「……話戻すぞ?」
「はいはい、悪かったわよ。ちゃんと聞くからそんな眉間に皺寄せないでってば」
「ったく…!」
隼斗は自身の眉間を指でなぞりながら続けた
「本題に入る前に一つ確認だ。疑ってるわけじゃねーけど、アンタがこの世界の創造神って事でいいんだな?」
「ええ。他には覚えが無いわ」
「魔界にある全てを創ったってのも?」
「本当よ」
神綺の口から確認をとり、隼斗は一拍置いて切り出した
「……『他者の生命力を奪う桜の木』について聞きたい」
「……」
ほんの僅か一瞬、神綺の表情が固まった。今では元の穏やかな表情に戻ったが、徐々に纏う空気が変わっていくのがわかる
「……その桜の木について、何処まで知っているのかしら?」
「『何処まで』ってのが何を指してんのか知らねェが、凡その事は知ってるつもりだ。
魔界と人間界に分離した状態で存在し、人間界では『西行妖』って呼ばれてる。生者の生命力を糧に成長する妖怪桜で、今は封印によって何方も力を抑えられてる状態だ」
「……それだけ?」
「……なに?」
神綺は淡々と続ける
「それだけじゃとても『凡そ』とは言えないわね」
「!……どういう事だ」
「その前に、貴方が何故『アレ』について聞きたいのか教えてもらおうかしら?」
その言葉を皮切りに今迄『唯の威圧だった』覇気に明確な殺気が混ぜられた
ーーー返答次第では殺す
言葉で言わずとも神綺から発する空気がそう物語っていた。
最早彼女の穏やかそうな表情や仕草と言った視覚的情報などは宛にならない。
そう言った類のモノを感知する能力に優れている隼斗は、額から一筋の汗を流しながら唯一言述べた
「……『力』を、取り戻したい」
「……」
神綺は何も言わない。
……かと言って行動を起こすわけでもなく、黙って隼斗を見つめている
『話を続けろ』
そう受け取った隼斗は過去に起きた西行妖に纏わる事情を話した
……犠牲となった人々
……友人の死
……犠牲の元に成し遂げた封印
……失った力
……龍神の出現
……魔界で見つけたもう一方の西行妖
「……こうして振り返ってみると確かにアンタの言う通りだ。俺はあの妖怪桜について知らないことが多過ぎるし、人間界にある封印だって一時的な停滞が続いてるだけで現状の解決にしかなってない。もしそう遠くない未来、何かのキッカケでアレが復活しちまったら今の俺じゃ止められねェんだ。
だからアンタに……、『魔界に存在する全て』を創造したって言う神に会いに来た」
「……あの妖怪桜を創ったのは私だと?」
「少なくとも、アレが魔界産だってんならそう言う事になるだろ?」
「……………」
両者の暫しの沈黙が続き、やがてフッと部屋を包んでいた圧力が消え失せた
「……いいわ。話しましょう」
一度瞳を閉じ、ゆっくりと開眼した神綺は話し始める
「まず初めに言っておくと、あの桜は私が創ったものではないわ」
「だが現に根っこが魔界に……」
「そう。確かに魔界の土より誕生したのは事実。言うなれば魔界の地はアレの『育ての親』ってところかしらね」
「…?」
「アレは遠い昔、外部の者が魔界に持ち込んだ厄災なの」
神綺の表情から微笑は消え、心なしか険しい顔つきになった
「さっき貴方も言っていたように大勢の犠牲が出たわ。当時のアレの力は『死に誘う』なんて言う生易しいものじゃなかったわ。
……『無差別に自身を認識した者の命を奪う』事であっという間に成長していった」
「まさか、それで西行妖を人間界に……!」
一瞬で頭に血が上りかけた隼斗を、神綺は手を前に出し制止する
「落ち着いて最後まで聞いて頂戴。
………確かに被害を抑えるため、結果としてあの桜を分担する形で片割れを人間界に送ったわ。そちら側の創造神……、『龍神』と協力した上でね」
「!?」
「それ程までにあの桜の持つ死の力は強大だった。放っておけば被害は魔界だけに留まらなかったでしょう。……だからこそ龍神も手を貸してくれたんだと思うわ」
そして神綺は先程隼斗が言っていた目的について口にした
「さっき力を取り戻したいって言ってたわね。媒体となってるお友達に影響が出ないよう、封印には手を出さずに」
「……ああ。だがいくら考えてもそんな方法思いつかねェんだ」
しかし神綺はあっさりと言い放った
「単純な事よ。『魔界にある本体』を叩けばいい」
「…本体……だと?」
「そもそも人間界にある西行妖とやらは唯の桜の木にアレの『気』が取り付いて変化を遂げた妖怪桜よ。言い方を変えれば分身のようなもので、その役目は吸収したエネルギーを魔界にある本体へ供給する事なの」
「…………供給が済んだ後は、どうなる?」
答えはわかりきっていた。
だが次々と明らかになる事実に動揺する自身を落ち着かせるため、少しでも口に出して確認したかった
ーーー『あの化け物が本当の意味で復活を遂げるわ』
シリアス回、もう少し続きます。
次回もお楽しみに!