴。
「ああ、そうだ、突然国外のサイコパスが見えなくなった。明らかに異常だ」
そのビルの最上階付近。
局長の席に座る中高年の女性──禾生壌宗は、こめかみを押さえつけながら、誰かと会話していた。
彼女の他には誰もいない。また、彼女は携帯端末やパソコン、タブレットなどで他人と会話しているわけではなかった。
「地球規模のネットワーク遮断……いや、その兆候は見られなかった。太陽フレアでもこうはなるまい」
彼女は彼であり、また複数の人格であり、一つのシステムであった。
「ならば誰の意思だ……まさか、"神"だとでも言うのか?」
禾生は徐に立ち上がり、不敵な笑みを浮かべる。
「面白い……もしこの世界に
彼女は内心、これから起こるであろう様々な出来事に対し、その年齢に似つかわしくないくらいワクワクしていた。
自分たちを超える完璧な存在が、彼女たちの理想の世界を歪めようとしている。あらゆる全能感を堪能し尽くしていた彼女達にとって、それは束の間の楽しさが混じったゲームのようなもの。
禾生は左手に持っていたルービックキューブを机に置いた。その途端、彼女は誰かに電話をかける。
キューブの目は全て揃っていた。
そう遠くない22世紀の近未来。
この世界の日本は、人間の心理状態や精神を科学的に分析し、数値化する技術を編み出した。
『おはようございます。1月15日、本日の天気は快晴。降水確率は午後3時より20%。新宿区で予測される集団ストレスはレベル3。心理汚染予防サプリの摂取をお勧めします』
それにより社会は劇的な進化を遂げ、職業や将来設計は"シビュラ"というシステムによって判断され、犯罪者は犯罪を犯す前に始末されるようになった。
これにより、この国は内戦が絶えない海外の国々とは違い、世界で唯一の法治国家として生き残り続けていたのだ。
『今朝のニュースです。昨夜未明、東京全域で夜間に空が明るくなる光害現象が発生しました。これにより目撃者数名のサイコパス値がわずかに上昇、原因の究明が行われています』
人の心理や価値観、精神状態は数字や色で表される。人々はその数値や色をこう呼んだ。
『なお、専門家はこの現象を大気圏内を通過した隕石による光球ではないかと分析しており、市民の皆様に影響はないため、落ち着いて過ごすよう呼びかけています』
──サイコパス、と。
日本国首都東京 外務省ビル
最初に異変に気がついたのは、外務省だった。というのも、日本の警戒海域を航行していた外国籍船舶の何隻かと連絡が取れなくなったからである。
鎖国政策の緩和により、日本はシビュラシステムの管理下で相次ぐ外国人難民の一部を受け入れていた。連絡を取っていた船舶も、そのような難民を乗せた移民船であった。
対象が一隻だけなら事故として処理されただろう。しかし、連絡が取れなくなったのは寄港予定だった数十隻以上に上る。付近で台風などの悪天候の要素は確認されておらず、また範囲も東西南北全てにおいて発生していた。
「昨日の今日で一体何が起きてるんだ……」
外務省海外調整局、外交課所属の職員、朝田泰治はそうぼやいた。無機質なオフィスにて、かれこれ10時間もパソコンと睨めっこしている。
深夜の退勤前に船舶の異変に最初で最後に気がついた朝田は、このことを上司に報告した後、上司が出勤してくるまで付きっきりで船舶情報にアクセスし、それを監視していた。
残業ということになるが、朝田は不可解なこの出来事がどうしても気になり、眠気はなかった。
朝田が目をこすりながら画面と睨めっこしている時、外でカードキーが翳され、オフィスに入るための自動ドアが開いた。
「朝田さん、おはようございます」
「篠原か。話は聞いてるな?」
「ええ、もちろん。大分大事のようで、外務省総出で対応するそうですよ」
そう言うのは朝田の部下である篠原。
少しふくよかな体型で、かつおおらかな性格をしており、サイコパス値も安定している優秀な人材だった。
彼の言う通り、外務省は今総出でこの件について対処しようとしている。朝田は事が大きくなるのを感じていた。
「ただの事故であればいいが……」
不安が拭えない。朝田は何故か心の中に抱いている違和感が解決せず、苛立ちを覚えた。
そんな時、朝田の周囲で呼び出しのコール音が聞こえた。手に巻き付けてある端末を見れば、それは外務省内からの内線のようだった。
「はい、もしもし?」
『失礼、外交課二係の朝田君で合ってる?私は行動課長の花城フレデリカ。今起こってる事態について、少し話を聞かせてくれないかしら?』
朝田は電話の向こう側でこちらを呼び出した若い女性の言葉に首を傾げた。
外務省行動課、彼らは主に国外での犯罪や不穏分子を取り締まる諜報機関的な側面がある。ただ今回の件は段々話が大きくなっているとはいえ、行動課が出てくるような事態とは思えなかった。
「行動課?なんでまた……」
『……詳しいことは言えないけど、外国船舶の音信不通に、一部海外インフラの遮断と相次いで事件が起こってる。この件、上は海外勢力の工作の可能性を考えてるわ』
「だとしたら一大事ですね』
花城からの説明を受けた朝田は、彼女が状況説明を求めた理由を悟った。
確かに、このような連続した音信不通は人為的なものである可能性も高い。行動課が話を聞きたいと情報共有を求めるのも納得だ。
『そう。だからこっちも当時の状況を詳しく知りたいんだけど、いいかしら?』
「わかりました。そういうことでしたらすぐ行きます」
朝田はそう言うと、篠原には待機を命じ、自分は椅子から立ち上がった。
オフィスを出てエレベーターで階層を移動。行動課のオフィスに到着すると、カードキーを翳した。
「来ましたよ」
「来たわね。それじゃあ、早速聞かせてもらうわ」
そこで待っていたのは、金髪の女性とその他数人の捜査官達。女性は電話をかけてきた花城フレデリカだとして、他の男性捜査官達と朝田は初対面だった。
「(彼らが行動課か……課長以外は潜在犯だと聞いたが……)」
彼らは外務省特権で潜在犯でありながら犯罪係数を免除されている。
朝田は潜在犯がそんな危険な特権を有していることに多少の不信感を覚えていたが、こうして会ってみると、彼らは落ち着いた健常者に見えた。
朝田はそんな彼らをまとめ上げる課長の花城の前に行き、手頃なパソコンにデータを転送する。
「……行方不明になった船舶の最終位置をマッピングしてあります」
「ありがとう。確認してくわね」
パソコンに入力されたデータを見て、花城はそれを他のメンバーにも見えるよう、オフィスの大画面にそれ映した。
「なるほど……位置は結構遠いわね」
「はい。ですが他の船舶、国防省の哨戒ドローンなど、連絡が取れているものも多いです」
朝田は手頃なレーザーポインターを片手に、ロストした船舶の位置を一つづつ指差していく。
そんな時、背後に立っていた捜査官の一人が徐に話しかけてきた。
「日本の領海を監視するには、艦艇ドローンだけじゃ足りないだろ。上空から監視するドローンについては?」
朝田はその声に後ろを振り向く。
疑問を呈したのは、背が高くツンツンした髪型をした男性捜査官。首から下げた職員証には"狡噛慎也"と書かれていた。
突然彼が予想外の方向から疑問を呈するので、朝田は資料を確認しながらそれに答える。
「えっと……国防省によると、名護基地から飛行していた洋上監視ドローンが3機、行方不明だそうです」
「場所は?」
「詳しいデータは非公開だそうで……」
朝田の回答を受け、狡噛は顎に手を当てながら前に出た。そして朝田からレーザーポインターを取ると、画面上の地図に印を示していく。
「名護基地ってなると南方だろう。ってなれば沖縄より南は全て監視対象のはず……」
「何か、疑問でも?」
朝田は狡噛の考えが読めず、そう問いかける。しばらく考えたのち、狡噛は花城に問いかけた。
「……国防省のドローンの哨戒圏って予想できるか?」
「大体の範囲なら可能よ」
「船舶のロスト位置と照らし合わせてくれ」
その言葉を受けた花城は軽く頷き、画面上の地図に二つの情報が照らし合わせる。
船舶のロスト位置を表示し、その上にドローンの予想監視範囲を表す円をコンパスで描く。
「これは……」
「見事にEEZの外だな」
狡噛は即座にそれに気がついた。
朝田は若いのでEEZという単語に聞き慣れておらず、思わず聞き返した。
「EEZって、昔の国際規定ですよね?」
「今じゃ誰も守ってないがな。だがこの範囲より外と連絡が取れないのは事実だ。なにか妙な胸騒ぎがする」
「何故です?根拠は?」
「……勘だよ。昔からの勘」
狡噛は自信を持ってそう言った。彼の目に曇りはない。
朝田はこんな科学が発達した時代に、わざわざ勘を用いる彼の気が知れなかったが、何故だか彼の予想が間違いだとは思えなかった。
「国防省に要請して、東西南北各方面に長距離ドローンを飛ばしてくれ」
「偵察飛行ですか?」
「ああ。こういう状況把握で一番大切なのは、目だからな」
彼は顎に手を当てながら、そう言った。
次回から用語解説などを挟みます。