東方万能録   作:オムライス_

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〜「Yahooで『ががばば』って検索してみ?面白いもん見れるぞ」と言った友人を私は許さない〜




112話 銀髪の剣豪

ーーー『魔界』

 

無限に広がる広大な土地や、瘴気や魔力と言った本来生体に有害とされる成分が空間を漂う異世界。

魔力を扱う者にとっては絶好の修行場となる反面、そう言った環境に適応できる者でなければならない。

……となれば、必然的にこの世界に住まう者は皆、強大な力を持った者と言うことになる

 

 

「……相変わらず殺風景な場所だ」

 

 

そんな魔界の中でも辺境の地へ、一人の老境の男が訪れた。

視線の先では『根元から上が存在しない』大木の物と思われる根が、地上に浮き出ている

 

その中心に突き刺さっている古びた刀を見つめ、男は頭髪同様に銀色に靡く髭をなぞりながら呟いた

 

 

「さて、お前が枯れ果てるのはいつになる?」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

晴れ渡った昼下がり。

此処、冥界に於いて天候の変化の有無があるのかは定かではないが、日差しが見えると言うことは少なくとも洗濯物は乾くのだろう

 

そんな事を思いながら白玉楼に訪れていた柊 隼斗は、目の前で自分が持参した菓子を食い漁る西行寺 幽々子を呆れた視線で眺めていた

 

 

「………そんなに美味いか?『ポテチ』」

 

「ええっ、とっても!!本当にこれジャガイモから作ったの!?」

 

「ああ。薄く切って油で揚げたんだ。丁度幽香からジャガイモの差し入れがあったからな」

 

「へぇー!隼斗ってお菓子作りなんてするのねぇ。ちょっと意外だわ〜」

 

 

そう言いながらも、ポテチを口へと運ぶ動作を止めない幽々子

 

 

「普段はしねーよ。久しぶりにポテチが食いたくなったから作っただけだ」

 

「あっ、そうだわ!このお菓子の作り方、あの子に教えてあげてもらえないかしら?」

 

「妖夢にか?まあ別に良いけども……、この屋敷のジャガイモ消費量がハンパ無い事になりそうだな」

 

 

徐に中庭へ視線を移すと、妖夢が刀の素振りを行っているところだった。

隼斗はそんな様子を頬杖をつきながら眺め、ふと幽々子へ質問した

 

 

「なあ、前に妖忌はどうしたかって聞いた時、幽居したっつったよな?」

 

「ええっ。言ったわね」

 

「実はさ……最近妖忌らしき奴の気配を感じ取った」

 

「!」

 

 

ピタッ……と今の今まで忙しなく動いていた幽々子の手が止まる。

一時の静寂。庭で刀を振るう音が強調的に聞こえてくる

 

 

「……そう」

 

 

幽々子は一言漏らし、湯呑みを口へと運んだ

 

 

「……何処で、とか聞かねーのか?」

 

「あら、教えてくれるの?」

 

「別に隠す気はねーよ。今日此処に来た理由の一つはそれを話す為でもあんだから」

 

 

隼斗は茶を一口含んだ後言った

 

 

「魔界だ」

 

 

 

 

「………」

 

「……驚かないんだな」

 

「………………………………隼斗」

 

「ん?」

 

 

 

暫しの沈黙の後、幽々子は自身の手元を見つめながら静かに呟いた

 

 

 

 

「………ポテチ、もう無いのかしら?」

 

「だと思ったよこの野郎」

 

 

既に卓上にあった山盛りのポテチは姿を消しており、指を咥え、上目遣いでおかわりを要求してくる幽々子に対し、隼斗は呆れながら保存パックに入ったポテチを差し出した

 

 

「持って来たのはこれで最後だかんな。後は妖夢に作ってもらえ」

 

「ありがとう〜♪」

 

 

再びパリッポリッと小気味の良い音が部屋を包む中、幽々子は先の返答を口にする

 

 

「あの人は昔から自分の成すべき事に忠実だった。今回も何らかの事情があるんでしょう」

 

「……お前や孫をほっぽり出してか?」

 

「大丈夫。きっとそのうちフラッと帰ってくるわ」

 

「………寛大な主人だねぇ」

 

 

そう言って立ち上がり、庭で素振りを続ける妖夢の元へ向かう

 

 

「隼斗さん!……どうかされましたか?」

 

「急用思い出してな。これから帰るからレシピだけ渡しとこうかと思って」

 

「へっ?で、ではすぐお見送りの仕度を!」

 

「あー、いいっていいって。そんじゃ、お邪魔しましたー」

 

 

隼斗はポテチの作り方が適当に書かれた紙を妖夢へ渡し、2人に見えるように手を上げてそそくさと門の方へと歩き出した

 

 

「あっ!えっと……またいらして下さいー!」

 

 

突然の事で戸惑う妖夢を尻目に、幽々子は静かに微笑んでいた

 

 

 

 

 

 

幻想郷で唯一魔界と同じ特性を持つ魔法の森。白玉楼から帰宅した隼斗は、印の書かれた札を決められた場所に配置し、隅から全体に行き渡る様霊力を流した

 

 

 

ズズズッッ……と陣の中央の空間が裂け、『擬似的なスキマ』が開かれる。

内部は進入する者を躊躇わせるような虚空が続いていた

 

 

(んー、準備に時間が掛かるのが難点だな)

 

 

隼斗が中へと入った数秒後、大口を閉じるように空間は閉ざされた

 

 

 

ーーー

 

 

スキマを抜けると空気が一変。

瘴気はより濃くなり、肌で感じ取れるほどの魔力が漂っている世界へ隼斗は降り立った

 

 

(……そう遠くねーな)

 

 

 

隼斗は一方を見つめた後、その方角へ駆けた。

岩場を超え、見たことも無いような植物が生い茂る森林へ。途中、幾つもの魔獣の群れの横を通り過ぎるが、気配を最小限にとどめ回避する

 

 

「!」

 

 

ただ一つの気配を頼りに駆け抜け、林内の大きく開けた場所に出た。

隼斗はそこで立ち止まり、その広場の中央に立つ人物を凝視する

 

 

 

 

 

「!……これは、随分とお久しぶりですな」

 

 

銀髪の髪を後ろで纏めた男は、振り返りながら貫禄のある声でそう言った

 

 

「やっぱ此処にいたのか……、『妖忌』」

 

「近いうちにお会いする事になるのではと思っておりました。柊殿」

 

「……此処で何してんだ?」

 

「……」

 

 

妖忌は黙ったまま、地面から浮き出ている根を見つめた

 

 

「……言うなれば『監視』、と言ったところでしょうな」

 

「監視?一体何の……」

 

 

隼斗の質問に対し、妖忌は中央の根を指して答えた

 

 

「此れは『西行妖の根』です」

 

「!?」

 

 

隼斗は一瞬身構えた

 

 

「……?」

 

 

しかしその根からはあの禍々しい気配は感じられなかった。実際、アレが西行妖の根っ子だと聞いた今でも彼の目にはその辺に生えている根っ子と相違なく映っているのだ

 

 

「尤も、今は沈静化しております故、危険はありませんが」

 

「………どういう事だ?そもそも何で魔界にアレの根っ子がある?」

 

 

疑問が尽きない隼斗は眉をひそめながら尋ねた

 

 

「……西行妖は元々『魔界の植物』なのです」

 

「!?」

 

「本来森の中央に当たるはずのここが、根を中心に広範囲に渡って荒地となっているのは西行妖の影響によるものでしょう。事実、私はここ数十年に渡りこの場所を訪れていますが、草木が生えている瞬間を一度も目にしておりません」

 

「……仮にそうだとしても、何故それが西行妖のモノだとわかるんだ?」

 

「………私はある日突然力を手にした。『本質を見極める力』です」

 

 

妖忌は一度自身の掌に視線を落とし続けた

 

 

「本来ならばこの力は長期の修行を積んだ者だけが身につけることのできる力。私はこの力を使い西行妖の新たな脅威を突き止めました」

 

「……脅威?」

 

「人間界にある西行妖と此処にある根は元々一つの生命。どちらか片方を封印したとしても、もう一方が力を取り戻せば封印は不完全なものとなる。………取るべき行動は一つだった」

 

「根っ子の方にも封印を施したってわけか。だがどうやって?」

 

 

根に深々と突き刺さっている刀の柄に触れながら、妖忌は答えた

 

 

「この刀は妖力や魔力を抑え込む力が宿った魂魄家に代々伝わる宝刀です。私が定期的に監視している限り此方の封印は心配ないでしょう」

 

「……成る程な」

 

 

その言葉を聞いた隼斗は、とある疑問を投げ掛けた。西行妖や封印についてでは無い。

それは彼が妖忌の元を訪れた本来の目的でもあった

 

 

 

「………白玉楼には戻らないのか?」

 

 

 

 

「………………そうですなぁ」

 

 

 

急な質問に、妖忌は髭をなぞりながら回答を思案しているようだった

 

続けて隼斗は言う

 

 

「さっきの言い方だと常に監視してる訳じゃないんだろ?今何処に住んでんのかは知らねェけど、幽々子や妖夢はお前の事心配してんだ。差し支えねェなら俺だって手伝うし、戻ったって良いんじゃないか?」

 

 

あわよくば此処で妖忌に同意してもらいたかった。別に深い思い入れがある訳じゃ無い。同情している訳でも無い。

ただ過去に妖夢が、幽々子が彼の話をする時に見せる寂しげな表情が隼斗の脳裏に残っていたから

 

 

 

しかし妖忌は首を縦に振らなかった

 

 

「此れは私の挑んだ戦い。他者を巻き込むわけにはいきませぬ。……少なくとも決するまでは戻るつもりも……。」

 

「………そうか。なら仕方ねェな」

 

 

 

隼斗はそれ以上何も言わず、踵を返した。

当初の目的は達した。元々本人の意思を聞くために訪れたのだから

 

 

「柊殿」

 

 

不意に名前を呼ばれ立ち止まる隼斗。

振り返らず、頭だけを妖忌の方へ向けた

 

 

「…弟子は……、妖夢は元気にやっとりますかな?」

 

 

今までの様に厳格な声ではなく、柔らかい声色だった

 

 

「気になるなら、偶には会いに行ってやれよ」

 

 

隼斗は頭を戻し、再び歩き出す。

その表情に僅かな微笑を浮かべ、一言添えた後広場から姿を消した

 

 

 

 

「心配ない」

 

 

 

一人残された妖忌は、既に誰もいない空間に頭を下げた

 

 

 

 

「かたじけない」

 




色々詰め込み過ぎた感……

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