サブタイ通り、今回で悪魔姉妹との戦闘はラストになります。
結界によって限られた空間内。先程とは打って変わって幻月の衣服はボロボロだった。
天使の様な純白の翼は煤汚れ、ワンピースの裾は所々解れ、焼け焦げていた
だがそれだけ。
ーーー幻月の自体には傷一つ無かった
「その嘘みたいな反則技はいつ解けるのかしら?」
「その馬鹿みたいに俊敏な動きを止めて大人しく退治されてくれたらよ」
結界内の中央で腕を組みながら呆れ顔で霊夢は返した。その言葉通り、空間ごと能力も制限された状態でかれこれ30分近く、目の前の悪魔は攻撃を避け続けている。
偶に反撃をする余裕まで見せながら
「……まあいいわ。そんな反則技ならどうせ長くは続かないでしょうから」
「何故そう思うのかしら?」
「貴女、さっきからあまり強力な攻撃をしてこないもの。力の消費をなるべく抑えたいんでしょ?ソレを維持するために♪」
穏やかに微笑みかける表情に反し、その瞳は全てを見透かしているかの様な圧力があった
事実、霊夢は見た目以上に疲労していた。
外見上は何事もなく振舞っているが、『ありとあらゆるものから浮く事で、完全な無敵状態となる』この奥義は発動するだけでも多大な量の霊力を消費する。
時間制限付きのスペルカードルールに於いてはある程度抑えられている為かその限りではないが……。
発動したからにはこの戦いは早急に決めたかった
(コイツ、予想してたよりもずっと強い…。参ったわね、結界で囲っちゃえばある程度はイケると思ったのに)
ここで、霊夢は『余裕振る』のをやめた
(どのみち向こうは気付いてる。なら下手に節約してる場合じゃないわね…!)
身構え、傍に二つの陰陽玉を展開する。
札を何枚か取り出し、結界内へばら撒いていく
「あら、やる気になった?」
「悪いけど話してる時間が勿体無いわ」
直後、霊夢の姿が煙の様に靡き、不鮮明になる。周りの空間も同様、陽炎の様に揺れ動く
「幻術……ってやつかしら」
幻月はすぐ様凛とした表情となり、周囲に意識を向ける。元々夢想転生の発動によって霊夢自身の気配は断たれている為、視覚の外へ動かれると聴覚や攻撃直前の殺気を読むしかない
隙無く構え、いつでも動き出せる態勢を整えた幻月は静かに待つ
「!」
直後、側方より大量の弾幕が殺到する。
これを前方へ飛び出す事で躱すと、今度は正面と後方から同様に弾幕が打ち出された
未だ巫女の姿は見えない
幻月は一度その場に留まり、自身も弾幕で相殺させながら死角の弾幕まで確実に回避していく
次いで前後左右から迫る大粒の光弾。少し前にあの巫女が何度か放っていた封魔作用のある霊術だろうと判断し、一層強力な力を込めて光弾を打ち出した
回避しなかったのはこの攻撃は追尾性能があると知っていたから
ズドドドォォンッッッ!!!と、轟音が響き渡り、次々と相殺されていく
「!……下ッ!」
噴煙も消えぬ内に幻月は直感で真下からくる攻撃を察知し、その場から大きく離れた。
その一瞬後に、橙色の光の柱が空間を囲う二重の結界を突き抜け天に伸びていった
「これも結界?器用なものね、巫女って言うのは………ッ!?」
突如、幻月の動きが強制的に止まった。
縛り付けられた様に固まった身体に力を入れ、首だけをぎこちなく動かし足元を見る
「な、に…?」
足元には陣が浮かび上がり、その部分に触れている足裏から膝辺りまで鎖の様に連なった札が巻き付いていた
一枚一枚が光を発し、札に触れている対象の動きを封じる拘束術だった
「捕まえた」
その声に反応し、再びぎこちない動きで前方を見る。
いつの間にか現出していた紅白巫女は、手元に一枚の札を携え目の前に浮いていた
「ホントによく動くわね。アレだけ攻撃を躱されたのは久しぶりよ」
「……なら、よっぽどこの世界は平和ボケしている様ね。その反則技が無かったら貴女を何回殺せていたかしら?」
身動きの取れない状況にも関わらず、幻月は落ち着いていた
事実、彼女の化け物じみた力を持ってしてもこの拘束は解けなかった。
博麗の巫女が扱うその多くの霊術には、退魔の力が宿っている。
従って、大なり小なり人ならざる者の力を抑制してしまう為、力技で抜け出すことができない
しかし、
「……やるならやりなさい。但し、生半可な攻撃じゃ私は倒れないわよ」
余裕を崩さず吐き出された挑発めいた言葉。
暗に『強力な攻撃を撃て』と言っているのか、不気味に開かれた口元を尻目に霊夢は言った
「端からそのつもりよ」
瞬間、その手に持つ護符が光を帯びる。
目の前の悪魔が発した言葉に若干の懸念も残るが、漸く作り出した攻撃のチャンスを逃す手はなかった。
霊夢はありったけの霊力を護符へと注ぎ込む
そして札から発する光が結界全体を満たした時、霊夢は静かに詠唱を口にした
「〜〜〜〜、〜〜〜〜〜。〜〜〜〜〜〜。」
まるでお経の様な聞き慣れない言葉の羅列の直後、護符に注がれた霊力が飛躍的に上昇し、霊夢の身体に浸透していく
ーーー『神降ろし』と言う霊術がある
神霊をその身に降ろし、その力を借りる事で擬似的に神の力を行使する事ができる難度の高い降霊術であり、それを扱える者は多くはない。
降ろす神の位(人々の信仰などによる強さや知名度)によって成功する難易度は変わり、当然強力な神であるならば、より高度な神降ろしが必要となる
現状、霊夢の霊力を増幅させたのはこの神降ろしによるものであり、術の発動は成功した。
後は効力が切れる前に撃ち放つだけ
「神霊『夢想封印』!!!」
翳した掌を中心に急激に膨れ上がった霊力の塊が炸裂した。
それにより生じた光は幻月含め、一瞬にして辺り一帯を呑み込み、空間は轟音と衝撃波によって激しく震えた
先程まで穏やかだった湖の水面がまるで嵐の海の様に波打つ。
円形に広がる光は数秒後に縮小していき、空中には既に結界は無く、肩で息をする霊夢と、身体中から煙が上がりダラリと俯く幻月だけが残った
「出来れば倒れててほしかったけど……、」
弱々しく霊夢の口からそんな言葉が漏れる
「ッッ……、く、ふふふふ。私の勝ちね」
幻月は顔を上げ、傷付いた身体を意に介さず笑った。
その言葉が指す通り、霊夢は力を使い果たしていた。最早夢想転生は疎か、唯の弾幕を打ち出す事でさえ厳しい状態。
先の攻撃を耐えられた時点で既に万策尽きていた
ゆっくりと悪魔の掌が向けられ、禍々しい光の弾が充填される。
空気を介して肌でピリピリと感じ取れるほどのエネルギーの塊……。
「……はぁ、『遺言くらい聞いてあげるわ』とか無いわけ?」
実戦による明確な敗北……、即ち『死』を前に、霊夢は不思議と軽い口調で尋ねていた
「あら、聞いて欲しいの?」
「遺言って言うか……まあ、質問かな」
「………」
相変わらず死の銃口を向けたまま、幻月は少しの間黙り、やがて口を開いた
「いいわ。答えられるかは別として、聞いてあげる」
「どうも」
霊夢は一度瞳を閉じ、幻想郷全体へ意識を向けた。
……伝わってくる。
普段の平和な日常から逸脱した邪悪な気配が
そして瞳を開け、静かな怒気を込めながら言う
「アンタ達が此処へ化物を寄越した目的はなに?幻想郷を侵略でもしようって言うの?」
「………………………………………はあ?」
返ってきたのは、そんな間の抜けた声だった
「……何かと思えば、随分巫山戯た質問ね。化物を寄越したのはそっちでしょうに」
「…………はあ?」
全く同じ声が漏れる。
話が噛み合っていない。互いに認識している事柄が違っているのか暫しの沈黙が続き、霊夢は新たに生まれた疑問をぶつけた
「ちょっと待って。アンタ等のところにも奴等が来たの?」
「だから今更白々しいと…、」
「いいから答えなさい!不気味な姿をした髑髏頭の化物よ。来たの?来てないの?」
殺されかけていると言う立場も忘れ、霊夢は距離を詰めながら捲したてた。
その剣幕に若干気圧されながら幻月は答えた
「………来たわ。今貴女が言った特徴と一致する化物共がわんさかと」
「!!」
霊夢は心臓の鼓動が早くなるのを感じた。
胸騒ぎがする。それも飛び切りの
「そいつ等を倒しながら進んでいたら行き着いた先がこの世界だった。だから貴女達がこの件の犯人だと思ったんだけど……、違うのかしら?」
いつの間にか突きつけられていたエネルギー弾は消えていた。幻月も、何やらこの一連の異変に違和感を感じているようだった
「もしかして……、これって」
霊夢がその先を口にしようとした瞬間だった
「あら〜、もうバレちゃった ♪」
ズッッッ!!と幻月の片翼を貫く閃光と同時にその者は現れた
「ぐっ……!だ、誰……ッッッ!?」
「………ッッ」
痛みを堪え、振り向いた幻月は言葉を失った。
同様に霊夢も固まる
「はじめまして。二つの世界の住人さん」
にこりっと微笑むその笑顔はあまりにも禍々しく、この場に於いて間違いなく強者として数えられる二人を愕然とさせた
やや濁りのある長めの銀髪に、青白い肌。大きく開かれた六枚の翼が特徴的な女がそこにいた
「早速だけど〜この世界、壊すわね ♪」
舞い降りた『天使』は狂気に満ちた笑顔でそう言った
急展開……って程でもないですね。
第三者も投入させたところで、次回からは展開をサクサク………っっっ!
いけたらイイなぁ…´・_・`
次回の投稿日は、3月26日を予定しております