空の障害が無くなった事で漸く霊夢達のいる上空まで上がってきた船は、足下で停船する。それと同着で魔理沙と早苗が霊夢の下までやって来た
「おーい、霊夢ー!大丈夫だったかー?」
「ちょっと魔理沙!早苗!終わってたんなら手伝ってよね。こっちは危うく食べられそうだったんだから!」
「すいません……、一回加勢に向かおうとしたんですが、魔理沙さんが『霊夢なら大丈夫だろう』って」
「……魔理沙〜〜?」
「あははは、悪い悪い。でも隼斗が来てくれて助かったぜ。正直アイツが炎吐きそうになった時は焦ったもんな」
「そう言えば隼斗さんはいつの間に魔界へ来てたんですか?」
「さあ?後で説明してくれるみたいだけど、兎に角今は休みたいわ」
霊夢はそう言って肩を回しながら流し目で隼斗の方を見ると、丁度聖 白蓮が深々と頭を下げている場面だった
「良いって別に。礼なら今まで戦ってたアイツ等に言ってやんな」
「それは勿論です。貴方方が居なかったら今頃どうなっていたか……。本当にありがとうございました」
「律儀だなーアンタは。ウチの巫女にも見習わせたいよ」
「まあ…!では貴方は住職の方なのですか?」
「いや、そういう訳じゃねーけど……」
既に霊夢達含め、隼斗と聖以外は全員乗船している。
今は村紗が最終チェック中であり、ほぼ出発準備が整った状態だった
「さっ、隼斗さんも船に乗って下さい。後は魔界の空を少し飛べば人間界へ戻れる筈です」
「…ん、わかった」
聖はそう言って隼斗へ乗船を促した。
すると隼斗から帰って来たのはどこか曖昧な返事だった
「どうかされましたか?」
「……いや」
隼斗は船とは逆の方角を一見し、聖と共に船へと降りた
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魔界上空を飛行する聖輦船の船内では、一同が集まりそれぞれが積もる話に花を咲かせていた。
そんな中で遅れて現れた男、柊 隼斗はいつものメンバーから取り調べを受けていた
「…で、そもそも何で隼斗がいるのかって事よ」
「いる分には別に良いじゃねーか」
「場合にもよるわね。もし初めから付いて来てたのなら、あの状況になるまで影で見てたって事になるもの」
「あっ、確かに。そこんトコどうなんだ隼斗?」
「流石にそこまで意地悪くねーよ。魔界に来たのだってお前らと会うちょい前くらいだしな」
「えっ?って言う事は隼斗さん、自力で魔界まで来たって事ですか?」
「!」「!」
隼斗の言葉に早苗が突っ込み、他の二人も気になるという反応を見せた。
そもそも先の戦いは『人間界と魔界を行き来する手段』を死守する為の戦いだったのだから
「まあ、少し手間をかければ手段なんて幾らでもあるぞ。そもそも幻想郷って場所自体が人間界にギリギリ収まってるようなトコだからな」
三人はその手段については聞こうとしなかった
……何となくわかる
『少しの手間』という表現は、目の前の男だからこそ使えるものであり、自分達が実行しようとしても同じ様にはいかないだろう
「じゃあこの異変の事を知ったのもその時なの?」
「いや?初めから」
あっけらかんと答える隼斗に、スマイルのまま勢い良く立ち上がった霊夢。ガタガタッ!と二人掛かりで押さえ込みながら宥める魔理沙と早苗
「まあ聞けって。そもそも俺はお前達より先にこの船に乗り込んでたんだ。そしたら有らぬ誤解を生んで、空の彼方へFly awayだよ」
隼斗は、楽しそうに歓談する一輪の背後で仏頂面を作る桃色雲オヤジをチラ見しながら続ける
「で、そっから『今異変の黒幕』に会った」
『ちょっと待て』
思わず出たツッコミは、珍しく息ピッタリだった
「隼斗はアレか?私達を長年付き添ってきた妻か何かと勘違いしてないか?いきなり展開すっ飛ばし過ぎだろ」
「いやマジなんだって。俺もいきなり放られると思ってなくてさ。暫く無心で飛ばされてたらある妖怪とぶち当たったんだ」
早苗は首を傾げて尋ねる
「えーとっ………つまりその妖怪が黒幕だと?」
「ああ。で、何か怪しかったから職質した。そしたら襲い掛かってきて、返り討ちにしたら口を割ったって訳だ。
なんでも悪戯目的らしいぜ。お前らが集めてたっていう飛倉の破片が散らばったのも、元を正せばこの妖怪の仕業なんだとよ」
「……何処の何奴よ?その傍迷惑な妖怪」
霊夢が怒り気味に尋ねると、隼斗はスッと人差し指を指した
「さっきから其処にいるぞ」
『えっ!?』
三人が一斉に振り返ると、其処にはボンヤリとした光の玉が浮いており、突然注目された事に驚いたのかやや後ろに飛び退いた。
そして未だにその光が何なのかわかっていない三人を見た隼斗は、呆れ気味に告げた
「……お前、もしかして『また正体ボカして』んのか?……ぬえ」
「ちょっ!何で言っちゃうんだよ!?」
その思わず発した叫び声に、霊夢達だけでなくこの場にいる全員の視線が集まってしまい、再び沈黙する謎の光玉
「……はぁ、取り敢えず正体明かせ。元々俺には通用しねーし、お前の存在はたった今自分で暴露しちまったろ」
「………ちぇっ、わかったよ」
一言呟き、光の玉がその姿を変え始めた。
短めの黒髪に黒地のワンピース。背中には左右非対称の奇妙な羽を生やした少女は、隼斗を恨めしそうに睨みながらその姿を現した
すると村紗と一輪は、顔見知りを見つけた様に驚いた表情をする
「ぬえじゃない…!貴女どうして此処にいるの?」
「あら二人とも、彼女を知っているのですか?」
聖の質問に村紗と一輪はコクリッと頷いた
「うん、地底に封じられている時に少し」
「彼女も同じく封印されていたみたいだけど……、私達と同じタイミングで出たって事かしら」
「……合ってるよ、それで。悪戯仕掛けたのもその時」
「悪戯?」
「貴女達飛倉の破片を探してたでしょ?アレ、私がやったの」
「えっ?でも破片が散らばったのは間欠泉で打ち上げられた衝撃で……」
「私が能力でそう見える様に認識を変えたのよ。昔から『鵺(ぬえ)』って名前は有名でしょ?人間が嫌いで、夜な夜な人間達を脅かしては恐怖を与えていた妖怪。まっ、その所為で封印されちゃったけどね」
「……」
やや不貞腐れ気味のぬえは、壁にもたれ掛かりながらそっぽを向いてしまう
ーーーだがそれは次の言葉を言う上での照れ隠しだった
「…………でも誤解してた。ごめん」
「!」
相変わらず聖達の方へは顔を向けずに、ぬえは続けた
「聖って言ったっけ?……アンタ妖怪の為に尽力した結果、封印されたんだって?」
「……何故それを?」
「さっきそこの人間が言ったでしょ。正体を誤魔化して船に紛れ込んでたって。その時アンタと村紗達の会話を聞いてたんだ」
「……」
聖は立ち上がると、ぬえの前に座り、その手を取った
「ありがとうございます」
「!!」
ぬえは思わず聖の顔を見た。優しそうに微笑むその表情は、彼女の瞳にどう映ったのか。暫くの間見つめ合いが続いた
その様子を側から見ていた隼斗は、霊夢に向かって良い笑顔で告げた
「アレを見たな霊夢?まずは包容力を養え」
「よくわかんないけど殴っていい?」
ーーーそんな時だった
ゴガアァァンッッ!!という轟音と共に、激しい衝撃が船を襲った。
「なっ、何だぁ!?」
魔理沙がひっくり返ったままの姿勢でそう叫んだ時には、隼斗は甲板へ向けて走り出していた
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『!?』
甲板に出た者は皆、その表情を驚愕の色で染めた
『ゴアアアアアァアアァアッッ!!!』
遠方からでも響き渡るほどの咆哮。
空を埋め尽くさんばかりの影
隼斗の介入によって退けた火竜
……その同種とも呼べる飛竜の群れが船目掛け飛んで来ていた
「……う、嘘でしょ!?」
誰かが思わず呟いた。一匹であれ程苦戦した化物が、群れをなして空を覆っている。
まさに彼女等にとって絶望的な光景だった
「ッ!」
轟ッッ!!っと船の真横を通過する巨大な火球。それを見た全員が察した。
先の衝撃はアレが船に着弾したモノだと
「聖!直ぐに障壁を張って船を護らなければ!!」
星がそう告げると、聖は一拍置いて答えた
「……船には念のため結界が張ってあります。しかし……、あれ程の数の竜の攻撃には恐らく耐えられない…!」
「ッッ!?」
更に火竜達の動きを観察していたナズーリンはある事に気が付く
「アイツ等あれ以上距離を詰めてこない……。安全を保った距離から私達を撃墜するつもりか…!……なんでそんな事を!?」
「さっきの竜との戦いを見られてたのかも知れねーな。あん中の斥候とかに」
隼斗はそう付け足すと、視線だけを動かし周囲を見た
皆、狼狽している。
早苗は特にこういった経験が少ない為か御幣を握り締め微かに震えている。
いつもは活発な魔理沙や、冷静な霊夢も戦う意思こそあれど、明らかに動揺している
(……今回ばかりはしゃーねーな)
そんな空気を断ち切る様に、柊 隼斗は前に出た
「ぬえ、この船に対する奴らの認識を弄れるか?」
「えっ?……そ、そりゃあ別の何かに見せる事は出来るけど、多分奴らにとっての空飛ぶ物だから、船が同じ竜の姿に見える程度とかだよ?」
「気休めでもなんでもいい。少しでも被害が無くなるならな。
そんで船長。人間界との境界まであとどれくらいだ?」
「……うーん、このまま行けば早くて五分位かな」
「ならその時間を凌げばいい訳だな。……よし、お前ら下がってな」
周りが注目する中、隼斗は火竜の大群に向けて掌を翳した
「千手の涯 届かざる闇の御手 映らざる天の射手 光を落とす道 火種を煽る風 集いて惑うな我が指を見よ」
詠唱を口にする隼斗の背後に霊力が集束されていく
「光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ」
霊力はやがて無数の巨大な光の矢となり、その矢先を前方へと向けた
「破道の九十一……
ーーー『千 手 皎 天 汰 炮』!!!」
ドドドドドドドドドドッッ!!!と轟音を発しながら、音速を有に超える光の矢が一挙に放たれた。一発の大きさが火竜一匹を覆い尽くす程あり、その威力は絶大。
ドラゴン達はあっという間にその大半が撃墜され、残ったのは偶々運良く矢の軌道から逸れた10匹程であった
「…………」
隼斗と付き合いの長い霊夢や魔理沙含め、この場の全員が、彼の圧倒的な力を前にして軽い放心状態に陥っていた。
それ程までに容易く、たった一度の弾幕で絶望を塗り替えてしまったのだから
隼斗は振り返り言葉を発した
「さて、大分楽になったろ。後はあの残党から船を護り切るだけだ」
「!!」
その言葉に皆ハッと我に返った。
魔界を脱するまで残り数分。前方からは激昂し、火炎を撒き散らしながら突っ込んでくる火竜の残党
ーーー全員が武器を取った
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穏やかな気候の幻想郷。
その上空では清く正しい新聞記者の射命丸 文が、空飛ぶ船の目撃情報を元に捜索を行なっていた
「うーん……、船どころか飛行物体すら見当たらない……。大体空飛ぶ船なんて本当にあるのかなー?」
一日中幻想郷の空を飛び回った結果、全く尻尾を掴めなかった為か半ば諦めモードに入りつつある文は、ある地点で停止した
(この辺りが船の最終目撃地点だけど……………、やっぱり見当たらないか)
文は溜息を吐きながら帰路に着こうと踵を返した
轟ッッッーー!!
背後で突如激しい風圧が起こる
「……へっ?」
思わず振り返った先には、異空間らしき場所から今まさに飛び出してきた木造の船
「よっしゃあー!抜けたー!!」
聞き覚えのある声。船上に目を転じれば両手を高らかに掲げて歓喜する白黒魔法使いを始め、博麗の巫女や守矢の現人神の姿があった
「ッ!!」
文はその瞬間を逃すまいとシャッターを切った。目の前を通り過ぎる船をコマ送りの様に連続でカメラに収めた文は、満面の笑みを浮かべた
「『幻想郷を飛び回る船、空間をも飛び越える!?船上には巫女の姿も…!!』。よし、見出しはこれで決まりね!後日、本人達の所へ取材に行かなきゃ!」
既に飛び去っていく船を見送りながら、文は呟いた
「?……でも何で皆んなボロボロだったんだろう?」
後日、暫く幻想郷上空を漂っていた聖輦船(聖が元々住んでいた寺が既に無くなっており定住する事が出来なかった為)だったが、聖の申し出により、元の飛倉の姿、そして仏教寺へと改装された
場所は人里近くの更地であったが、隼斗や早苗の協力もあり、その地は洩矢 諏訪子の力によって整地された
寺の名前は『命蓮寺』。聖の実弟であった命蓮の名を肖ってつけられたと言う
今回で星蓮船編は終了となります!
鬼道の完全詠唱を書いたのはこれで三度目くらいですかね……。※赤火砲は何回か書いてますけど。
でも実際に使うとなったら相当早口で言わないと敵さんも待ってくれませんよね普通
次回の投稿日につきましては、5日後の11月10日を予定しておりますm(_ _)m