冬のあの日、地底から間欠泉が噴き出した。
それは誰かが意図したものではなく、偶々強大なエネルギー放出の副産物として生まれた現象だった
ーーーだがそれは同時に、地の底より封印されし者達を呼び起こす引き鉄となっていた
「本当に地上だね。……この日を何年…いや、何百年待ったか………」
地上に立つ二人の妖怪。
内の一人である水兵服姿の『村紗 水蜜』は、小さめの船長帽を被り直してそう呟いた
その言葉に『雲居 一輪』は空を見上げながら応える
「感傷に浸ってる暇はないわ。すぐに動きましょう」
噴き上がる間欠泉によって打ち上げられた木造の船に乗り込んだ二人は、そのまま雲の中へと消えた
ーーー
季節は変わって春。
野山に再び緑が戻りつつある今日此の頃、東風谷 早苗はいつものように境内の掃き掃除を行っていた
「神なのに掃除するんだな」
その側で、適当な石の上に座りながら白黒魔法使いこと、霧雨 魔理沙は暇そうに呟いた
すると早苗は胸を張って誇らし気に言う
「なんて言ったって私は巫女ですからね!これ位当然です」
「いや、そういう意味じゃないんだが……まあいっか」
「そもそも貴女は何の用があって来たんですか?参拝?」
「暇だった。偶々空飛んでたら視界の端にこの神社を見つけた。OK?」
「……要するに暇潰しですか。まあ拒むつもりはありませんが、物とか壊さないで下さいよ?」
早苗はそう言って掃除に戻った。
魔理沙は朗らか春空を眺めながら大きめの石の上に寝転んだ。
適度に雲があり、今にも天空の城とか出てきそうな風景だ
「………………………なあ早苗」
「はい?」
不意に名前を呼ばれ振り返えると、寝転がっている魔理沙が天に向けて指を指していた。
釣られてその方向を見た早苗は驚愕する
「……………ええっ!?」
「……あれが『飛行船』ってヤツか?」
二人の視線の先にあったのは、嚢にガスを詰めて飛ぶ様な近代的な乗り物ではなく、正しく船と呼ぶ以外に無い物体が空を飛んでいた
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「あ?何だありゃ…」
場所が変わり魔法の森。
柊 隼斗は空を見上げて思わずそう呟いた
彼もまた、いつも通り薪を拾いに森の中を出歩いていたところ、偶々雲の中から現れた船を発見したのだった
「ホント、次から次へと飽きんね。此処は」
雲海へと消えていく船を、隼斗は静かに見送った
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「やれやれ何処にいったのかねぇ」
幻想郷上空を一人飛び回るのは、頭に鼠の耳、腰から伸びる長い尻尾が特徴的な妖怪鼠の少女『ナズーリン』。
彼女はその手に持っている奇妙な形をした鉤型の棒が示す方向を行ったり来たりと繰り返していた
(うーむ……ダウジングに間違いはない筈なんだけど。反応はしてるのに物が見つからないってのはどういう………、)
ナズーリンはそこで思考を切り、前方を凝視した。
今までよりも強い反応を示したダウジングロッドが、その方向を指していたからだ
「ちょっと退いた退いた!折角見つけた宝の船が逃げちゃうじゃない!!」
「何だ人間か……。暫く使ってなかったしダウジングも鈍ったか?」
落胆するナズーリンの前に現れたのは、少々息の荒い奇抜なデザインの巫女服に身を包んだ博麗の巫女だった。
その視線の先には最近目撃情報が相次いでいる謎の空飛ぶ船が浮いている
何故か瞳に銭が浮かび上がってるところを見る限り、金に対する欲が強いんだな……っとナズーリンは思った
「何処で仕入れた情報か知らないけど、本当にアレが宝船に見えるのかい?」
「少なくとも人里ではその噂で持ちきりよ。『突如現れた空飛ぶ船は宝船』ってね」
「やれやれ、人間はすぐに挙って妄想を掻き立てる。それが良い事であれ、悪い事であれ、自分自身の目で確かめて初めて真実だと言えるのに」
「だからこうして遥々飛んできたんじゃない」
「……なら好きにするといい。唯、あの船の邪魔をするなら痛い目見るかもしれないよ?」
ナズーリンはそれだけ言うと、霊夢に背を向けて飛び去ってしまった。
一人取り残された霊夢は、慌てて船のあった方向に視線を戻した
「ああっ!?余計な事話してる間に見失っちゃったじゅない!」
すると立ち往生する霊夢のやや上空から声がかかった
「船なら三時の方向に消えていったぜ」
見ると箒に跨りながら自身を見下ろす白黒魔法使いと、緑カラーの巫女の姿があった
「魔理沙さん!早くしないと私達も見失っちゃいますよ」
「おっとそうだな。霊夢、お前もあの船を追いかけてるんだろ?意外と速いからさっさと追いかけないと駄目だぜ!」
「言われなくてもさっきからそうしてたわよ」
噂を聞きつけての宝目当てか。はたまた単なる興味からか……。
巫女・神・魔法使いの三人は、それぞれの目的を持ちながら船を追いかけた
だが雲居を抜け、ひたすらかっ飛ばすも中々距離が縮まらない。
一見木造の船でも、三人が全力で飛行する速度より若干速いらしい
「一体何を動力源にしてるんでしょう………ロケットエンジンを積んでるとか?」
「あんなボロっちい船にそんなもん付いてるわけ…………、ん?霊夢、その腰に付いてるのって……」
「腰?……ああ、これは今朝ウチの境内に落ちてたのよ。珍しい形してるから一応拾っといたの」
霊夢が手に取って見せた物。それは薄い円盤型の所謂『UFO』の様な形をしていた
「あっ、私それ妖怪の山で拾いましたよ!」
「私も魔法の森で拾ったぜ」
それぞれが同じ型のUFOを取り出し、見比べる。
僅かに光を帯びている其れは、互いに共鳴している様だった
「よし。二人とも箒に掴まれ」
「……何する気?」
魔理沙は懐から八卦炉を出し、箒の後端に取り付けた。
すると後方に魔砲のエネルギーが蓄積されていき、その過程で箒がガタガタと震え出した
それを察した霊夢と早苗はしっかりと両腕で箒の柄にしがみ付く
「彗星『ブレイジングスター』!!!」
魔理沙の十八番『マスタースパーク』を推進力に、三人は急激に加速した
ーーー
さきの追跡者の事など露知らず、高速で飛行する船の船長である村紗 水蜜と、その同志である雲居 一輪は頭を悩ませていた
「一輪、『破片』の事についてナズーリンから連絡は?」
「…まだ一度も。どうしたんだろうねぇ、見つからないなら見つからないで一回くらい戻ってくればいいのに」
「彼女の探索能力でも難しいとなると、いよいよ奇跡頼みになってくるね。この船だって後どれだけ保つか……」
「……はぁ、少し風に当たってくるよ」
一輪はそう言って甲板へと出た。
吹き抜ける風で被っていた頭巾が捲れ、空色の髪が靡く
「確かに時間がないね……」
静かに呟いたその言葉に応答があった
「何の話だ?」
「!?」
不意に聞こえた声に一輪は驚愕しながら振り返った
「悪い、勝手に乗り込んじまった」
「……貴方誰?何処から入ったの?」
突然の侵入者に警戒の色を強める一輪に対し、隼斗は飽くまで敵意がない事を示す様に両手を見えるように上げた
「俺は柊 隼斗。空飛ぶ謎の船が気になって下から飛び乗ったんだ」
「……飛び乗った?この船結構な速度が出てると思うんだけど?」
「ああ、でも出来た」
「……」
出来るだけ相手に悟られない様に、一輪は攻撃態勢を取った。
懐に隠している金の輪をそっと両手に一つずつ持ち、姿勢を落とさない様に慎重に
「……貴方人間よね?宝物を狙って来たならもう既にないわよ…!」
「へっ?……いやいや俺は」
弁解しようとした瞬間だった
ーーーガシィィッ!!と何かに掴みあげられ隼斗は空中で宙吊りとなった
それは桃色の巨大な手。煙のように靡く腕は、一輪の後方から伸びていた
「えーとっ………取り敢えず話し合いから入らねーか?」
「残念だけど、賊と話す言葉はないの。……情もね」
身体を掴んでいる腕はそのまま振りかぶり、隼斗はそのまま空中へとリリースされた
何気に初出のブレイジングスター☆
そして隼斗はfly away……