東方万能録   作:オムライス_

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今回はほぼ戦闘回となります。
後いつもよりちょっち長めです


110話 聖輦船の守り人

 

刹那、魔理沙の感じる時間が緩やかになる

 

『ゆっくりと迫る強靭な爪は、掠めただけで自身の頭を原型無く砕き割るだろう』。

魔理沙はそんな事を冷静に考えていた

 

 

 

ドグシャァアア!!

 

 

 

 

「!!」

 

 

 

ーーー激しい衝撃と共に目の前を桃色の拳が通過する

 

 

「お前等……!」

 

「ふぅ、間一髪。怪我はない?」

 

「油断大敵だね、魔法使いさん」

 

 

 

一輪は突き出した拳を引っ込め、それと連動して雲山も巨大な拳を戻す。

村紗が柄杓を振るうと、周囲にアンカー型の弾幕が配置された

 

 

「……ッ!」

 

 

一瞬の空白から我に返った魔理沙は、気を張り直すため頬を叩く

 

 

「……悪い、助かった」

 

「お互い様よ。貴女達のお陰で聖の封印を解くことができたんだから」

 

 

互いに背中合わせの緊迫した状況。

周囲には小型の飛竜種が群れを成して取り囲んでいる

 

 

「奴らの攻撃は全て私達で防ぎ切るわ。貴女はお得意の火力で存分に攻めなさいな」

 

 

「贅沢言えば舟幽霊らしく水場で戦いたかったけど、偶にはキャプテンとして船を守る為に戦わないとね!」

 

 

「へへっ。じゃあ、頼むぜ!!!」

 

 

 

再び八卦炉を構え、同時に飛竜の攻撃が始まる。

四方八方から牙や爪を剥き出しに襲い来る飛竜を雲山が薙ぎ払い、村紗のアンカーが絡め取る。そして魔理沙の高火力を持って一つ一つを正確に迎撃していく

 

 

「嵐符『仏罰の野分雲』!!」

 

 

「湊符『幽霊船永久停泊』!!」

 

 

「流光『シューティングエコー』!!」

 

 

 

 

ーーー

 

 

未だ地に降りたままの船目掛け、攻撃を仕掛けんとする地上の魔獣に対して奮闘する早苗・星・ナズーリンの三人。

その猛攻を止めるため弾幕を放つが、一時怯ませる事は出来ても中々有効打を与えられずにいた

 

 

「全く、どいつもこいつも無駄に頑丈だな…!」

 

「ナズ!下がっていなさい…!!」

 

 

そう悪態づくナズーリンの隣では『宝塔』を手にした星が、その先端より無数のレーザーを放った

 

 

ゴパアッ!!と一瞬の爆発音が発せられ、足場諸共吹き飛ぶ魔獣。

星はその場に留まり、まるで固定砲台の様に接近する敵を薙ぎ払った

 

 

「流石ご主人もとい宝塔の力だね。ただインターバルを気にかけてないとぉ……」

 

「!」

 

 

ゴッッ!!!

 

 

レーザー照射直後の一瞬の間隔をつき、大蛇が大口を開けて地中から飛び出した

 

 

「守符『ペンデュラムガード』!」

 

 

星を囲うように配置された五つのペンデュラム。内の一つが牙を遮るつっかえ棒代わりとなった事で動きを止めた蛇。

その頭上に一瞬にして現れた早苗が御幣を振りかざした

 

 

「開海『モーゼの奇跡』!!」

 

 

ゴガァンッッ!!と縦一文字に振り下ろされた一撃は、岩で覆われた鱗を叩き割り、蛇自体をも昏倒させた

 

 

「ありゃ、見かけによらず豪快だね。これも神様の力ってヤツかい?」

 

「勿論!なんて言ったって私には心強い神様が二人もついてますからね!!」

 

「二人とも助かりました。どうやら今の一撃は牽制効果もあったようです」

 

 

一際大きな体躯を持つ大蛇が倒された事により、魔獣の多くは警戒を強め、先と比べて猛攻が薄れつつあった

 

 

「って事は今が攻め時ってヤツだ。一気に畳み掛けるよ!」

 

 

 

ーーー

 

 

法界上空。

霊夢は高速で飛び回りながら対象から逃げるように立ち回っていた

 

 

「もう!何で私だけあんなデカいの相手にしなきゃいけないのよ!!」

 

 

後方を振り返りながらそう文句を垂れたのも束の間。視界一面を覆い尽くすほどの火炎の波が押し寄せた。

即座に結界を展開し炎から身を守る霊夢だが、その圧力に踏ん張りが効かず、勢いのまま押し流されてしまう

 

 

『ゴアアアアァアアァアッッ!!!』

 

 

耳を劈く様な咆哮と共に、大翼を広げ迫る巨躯

 

 

 

ーーー『ドラゴン』。

体表が紅蓮の鱗に覆われ、ある地方では邪悪の象徴とまで言われている魔獣切っての強者

 

その巨体からは考えられない様な速度で霊夢を追尾する

 

 

「神霊『夢想封印』!!」

 

 

霊夢は体制を立て直し突っ込んでくるドラゴンに向け大粒の弾幕を放った。

普段よりも高威力の夢想封印。普段通りの生半可な攻撃など敵は涼しい顔で受け切るであろう事は容易に予想できた

 

 

ドォン!!ドォン!!と次々と炸裂音が霊夢の耳を叩く。

しかしドラゴンは一切その勢いを緩めること無く、その身体に傷一つ付けること無く、爆煙の中から飛び出した

 

 

「ッッ!!」

 

 

霊夢は全力で横へ飛んだ。

強靭な身体を持つ相手に対し、自分はほんの少しでも掠めてしまえば瞬時に肉塊だ。

霊夢が一瞬前まで浮いていた空間を、ジェット機の様な風切り音と共にドラゴンが通過した。

その風圧でさえソニックブームの様な衝撃波となり、霊夢の体制を崩す

 

 

(長期戦はマズい…!出し惜しみしてる場合じゃないわね!!)

 

 

ドラゴンは旋回し霊夢へと向き直ると、その口内へ灼熱の息を溜め始めた

 

 

「霊符『博麗幻影』」

 

 

宣言と同時に周囲が不可思議に歪み、ドラゴンの目の前に『新たな博麗 霊夢』が現れる

 

 

『!!』

 

 

突然の接近に意識をそちらへ移したドラゴンは、そのまま火炎を吐いた。

しかし、回避動作を取ることなく呑み込まれた霊夢は煙を払ったかのように飛散する

 

 

「こっちよ」

 

 

今度は後方から声。ドラゴンは振り向き一閃に鋭くしなる尾を叩きつけた

 

 

『?』

 

 

尾は確実に霊夢を捉え、その身体を上下に両断した。だが結果は先程と同じく、一瞬後に煙となって消え失せた

 

 

「ほら、こっちだってば」

 

 

フッと緩やかな風が吹き、ドラゴンの周囲に

幾人もの博麗 霊夢が現れた

 

 

『グルルッ……!』

 

 

その行為がドラゴンを苛立たせた。

これまでその強さから確実に獲物を仕留めてきた自身の攻撃が四度に渡って空を切っているのだ

 

 

『ガアアアアアアアアアアアァアァアアッッ!!!』

 

 

強者としてのプライドを傷付けられた火竜は吼えた。その眼を血走らせ、ギョロギョロと霊夢を睨み付ける。

爪を立て、牙を鳴らし、口から吹き出る炎を纏いながら襲い掛かった

 

 

 

ズガガガガガガガガガガガッッ!!!

 

 

ーーー瞬く間に複数の霊夢は八つ裂きとなった。例えその中に本物が混じっていたとしても判別出来ない程に、次々と振るわれる火竜の武器は、周りの空気でさえも消し飛ばした

 

 

 

 

 

『……フゥ……フゥ…』

 

 

その全てを消し去ったドラゴンは、荒い息を整えるためその場で静止していた。

もうあの忌々しい声は聞こえない。新たに現れる気配もない

 

 

 

ーーーだが、ドラゴンは次の瞬間、再びその身を強張らせる

 

 

ピンッ……と突然ドラゴンの周囲に円柱を枠取る様な線が張られた

 

 

「アンタが動きを止めるのを待ってたわ」

 

 

やがてその線は橙色の巨大な結界へと変わり、ドラゴンを閉じ込めた

 

 

『ゴアアアァアッ!!』

 

 

途端に暴れるドラゴンだが、念入りに組まれた結界を容易く破壊する事は出来なかった

 

 

 

「喰らいなさい。

ーーー神技『八方龍殺陣』!!!」

 

 

 

カッ!!!!

 

 

 

結界内を同色の光の柱が包み、のまれたドラゴンごと一挙に炸裂した

 

 

「……」

 

 

最早敵の唸り声も悲鳴すらも結界の外にいる彼女には聞こえない。

下方に目を転じれば、いつの間にやら落ち着きを取り戻しつつある地上。肝心の船にも力の注入が終わったのか既に何人か乗り込んでいるのが伺えた。

もう一度結界に視線を戻すと、光の柱は次第にその光を散らせながら窄んでいくところだった

 

 

「はぁ、終わってたんなら手伝ってよね……。こっちはもうクタクt…」

 

 

その瞬間、霊夢の背筋に悪寒が走った

 

別に油断していたつもりはなかった。ちゃんと気配も探っていたし、結界だってまだ解いていない。彼女なりに安全を確保した上で一呼吸置いたつもりだった

 

 

 

パキッ……パキキキキッッ……

 

 

背後で聞こえてくる音が死の音色に聞こえた。自然と呼吸が荒くなり、心音がやけにくっきりと認識できた

 

 

『グルルルッッ……!!』

 

 

唸り声をあげるドラゴンは冷静だった。

先の攻撃を受け、一気に頭に昇っていた血が下がった彼は、静かに術が止むまで待っていた。その瞬間こそが、獲物を確実に仕留める事の出来る好機だとわかっていたのだ

 

 

「しまっ…!?」

 

 

彼にとって……目と鼻の先にいる人間が振り返り態勢を立て直すまでの時間など、欠伸が出る程緩やかなものだった

 

 

口を開き、思い切り喰いちぎる。

ドラゴンは一瞬で間合いを詰め、その単純な動作を行った

 

 

 

 

 

 

ーーー此処までは常人である霊夢の感覚であり、それを完全に見据えた上での彼の慢心だった

 

 

 

 

 

 

ドガアアァアッッ!!!

 

 

 

瞬間、飛び出した一つの影。

その影は素手の一撃で火竜の顔面に殴打を叩き込み、文字通り『殴り飛ばした』

 

 

「お怪我はありませんか?」

 

 

優しい声色。

靡くグラデーションのかかった髪を押さえながら、『聖 白蓮』は霊夢の手を取って尋ねた

 

 

「あっ……えっ、船は?」

 

「貴女方の御蔭で無事終わりました」

 

 

霊夢は未だ緊張したままの身体を動かし、ぎこちなく船を見た。

そこにはゆっくりとではあるが、確かに宙に浮き、此方へ向かってきている船の姿があった

 

 

 

『グルルルルルッッ!!』

 

「!?」

 

 

安堵から一瞬忘れていた。

例え船が動いたとしても此奴をどうにかしなければ忽ち撃墜されてしまう

 

 

「顎を打ったつもりでしたが……、やはり魔界の獣は頑丈ですね」

 

「……どうするの?」

 

「なんとか動きを封じる事が出来れば良いのですが………。私も船の復旧に力を使い過ぎてしまった為にそれも容易ではありませんね………」

 

「…………今回ばかりは結構ピンチね」

 

 

 

ゴオォォッ………!

 

 

「!?」

 

 

ドラゴンが大きく息を吸い込む。

何をするかは明白だった。

その射線上には自分たちの他に浮上中の船がある。下手に避けることが出来ず、最悪の事態を回避するには『受け切る』か、『火竜を倒す』かしかなかった

 

下方では異変に気付いた村紗が何とか避けようと舵を切っている。

加勢しようと魔理沙達が飛び出し向かってきている

 

 

ーーーだが『間に合わない』

 

 

ドラゴンは目の前の標的を焼き尽くす為口を開けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「縛道の六十三『鎖条鎖縛』」

 

 

『ッッッ!?』

 

 

突如として、蛇のように絡みつきながらドラゴンの口を強制的に縛り付けた光の鎖。

一瞬、その場の誰もが何が起こったのか理解できなかった

 

 

「悪い、遅れちまった」

 

 

スッと霊夢の横に現れた『柊 隼斗』は軽く欠伸をしながら謝罪の言葉を述べる

 

 

「隼斗……!?なんで魔界に……」

 

「話は後だ。まずはアイツをなんとかしねーとな」

 

 

隼斗は巻き付けられた鎖を外そうと暴れるドラゴンを顎で指し、空中を踏みつけながら前へと歩き始めた。

それを見て慌てて引き止めようとする聖を、霊夢が制止する

 

 

「……はぁ、来るならもっと早く来てよね。あのバカ師匠」

 

「良いのですか…!?あの方一人で…!」

 

「心配ないわ」

 

 

 

 

ツカツカと距離を詰めていく隼斗は、暴れ回るドラゴンの目の前で立ち止まった

 

 

『ーーーーッッ!!!』

 

「よぉ、デッカいトカゲ野郎。調子はどうだ?」

 

『〜〜〜ッ!ーーッ!!……ッ……ッッ…ゴガアアアァアアアッッ!!!』

 

 

ドラゴンは爪を使い力技で鎖を引きちぎると、殺気立った瞳で睨み付け、怒りの咆哮をあげた

 

 

「そう怒んな。別に殺しゃしねーよ。ちょっと大人しくして貰うだけだ」

 

 

その殺気を受け流す様に隼斗は軽い調子を崩さなかった

 

 

『グ……ッ!』

 

 

 

野生の世界に於いて弱肉強食は絶対。

獲物や雌の奪い合いにしても『殺し、殺され』の関係が成り立つ自然界で生きてきたドラゴンは、殺気を向けても臆せず、また一向に殺気や闘志をぶつけてこない隼斗を警戒した

 

そしてこの時、始めてドラゴンは目の前の男を『獲物』としてでは無く『排除すべき敵』として捉えた

 

 

『ゴガアアアアアアアァアァアアッッ!!』

 

 

起こりのある『ブレス』は使わない。飽くまで迅速に、目の前の敵を排除する為ドラゴンのとった行動は至近距離からの体当たりだった。

牙・爪・角・尾。自身の持つ武器を全て活用し、確実に当てるため

 

 

対する隼斗はその場から一歩も動く事なく、相手のある一点を狙い、静かに指で印を結んだ

 

 

 

 

「縛道の九十九『禁』」

 

 

 

……バチィンッッ!!と鞭を勢いよく叩きつけた様な乾いた音が鳴り、ドラゴンの両翼は根元からベルトと鋲で拘束された

 

 

『ガ……ッ!?』

 

 

「観念しな。詠唱破棄とはいえ九十番代の縛道だ。さっきの『対人用』とは訳が違う」

 

 

飛行する為の手段を封じられたドラゴンは、成す術なく地上へと消えていった

 





※作中に『火竜』と出てきましたが、別にリオ○ウスさんとかでは無いので悪しからず。

個人的な見解ですけど、『龍』って書くよりも、『竜』って書いた方がなんかこう……『ドラゴン!』って感じがしますね( ̄▽ ̄)ドーデモイイヨー

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