シビュラシステム召喚 作:公安のわんわんお
いつのまにか7000文字まで膨らみましたわ。
転移から十日後
日本国 匿名ネット回線の掲示板
【悲報】北陸のハイパーオーツ、全滅してる
001:ネットニュースの名無しさん
北陸までバイクで見に行ったけど本当だった
ハイパーオーツが全部枯れてる
(画像添付ファイル)
002:ネットニュースの名無しさん
日本オワタ\(^o^)/
003:ネットニュースの名無しさん
どうしてこうなった
004:ネットニュースの名無しさん
流石にデマ
ハイパーオーツには防御ウィルスがあるでしょ?
005:ネットニュースの名無しさん
>>004
嘘だと思うならお前も北陸に確かめに行ってくれ
006:ネットニュースの名無しさん
ここまで壊滅的だと供給に空白ができるのでは?
(中略)
117:ネットニュースの名無しさん
【速報】ハイパーオーツ全滅の原因判明
北陸の海岸線にツノの生えた鯨らしき謎の生物の死体が多数漂着しているのを農林省が確認
しかも死体の体内からハイパーオーツに蔓延している新型ウィルスが検知された模様
118:ネットニュースの名無しさん
つまり今後数ヶ月分の小麦は全滅?????
119:ネットニュースの名無しさん
買い占め部隊を編成しろ
110:ネットニュースの名無しさん
ヤバいヤバいヤバいヤバい
111:ネットニュースの名無しさん
流石に鎖国体制も終わりか?
112:ネットニュースの名無しさん
日本オワタ\(^o^)/
日本国首都東京 厚生省公安局刑事課
東京の一等地にある公安局の巨大ビル。
地上88階にもなる巨大な建造物には、公安局の各課のオフィスやラボなどが設置されている。
その中に、"シビュラの犬"と呼ばれることもある公安局刑事課の階層も存在した。
「案の定、スーパーの品物は買い占められてるみたいね」
公安局の総合分析室総合分析官の唐之杜志恩は、タイツに身を包んだ長い脚を組み、口紅の付いたタバコを吹かしながらそう言った。
彼女が見ているパソコンの画面には、ハイパーオーツが未知の病気により壊滅的打撃を受け、それにより東京の市民がパニックになっている様子がニュースとして映し出されていた。
彼女のいる統合分析室には、公安局刑事課所属の監視官と執行官たちも集まり、頭を抱えていた。
「あのハイパーオーツが全滅だなんて……」
「これで日本は一気に食料危機だ。報道規制は間に合わなかった。もう市民にまで話が広がってる」
最初に口を開いたのは、公安局刑事課所属の若き女性監視官の霜月美佳。次に口を開いたのは、執行官の宜野座伸元だ。
「原因は……富山湾の海岸線に漂着した新種の鯨です……この死体が、未知の病気の媒介元になっていて……」
ネットで見つけて来た記事を見ながら、少し遠慮しがちな小さい声で語る青年は、執行官の雛河翔。
ホロデザイナーとリサイクル・ドラッガーの経歴を持っており、知識も多いため、それが捜索の助けになったことも多い。
「──で、よりにもよってそこが北陸の穀倉地帯とも近いわけだから、風に乗った疫病で小麦が全滅……しかも厄介なことに、この疫病の原因が菌なのかすらも詳しくわかってないの。だから善玉防御ウィルスの免疫すら役に立たないみたい」
おどおどした口調で少し気弱な彼が言葉に詰まるのを見て、唐之杜志恩は見かけて補足する。
二人の言う通り、ハイパーオーツ全滅の原因はこの鯨が蔓延させている謎の病気によるものだった。
本来、ハイパーオーツにはあらゆる疫病に対応するため、"ウカノミタマ"と呼ばれる人工の善玉防御ウィルスを用いて免疫を強化しているはずだ。
しかし、今回蔓延しているのは菌ではないらしいので、それが厄介な問題になっている。
「……偶然だが、あの槙島がやろうとしていたことの再現か」
「そうよ。だからヤバいことになってる」
宜野座は6年ほど前に起こったあの苦い事件を思い出し、暗い顔をした。
かつて東京全土に大規模な暴動を誘導し、そして離反した執行官により射殺された男──槙島聖護。
犯罪を犯しても何故か犯罪係数が上昇しないという、特殊な体質の持ち主であった彼は、公安局刑事課一係を引っ掻き回して大きな犠牲を出した。
そんな彼が最後の最後にやろうとしたのが、ウカノミタマの免疫構造を逆利用し、麦自体を攻撃させて全滅させようというバイオテロだった。
今回はそのような人為的な事件ではないが、今こうしてハイパーオーツが全滅している様は、槙島がやろうとして阻止された事そのものだった。
「もう日本は国内で穀物を賄いきれないでしょうね。となると海外から輸入しなくちゃだけど、転移現象のせいで右も左もわからぬまま……混乱はしばらく続くわ」
「パニックから暴動が起きる可能性もあるな」
「ええ。今局長が刑事課の非常招集を準備してるみたい。場合によっては出動するかも」
唐之杜がそう言ってタバコを噴かし、一息ついたところ、彼女のパソコンに通知音が鳴った。唐之杜は速報をまとめてある画面の方を見る。
「あ、待って、今速報が出てきた」
「どうだ?」
「……朗報よ。政府のお偉いさんが、この世界の国とコンタクトが取れたみたい」
唐之杜はそう言って、刑事課の面々にその画面を見せた。
そこにはライブ中継で、日本の外務省の職員と、異世界のファンタジックな衣装に身を包んだ人々が、固い握手を結んだ写真だった。
数時間前
クワ・トイネ公国 マイハーク
クワ・トイネ公国の首相カナタは、かつてないほど緊張していた。
外交の場で、かつてこれほど体が強張る事があっただろうか?そもそも本来なら首相のカナタが直接外交を担当する事自体が異例だが、これはカナタが望んだ事だった。
マイハークに侵入した謎の飛行物体の事件から数日後。クワ・トイネの領海付近に謎の巨大船が現れた。巨大船には"日本"という国の外交官が乗っており、接触した海軍によると、クワ・トイネ公国との国交樹立を求めているらしい。
しかも、話によると謎の飛行物体を飛ばして来たのはこの日本なのだという。それを聞いて政治部会の面々は警戒心を露わにしたが、カナタは一途の望みを賭け、彼らとの交渉を受け入れることにした。
「カナタ首相、向かいましょう」
「ええ」
日本の外交官の準備が整ったと聞き、カナタは外務卿のリンスイと共に、彼らの待つ部屋へと向かった。
扉を開けると、日本の外交官が立ち上がって挨拶してくれた。
「お初にお目にかかります。私は日本国外務省より派遣されました、外交特使の田中です。そしてこちらは──」
田中と名乗った外交官が、彼から見て右側の何もない空間を指す。するとその空間に、いきなり背広の男性の姿が現れた。
「なっ!?」
「急に人間が……!」
クワ・トイネ公国の面々は、いきなり人が現れた事実に驚愕する。中には腰を抜かす者もいた。
『初めまして、クワ・トイネ公国の皆様。私は、日本国の首相を務めさせていただいております、武田と申します。以後、お見知り置きを』
「これはホログラムという技術です。この場にいる武田首相閣下は映像で、本人は本国から遠隔であなた方に挨拶をしております」
「映像魔法通信のようなものか……?」
「な、なんという技術だ……」
彼らが日本の技術を前にざわめくのも無理もない。この世界は魔法が発達しているとはいえ、人の姿をここまで鮮明に映し出す魔法は、彼らの知らない魔法だった。
カナタ首相も表情には出さなかったが少し度肝を抜かれた。日本の持つ高い技術力を前にさらに体が強張るが、覚悟を決め、一歩前に出る。
「改めまして武田首相、私は首相のカナタです。よろしくお願い致します」
「わ、私は、外務卿のリンスイです!この度は我が国にご挨拶していただき、誠にありがとうございます!」
『こちらこそ。さぁ、お互い積もる話があります。ゆっくりとお話ししていきましょう』
「もちろんです。さあ、おかけください」
カナタ首相のハキハキとした挨拶を受け、外務卿のリンスイもそれに呼応し、武田首相も挨拶を返した。
そうしてお互い席に座ると、まず武田首相が話を切り出した。
『まず、我が国の国防省が貴国の領空を侵犯してしまった件について申し上げたい」
「(いきなりか……)」
カナタ首相は武田首相が切り出したその言葉を聞き、どんな言い訳が来るのかと覚悟した。
『我が国は当時混乱状態にあり、ドローン……すなわち偵察機による周辺地域への哨戒活動が急務でした。その過程で貴国の領空を侵犯してしまった件について、この場で謝罪します』
だが意外にも、彼らは偵察であったとしながらもきちんと謝罪した。日本の首相がこの場で頭を下げるのは、公式の場で正式に謝罪するということ。カナタはそれを受け入れる。
「公にその謝罪を受け入れます。その上で、我々は貴国の事が知りたい」
『ありがとうございます。我々も納得の行く話し合いを努力しましょう』
武田首相に代わり、今度は田中が立ち上がった。彼は腕に巻きつけた腕輪のようなものから光の文字?のようなものを映し出し、説明を始める。
「そちらの艦船の船員から、我が国の言葉は伝わっても、文字までは読めない事が判明しているため、こちらの資料は口頭で読み上げます」
田中はそう言って、カナタ達の前に小さな宝石のようなものを差し出すと、そこから光の文字を展開した。
紙もない空間に文字が映し出されるのを見て、またもクワ・トイネ側の面々が驚くが、これもホログラムという技術だと説明を受けた。
「──以下が、我が国の概要です」
ホログラムを使った日本国の概要に関しての説明が終わった。だがカナタ首相は彼らの説明に大きな違和感を覚えている。カナタはそれを武田に聞き出す。
「……武田首相、いくつかお聞きしたい事がある」
『なんでしょう?』
「我々の知る限り、貴方が語るその場所に人口1000万人超が入る島など存在しないはずです。私の記憶違いでしょうか?」
武田首相はそこで一回頷くと、説明を始める。
『カナタ首相の疑問はごもっともです。しかし、我が国も混乱の中で掴めた情報は少なく、信じられないかと思いますが……』
「?」
『我が国は、突然この場所に現れました。誠に信じられない話ですが、我々は国土がこの惑星に転移して来たと解釈しています』
武田首相は曇りなく、大真面目な口調でそう言った。
彼の説明に、クワ・トイネ側はさらにざわめいた。無理もない。国土が突然この世界に転移してくるなどあり得る話ではない。神話の世界ならいざ知らず、現実にはあり得ないのだ。
「……武田首相、あなたはご冗談が上手い」
『失礼ですが、私はこの様な場で冗談を言う男ではありません』
「では武田首相。この場所に貴国が存在するという確固たる証拠を、我々に見せていただきたい。そう、例えば……使節団を派遣するとか」
武田首相が相変わらず真面目にそう言うので、カナタはこの目で国を見させてほしいと懇願した。
これなら日本という国が本当に存在するかどうかがわかる。日本側も外交の場なら使節団の派遣も受け入れるだろうと思ってた。だが、違った。
『残念ですが、その要望にお答えすることは難しいでしょう』
武田首相は目を瞑り、残念そうにそう言った。受け入れられると思っていた使節団の派遣が断られ、クワ・トイネ側は大きく困惑した。
「……どういう意味ですか?理由をお聞かせいただいても?」
『実は我が国は、長年鎖国政策を続けて来ました。入国審査が通れば首都にもご案内できますが、我が国と貴国には、まだ国交がありません。なので、入国にはシビュラシステムによる検査が必要です』
「なんだそれは……」
「外交の場で入国検査だと?」
「怪しいぞ……何か隠してるのでは?」
『なので、ご案内できるのは我が国の外務省が管轄している閉鎖都市のみになります。そちらなら入国審査前でも街を拝むことができる……それでよろしければ、受け入れ可能です』
武田首相がそう言う。
使節団の派遣はあくまで一部の閉鎖都市の中だけに留まるという。これではクワ・トイネは日本の実態を掴むことはできない。
クワ・トイネ側が小声で話し合う。彼らの中にはだんだんと日本に対する不信感が現れ始めた。
カナタはそんな彼らを右手で制し、武田首相に気になったことを聞き出した。
「失礼ですが、先ほど出てきた言葉に疑問があります」
『なんでしょう?』
「シビュラシステム……とはなんですか?一体何を指すのでしょうか?」
カナタが気になったのは、入国審査の際に出て来たシビュラシステムのこと。
しかも武田は審査ではなく検査と言った。日本が決めた何かの入国審査基準なのだとしたら、それをクリアするためにも内容を聞いておく必要がある。
その言葉に、武田首相は少し首を捻って考え込み、そしてこう説明した。
『そうですね……シビュラとは、人間の心理状態を読み取り、診断し、適切な職業を与え、経済を効率化し、犯罪を未然に防止する社会制度──』
「……?」
『いえ、もっと簡単に言い換えましょう。それはすなわち"審判の神"です』
審判の神。
武田首相の言葉に、カナタはその真意を図りかねていた。
クワ・トイネ公国にも神はいる。この国が年中作物が育つ豊かな土壌を抱えているのは、緑の神という女神の加護によるものだ。彼女の姿は見えなくとも、クワ・トイネはそれを信じている。
「審判の、神……」
『我が国は審判の神に従い、かのシステムが作り出す理想的な社会を維持して来ました。そこに例外を作ることは……我が国の安全保障に関わります』
「…………」
『システムとは……いえ、神とは──人々に信じられてこそ、存在が成り立つものです。特例はその信頼を裏切る行為です。避けなければならない』
対して日本には、社会を管理する"審判の神"なる存在がいるらしい。日本人はその神のことを"シビュラ"と呼んでいるのだと、カナタは理解できた。
だが、いくらなんでも神を理由に使節団の派遣を限定させるのは納得できなかった。ここは外交の場だ。例え神の意思でも政治家が例外を作るべきではないのかと。
「では武田首相。貴国は我が国に何を求めるのでしょうか?誠に残念ですが、今の私は、あなたという人間が実在するのかどうかも疑い始めている」
カナタは揺さぶりをかける意味でそう問いかける。武田首相は即座に切り返した。
『我が国は首都圏において飢饉が目前に迫っており、市民が不安な日々を過ごしています。これを解消する為、貴国から食料を輸入したい』
「食料の輸出は構いません。しかしその際、我が国を対等な立場として貴国の首都を見させていただきたい」
『それは了承しかねます。理由は先に説明した通りです』
「……どうしても譲れないと?」
『ええ』
カナタが食料を盾にディールを掛けるが、日本側は折れなかった。そんな様子を見て、我慢できなくなった外務卿のリンスイが声を上げた。
「ふざけた奴らだ。我が国のことを舐めおって──」
『なお、我が国が提示する条件が全て認められた場合に限り。我が国は貴国に対して軍事援助を行う用意があります』
「!?」
武田がリンスイの言葉を遮るように言った言葉を受け、今度はクワ・トイネ側に衝撃が走った。
『いかがでしょうか?最後の一件については、貴国にとって願ってもない内容かと思いますが』
軍事援助の交換条件。
クワ・トイネは今存続の危機にある。この国には味方が一人でも多く欲しい。そんな中で現れた謎の国が、全ての条件を飲めば軍事援助をしてくれるという。
話が出来すぎている気がしたが、ワイバーンを振り切る飛行物体や巨大船、ホログラムなど、凄まじい技術力を持つこの国が、もしも、もしもクワ・トイネの味方をしてくれたなら──
「カナタ首相……この条件は厳しすぎます。もう少し粘るべきかと……」
「しかし、軍事援助は魅力的です。我が国だけではロウリアには勝てない……!」
「首相、ご決断を……!」
「カナタ首相……!」
カナタ首相は激しい葛藤に襲われたが、決意を決め、立ち上がった。
「武田首相閣下。私は──」
日本国首都東京 厚生省公安局
夜の東京は、美しい夜景に彩られ、摩天楼のようなビル街にはホログラムの明かりが点滅する。
間も無く街が寝静まる時、公安局ビルの最上階付近にて、局長の禾生はこめかみを抑えていた。
「やはり予想通りだ。クワ・トイネは全ての条件を飲んだ」
禾生は満足そうにニヤリと笑った。
「中世ヨーロッパレベルの文明にとって、知らない国からの軍事援助など気安く受け入れるはずはない。だがこの大陸は事情が違う」
禾生は徐に革製の局長席から立ち上がり、指で大陸の形をなぞる様に言葉を続ける。
「クワ・トイネの隣国であるロウリアは、過去の歴史を忘れ、亜人と呼ばれる人種を排除しようとジェノサイドを進めている。国民に亜人が多数流れ込んでいるクワ・トイネが危機感を持つのは当然、しかし一国ではこれを退けるのは困難……なるべく多くの味方が欲しかったのだろうな」
禾生は計画通りに物事が進んでいったことに満足していた。そしてそのための助言をしてくれた存在に対して振り向き、改めて礼を言う。
「ありがとう。君が提供してくれた情報のおかげで外交がスムーズに進んだ。感謝するよ」
禾生が振り向いた先には、巫女服のような赤と白のデザインに彩られた神秘的な少女がいた。
客人向けの椅子に行儀よく座る彼女であったが、彼女からは凄まじいエネルギーが放たれている。おそらく生身の人間がこの部屋が居たら消滅していただろう。
少女は禾生の言葉を無視する。禾生は彼女が不機嫌な理由を察し、「ああ、これは失礼」と訂正を挟んだ。
「それとも……きちんと"太陽神様"と呼んだ方が良かったかな?」
「気安く我の名を呼ぶな──この外道共が」
用語解説
『ハイパーオーツ』
めっちゃ遺伝子改造された小麦のこと。
PSYCHO-PASS世界の日本はこの小麦で食料自給率を改善し、鎖国体制を実現している。ただしハイパーオーツ一種に頼り切りのため、何かあって穀物が全滅したら食糧危機になる模様。