シビュラシステム召喚 作:公安のわんわんお
海戦の数日後
クワ・トイネ公国首都 政治部会
海戦から数日経ったあと、日本国がロウリア海軍を撃退した海戦の内容が報告されていた。
「──以上が、ロデニウス沖大海戦の、戦果報告になります」
政治部会の面々の手元には、報告書が配られている。そこにはあまりに荒唐無稽、かつ信じられない内容が書いてあった」
「で、では何かね……?日本はロウリア海軍の4400隻以上の大艦隊を、大型の輸送用飛行機械から落とした一発の爆弾だけで全て消し飛ばしたと言うのかね……?」
「はい、そうなります」
「しかも、このようなキノコ曇が現れながらも、彼らが使ったのはコア魔法ではない、と……?」
「……はい」
重要参考人として招致されたブルーアイは、あくまで冷静になってそう答えた。
それを聞いても、政治部会の者たちの反応は固まったままだった。
無理もない。日本はたった一発の爆弾で海戦を終わらせた。しかもその際、かのコア魔法に準ずるような高威力魔法を使っておきながら、その存在を否定していると言う。
魔法帝国が過去にやっていた所業を鑑みれば、同じような兵器を使った日本に対して懐疑的な印象が生まれてしまうのも無理はない。
「日本側の人的被害はゼロと記載があるが、死者はなしだというのか?」
「はい。我が国の艦隊は出る幕さえありませんでした」
「いや、御伽噺でも出来すぎた話だ。こんな場で君がわざわざ嘘をつくとも思えないが、これはあまりにも現実離れしすぎて誰も信じられないよ」
頭を抱える外務卿リンスイの言葉は、この場にいる誰もが抱いていた感想を代弁したものだった。
「外務卿……彼らの軍隊はその後、漂流しているロウリア水兵を一人一人射殺していったと聞きます。彼らは平和主義国家ではなかったのですか?何故このようなことを……?」
「それに関しては私から」
政治部会の面々の目線が再びブルーアイに集まる。
「彼らはどうやら、戦場で敵と判断する場合に"犯罪係数"というものを基準にしているようです」
「犯罪係数?」
「確かそれは……」
「彼らは人の精神状態を、シビュラシステムというものを介して数値化したものだと説明していました。それによると、ロウリア海軍の軍船を殲滅したのは"殺人衝動があったから"……その後捕虜のほとんどを殺害したのは"激しい恐怖でまともな精神状態ではなかったから"……だそうです」
その説明を受け、政治部会に激震が走った。
「シビュラシステム……審判の神、か」
「つまり、彼らは敵が降伏しようとも、精神が錯乱状態だったら問答無用で殺すのか……!?」
「彼らは日本の法令に則った規則だと言っていました。そのため精神が錯乱さえしていれば、
「な、なんだそれは!?」
「おおよそまともな軍隊では無かろう!」
「誰がこんな奴らを国に入れたんだ!」
会議室から次々と野次が飛ぶ。
彼らの気持ちに関してはブルーアイも同じ気持ちだった。
「静粛にしろ!今は国家の存続がかかっている時期だぞ!冷静にならんか!」
野次や批判が相次いで飛び交う中、カナタ首相がそれを諭し、政治部会は一気に沈静化する。
「……いずれにせよ、海からの侵攻は防がれた。彼らの軍船はもうほとんど残ってない。まともな海上作戦を行うのもはや困難だろう。して軍務卿、陸の方はどうなっている?」
「はっ。現在ロウリア軍の主力は、ギムを中心に拠点を築いています。ですが海からの侵攻が失敗した以上、懸念されていた電撃的侵攻は無くなったものかと思われます」
軍務卿は手元のホログラムを操作し、密偵と西部方面騎士団から報告を受けた別の資料を展開した。
「日本の動向ですが、援軍部隊主力の日本国国防省第7旅団が、城塞都市エジェイ近郊の租借地に基地を建設しています。今後はここを拠点に反撃準備を整えている模様です」
「わかった。ありがとう」
カナタ首相は彼らを招き入れたことに関して、一抹の不安と後悔を抱きながらも、日本なしではこの危機を乗り越えることは困難であることを鑑みて現状を憂うしかなかった。
数日後
クワ・トイネ公国 国境線近く
「はぁっ……!はぁっ……!はぁっ……!」
村人たちが、息を切らしながら東へ逃げていた。
ギムから東に20kmほど離れたところにあった、名もなき小さな村の住民たちだった。
外界と隔絶されているため、ギムでの出来事が入ってくるのが完全に遅れてしまった。
村人全員で疎開を開始したが、付近にクワ・トイネ軍の姿はなく、ロウリア側の勢力圏で決死の集団疎開を行うしかなかった。
村人たちの数は200人ほど。村から10km離れたが、まだまだ先は遠かった。
彼らが進んでいるのはだだっ広い平原。そのため遮蔽物が少なく、ロウリア軍に見つかったら追いかけられてしまう。
「はぁ……はぁ……!」
ある少年が、家財道具を手に妹の手を引いて歩いていた。
少年の名前はパルン。母は幼い頃に他界し、父と三人暮らしだったが、父はロウリア軍侵攻の兆しが高まった頃に予備役に着く事になった。
父からは、兄として妹を守るように言われた。全てを託されたパルンは、妹だけは何がなんでも守ると決めていた。
「──ロウリアの騎兵隊だ!!」
そんな時、集団の後方で警戒に当たっていた若い連中が叫んだ。
彼らが指を刺す方向を見れば、ロウリアの騎兵隊が後方の丘の向こうから迫っていた。
「う、うわぁぁぁ!!」
「逃げろぉぉぉ!!」
亜人殲滅を掲げるロウリア軍の騎兵である。
村人たちは荷物を置いて一目散に逃げ出すが、騎兵の速度に敵うはずもなく、脅威はどんどん迫ってきていた。
「お兄ちゃん!!」
「大丈夫だ!お兄ちゃんが守ってやるからな!絶対だぞ!」
パルンは妹の手を離さず、一生懸命に走った。
だがその内心が恐怖に染まる。相手が自分たちを本気で殺しにくる輩であることは知っていた。だから、死が怖かった。
パルンはなぜ自分たちがこんな目に遭わなければならないのかと自問した。神様はこういう時に助けてくれないのかと、問いかけた。
そして微かに、母がしてくれた昔話を思い出した。魔王が現れた時、どこからともなく現れ、人類を救ってくれた太陽の紋章、太陽神の使者たち……
「カミサマ──ッッ!!助けてェェェ────ッッ!!」
──エリアストレスの上昇を検知。
──現着。エリア内に執行対象を複数確認。
──対象の排除を開始。
その時だった。
彼の頭上を、光の矢が飛んでいった。
その矢は地面に着弾すると、大爆発を起こして騎兵隊を吹き飛ばした。
「──え?」
パルンは思わず目を見開く。
「うわぁぁぁぁ!!」
恐怖の中、パルンは夢を見ているかのような感覚に襲われた。
天に向かって叫んだあと、頭上を何かが通り過ぎたかと思うと、蜻蛉のような飛行物体が現れた。
その機体は3機でロウリアの騎兵隊を囲むと、無数の閃光と光の弾を発射し、騎兵たちを薙ぎ払い始めた。
まるで神の怒りの如く、その攻撃は続く。
「何が起こったんだ!?」
「おい、あれ……!」
ロウリア兵たちは馬ごとバラバラに吹き飛んでいく。その後に残ったのは、ロウリア騎兵たちの血溜まりと、バラバラに砕けた死体だけだった。
目の良いパルンは、その攻撃を行った機の胴体に全て日の丸が描かれているのを見つけた。
「(太陽だ!太陽の印が書いてある!太陽神の使いが、本当に来てくれたんだ!!)」
パルンは感激していた。
あの太陽神様の使者が、自分の願いを聞いて本当に駆けつけてきた。
嬉しかった。救われた気分だった。
そんな様子を見て涙を浮かべたパルンだったが、彼の袖にしがみつく妹は、まだ恐怖が抜けきっていないのか、目を瞑って蹲っていた。
「ひぃっ……!」
「大丈夫だアーシャ、あれは太陽神の使い……神様だ!目を開けてごらん?」
妹のアーシャはそう言われ、恐る恐る目を開けた。
するとその視界に映ったのは、血溜まりの中に倒れ伏すロウリア兵たちの惨たらしい死体だった。
「ひっ……いやぁぁぁぁ!!」
「お、おい……」
アーシャが嫌なものを見てしまい、恐怖から悲鳴を上げた。
幼いアーシャは錯乱し始めており、それが村人たちの死体だと勘違いしたのだろう、恐怖に怯えて必死に袖にしがみついた。
太陽の印を付けた機体が、こちらの方を向いた。そして腹の下に取り付けられていた回転式機関砲を執行対象となった村人たちに向け、発砲した。
「──え?」
パルンの隣にいたアーシャは、一撃で粉砕された。
一瞬意味がわからなくて、激しく困惑した。自分の左腕も無くなっているのに気が付いた。
「アーシャ……?」
コンマ数秒が長く感じる。
アーシャは頭部を粉砕され、おでこより上がパックリと無くなり、綺麗な髪は血に濡れ、脳みそが飛び散っていた。
「──嘘だ」
パルンが放心する中、村人たちはいち早くその脅威に気がついた。
騎兵を超える新たな敵、それも自分たちでは全く敵わないような空飛ぶ機体が、敵になった。
「うわぁぁぁ!!」
「なんで!なんで俺たちまで!!」
「いやぁぁぁぁ!!!」
村人たちは錯乱し、一目散に逃げ惑った。
そのため彼らの犯罪係数はみるみるうちに上昇し、わずか数秒で全員が執行対象となった。
「そ、そんな!太陽神様──ッッ!!なんでだぁぁぁぁぁ!!」
村人たちが、太陽神の使いに殺されていく。助けたと思わせて、太陽神の使いはパルンたちを騙していた。
パルンは母に聞かされたおとぎ話で聞いた話と全く違う結末に対し、疑問を投げかけ続けることしかできなかった。
その疑問も長くは続かない。彼も20mmの弾丸で貫かれ、即座に物言わぬ肉片となった。
数時間後
クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ 日本国国防省エジェイ基地
城塞都市エジェイの近郊に、二本の滑走路を備えた陸空共同の国防軍基地が建設されつつあった。
元々ここはエジェイ近郊の中でも作物の育たない貧相な土地であり、日本側は兼ねてより土地の租借と基地の建設の許可を求めていた。
建設が開始されたのはロウリアが侵攻し始めてからだが、もうすでに滑走路や管制塔、格納庫、宿舎なども整い始めている。
そんな基地の執務室にて、国防陸軍の主力である第7旅団の旅団長、大内田和樹は手元の書類を整理していた。
その時、扉がノックされる。
「失礼します。旅団長、偵察に出していたドローンからの報告が纏まりました」
「おう」
扉が開かれると、副官が入ってきた。
彼の手には情報端末が握られており、それを大内田の前のパソコンに翳した。しばらく経ち、彼のパソコンにデータが送信される。
大内田はホログラム上の文章をサラサラと読み流すと、内容を口に出した。
「ギム近郊およそ20km地点にて複数の執行対象を探知、約300名を排除、のち弾薬の補給のため帰還……か。ガンカメラの様子は確認したか?」
「いえ。かなりストレスの強い内容となってたそうなので、システムが破棄しました」
「そうか。わかった」
大内田は少し引っかかる事があったが、システム側が勝手に削除するほど刺激が強いものだったと納得し、部下のメンタルケアのためにもそれ以上追求しなかった。
用語解説
『UOH-01偵察ドローンヘリ』
劇場版に登場した交差反転ローターの攻撃ヘリ。名前は妄想。
かなり小型で小回りが効くので、今作ではリトルバードのような偵察ヘリ的な立ち位置だと予想。
武装はロケットポッド、対戦車ミサイル、20mmガトリング機関砲など。