シビュラシステム召喚   作:公安のわんわんお

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そろそろロウリア戦入りまーす。


#5 虐殺衝動

 

ロウリア王国 王都ジン・ハーク ハーク城

 

 ロデニウス大陸の西半分を占め、人口3800万人を抱える文明圏外の大国、ロウリア王国。

 この国は人口の大半が人間種で構成されており、エルフ、獣人、ドワーフなどは排斥され、人間至上主義を掲げている。

 これが掲げられている原因には過去の出来事が大きく関わっているのだが、今回それは割愛する。

 そしてこの日、この国の王が住まう王都のハーク城にて、御前会議が行われていた。亜人殲滅を掲げるロウリアによる、クワ・トイネ侵攻計画の全容を王に伝えるためのものだった。

 

「──以上が、クワ・トイネ侵攻計画の全容になります」

 

 ロウリア王国第34代目大王、ハーク・ロウリア34世は、三大将軍らから伝えられた作戦内容を聞いて満足していた。

 ロウリアは、大国だった。クワ・トイネよりもはるかに多い人口を抱え、それゆえ軍事力も高い。クワ・トイネ側が小細工を仕掛けようとも勝てるだけの戦力を抱えていた。

 クワ・トイネにさえ勝てば、隣国のクイラは連鎖的に餓死する。軍事侵攻の必要性すらない。なのでロウリアはクワ・トイネに住まう亜人達を完全に殲滅することだけを考えていた。

 

「ふっふっふっ……」

 

 大王は思わず笑みが溢れる。

 

「今宵は我が人生最良の日だ!亜人共を殲滅するべく、クワ・トイネとクイラに対する戦争を許可する!」

「ははっ!!」

 

 こうしてこの日行われた御前会議は、大王の号令によって終了した。会議の場にいた面々は、君の悪い笑みを浮かべながら退室していく。

 

 その様子を、一台の虫型ドローンが監視・録音していた。

 

 王城の近くに、竜の酒という大きめの酒場があった。香辛料をふんだんに使った肉料理や氷室で冷えたビールが提供されており、人気は高い。

 そのため、あらゆる職業の人々が集まっており、日夜盛んに情報交換が行われている場でもあった。

 その酒場の裏手にて、この国では珍しい紙巻きタバコをこっそり吹かす男がいた。

 彼は腕に巻きつけたホログラム端末を操作し、ドローンが録音していた音声と映像を確認している。

 

「こりゃまずいな……」

 

 彼──外務省行動課所属の特別捜査官、狡噛慎也は、録音された記録を何度も再生しながらタバコを吹かす。

 この記録によれば、ロウリア王国が戦争を決断したのは間違いないようだ。狡噛は即座にこの街の借り部屋に設置した中継装置と繋ぎ、このデータを本国に送信することにした。

 データが送信されたのを確認すると、狡噛は怪しまれないようにホロ端末を閉じた。

 

「おーいコウガミ!悪いが忙しくなって来たから早めに戻って来てくれ!」

「……分かりました。すぐ行きます」

 

 ちょうどその時、店主が戻って来た。

 狡噛はタバコを携帯灰皿に入れ、酒場の店主が持って来た前掛けを腰の後ろに結ぶと、厨房に戻って行った。

 

「いやー、ウチはコウガミが来てくれてから大助かりだ。いつもありがとうな?」

「いえいえ、仕事として当然ですから」

「そんなことねぇよ。働き者だし物覚えも早いし、ツラも良いから女の客も増えた気がするなぁ……短期とは言わず数年はいて欲しいくらいだぜ」

「すみませんね。俺は旅人なんで長居はしない信条なんです」

「そうか、それも仕方ねぇな」

 


 

日本国首都東京 首相官邸

 

『今宵は我が人生最良の日だ!亜人共を殲滅するべく、クワ・トイネとクイラに対する戦争を許可する!』

『ははっ!!』

 

 首相官邸の会議室にて、ドローンによって録音された音声と映像が再生される。

 再生が終了したのを確認すると、司会を務めていた外務省の職員がホログラムを閉じた。

 

「──以上が、外務省行動課のエージェントが記録した音声データです」

 

 音声データの記録を聞いて、武田首相が真っ先に口を開いた。

 

「つまりロウリアは戦争を決断した、という認識でよろしいかな?」

「はい。その通りです」

 

 外務省職員は、武田首相の言葉を肯定した。彼はそのまま言葉を続ける。

 

「本件を放置すれば、食糧の輸入は滞り、転移当初のような混乱が再び訪れます。そうなれば我が国の体制は完全に崩壊するでしょう」

 

 外務省職員の分析を受け、大臣たちにどよめきが走った。

 転移当初の混乱は、食糧の輸入開始によってようやく収まったのだ。それがまた繰り返されるのは政府としても避けたい。

 彼らの議論が収まるのを見計らい、武田首相は国防省の大臣の方を向いてこう問いかけた。

 

「国防省にお聞きしたい。本件に介入するとして、勝算は?」

 

 国防省の大臣が即座に答える。

 

「国防軍が出動すれば、ロウリアなど陸海空全てにおいて鎧袖一触です。懸念されていた魔法やワイバーンなども、軍用ドローンの前では大した脅威ではない事が分析の結果分かっています。もし問題があるとすれば──」

「現地でのサイコパス測定の手段、か」

 

 武田首相がそう懸念しているように、現在クワ・トイネ公国の国内でシビュラシステムによるサイコパス測定は行うことができない。

 現代の日本が保有している軍用ドローンの大半は、敵味方の識別装置のほか、目標のサイコパス値を測定する事でセーフティを解除する仕組みである。

 サイコパス値が規定値を下回っていた場合、兵器には安全装置が掛かる仕組みだ。

 これはシビュラシステムが潜在犯をドミネーターで排除するのと同じ仕組みであり、日本国内の法令に則ったやり方である。

 そのためクワ・トイネでドローンを自律行動させるとなれば、シビュラシステムとのリンクを確立させなければならなかった。

 

「例え現地でのサイコパス測定が困難でも、遠隔操作やスタンドアローン状態で各種ドローンの稼働は可能です。その場合人員を少し多めに派遣する必要性が出て来ますが、国防省としては全く問題ありません」

 

 国防省の軍人が彼らの懸念に対して細く説明を行った。

 彼の言うとおり、各種ドローンにはこのような状況のための遠隔操作モードや、スタンドアローン状態で稼働させるモードも存在している。

 この場合、戦場を常時監視するための追加の人員を派遣する必要があるが、国防省から見てもそれは誤差の範囲であり、何も問題はなかった。

 

「これを機にシビュラを無理やり導入してしまうのはどうかね?」

「その場合、クワ・トイネからの反発は免れないでしょう。今のように格安で食料を輸入できなくなる可能性もあります」

 

 一部の大臣がシビュラシステムの導入を急かそうとしたが、外務大臣が止めた。

 クワ・トイネは「国内の治安は自分たちで守る」と言う観点から、シビュラシステムの導入を断っているのだ。強引に導入を進めてしまっては関係悪化を招きかねなかった。

 だが──

 

「いや、新世界における治安維持に、シビュラシステムの管理は不可欠だ。"絶対的"であると言っていい。何がなんでも導入させるんだ」

 

 彼らの懸念を、武田首相が無視して吹き飛ばした。彼の言葉に、国防省と外務省の大臣たちがギョッとした表情で彼を見る。

 悪い流れになろうとしているのを察し、国防省の軍人が即座に反論をしようとする。

 

「しかし……我々国防省としましては──」

「聞けば、この世界には国際秩序という概念がなく、それぞれの国が閉鎖的な環境で弱肉強食に興じているそうじゃないか?」

「…………」

「これは前世界よりもさらに劣悪で、未成熟、下劣であると言わざる得ない。ならばこの世界、秩序を与え得るのは誰か?それは前世界において唯一の法治国家として生き残り続けて来た、我が国に他ならないだろう」

 

 武田首相は続ける。

 

「この戦争は、新世界にシビュラシステムによる()()()()()()()()()()()を広める絶好の機会だ。諸君……我々の力を見せてやろうではないか」

 

 総理大臣ともあろう人間が、シビュラシステムを賛美する発言を行うので、国防省と外務省の大臣は困惑した。

 前から武田首相はシビュラ派の人間であることは知られていたが、ここまで露骨なのは初めて見た。

 

「総理の言うとおり、シビュラは完璧で絶対的なシステムです。新世界の各国も、我々の実力を見れば自ずと導入を進めるでしょう」

「そうだ、その通りだ。()()()この世界に平和をもたらす審判の神になる。いや、ならなければならないのだ」

 

 そんな彼を見て、厚生省の大臣がニヤけた顔で武田首相の言葉に乗っかる。これには国防省と外務省はかなり不服だった。

 

「(厚生省はクワ・トイネを手中に収めるつもりなのか……?)」

 

 外務省の大臣は、厚生省が新世界における権力拡大を考えていると考察し、顎に手を当てて厚生大臣を睨みつけた。

 


 

クワ・トイネ公国 国境の街ギム

 

 この日、この街に悲劇が訪れた。

 それは奇襲的だった。その日のうちに国境付近に集まったロウリア軍は、クワ・トイネ本国がこれに対応する前に襲撃を仕掛けた。

 ギムに駐留していたクワ・トイネ公国軍西部方面騎士団は果敢に抵抗したが、その日のうちに完全に崩壊。陸でも空でもロウリア軍の圧倒的な戦力に敵わなかった彼らは、納屋を蹴散らすかのように殺されていった。

 戦闘終了後、街には逃げ遅れた数万人の住民とクワ・トイネ軍の捕虜がいた。

 そこには最後の最後まで戦い抜いた西部騎士団騎士団長のモイジの姿もあった。モイジは捕虜となり、ロウリア軍で最も残忍で非道な男──アデムの前に連れて来られた。

 モイジの前には、彼の妻と娘がそれぞれの檻の中で捕えられていた。

 アデムは娘の入っている檻の中に、複数人の欲情した男たちを入れた。

 妻の方には、女の身体を弄ぶ魔獣を入れた。

 そこから、二人は女の身体を貪り侵された。

 二人は最終的に死ぬまで嬲られ続けた。その様子を最後まで見届けてしまったモイジは、アデムに噛み付かんとする勢いで喰いかかったが、最終的に魔獣の餌にされた。

 このような悲劇が、この街の至る所で行われた。

 彼らが去った後、ギムにはあらゆる暴力が行われた痕跡があった。

 


 

翌日

日本国首都東京 厚生労働省公安局ビル

 

 ギムでの悲劇から翌日。

 厚生省公安局のビル最上階付近にて、局長の禾生は国防省から極秘に送られて来た写真や映像を見ていた。

 

「これはこれは……彼らも派手にやるものだ」

 

 禾生はロウリア軍が行った残虐行為の数々を見て、満足そうに笑った。

 

「ギムを放置しておいて正解だったな」

 

 禾生は事前に予想していた通りのことが起きているのを確認すると、思考を巡らせる。

 

「クワ・トイネの主力はエジェイ近郊に集中している。ギムはさながら捨て石だ。そのおかげでロウリア兵のサイコパス値は急上昇している」

 

 禾生は撮影したドローンが計測したロウリア兵たちのサイコパス値を表示した。

 そのどれもが犯罪係数250から300以上。これはドミネーターで言えば潜在犯であり、執行対象だった。

 

「これでロウリア兵を全て執行対象にする口述が出来た。今のところ例外はない。国防省は侵攻してきたロウリア兵を()()()()()執行できる。そうだ、()()()()()だ」

 

 禾生はその結果に満足し、パソコンのホログラムを全て閉じた。そして徐に立ち上がって、局長室に表示していた新世界の地図を見る。

 

「さあ、もうすぐ始まるだろう。我々の秩序を広める戦いがね」

 

 




用語解説
『潜在犯』
シビュラシステムによるサイコパス診断で犯罪係数が100を超えた人間のこと。このような人間はシビュラシステムから「将来犯罪を犯す可能性が高い精神状態である」と判断されたため、実質犯罪者扱いを受ける。
犯罪係数が300以下ならまだ隔離されたりパラライザーで麻痺させられたりする程度だが、300を超えると有無を言わずに殺害対象になる。
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