東方万能録   作:オムライス_

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いよいよ年末ですねー。笑ってはいけないを毎年見るのが、主の年末の締めでございます



120話 隼斗の魔界探索記 ⑦

天高く燃え上がる紅蓮の刀身は、周囲に凄まじい熱気を撒き散らしながら徐々に四散していき、再び元の何もない空間へと戻った

 

天も地も水鏡の様な世界で隼斗は膝をつき、切断された左腕から流れ出る鮮血が映し出される光景を視線で流しながら、霊力で創り出した糸を上腕に巻き付けた

 

 

「……ッッ」

 

 

止血はしても痛覚は誤魔化せない。

息が詰まる様な激痛が続く中、なんとか治癒術を施し傷の断面を塞いだ

 

 

 

ーーーそして見つめる一点。隼斗は深く息を吸い込むと、一気に立ち上がった

 

 

「少しは効いたかよクソ野郎」

 

 

 

隼斗は笑い、そう悪態づいた

 

 

《……『犠牲破道』か。確かにそれは読めなかったぜ》

 

 

視線の先で宙に浮く《隼斗》の右袖は焼け焦げ、右腕からは一筋の血が流れていた

 

 

「お前にも血が通ってるみてェで安心したぜ」

 

 

傷を与えることができた。

力の差は絶望的じゃない。ほんの僅かだとしても勝機はある

 

隼斗は今一度構えた。片腕を失ったことで状況は更に劣勢になってしまったが、その事実が彼に再び活力を戻した

 

 

《……ああ、もしかして勝てる気でいやがんのか?》

 

 

 

 

そんな言葉が発せられた直後、既に視界一面を覆う程の破道の波が押し寄せていた

 

 

「くっ…!」

 

 

瞬閧を纏い、即座にその場を離脱するため側方へ跳んだ。

僅かに擦りながらも範囲外へ逃れ、体勢を立て直し《隼斗》を見る

 

 

 

ーーーいない

 

 

 

《さっきまで本気だと思ってたのか?》

 

 

声は後方から。

姿を確認している余裕はない。隼斗はその気配を頼りに背部から瞬閧を噴射する形で打ち出した

 

 

 

途端に正面から迫る拳……

 

 

「ッッ!!」

 

 

咄嗟に頭を横へ振り紙一重で躱す。同時に拳圧により生じたソニックブームの様な衝撃波によって聴覚に異常をきたした

 

 

《だとしたら相当ハッピーな野郎だぜお前はァァ!!》

 

 

最早視覚的察知も、気配による探知も間に合わない。容赦なく突き刺さる《隼斗》の爪先が、隼斗の身体を上空へとカチ上げた

 

 

「ごふっ……ゼェ…ヒュー……」

 

 

体内の空気が押し出され、同時に血を吐き出した。やがて勢いが止まると重力に従って落ちていく身体。

眼下では《隼斗》が掌を向けていた

 

 

《おら、避けねェと死ぬぜ?》

 

 

ドドドドドドドドドドドドドドッッッ!!!

 

 

次々と打ち出される光弾は、狙らいを定めたというよりも乱射に近かった。

それは相手に『躱す』といった回避行動をさせないため。

自ずと受けて凌ぐしかなかった

 

 

「『断…空……』!」

 

 

隼斗には詠唱は疎か術番号すら口にする余裕がなかった。

そんな状態で障壁の反対側へ跳んだのは殆ど反射の様なものだろう。

光弾は一瞬で断空を砕き、連鎖する様に炸裂していった。

その様子を退屈そうに眺める《隼斗》は、呆れ顔で呟く

 

 

《あー、もう駄目だなありゃ》

 

 

まるで壊れた玩具を見つめるように溜息を吐いた。視線の先では全身ズタボロとなった隼斗が、息も絶え絶えに立ち上がろうとしている

 

 

《……》

 

 

《隼斗》は無言で歩み寄り、その脇腹を蹴り飛ばした

 

 

「がふっ…!?……あ゛…」

 

 

隼斗の身体はサッカーボールの様に何度も転がり力無く停止する

 

 

《どうだ?淡い希望は失せたか?》

 

 

両手を広げ、嘲笑うような笑みを浮かべながら《隼斗》は距離を詰めていく

 

片腕を支えにしながら、ガクガクと震える身体を無理やり起こす隼斗。

先程まで背に纏っていた高濃度の霊力はいつの間にか消失しており、最早戦える状態にない事は火を見るよりも明らかだった

 

 

「……」

 

 

それでも立ち、構えをとった。

亡くした左腕側を前に、右拳を顎元に。若干姿勢を落とした至って基本の武道の構え

 

 

《産まれたての仔鹿ちゃんよォ。そんな霊力も使い果たしたズタボロの身体で何生意気に構えてやがる?》

 

 

その行動が癇に障ったのか《隼斗》は拳を引いた。なんの小細工も無いただ握りこんだだけの拳。だが目の前の男は霊力で防護する事すらできない瀕死の状態。そんな男の頭を首から千切り飛ばすには十分だった

 

 

《終いだ。次はあるかもわからねェ地平線まで飛ばしてやるよ》

 

 

興味をなくした声色でそう言ってから、なんの躊躇もなく振るわれた

 

 

 

迫る拳

 

 

 

……この時隼斗に意識は無かった

 

 

 

 

 

 

 

だが、

 

 

 

《……あ?》

 

 

 

ーーーその一撃は止められた。

ゴボゴボと音を立て、『再生した左腕』によって

 

 

《……ンだよ、おい》

 

 

一瞬理解が追いつかず、《隼斗》の思考が停止する

 

そして拳を打ちっぱなしの姿勢のまま硬直していた事に気付いた時には、隼斗の右拳が顔面を捉えていた

 

そのまま足裏が地を離れ、ノーバウンドで数百メートル吹き飛ばされた

 

 

《チッ…!》

 

 

唇から流れる血を拭い、速攻で体勢を戻した《隼斗》は、前方を睨みつけ地を蹴った。

未だ自身を殴り飛ばした男は同じ場所で突っ立ったまま構えすらとっていない

 

 

《(……野郎、いつの間に再生させた…?そもそも俺を殴り飛ばすだけの力がどこに……)》

 

 

その背に高濃度の妖力を噴出させ、急加速しながら、すれ違いざまに隼斗の首を斬り落とすため手刀を振るった

 

 

「……」

 

 

ガシッ、と飛んできたボールをキャッチする様な動作で、隼斗はいとも容易くその手を掴み取った。

同時に速度まで殺された《隼斗》は、腕を引っ張られる形で体勢を崩す

 

 

《テメェ……、っっ?!》

 

 

掴まれた腕に視線を移した《隼斗》は思わず目を見開いた

 

自身を捕まえているのは間違いなく隼斗の左腕。しかしその腕は『人間のモノではなかった』

 

獣の様に発達した爪。腕の表面には肩口に向かい逆立って生える体毛の様な鋭い突起物。

再生した上腕部から指先にかけては、ふた回り程肥大化した真っ白な腕となっていた

 

 

《……何だよ、そりゃァ…?》

 

「……」

 

 

言葉による反応はない。

光の灯っていない冷たい視線を向け、隼斗は右手で《隼斗》の顔面を掴んだ

 

 

《!》

 

 

顔を掴む掌にドス黒いエネルギーが蓄積されていく。霊力とは違う、《隼斗》と同じ性質を持ったその力は、やがて淡く瞬いた

 

 

《ッッ!!》

 

 

ギリギリで《隼斗》はその右腕を斬り落とした。同時に瞬閧を纏い、左腕を蹴りつけ離脱する

 

 

 

 

 

《……………おいおい、マジかよ》

 

 

軽口とは裏腹に、《隼斗》は明らかに動揺していた。

瞬閧を纏わせ、全力で蹴りつけた左腕には傷一つ入っておらず、斬り落とした右腕は先と同じ様に再生・変異していた

 

 

ーーー力の侵食は止まらない。

白い体表はそのまま隼斗の顔半分を覆い、まるで欠けた仮面を被っているかの様に見えた

 

 

 

 

 

《……テメェ、いつの間に俺の力を取り込みやがったんだ…!》

 

 

返ってくるのは鈍く光る冷たい視線のみ

 

 




隼斗、闇堕ちっぽい展開となりました

この魔界編もいよいよ大詰め。次回辺りに決着かな…?



……そしてなんですが、気がついたら前回の投稿日の時点で既に1周年迎えてるどころか通過してたんですね。
昨晩徐ろにスマホ見てて気付きました 笑

主「あー、もう直ぐ年末か〜。ガキ使楽しみだな〜、……………アレ?一年とっくに過ぎてね?」



年末年始までもう少し!
皆様、良いお年を!!m(_ _)m

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