東方万能録   作:オムライス_

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遅くなりましたが投稿します!



127話 悪魔の猛威(後編)

頭部を吹き飛ばされた霊夢は、力無く膝をついた。その手に持っていた数枚の御札がはらはらと落ちる

 

 

「……」

 

 

幻月はそんな様子を黙って見つめた後、徐に意識を背後へと向け、口を開いた

 

 

「あら、殺ったと思ったんだけど」

 

 

返答があった

 

 

「あら、夢でも見てたんじゃない?」

 

 

その瞬間、足元に転がっている『霊夢の姿をしたもの』は煙の様に飛散した

 

 

(分身……、いや幻影?……どちらにせよ私の目を一瞬欺く程の精度か)

 

 

幻月は後方へ向き直ると、自身を見下ろしながら笑みを浮かべる霊夢へ掌を向けた

 

 

「……私相手に『様子見』なんて粋なことしてくれるじゃない」

 

「気に障ったかしら?さっきまで気味悪く貼り付けてた笑顔が消えてるわよ?」

 

「ほざけ」

 

 

幻月の掌から光弾が発射された。

視界一面を覆い尽くす光の弾幕に躱すだけの隙間はない

 

 

霊夢は結界を多重に展開させた

 

 

「…ッ」

 

 

あまりの衝撃に表情が強張る。

着弾し、轟音が響き渡る度に結界に亀裂が刻まれていく。

確実に破壊されていく自身の命綱。しかし霊夢は印を結んだ

 

 

「霊符『夢想封印 集』!!」

 

 

展開されている結界を擦り抜け、放たれたカラフルな光弾は空中で一度停止すると、幻月に引き寄せられるように全方位から襲いかかった

 

 

「無駄よ!」

 

 

先程と同様、幻月は正体不明の力を振るう。

光弾は彼女の手前で方向を変え、あらぬ方向へ逸れていったが、

 

 

「!」

 

 

光弾は空中で停止した。

そして再び幻月へ向かって動き出す

 

 

「残念。それはアンタに当たるまで止まらないわ!」

 

 

ふと、幻月は自身の肩口に目をやった。

いつの間にか一枚の御札が淡い光を発しながら貼り付いていた

 

 

(……あの時か)

 

 

それは先程霊夢が『出鱈目に投げた札』の中に忍ばせていた本命。

動く的となった幻月は、すぐさま『目印』を剥がそうと札に触れるが、まるで反発するかの様に弾かれてしまう

 

 

「くだらない小細工ね」

 

 

しかし、白翼の悪魔はそう吐き捨てた。

翼をはためかせ、一度上空へ飛翔する。当然標的を追って同じ様に上へと向かう光弾を前に、幻月は掌を翳した

 

 

 

空間が歪む。

まるで渦潮の様に掌の先で生じた異空間は、次々と着弾する光弾を呑み込んだ。

同時に幻月の肩に貼り付いていた御札が風に揺られて剥がれ落ちる。

それは夢想封印の消滅を意味していた

 

 

「……ますますわからないわね。アンタの能力」

 

「わかったところで同じことよ」

 

 

幻月は片手を掲げる。その先に紅いエネルギーの塊が発生し、バチバチと稲妻が迸る。

そしてエネルギー球は直径5メートル程の大きさに落ち着いた

 

 

「……ッ!」

 

 

霊夢は直感で察した。あれ程の莫大なエネルギーが炸裂すれば、ここら一帯ごと吹き飛んでしまう

 

 

「こっちよ!!」

 

 

そう叫び、幻想郷の大地をエネルギー球の射線上から外すため、全力で上空へと飛翔する。

だがそれを見越してか、幻月はその場にエネルギー球を残し、霊夢の目の前に躍り出た

 

 

「!?」

 

「遅い」

 

 

自信へと伸びてくる悪魔の掌。霊夢は即座に陰陽玉を展開し反撃に移ろうとするが、その動きは悪魔にとって遅すぎた

 

直後、霊夢の身体は金縛りにあった様に動かなくなる。陰陽玉の制御は勿論、身震いどころか眼球すらも微動だにできない

 

意識はあった。明確にくっきりと。

五感も残っている

 

 

(身体が固定された!?……ッッ呼吸が…!!)

 

 

呼吸運動ができない。即ち、肺を動かすことができていない。

だが今もこうして意識を保っているのだから、少なくとも心臓や脳の様な自律神経で動く器官は正常に働いている

 

 

ーーーつまり、意識的に動かすことのできる機能のみが停止していた

 

 

「私のお手製空間は気に入ってもらえたかしら?これが貴女が最期まで解けなかった力の秘密よ♪」

 

(!)

 

 

今や苦悶の表情すら作れない霊夢へそう囁いた夢月は、今迄にない微笑みを零すと、ゆっくりと停止させていたエネルギー球を霊夢の元へ誘導する

 

 

「さよなら」

 

 

数秒後、凄まじい轟音と閃光が炸裂した

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

周囲の木々が薙ぎ倒された場所で、身体を鋼に硬質化した夢月は、むくりと起き上がった。

そして辺りを見渡す

 

 

「びっくりした〜。まさか『自爆』するとはね」

 

 

能天気な調子でそう呟く。

その言葉が指す通り、先程この場所で小規模な爆発があった

 

 

ーーー原因は、至近距離でのマスタースパークだった

 

 

それを放った霧雨 魔理沙の姿はない。

衝撃で吹き飛ばされてしまったのか、はたまた消し飛んでしまったのか。夢月はその程度に考えて探索を開始する

 

 

(いくら避けられないからって無茶するな〜。ああいう子には武器持たせたら駄目だよ)

 

 

夢月は一人頷きながら身体の硬質化を解いた。

腕を巨大な鎌に変化させ、カチカチッと鳴らす

 

 

「およ?」

 

 

ふと、道端に落ちている小瓶を見つけ立ち止まった。中には如何にもな色の怪しい液体が入っている

 

 

「あの白黒の落し物かな?それとも……」

 

 

夢月はそこで言葉を切り、後方へ向けて鎌を振るった。

刃の部分に弾かれ、地面に落ちたのは何の変哲もない拳大の石ころ。

怪訝な表情を浮かべ、石の飛んできた方向を凝視した夢月は、倒れている木の幹へ鎌の先端を引っ掛けた

 

 

「そこか!!」

 

 

叫び、引っ掛けた幹を勢いよくぶん投げる。

木々がへし折れる乾いた音と共に、土煙を上げながら木の幹は地面へ突き刺さった

 

 

「ははーん。さてはこの小瓶を割って中の液体を浴びせる気だったのかな?」

 

 

摘み上げた小瓶を振りながらほくそ笑む夢月へ、反響気味に声が掛かった

 

 

 

 

「それ、時限式だぜ」

 

 

 

声と同時に、ボンッッ!!と音を立てて小瓶は破裂した。中身の液体が飛び散り、空気に触れた瞬間同色の気体が発生する

 

 

「うわっ……、汚ったないなぁ。服にかかっちゃったよ」

 

 

夢月は付着した液体を不機嫌そうに払うと、掌を地面へ押し付けた

 

 

「今のはちょっとムカついた」

 

 

直後、夢月を中心に地面から鋭い突起物が飛び出した。辺り一帯を纏めて串刺しにすることで、少なくとも声の届く範囲にいるであろう標的を巻き込むため

 

 

 

 

あっという間に森林を更地へと変えた夢月は立ち上がり、聳え立つ突起物を目にしながら呟いた

 

 

「さーて、当たってるかな?」

 

 

パチンッと指を鳴らす。突起物は形を失う様に、『元の土』へと戻った。

周囲には土塊と木々の残骸が散乱し、最早この中に死体が一つ転がっていようが、発見困難な状態だった

 

 

「……」

 

 

 

 

暫しの静寂が続く。微風が髪を靡かせる中、夢月はある異変に気付いた

 

 

(あれ?風の音ってこんなに静かだったっけ?)

 

 

直後だった

 

 

唐突に背後から悪寒を覚えた夢月は、反射的に身を屈めた

 

 

ギュンッッッ!!!と、頭上を凄まじい速度で何かが通過する。それは辺り一帯の土塊や木の残骸を吹き飛ばしながら、急激な減速によって夢月の前方20メートルの位置に停止した

 

 

「まさか今のを躱すなんてな。中々やるじゃないか」

 

 

白黒魔法使いは、箒に取り付けた八卦炉から上がる硝煙を息で吹きながら言った。

夢月は怪訝な顔をする

 

それは唐突に現れた魔法使いに対してでは無い

 

 

「可笑しいなぁ。『耳が聞こえない』んだけど?」

 

 

小指で耳の穴をほじくり返すも、今の夢月には先程の轟音も、魔理沙が口にした言葉も、自身の発した言葉さえ聞き取れていなかった

 

 

「ああ、今は聴覚か」

 

「!?」

 

 

聞こえた。最初の部分は聞き取れなかったが、ハッキリ『聴覚』という言葉を耳にした

 

 

代わりに『視覚』を失いながら

 

 

「おっ、今度は視覚か?心配するな。次期に戻るさ」

 

「……何をしたの?」

 

「お前がさっき浴びた小瓶の中身。アレには発生した気体を吸い込む事で吸引者の五感をランダムに遮断する成分が含まれていたんだよ。魔法の森に群生してるキノコから抽出した魔理沙さんお手製だ♪」

 

 

魔理沙は普段から魔法の森を探索しては調合によるマジックアイテムの生成を研究していた。

元々魔法の森に存在する動植物には人体に有害な成分を含んだ素材が数多く存在する。

その中には人間だけでなく、妖怪にすら影響するものまである

 

 

「まっ、正直中々効果が現れないから心配ではあったけどな」

 

「あっ、見える」

 

 

瞳を開閉しながら、身体の異常を探る。

音は聞こえる。嗅覚もある。

潰されたのは触覚か味覚か……

 

 

身体に触れ、触覚だとわかった

 

 

「ウザいなぁ。これじゃあ変化させ辛いじゃん」

 

「『変化』ねぇ。さっきから見てたが、お前の能力は物質を変化させるものだと思うんだけど、どうだ?」

 

「おしい。『物質を創り変える』のが私の能力」

 

「……言っちゃうんだ」

 

 

会話もそこそこに、両者は構えた

 

若干歪ながらも、両腕を剣に、身体全体を鋼に変化させた夢月は、静かに重心を落とす。

 

八卦炉を握り、箒に跨りながら懐の魔法瓶に手を添える

 

 

「卑怯者め!成敗してやる」

 

「真剣勝負に卑怯なんて言葉は無いんだぜ!」

 

 

 

ーーー

 

 

幻月は目を見開いた

 

多少なりとも力を込めたエネルギー球。

大地に着弾すれば、ここら一帯を吹き飛ばすには十分な威力を有している

 

それが至近距離で炸裂したというのに、目の前の人間は先程と変わらぬ姿で浮いていた

 

 

「これ使うと疲れるからあんまり使いたくなかったのに……」

 

 

紅白巫女は何食わぬ顔でそう呟いた

 

彼女の奥の手。

『 夢 想 天 生 』を発動させながら

 

 

 

 

「無傷……。一体どうやって防いだのかしら?」

 

 

 

「防ぐ必要なんてないわ」

 

 

霊夢は懐から数枚の御札を取り出し、上へばら撒いた。

宙を舞う札は、規則性のある動きで霊夢等を囲うように動きだす

 

 

「夢境『二重大結界』」

 

 

ギシッッ……と、浅紫色の直方体が二重に展開され、双方を一つの空間へ閉じ込めた

 

 

「……何の真似?」

 

「夢符『夢想封印』」

 

 

霊夢は返答を弾幕で返した。

真っ直ぐ打ち出された色鮮やかな光弾に対し、幻月は溜息を吐きながら掌を翳す

 

 

「何度やっても同じ……

 

 

幻月の言葉はそこで切れた

 

 

 

 

ーーー光弾は次々と彼女へ着弾し、結界内で轟音と衝撃波が発生した

 

 

「ーーーッ!?」

 

 

幻月は驚愕の表情を浮かべ、霊夢を見た。

……ありえない。確かに光弾の軌道を逸らした筈だ、と

 

 

「この中ではアンタの能力は使えないわよ?」

 

 

霊夢は淡々と口にする

 

 

「アンタの能力はどうも空間に作用する能力みたいだったから、この通り。結界で囲わせてもらったわ」

 

「……どういう意味?」

 

「結界って言うのは一種の『空間支配術』なの。囲った空間はそれまでの理から外れ、外界の変化を受け付けない。多くが封印や防護壁として使われているのはそのためよ」

 

「ッ!」

 

 

夢月は言葉を聞き終わる前に霊夢へ向けて突進した

 

要はこの空間内では能力が封じられている。

それだけ解れば十分。この程度の相手、力押しで殺せる…!

 

夢月は視認できないほどの加速力を持って霊夢へ爪を突き立てた

 

 

「!?」

 

 

しかし一撃は空を切った。躱されたわけではない。明らかに擦り抜ける形で霊夢の身体を通過した

 

 

「今の私には触れることはできない。この空間に閉じ込められた時点で、アンタは詰みよ」

 

 

 




次回の投稿は二週間後の3月7日となります。

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