シビュラシステム召喚 作:公安のわんわんお
クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ
クワ・トイネ公国の城塞都市エジェイは、この時代基準で見ても、かなりの防御力を持つ作りとなっている。
首都やマイハークまで続く主要な幹線道路が集中する位置にあり、なおかつその都市自体も堅牢で、食料や水の備蓄も内部で行えた。
ここは日本が現れる前から、長年軍事要塞として整備されてきた都市だったのだ。
しかも、それだけではない。
この城塞都市エジェイには、クワ・トイネ公国軍西部方面騎士団の主力が常駐している。
兵力は歩兵4個旅団、約2万人。
何より重要なのは、この3個旅団は武器を剣と弓から日本製の自動小銃に切り替えている。少数だが、古い装甲戦闘車両なども保有していた。
これは日本からの軍事支援によるものだ。供与されたのはシビュラシステムが登場する以前の古い設計のものであるが、ロウリア軍が相手ならば確実に勝てる装備をしている。
ただ、配備までの期間が短かったため、騎士達の訓練は十分だったとはいえない。中には小銃の扱いに不慣れな兵士たちもおり、機械化された地味な日本製戦闘服を嫌う者も多くいた。
騎士団長のノウ将軍は、全体的な攻撃力は格段に上がったと実感していたが、その練度の低さに一抹の不安を抱いていた。訓練期間がもう少し長ければ、万全の体制だったことが悔やまれる。
「このエジェイは落とさせん。我々クワ・トイネの手で守るのだ……!」
ノウ将軍は硬い決意を胸に秘めていた。
彼は自国に土足で上がり込んできている日本に対して、あまりいい気はしていなかった。
武器こそ日本製の高性能なものを貰っているが、この国を守るのはクワ・トイネ公国軍自身が行わなければならない。
ノウは愛国心が強い男であった。それ故、日本の支援に感謝しつつも、彼らに頼り切な公国政府を嘆かわしく思っていた。
本当ならば、日本からの助けなど借りず、クワ・トイネの独力でエジェイを守る必要がある。そうしなければ日本にも示しがつかないだろう。
しかし、世の中には社交辞令というものがある。
「失礼します!ノウ将軍、日本国国防陸軍の方が来られました!」
「よし。通せ」
ノウ将軍が通すように許可すると、火中となる日本陸軍の軍人がやって来た。
一礼し、中に入って来たのは三名の軍人。彼らが着ているのは、ノウが着ている装飾入りの煌びやかな服とは違い、上質な布だけを使った深緑色の軍服であった。
地味ではあるが、ノウはその胸の階級章と無数の勲章を見て、それが日本国における幹部クラスの軍人であることを理解する。
「日本国国防陸軍、第7旅団長の大内田です」
真ん中の一人が前に出て、随分と堅苦しい敬礼をして来た。ノウは国の看板を背負っている以上、失礼のないよう、礼儀正しく返す。
「クワ・トイネ公国軍、西部方面騎士団の将軍ノウです。今回はようこそ、遠路はるばるお越しくださいました」
「お気遣いありがとうございます」
挨拶が終わると、二人は早速テーブルにホログラムを展開し、一時間かけて作戦の確認を行った。
会談後
日本国国防陸軍第7旅団 簡易陣地
会談後、雨が降り始めた。
雨で丘全体が泥濘始めている中、大内田は第7旅団の陣地に戻り、移動指揮所となっている03式戦闘指揮車両の車内に入ると、部下達が敬礼する。
「ご苦労。座ってくれ」
この03式戦闘指揮車両は、国防陸軍が有する旅団規模のドローンを一括で管理することが可能な指揮車両だった。
車内の指揮所は6畳ほどの空間で、装甲車の中にしては広い方だ。車中には、大内田を含めて人員が7名いる。
そして車両前方に運転手はいない。AIと簡易的な見下ろし操作による自動運転機能だけが搭載されていた。
車両自体は信頼され続ける八転輪のキャタピラを搭載した装軌式。傾斜した前面装甲と、車体四面からそり立つアンテナが目印だ。
ちなみに指揮車両なので武装はない。
「状況は?」
「予定通りです。旅団のドローンは全て稼働状態にあります」
「よろしい。では作戦開始位置に移動しろ」
「了解です」
大内田は事前に協議した作戦の通り、旅団をエジェイ近郊の丘上から見ても様子を確認できない森の中に潜むことにした。
指揮車両で隊員がホログラムのコンソールを操作すると、駐屯地で待機状態にあった戦車や装甲車などの役割を果たすドローン達が、一斉に起動した。
そして、すでに上空に展開している偵察ドローンの情報をもとに、ドローン達は地形を把握しながら森へ侵入していく。
途中、先頭を走る00式戦車型無人機が森へ続く街道に倒木が倒れているのを見つけた。そのまま森に入ろうとすれば、キャタピラによる巡航では進軍が遅れるとAIは判断した。
00式は人間の判断を待たず、その場に停止。四つに分割されたキャタピラを展開した。
まるでキャタピラがそのまま脚になるかのような形態に変形し、00式戦車は倒木を踏み越えて森に侵入。他の車両も脚部を展開し、次々と森に入っていった。
「00式、自律判断により歩行形態に移行します」
その無人機の様子を、大内田は無言で見つめていた。
彼は思う。如何にもこうにも、軍隊の無人化というのは便利になった反面、多少の不便が混在している気が昔からしていた。
戦車は人が乗る必要のないドローンと化し、人の判断を待たずに自律で判断している。
それは一見便利に見えるが、歩行形態への変形を含め、無人戦車は意外と隙が多い。00式に至っては歩行形態での前方投影面積の肥大化が軍内でも指摘されている。
にも関わらず、国防軍がここまで無人化され、人は指揮だけに徹するだけになったのは、単に日本という国家自体が人手不足であるからに他ならない。
大内田の軍歴は長いが、最近は隊員の数も減り、少人数化に拍車がかかっていると顕著に感じている。
この第7旅団も、大内田が旅団長ではなく参謀だった頃は6000人の隊員を抱える師団規模の部隊だった。国防陸軍が有する全ての"師団"が"旅団"に格下げされ、隊員のほとんどを無人機に置き換える防衛整備計画が完了したのは、つい十年前のことである。
まあ、それも仕方ないだろう。
なぜなら日本には徴兵制など存在しない上、軍人というのはストレスの多い職業だ。
色相を気にし、ストレスというものを避け、刺激すらも危険だとして拒否するような今の若者にとって、軍人が適任だと判定されるのはとても稀なことであろう。
大内田は時代の移り変わりというものを、この国防軍の中でひしひしと感じていた。
数時間後
ロウリア王国軍 東方征圧軍先遣隊
複数の諸侯軍で構成されたロウリア王国東方征圧軍は、先遣隊を切り離して徐々に進軍していた。
彼らはロデニウス沖で起こった海軍の不審な失踪を知らされておらず、噂程度に聞いていた者達も嵐に遭って遭難してしまったのだろうと結論付けていた。
だがどのみち、攻勢の主軸の一つが崩壊したことに変わりはない。先遣隊をまとめるジューンフィルアは、最近ギムから偵察に出している騎兵隊が一部行方不明になっていることを除けば、懸念はほとんどなかった。
だがエジェイ近郊にたどり着いた時、猛烈な違和感と嫌な予感に襲われた。
「なんだあれは……?」
ジューンフィルアはまず、エジェイの周囲に妙な塹壕が掘ってあるのを見つけた。
中に兵達が隠れているようだが、その詳しい様子をこちらから伺うことができない。その周辺には何やら巨大な亀のような緑色の物体が、同じくそれ専用の塹壕に隠れている。
「ジーンフィルア様、敵は我らを恐れて穴の中に隠れているのでは?」
「今が好機です!」
「いや、嫌な予感がする……事前情報にはあんな魔物をクワ・トイネが飼育してるなどと言う話はなかった」
配下の部下達がその様子を見てやいのやいのと急かすが、ジーンフィルアは嫌な予感……いや、悪寒がひたすら渦巻いていた。
「……ひとまず陣形を広げろ。威力偵察をしながら本隊を待つ」
ジーンフィルアは未知の魔法や魔獣の存在を警戒し、ここは敢えて威圧だけしながら本隊を待つという選択肢に出た。
幸いにも自分たちは先遣隊。この後にロウリア王国の主力が到着する。そこまで待っていれば勝機はあると考えていた。
『だんちゃーく……今!』
その時は突然だった。
突如として丘に並べた隊列の中心が爆ぜ、大爆発を起こした。周囲の兵達を吹き飛ばす巨大な土煙が上がり、少し遅れて爆発の音が轟いた。
「な──なんだ!?何が起こった!?」
ジーンフィルアが誰かに問いかけるが、答える者はいない。
強烈な爆発は再び発生し、隊列が乱れる。爆発は土煙とそこにいた人間だったものを舞上げ、それがジーンフィルアの目に留まった。
「何が起こってる!?」
「分かりません!この丘が噴火でもしたのかと!!」
「将軍!クワ・トイネ軍が──」
配下の一人がそう言うので、慌てて正面のエジェイを見てみる。するとその陣地から、亀のような魔獣がこちらに向けて突進してきていた。
同時刻
クワ・トイネ公国軍
「何をしておるか……!」
ノウ将軍はこの状況に悪態をつく。
塹壕に潜ませていた日本製10式戦車が勝手に飛び出したのは、一度ロウリア兵の陣地に砲撃を加えてから直ぐだった。
もちろん、ノウは突撃の指示など出していない。
「勝手に行動するなと伝えろ!戦車が泥濘地帯に突入してしまうぞ!」
「だ、ダメです!彼方の通信機が故障しているのか、全く応答がありません!」
「くそっ、こんな時に!」
戦果を求め、勝手に飛び出していった配下の10式戦車三個中隊だったが、雨の中で泥濘にハマってそのまま立ち往生。
進軍の勢いは削がれていき、10式の多くはその場にスタック。ロウリア兵は恐怖の物体が迫り来るのを見て、一目散に丘裏に逃げていった。
「なんたる失態だ……!これでは笑い者ではないか……!」
ノウ将軍はあまりの練度の低さに絶句する。やはり訓練がもう少し長ければこんな初歩的な失態など踏まなかったのが悔やまれる。
「将軍!日本の第7旅団が森から動き出しました!」
そんな時、見かねた第7旅団が森から飛び出し、行動を開始した。
丘裏に隠れたロウリア兵達を追撃するように、歩行形態の戦車型ドローンが歩みを進める。
四脚を展開したドローンは、その脚でしっかりと地面を踏み締め、泥濘にハマることなくロウリア兵達を追撃する。
同時刻
ロウリア王国軍 東方征圧軍先遣隊
「な、なんだあれは!!」
「戦象か!?」
「どうでも良い!どっちにしろバケモンに違いねぇ!!」
ロウリア兵達は恐慌状態にあった。
圧倒的な爆裂魔法、そしてその威力を前に、彼らはもはや統率や指揮などをかなぐり捨て、丘裏へ敗走するように逃げてしまった。
だが丘裏の先にある森の中から、いきなり四足の緑色の怪物が現れ、こちらに同じような爆裂魔法を投射してきた。
「う、うわぁぁぁぁ!!」
「バケモノだぁぁ!!」
「た、助けてくれぇ!死にたくない!死にたくない!!」
前方にクワ・トイネ軍、後方には四足の怪物。
彼らに逃げ場はなかった。ジーンフィルアはその圧倒的な敵の強さを前に、ただ茫然と戦況を眺めているしかなかった。
「なんなんだ……奴らは……」
ジーンフィルアは幼い頃から剣の鍛錬をし合ったり、家族ぐるみで仲の良かった将兵たちが、まるでゴミのように千切っては投げつけられる様を見て、もはや茫然とするしかなかった。
その後の記憶はない。覚えているのは、森の方から見慣れない人種の兵士達がやってきて、こちらに魔導具を突き付けている様だけだった。
戦闘終了後
クワ・トイネ公国 城塞都市エジェイ
戦闘終了後、第7旅団は後片付けに追われていた。
とはいえそのほとんどの作業は工作ドローンがやってくれるので、人間はこれまた指揮車両で指示を出すだけだった。
「降伏を受け入れた捕虜は一箇所にまとめておきました」
03式戦闘指揮車両の車内に、外の様子を確認していた部下が戻ってきた。
大内田は問いかける。
「彼らの色相は?」
「真っ黒です。もれなく全員、執行対象かと」
それを聞いた大内田は、少し顔を曇らせた。
「……本来ならば国防省の決まりに則り、執行対象は抹殺しなければならない」
「ええ。見逃すことはできません」
「だがこの人数だ。どうやって手を下す?」
大内田の問いかけに、参謀は忌憚なく意見を述べる。
「……下手をすれば、我々の色相まで濁ります」
「そうだ。だからここは、クワ・トイネ軍に処遇を任せよう」
「よろしいのですか?」
大内田の決断に対し、参謀が確認を問いかけた。
「我が身可愛さ故の保身のようで、正直気は進まないよ。だが隊員達のケアも必要だ。指揮官として、部下達の色相が濁ることは避けなければならない」
「了解しました。ノウ将軍には私から伝えておきます」
参謀は特に動じるでもなくそう言うと、再び指揮車両を出て、ノウ将軍の下へと向かっていった。
「私は地獄行きかな……」
しばらく経った後、車内の誰にも聞こえないような小声で、大内田はそう呟いた。
その日の夜、エジェイの丘で捕虜の人数分の銃声が響いた……
何万人も殺してしまったときには、彼らが悪であるに違いないと、自分たちを『いい人』に描く方が簡単だった。
用語解説
『03式戦闘指揮車両』
ほぼオリジナルの兵器。PSYCHO-PASS劇場版に登場した指揮車両を、そのまま装軌化したような見た目をイメージして欲しい。
これ一台で中隊規模から旅団規模までのドローンを一括指揮できる優れもの。内部には三、四人くらいの人員が配置されている。
『00式戦車型無人機』
こちらはPSYCHO-PASS劇場版に出てきた多脚戦車。
普通の戦車から四脚戦車に変形するところがカッコええんじゃ。武装は130mm滑空砲、30mm RWS、その他防御装置多数。