シビュラシステム召喚 作:公安のわんわんお
数日後
クワ・トイネ公国 経済都市マイハーク
「な、なんだあれは──」
その日、クワ・トイネ公国の経済都市マイハークは、ちょっとした騒ぎになっていた。
海岸線には巨大な灰色の船舶が停泊している。その大きさはクワ・トイネ公国の軍船を遥かに凌ぐ大きさをしており、しかも太陽光を反射してきらりと輝いている。
信じられないが鉄出てきているようであり、それなのに海に浮かんでいることも驚きだが、時折青い線が光っているのにも驚いた。どうやら魔導船でもあるらしい。
「(信じられないほど大きい船だ……しかも艦首に魔導砲のような物が付いている。12隻しか来ないと聞いていたが、やはり自信があったのか……!)」
観戦武官として招待されていたクワ・トイネ海軍の参謀ブルーアイは、当初日本が12隻の援軍しか出してこなかったことに落胆した。
しかし、実際に彼らの姿を見るとその自信の大きさを垣間見れた気がした。あれほど大きな船なら、武装も豊富でロウリア軍の軍船が相手でも戦えるのではと期待できた。
その間、日本の艦隊の中で一際平べったい形を持った巨大船が、港湾設備に張り付いて内部から何かを降ろしているのをブルーアイは見つけた。
「(あの船は……陸戦隊を降ろしているのか?パーパルディアのリントヴルムのような地竜も見えるぞ……しかし、海戦前に戦力を陸上げして大丈夫なのだろうか──)」
「こんにちは」
ブルーアイが日本艦隊の観察に夢中になっていると、後ろから男性の声がした。ブルーアイは不意を突かれ、慌てて後ろを振り返る。
「私は日本国国防省、第7統合任務部隊所属の塚崎と申します。今回は観戦武官を一名、お迎えに上がりました」
「し、失礼しました!はじめまして。私は第二艦隊作戦参謀のブルーアイです。本日はよろしくお願いします!」
ブルーアイがクワ・トイネ式の敬礼で返すと、日本の担当者はブルーアイを街の広い場所にまで案内した。
そこには白い塗装に彩られ、上に風車のようなものが付いた謎の箱が降りてきていた。
「こちらにどうぞ」
「は、はぁ……」
塚崎はブルーアイにこれに乗るように誘導するので、困惑しながらもそれに従った。
彼の言う通りにシートベルトを閉めたが、見たところこの箱を動かす騎手らしき人が見当たらない。
ブルーアイは恐る恐る聞いてみた。
「し、失礼ですが……この騎は、塚崎殿が手綱を握るので?」
「は?いえ、この機はドローンですので自律飛行しますよ」
「え──?」
ブルーアイが塚崎の言葉が理解できず、聞き返そうとした時、疑問符を浮かべる間も無く機体は動き出した。
巨大な二重反転ローターを有する艦載ドローンヘリ、USH-06は塚崎の合図の下、そのままゆっくりと飛び上がり、ブルーアイを乗せて旗艦へと彼を移送した。
約十分後
DDG護衛艦〈まや〉艦内
ドローンヘリの高い機動性に目が眩みながら、ブルーアイは旗艦にたどり着いた。
この船は日本語で〈まや〉と名付けられているらしい。日本の古い山の名前だそうで、この名前の船は200年以上前から代々受け継がれて来た艦名だそうだ。
艦長室に案内されたブルーアイは、艦長を前にし、今度こそは遅れまいと先に挨拶をする。
「クワ・トイネ公国海軍観戦武官のブルーアイです!この度は日本からの援軍に感謝します!」
「本艦の艦長兼、第2水上艦隊司令官の山本です。ご乗船ありがとうございます」
艦長は気さくな中年男性だった。
身なりもしっかりしていて背筋も整っている。
ブルーアイはそんな彼に、今回の作戦について聞き出した。
「早速ですが、そちらの作戦は……?」
「はい。我々はすでに西側の海岸線付近およそ500kmの地点に、多数の
「どうやって戦うのですか?」
情報によれば、ロウリア海軍の軍船は総数4000隻以上の大艦隊だ。相手はバリスタや移乗歩兵などを満載しており、その数だけでも脅威となる。
だが、山本と名乗ったこの男は、それに臆することなくこう言った
「今回は航空機による攻撃を行います。ロウリア軍船の乗組員は、全員が犯罪係数100以上を計測しており、
山本の言葉に、ブルーアイは思考が停止した。掠れるような言葉で思わず同じ言葉を聞き返す。
「い、一隻残らず……ですか?」
「はい、そうです。例外はありません」
そんな馬鹿な。
いくらこの船が巨大で魔導砲や無人の箱などを搭載しているとはいえ、相手は4000隻以上の大艦隊。たった12隻でどうにかなる相手ではない。この男は何を根拠に言っているのだろうか。
「我が水上戦隊は航空攻撃の後、海岸線を遡上しながら目標の戦果確認を行います。もし海上に生存者がいた場合、対象の犯罪係数に応じて対応を決めます」
「…………」
後半の話はあまり頭に入ってこなかった。
だが一つ分かったことは、彼らはこの戦いに絶対的な自信があると言うことだけだった。
数分後
第7統合任務部隊 旗艦〈まや〉 CIC内部
「彼、随分と不安そうでしたね」
「無理もない。銃や大砲すら知らない文明からしたら、我々のやろうとしていることは自殺行為だからな」
ブルーアイが去った後、山本と副長らは〈まや〉のCICに来ていた。
360°すべてをホログラムスクリーンに囲まれた薄暗い部屋には、様々な情報が表示されている。
そこには第7統合任務部隊に組み込まれた国防海軍第2水上艦隊隷下の護衛艦9隻と、水陸両用戦艦隊の輸送艦3隻のアイコンがレーダー上に表示されている。
輸送艦は陸戦を担当する国防陸軍の第7旅団の装備と人員を満載し、先ほど荷下ろしを終えたところだった。
港湾設備はほとんどが無人ドローンで埋め尽くされており、人は殆どいない。
西暦2100年代の護衛艦ともなると、戦闘艦は極度に少人数化されるか無人化されており、派遣された護衛艦もその例にもれなかった。
この護衛艦〈まや〉も、旗艦でありながら乗組員は22名しかいない。艦長を含めた交代制でも、船を動かしているのは常時僅か3〜4名程だった。
そのためこのCICにも、殆ど人はいない。
ふと、副長が徐に画面の一つを指差す。
「これが目標です。相手の集団サイコパスは依然として上がったままです。やはり例外は無いかと」
「どうやら大戦果を前に興奮しているんだろうな」
「彼らは夜も眠れないほど、人を殺したくてたまらないのかもしれませんね」
「だとしたら、そのような下劣な人間は一人たりとも生かしてはおけないな」
「その通りです」
山本と副長は上空からエリアストレスを監視しているドローンの映像を見つつ、ロウリア海軍の軍船達を睨みつけるようにしてそう言った。
翌日
ロデニウス大陸沿岸 ロウリア王国東方征伐軍
「いい光景だ、美しい」
海将シャークンは、周りの光景を自慢げに眺めてそう言った。
彼の視界には、4000隻を超える軍船達が所狭しとひしめいていた。彼らは全員、戦意が高揚し、酒を飲んだり、歌って騒いだりしている。
シャークンはそれをあえて許していた。これからクワ・トイネが一生懸命に抽出したゴミみたいな海軍を蹴散らし、マイハークで殺戮の限りを尽くすのは決まっているのだから、兵達には士気を保ってもらう必要があった。
「おっと、いかんいかん……私は油断してはならないな」
シャークンは自分まで油断し始めている気がして、身を引き締める。彼は一瞬顔を出した野心の炎を、理性で打ち消した。
そうして彼は兜の緒を締めるように頬を叩くと、これから征服すべき、東の海を見据えた。
「──ん?」
するとその向こうの空に、何かが飛んでいるような気がした。
点のようなものは、だんだんと近づいて来ている。
それは巨大な翼を広げた巨鳥のようであった。膨らんだ胴体を浮かす翼は何故か羽ばたいておらず、機体は甲高い音を立てながら高速で飛んでいる。
その両サイドにも、見たことのない渡鳥のような飛行物体がいた。まるでその飛行物体を守っているかのようだった。
「(まさか飛竜──いや、違う、何だあれは!?)」
見たことのない物体、異様な飛行形態に、シャークンの心にわずかな恐怖が芽生えた。
そして──その姿がはっきりと見えた辺りで、白い機体に赤い丸の描かれた面妖な物体は、こちらの弓矢の届かぬ上空をまっすぐ飛び去っていった。
「なんだあれは!?」
「おい、何か落としたぞ!!」
その面妖な物体は、いつのまにか先の尖った長い円柱の物を落としていた。それは傘のようなものを展開し、ゆっくりと落ちていく。
「(あれはなんだ?金属か?丸太か?何故あんなにゆっくり落ちてくるんだ──)」
シャークンが思考を巡らせていた時だった。
その物体がオレンジ色に光り輝いたと思ったら、それがなんなのかを確認する前に……彼の存在は、膨張した超高熱のナパームに包まれ、骨も残らず炭となって消えていった。
同時刻
DDG護衛艦〈まや〉 航海艦橋
「流石は旧米国製だ。半世紀経っても起爆するとはな」
護衛艦の艦橋内からも、その大爆発は見ることができた。
激しい黒煙と炎を撒き散らしながら、キノコ雲が立ち登っていく。薄汚いロウリア水兵たちを巻き込み、灰にしていく死の炎。
それは山本達にとって、清々しい光景であった。
「MOAB……でしたっけ?21世紀最大の燃料気化爆弾と聞きましたが、一体何処にあったんですか?」
ふと疑問に思ったのか、副長が山本に問いかける。
本国から飛んできたUC-02輸送ドローンから投下された燃料気化爆弾だったが、今の国防空軍はあのような高威力の爆弾を持っていなかったはずだった。
山本は裏事情を含めて話し出す。
「50年以上前に破棄された沖縄の米軍基地の地下にあったそうだ。起爆するかどうかは半信半疑だったが、武器庫のモスボール体制は無人でも盤石だったようだな」
山本の言う通り、あの爆弾は今では破棄されている米軍基地から接収したものだった。
前世界において、日本は鎖国直前まで米国との同盟関係を続けていたが、その際に持ち込まれた物なのだろうと推測できる。
あれはMOABといい、21世紀に開発された爆弾としては最大級の代物。当時の日本は米軍に核兵器を持ち込ませないようにしていたため、核兵器の代わりだったのかもしれない。
そんな風に考察していると、ふと隣にいるブルーアイが気になった。彼は陸に上がった魚のように、口をパクパクさせながら硬直していた。
「…………」
「いかがでしたかな、ブルーアイ殿?」
山本がブルーアイに声をかけるが、彼は震えた声でこちらを振り向いた。
「あ、あの……」
「?」
「あれは……ま、まさか……コア魔法、なの、ですか……?」
彼は山本を恐怖の対象を見つめるような怯えた顔で、そう問いかけた。
山本は彼の口から聞いたことのない単語が出て来たのを聞いて、MOABの事を指しているのだと察したが、何のことだか分からないので首を傾げる。
「はて……コア魔法とは何のことでしょう?私は存じ上げませんが……」
「そ、そうですか……では、あなた方は魔帝ではないのですね……」
「その"魔帝"とやらも存じ上げませんが……まあ、その通りです」
ブルーアイが勝手に納得したのか、ほっと一息ついた。
山本は彼の色相が段々と曇り始めているのを、艦内スキャナーで確認していた。魔帝とやらではないと否定してからは、数値が下がり始めていたが。
そしてしばらく経った後、落ち着いたブルーアイがまた口を開いた。
「……なぜ、ロウリア水兵を皆殺しに?」
彼の疑問に、山本はこう答えた。
「集団色相判定では、4400隻全てが執行対象でした」
「し、色相判定……?」
「集団の精神状態を表す単語です。我が国はシビュラシステムの下、人の精神状態を読み取り数値化する技術があります。それによれば、ロウリア水兵は全員極度の精神汚染が広がっており……まあ言うなれば、殺人衝動があったと分析されたわけですね」
ブルーアイが困惑する中、山本は構わず続ける。
「そしてそれは、我々軍隊が攻撃を決断する基準にもなっています」
「で、では……彼らは皆、殺人衝動があるからと皆殺したのですか……?」
「そうです」
「そのようなことがあり得るのですか……?彼らはまだ戦闘体制に入っていたわけではなかったですし、その──」
「ブルーアイ殿」
ブルーアイが捲し立てるように疑問を持つのを見て、見かねた山本が慌ててそれを止めた。
「いいですか?シビュラによる色相判定は絶対です。そこに疑いを持ってはいけません。システムに疑いを持つこと自体が、色相が濁るサインなのですから」
「で、ですが……」
「──それ以上の発言はやめていただきたい」
山本は、まるで叱りつけるかのような厳しい口調でそう言う。
ブルーアイは彼のいきなりの豹変に固まってしまった。
「もし貴方の色相が濁った場合、我々は
「っ…………」
「これからクワ・トイネにもシビュラが広まっていくわけですし、もし自分の自由や命が大事であるならば、疑問は封じ込めることですね」
「…………」
山本はそう言って、ブルーアイに釘を刺した。ブルーアイはもうそれ以上言葉を発する事はなかった。
この出来事はブルーアイにとって深く深く突き刺さる五寸釘となり、部屋に戻ってもなお、日本への疑念は尽きなかった。
──後に、彼はシビュラシステム導入後のクワ・トイネで最初の潜在犯の一人として収監された。
用語解説
『13DDGイージス艦』
国防海軍が保有する戦闘艦。名前は完全に妄想ですが、見た目は劇場版一作目にてチラッと登場していたやつ。作中では不法移民らしき難民船を問答無用で破壊していた。
今作では増加するであろう外国船舶の監視・そして有事の際に用いられる有人艦艇として設定。AIやドローンを駆使した極度な自動化により僅か22名で運用可能という設定。
排水量は1万1000トン以上、武装は127mm速射砲1門、40mm機関砲2門、超音速対艦ミサイル発射器多数、対空ミサイルVLS多数、その他防空火器など。
自衛隊からの伝統があるであろう事を考慮し、一番艦の名前は"まや"としました。
『UC-02輸送ドローン』
国防空軍が有する四発の輸送機。見た目は劇場版一作目に登場した貨物輸送機。劇中では常守朱を劇場版の舞台となるSEAUnまで運んだ。パイロットが「生きた人間のお客さんを乗せるなんて久しぶりだ」と歓喜の声を漏らしていたので、普段は貨物しか輸送してないと思われる。
本作では軍用として開発された大型輸送ドローンで、民間機にも転用されていると言う設定。