東方万能録   作:オムライス_

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新年明けましておめでとうございます!!
皆さんお餅は食べましたか?ガキ使はご覧になりましたか?
主は正月太りが怖くてあまり食べられませんでした^^;

今年一発目の投稿という事で、はりきっていつもより文字数が増し増しになっちゃいました。

魔界探索記編、今回が最終章となります!!


121話 隼斗の魔界探索記 最終章

 

白い体表の侵食は少しずつ進行し、徐々に隼斗の身体を覆っていく。

獣の様に発達した両手を広げ、ゆっくりと《隼斗》を見据えた

 

 

《ッッ!?》

 

 

目前に迫る白い爪。

いつの間に接近したのか……。

まるで移動する過程をすっ飛ばしたかの様に隼斗は一瞬で距離を詰めた

 

 

しかし腕の動きは見える。

左右から爪による横薙ぎ。

右の方が若干速い

 

 

《隼斗》はそこまで思案すると、スウェーの様に上半身を大きく逸らし両爪を回避。

更に攻撃後の一瞬の硬直を見計らい、背中から瞬閧を噴射。

その推進力を使って勢いよく上体を起こしながら、隼斗の顔面へ拳を叩き込んだ

 

 

「……」

 

 

その凄まじい衝撃にもかかわらず、隼斗の身体は後方に仰け反っただけだった

 

 

《……オーケー。テメェには手加減しちゃいけねェんだな》

 

 

《隼斗》はそう言うと、まだ強化されていない生身の左足へ回し蹴りを放った

 

 

ゴギッゴギッブチィィッッ!!と鈍い音が鳴り、隼斗の左足は膝から下が滅茶苦茶な方向へ折れ曲がり、千切れ飛んだ。

 

 

「……」

 

 

痛がる素振りこそ見せないものの、片足を失った事でバランスを崩した隼斗へ、《隼斗》は複数の術を練り上げ一挙に放った

 

 

まず『六杖光牢』が身体の自由を奪い、それと重ねる様に『鎖条鎖縛』で縛り上げる

 

 

《もう一つオマケだ》

 

 

更にその上から九十九番の縛道『禁』をかけ、《隼斗》はこの戦いで初めて詠唱を口にした

 

 

《滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる 爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ》

 

 

掌より渦巻く漆黒の塊は直方体の黒い箱となり隼斗を囲った

 

 

《破道の九十『黒 棺 』》

 

 

 

ギシ……ッと軋む様な音が響き、黒い箱に囲われた空間ごと重力の奔流によって圧砕された

 

 

やがてゆっくりと消えゆく箱を見つめながら《隼斗》は笑みを浮かべる

 

 

《再生する奴を倒す時は跡形もなく消滅させるのがセオリーだよなァ?》

 

 

 

ーーーしかし、

 

 

 

ゴギギギギ……ッッッ!!

 

 

 

空間に硬いものが擦れ合う様な鈍い音が響き渡った。出処は言うまでもなく《隼斗》の目の前から

 

 

《………おい、マジか》

 

 

思わずそんな言葉が出た。

そして《隼斗》は、先程自身が唱えた言葉を自身で訂正することになる

 

その説が通るのは飽くまでも、相手をちゃんと『消滅させきる』ことが出来ていればの話だと……

 

 

 

「ア゛ア゛ァ……」

 

 

息を吐いた時に自然と漏れた様な小さな唸り声。だがその声を聞いた《隼斗》は全身に悪寒を覚えた

 

 

《……はっ》

 

 

そして知った。

今の自身の力は目の前の男から奪った仮初めの力。

しかしその男が纏っている力もまた、自分の力なのだ。

互いに相手の封じられた力を使って戦っている

 

 

 

………にもかかわらず、

 

 

 

《俺には扱いきれてねェってのか?お前の力が!そんな力に溺れてる様なテメェにすら劣ってるってのかッ!?》

 

 

「……」

 

 

返事はない。

既に顔半分以外は白い体表に覆われ、新たに腰下から生えた爬虫類の様な尻尾を揺らしながら、隼斗はのそりと爪先を二本、《隼斗》へと突きつけた

 

 

ヴゥ……ンと赤黒いエネルギーが溜まっていく。

それは水鏡の様な空間全体を真っ赤に染める程の眩い光を発していた

 

 

《上等だぜクソ野郎……!!》

 

 

《隼斗》は背中から発する高濃度の妖力を拳一点に凝縮させた。こちらも同質の禍々しい光を放ちながらも、その精度を高めていく

 

 

《ォォォおおおおおおおおおおおおお!!》

 

 

 

《隼斗》は咆哮し、両者の一撃が交差する。

同質の力の均衡に、エネルギーの余波が周囲に飛び散り轟音が鳴り響いた

 

 

だがそれも最初の一瞬だけ。

隼斗の指先から放出される赤黒い閃光が、《隼斗》の拳に集中している妖力を削り取り始めた。

徐々に押され始め、身体が後退し始める

 

 

 

《ぐっ……アアアアアァアア!!!》

 

 

拳から腕、肩口から背中がミシミシと悲鳴を上げ始めた。だが一瞬たりとも力を緩めれば途端に圧し潰されてしまう。

《隼斗》は姿勢を落としながら拳にもう一方の手を翳し、更に力を流し込んだ

 

 

 

ゴォォオオッッ!!

 

 

「!」

 

 

先まで表情の無かった隼斗は目を見開いた。

瞬間的に増大した《隼斗》の妖力が逆に自分の出力を上回ったのだ

 

 

 

隼斗の白い身体は赤黒い波に飲み込まれた

 

 

 

 

《はっ、はっ……ったく、手こずらせやがって》

 

 

ダラリと《隼斗》は腕を降ろした。限界に達した右腕は皮膚が裂け、所々出血している。

妖力を使いすぎた為か本来の治癒力も弱々しい

 

 

視線の先では『右半身が消し飛び』、倒れ伏す隼斗の姿があった

 

 

 

《はぁ……。『負け』、か》

 

 

その言葉が示す様に隼斗の身体がピクリと動いた。

全身全霊を込めた一撃。

だが目の前の『怪物』を消し切る事が出来なかった

 

 

《……ムカつく野郎だぜ。俺の力が全盛期であったなら、態々テメェの力を奪うまでも無かったのによォ…。それがあのクソ忌々しい神二匹の所為で……!》

 

 

傷口からゴボゴボッと音が鳴り、欠損した箇所が凄まじい速度で修復されていく

 

 

《チッ……、いいさ。今回は負けを認めてやる。事実、どうやって手に入れたかは知らねェが、俺の力をそこまで引き出しやがったわけだしな。……まあ、力に飲まれちゃいるが》

 

 

再び隼斗の瞳が開かれた。

倒れた姿勢のまま、眼球をギョロギョロと動かした後、勢いもつけずに立ち上がる。

そして、完全に再生した手足の調子を確かめる様に細かに動かし始めた

 

 

《だが忘れんじゃねェぞ。その力がテメェの中にある限り……、俺はいつでもテメェの身体を乗っ取る隙を窺ってるってことをなァ!》

 

 

 

 

ふと隼斗は動きを止め、《隼斗》を凝視した。

カチャカチャと鎌の様な爪を鳴らし、心なしか笑みを浮かべている様に口角を上げた

 

 

ーーー隼斗の姿が消失する

 

 

 

 

《………まっ、その状態から復帰できねェ事には、テメェも終

 

ザシュゥゥゥッッッ!!

 

 

言葉は途切れ、魔界の神でさえ『厄災』と称した死の化身は原型をとどめることなく斬り刻まれた。

その残骸は煙の様に消失した

 

 

「………」

 

 

一人その場に残された隼斗は、掌を見つめたまま停止する

 

 

 

 

 

「ア゛ア゛ァ。……………!?」

 

 

 

 

途端に頭に鋭い痛みが走った

 

 

 

 

「ガッ…!ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!??」

 

 

まるで頭の中を百足が這いずり、掻き回しているような苦痛に隼斗はのたうち回った。

叫び、爪を地に突き立て、頭を何度も打ち付けた

 

 

痛みは引かない。

気が付けば目や口から血を流し、視界も黒く染まっていく

 

 

「!!」

 

 

唐突にガクンっと膝をついた。

見ると膝から先が砕かれたブロックの様に崩れている。

視線を転じれば、掌の先からも徐々に崩壊が始まっていた

 

 

「……!………!?」

 

 

次に身体の感覚が失われた。

隼斗は目を見開いたまま仰向けに倒れ伏した。

身体は確実に崩れていく。

既に四肢は殆ど残されていない。

後は頭が先か、胴体が先かだ

 

 

 

 

「………消えろ」

 

 

 

力に飲まれ、理性が失われた筈の隼斗は確かにそう口にした。

存在が崩壊していく中で、本来の自分と、力に飲まれた自分の意識が混濁していたのかもしれない

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそんな彼の頭にとある声が響いた

 

 

 

 

『そのまま壊れていくつもり?戻りたくはないの?』

 

 

女性の声。

だが隼斗はその言葉に反応しない。

そもそも意識があるかさえもわからない状態だ

 

 

直後、隼斗の頭上にこぶし大の光の玉が現れる。

声の主は続けた

 

 

『貴方にまだ戻りたいと言う意思があるなら、その手を伸ばしなさい』

 

 

「……」

 

 

 

 

 

 

ーーー

ーー

 

 

 

目を覚ました隼斗の視界には緋色の空が広がっていた。暫くボンヤリとした後、冷んやりとした土の感覚が身体の背面に伝わっているため、此処でやっと仰向けに寝ているのだと気付いた

 

 

「気が付かれましたかな?」

 

 

聞き覚えのある声が耳に届いた。

隼斗は頭だけを動かしその人物を見上げる

 

 

「……妖忌か」

 

 

そう言って一度視線を空へと戻し、のっそりと起き上がった。衣服についた土を払いながら改めて周囲を見渡すと、すぐ目の前に西行妖の根があった

 

 

「……」

 

 

黙ったまま根を眺めている隼斗へ、妖忌は隣に立ちながら尋ねた

 

 

「……決着は、つきましたかな?」

 

「………ああ」

 

「そうですか」

 

 

妖忌はそれ以上何も言わず、西行妖に刺さっている宝刀を掴むと、ゆっくりと引き抜いた。

長年封印の役目を果たしていたその刀の刀身は、すっかり錆びてしまっていた

 

 

「いいのか?抜いちまって」

 

「役目は終えました故……。」

 

 

妖忌はそう言って、鋒から刀身を指でなぞる

 

 

キン……ッ

 

 

そんな軽い音が鳴り、錆びてボロボロになっていた刀身が白銀の輝きを取り戻した。

妖忌は『予め用意していた』のか、空きの鞘を取り出し刀を納めた

 

 

 

 

「………終わった」

 

 

 

 

隼斗はある一方を見つめ、静かに呟いた

 

 

 

「………助かったよ、魔界神」

 

 

隼斗は踵を返した

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

魔界に高々と建つ城。

いつもと変わらぬ緋色の空を見上げながら、魔界の創造神である神綺は、その背に生える六枚の翼を引っ込めた

 

 

「どうやら、何とかなったみたいだな」

 

 

背後から掛けられた声に、神綺はにこやかに返した

 

 

「あらあら、貴女がこんな所に来るなんて珍しいわね〜」

 

「本意ではないがな。にしても、相変わらず似合わんなその羽」

 

 

頭から鹿の様な角を生やした赤髪の女は、今さっきまで神綺の背に生えていたデビルチックな翼を指摘して笑った

 

 

「何よー、いいじゃない可愛いから」

 

「……自分で言うか?」

 

「それはそうと、今日はどうしたのかしら?」

 

「いや、わかれよ。あの桜の件に決まっているだろう。それともう一つh…」

 

「その件なら片付いたわよ〜」

 

「うん、だからね?最初に言ったよね?『何とかなったみたいだな』って私言ったよね?」

 

「まあまあ、そう怒らないで『龍神』ちゃん♪」

 

 

龍神は一度咳払いをすると、改めて話を本筋に戻した

 

 

「………正直、危険な賭けだった。百年前、奴の存在だけを消し去り、『力だけをあの人間の内に残す』。自我として芽生えた奴を倒すにはそのベースとなった柊 隼斗でなくてはならなかったからな」

 

「結果的に飲まれてしまったけどね。何とか助け出せて良かったわ」

 

「すまんな。お前と柊 隼斗には悪い事をしたと思っている」

 

「……何にせよ、これで一先ず安心ね」

 

 

そう言って安堵の息を漏らす神綺とは対照的に、龍神は険しい表情を作ったまま首を横に振った

 

 

「………実は今、人間界で問題が起きていてな」

 

「……問題?」

 

「先日、『死の天使』が降り立ったと思われる形跡を見つけた」

 

「!?」

 

 

神綺は表情を強張らせ、目を見開いた。

その言葉を聞いただけで一瞬翼を展開しかけてしまった。

しかし予想していた反応なのか、龍神は静かに瞳を閉じ、告げた

 

 

「神綺……、我々クラスの神が介入する時は、原則として世界が崩壊の危機に陥った場合のみだ」

 

 

だが、と龍神は付け加え

 

 

「例え被害が世界の一部分だったとしても私は動くつもりだ。………奴はそれだけの存在なんだ」

 

「………その口ぶりからして、『おおかた出現場所に見当』はつけているんでしょう?」

 

 

本来であれば、世界を創り出した神に対してこんな質問はありえない。

その世界の事象を把握し、万が一の事態には掌握して改変することさえ可能な彼女等にとって、不確定要素など存在しないのだ

 

 

ただ一つ、例外をあげるのであれば、それは人間界にも魔界にも属さない異世界の住人。

更に、龍神の探知すら掻い潜る程の存在という事になる

 

 

 

龍神は視線をある一方へと移し、ある人物を思い浮かべながら告げた

 

 

 

 

 

 

「ーーー『幻想郷』だ」

 





何やらややこしい展開が顔を出し始めたところで、今回はここまでです。
うーん、まあ……。結構ベタな展開を詰めすぎたかー?なんて思いますが、正月のテンションで書いてしまいました 笑
今年のクリスマスはサンタのおっさんに『文才』をお願いしようかな


【2016年も、よろしくお願いします!!】

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