東方万能録   作:オムライス_

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お待たせしました。今回は戦闘と若干のグロ表現がありますのでご注意をm(_ _)m




115話 隼斗の魔界探索記 ②

メイドはその手に構えた西洋風の剣を再び隼斗へと振るった。

華奢な見た目に反し、鋭い風切り音と共に、身を引いて回避した隼斗の鼻先を通過する

 

 

「ちょいタンマ……!一旦落ち着けって!」

 

「私は落ち着いてるわよ?落ち着いて貴方を八つ裂きにするの」

 

「いやだから……っとぉ!」

 

 

弁解しながら後退する隼斗に対し、メイドは容赦なく剣撃を繰り出していく。

その剣速は隼斗の目から見ても速く、素人の振るう剣術とは違い、確実に急所を狙ってきていた。

何とか話し合いの場を設けようと隼斗は後方へ大きく跳び、鬼道を放った

 

 

「縛道の八十一『断空』」

 

「!」

 

 

二人の間を遮る様に障壁が展開され、ここで漸くメイドの動きが止まる

 

 

「ふぅ……、取り敢えず話聞いてくれよ」

 

 

未だ剣を下げようとしないメイドに、隼斗は今一度謝罪を試みようと話し掛けた

 

 

「………」

 

 

しかしメイドは目の前の障壁を凝視した後、何を思ったのか再び駆け出し突っ込んできた

 

 

「お、おい…!危ねーって!!」

 

 

予想外の行動に慌てる隼斗に構わず、メイドは障壁を『すり抜けるように』通過する

 

 

「!?」

 

「無駄な抵抗はやめて大人しく斬られなさい」

 

 

首元目掛けて振るわれる刃を身を屈めて躱す隼斗だが、それを追撃する様にメイドは何もない空間から新たな剣を抜き放った

 

 

「……っ」

 

 

下から上へ跳ね上げるように隼斗の腕を斬り付ける。

腕から血が滴るが、動脈を庇う様に即座に腕を捻った為かそれ程派手な出血はしていない

 

 

(断空をすり抜けやがった……!?それに戦闘能力も並みじゃねェ。………本当にメイドかよ)

 

 

刃に付着した血を一振りで払い、メイドは鋒を隼斗へと向けた

 

 

「貴方は在ろう事か城壁を破壊し城内へと侵入した。それだけでも万死に値する事だけれど、まずはその目的を吐いてもらうわ」

 

「目的っつっても……、此処へ突っ込んだのは事故みてェなもんだしな……。いや、10:0で俺が悪いんだけども」

 

「問答無用よ」

 

「どっちなんだよ」

 

 

ガッッ!!と、互いの武器が重なる。

隼斗は霊力で防護した腕を体の外へ払い、鍔迫り合う剣先をズラしながらもう一太刀を屈んで躱す

 

二剣は両方共空振った。この至近距離ならば返す刃より直接縛道を打ち込む方が早いと判断した隼斗は、メイドの額へ手を伸す

 

 

(多少罪悪感はあるが、此れで眠ってもらうぜ…!)

 

 

しかしメイドは薄く笑った

 

 

「残念」

 

 

スゥ……と隼斗の指先はメイドに触れることなくすり抜ける

 

 

「何っ!?」

 

 

目を見開く隼斗の首元目掛け、両側から剣が振るわれた

 

 

「くっ…!」

 

 

隼斗は全力で回避行動に移った。

後方ではなく敢えて前に。床を踏み締め、半ば飛び込む形でメイドの体を擦り抜ける

 

 

「よく躱したわね。確実に殺ったと思ったんだけど」

 

 

メイドは振り返りながら冷たい瞳を向けてそう言った

 

 

「さっきの断空といい、物体を透過する能力か……?」

 

「透過?」

 

 

メイドは再び構え駆け出す。

隼斗は先程と同様、腕に霊力を纏わせ防御態勢をとった

 

 

「……それは少しニュアンスが違うわね」

 

 

剣は振り上げられ、袈裟懸けに向かって振り下ろされた。

隼斗の目にはしっかりメイドの動きも剣の軌道も見えていた。例えもう一方が振るわれても反応できる

 

そう確信持って剣の軌道上に腕を置いた

 

 

 

 

 

 

スゥ……

 

 

「!?」

 

 

刃は一切軌道を変える事なく、盾として構えていた腕を擦り抜けた

 

 

「私は『触れる物を選ぶ』事が出来るの。防御は無意味よ」

 

 

ザシュゥゥッッ!!と、腕を透過したばかりの刃が身体を斬りつけた。

血飛沫が舞い、鋭い痛みが走るが、構っていられない。既にもう一方の剣が迫っている

 

隼斗は足裏に力を込め瞬時に間合いを切った。兎に角メイドとの距離を離し、思考するだけの時間を確保したかった

 

 

(……こりゃあ、思ってたより強敵だな!)

 

 

 

傷口から流れる血は、衣服に赤い染みを広げ、床に血だまりをつくる。

しかしギリギリで身を引いた為か見た目ほど傷は深くはなかった

 

 

(傷は大したことねェ。斬られたのも俺の油断。………なら問題視すべきは、アイツ自身のスペックか)

 

 

若干劣りながらも隼斗の動きについてくる身体能力に加え、意のままに防御や障壁を通過し、攻撃を仕掛けることができる能力。

それだけでも十分過ぎる程の脅威であるのにも関わらず、此方の攻撃まで通じない

 

珍しく隼斗の額から一筋の汗が流れた

 

 

 

 

「……観念しなさい。それ以上床を汚す前に」

 

「じゃあその物騒なモンしまってくれや」

 

「貴方の息の根を止めたらね」

 

 

 

メイドはそう言って高速で距離を詰めた

 

触れられないという事は、当然受け止めるどころか、受け流す行為さえも封じられたと言うこと。

隼斗は次から次へと振るわれる斬撃を躱していく中で、打開策を思案する

 

 

「縛道の三十七 『吊星』」

 

「!」

 

 

隼斗は目の前に視界を遮る為の障害物を配置し、メイドが一瞬動きを止めた隙を突いて背後をとった

 

 

「『六杖光牢』」

 

 

メイドの胴体目掛けて突き刺さる六つの光の帯。成功していれば対象の動きを封じる事が出来るが………

 

 

 

 

「……あら、後ろにいたの」

 

「ちっ…!」

 

 

ヒュッッ!!、と振り向きざまに一閃。

六杖光牢は何もない空間で不発に終わった

 

 

「淑女を背後から狙うなんて……、デリカシーに欠けるわよ」

 

「……生憎と剣振り回して襲って来る奴を淑女とは呼ばん。サイボーグ忍者と呼ぶ」

 

「……?」

 

 

メイドはどこか余裕の感じられる様子の隼斗を怪訝な表情で見つめ後、再び剣を構えて言った

 

 

「これが最後の忠告よ。大人しく斬られるなら楽に殺してあげる」

 

「いや忠告になってねェだろ。どの道斬られんならお断りだ」

 

「……あらそう」

 

 

メイドは自身の受ける重力量や空気抵抗等、運動の妨げになる物を能力により除外すると、先程とは比べものにならない速度で隼斗へと詰め寄った

 

 

「!?」

 

「さようなら」

 

 

ズッ………と、抵抗する間も無く刃が隼斗の身体を貫く。

肉を裂き、鈍い感触を感じながら背部より血に染まった鋒が顔を出す

 

 

「がっ……ふッッ………ゲホッ!」

 

 

隼斗は口から血反吐を吐いた

 

 

「一応すぐに死ねる様心臓を狙ってあげたのに……。無闇に狙いをズラすからそうやって苦しむ事になるのよ」

 

 

グリグリと突き立てられた剣を捻り周囲に損傷を与えていく

 

 

「……っぐ…あ゛あ゛ッッ……!?」

 

 

激痛がはしり更に多くの血を吐き出す。

止めようと剣に手を伸ばしても掴むことが出来ずにすり抜けてしまう

 

 

「『一思いに殺してくれ』と懇願なさい。そうしたらすぐにでも首を刎ねてあげるわ」

 

 

メイドは冷たい声色でもう片方の剣を首元に宛てがいそう言った

 

 

「………」

 

 

肺を貫かれ、呼吸すらままならない中、隼斗はゆっくりと口を開いた

 

 

 

 

 

「……………やっと捕まえたぜ」

 

 

 

「!?」

 

 

ガクンッ……とメイドは体勢を崩し床に膝をついた。身体の力が抜け、急激に意識が遠のき始める

 

 

「な……なに…を……ッッ!?」

 

 

「ゴホッ……!あー、痛てェな……」

 

 

隼斗は一度咳払いをする様に喀血した後、倒れ伏すメイドを見下ろしながら言った

 

 

「心配ねェよ、術で麻酔掛けただけだ。直に意識が混濁して一時的な昏睡状態になるが、まあ許せ」

 

「……!」

 

 

メイドは何とか視線を落とすと、自身の身体が白い光に包まれていることに気が付いた

 

 

「お前言ったよな?触れる物を選べるって。『選べる』って事は自動で発動してるんじゃなく、飽くまでお前の意思でON.OFFを操作してるって事だ。

つまり、少なからず攻撃する際にはその部位に触れなきゃいけねェよな?」

 

「まさか……!傷口から剣を介して………術を………ッッ」

 

 

メイドは既に焦点の定まっていない瞳で隼斗を睨んだ後、消え入る様に意識を手放した

 

 

 

 

 

「………さて、此処の家主様に詫び入れに行かなきゃな」

 




※隼斗が使用した術は『白伏』と呼ばれる鬼道です。

もう一月程で『東方万能録』も一周年を迎えます。早いもんだな〜なんて思っていたら僕も今日、また一つ歳をとったことに気が付きました 笑


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