東方万能録   作:オムライス_

133 / 196
前回の後書きで投稿日を3月26日としていましたが、急遽昨日暇な時間が出来たので、描き終えました。

今回大分控え目にしたつもりですが、若干のグロ描写が入りますのでご注意下さいm(._.)m



130話 死の天使

 

天使は微笑みながら目の前に佇む少女二人を見つめていた。

ゆっくりと背から伸びる六枚の翼をはためかせ、小さな波紋を広げながら水面上を進んでくる

 

 

 

それは消灯後の暗い廊下や底の見えない古井戸を覗き込んでいる様な感覚。

その纏っている空気、貼り付けたような笑顔からは、言いようの無い恐怖や不安が掻き立てられた

 

 

「…っ」

 

 

静かに、確実に距離を詰めてくる得体の知れないナニか。

霊夢はその姿を目にした瞬間から臨戦態勢に入っていた

 

 

 

 

……だが現状、霊夢は直立不動のまま立ち尽くしている

 

蛇に睨まれた蛙の様に身が竦んだわけでは無い。

反射的ではあったが、確かに戦う為の態勢を整えようとしたのだ

 

 

原因は霊夢本人にもわからなかった。

力を込めようとも、指先がふるふると震えるだけで首から下が全く動かなかった

 

まるで見えない力で縛り付けられている様に…

 

 

 

「そんなに怖い顔しちゃって、どうしたのかしら?」

 

「ッッ!!」

 

 

尚も接近してくる女に、再び視線を戻した霊夢の横を、一筋の影が風を切りながら駆け抜けた

 

 

 

 

ギャリンッッッ!!と金属を擦り合わせた様な甲高い音が響き、悪魔の一撃が天使をすれ違いざまに捉えた

 

 

(チッ…!)

 

 

幻月は僅かにヒビ割れた自身の爪へ視線を落とし、次いで打ち込んだ部位に展開されている青紫色の障壁を睨み付ける

 

 

「……あら、貴女も『動けない』筈なんだけど」

 

 

天使はそう言って顔だけを幻月へと向けた

 

 

「!」

 

 

次の瞬間には幻月の周囲を囲むように無数の閃光が殺到していた。

それは一発で、博麗 霊夢の全力の霊術をも耐え凌いだ自身の身体を容易に貫く威力がある

 

 

 

 

……だが音速を超えて迫る閃光が幻月の身体を貫く事はない。

彼女の『間合い』に入った閃光は一斉に停止し、その矛先を天使へと向けた

 

 

「お返しするわ。二つの意味でね」

 

 

一瞬後に発射速度が数倍に引き上げられた閃光が次々と着弾していく。

爆発したかの様に湖の水が吹き飛び、舞い上がった水柱が天使を包み込んだ

 

そして幻月はその水柱へと突っ込む。

彼女はわかっていた。この程度の攻撃は先程の障壁で防がれてしまっているだろうと。

不意打ちとは言え自身を『容易に殺せる』力を持った相手に最早手加減は不要だった

 

 

 

ーーー幻月の能力は『一定範囲内の空間の掌握』

 

その間合いにある空間、及びそこに干渉している物を自身の思うままにコントロールすることができる。有機物には効果が無いなどの例外はあれど、相手が張った障壁などを強制的に打ち消す事で防御を無効化させるなどの使い方もできる

 

 

得体の知れない相手に対して接近戦は危険だが、水柱で視界が塞がれている今がチャンスだった。

正確な位置は今も尚感じている不気味な気配を探ればいい。

両手にありったけの魔力を込め、その気配に向けて至近距離から叩き込んだ

 

 

ゴバアッッッ!!!と湖の水が津波の様に吹き飛ぶ。突き出した掌の直線上を烈風が舞い、吹き飛んだ水塊と合わせて前方の大地を抉り取った

 

 

「ちょっ…!?無茶するわねぇ!!」

 

 

いつの間にか原因不明の拘束が解けていた霊夢は、離れた位置からその光景を目にしていた。

余波で飛び散った水を腕で庇いながら文句を垂れる

 

 

徐々に治まっていく水のカーテンを前に、幻月は更に警戒を強める

 

……まだ倒してはいない。

気配がどうこうよりも、直感でそう悟った

 

 

 

 

そして天使は不敵に笑う

 

 

「中々面白い『水遊び』だけれど、生憎と今はそんな気分じゃ無いの」

 

 

声は………、背後からだった

 

 

ズッ……!と一筋の光の線が視界に映る。

光は前方の岸辺に野球ボール大の穴を開けると、次第に縮小し消えた

 

 

……幻月は光の直線上にいた

 

 

ゆっくりと自身の身体へ視線を落とし、腹に開いた風穴を認識したと同時に大量の血を吐いて崩れ落ちた

 

 

「あぐっ……ぅぅ!」

 

 

傷口を押さえ、その痛みに耐えながら振り返る。流れ出た血が、足元の水面を赤く染めていく

 

 

「!?」

 

 

そして幻月は目を見開いた。

眼前には掌をこちらに突きつけ、笑みを浮かべる天使の姿があった。

とどめと言わんばかりに、新たな光の弾が作り出されている

 

 

だがそんな事はどうでもよかった。

そもそも幻月は天使を見ていなかった

 

視線の先には……、

 

 

 

「やめなさい!!夢月!!!」

 

 

 

重傷を負った身体に構わず叫ぶ

 

 

 

次の瞬間、天使の身体を背後から一本の剣が貫いた

 

 

「姉さんに何してんだクソ婆ァ……!」

 

 

ボロボロのメイド服を着た少女は普段と一変し、怒のこもった低い声を発した。

ギリギリと突き刺した剣を捻りながら損傷を広げていく

 

 

「夢月!そいつから離れなさい!!そいつは……!」

 

 

しかし幻月は続けて叫んだ。

一見勝負は決した様に見えるその光景を目にしながら

 

 

「……あら」

 

 

何気なく呟かれた声。

一瞬にしてその場が凍り付いた

 

 

「もう一人居たのね。悪い子が」

 

 

……天使の身体を貫いた筈の剣の刃には、一切の血痕が付着していなかった

 

 

 

再び幻月が口を開くよりも早く、天使は自身を貫いている夢月の『腕』に触れた

 

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

 

ーーー鮮血が迸る

 

 

夢月の右腕の先から肩口、更にやや胴体を巻き込む形で、彼女の右腕は消滅した。

時間が緩やかに流れる様な感覚に陥り、何が起こったかわからないまま夢月は倒れ伏した

 

 

眼前には、噴きあがった血の雨で顔を染めながら、穏やかな笑みで見下ろす天使の姿があった

 

 

「あああああああああああああああああッッッ!!!」

 

 

最早悲鳴とも咆哮とも取れない叫び声をあげ、幻月は天使に飛びかかった

 

もう力が残されていない身体で。

今にも意識が飛びそうな身体を無視して。

飛びかかる勢いのまま、怒りに任せて拳を振るった

 

 

……だが天使の姿は煙の様に揺れ、消失する

 

拳は空を切り、態勢を立て直す間もなく後方から放たれた三本の光の矢が、幻月の身体を貫いた

 

 

「む……げ…つ」

 

 

妹の目の前に倒れ伏し、力無く名を呼ぶ。

言うことを効かない手を伸ばし、妹の左手を握りしめた

 

 

「姉妹揃ってお休みなさい」

 

 

すぐ近くから聞こえた悪魔の様な天使の声。

幻月は振り向かず、這いずる様に夢月へ覆い被さった

 

天使は微笑み、掌を翳す

 

 

 

 

 

カッ!!と、光が瞬いた

 

 

 

「どいつもこいつも此処で暴れすぎよ」

 

 

博麗 霊夢の発動した結界術により、天使の身体に護符で連なった光の鎖が巻きつけられる。

掌を突き出した姿勢のまま固まった天使は、徐に足元から伸びる鎖を見つめ、冷めた調子で言った

 

 

「……折角後回しにしてあげようと思ったのに」

 

「!!?」

 

 

その瞬間、霊夢は心臓を貫かれた様な感覚に陥った。

今まで悪魔の姉妹だけに向けられていた意識が、自分に向いた。

天使は此方を向いていない。ただ言葉を発しただけ。

 

それなのに。

 

上から物凄い力で押さえつけられている様なプレッシャーが襲う

 

 

「……」

 

 

現状、霊夢に残された霊力は僅かばかりの戦闘が可能な程度。

自身を此処まで追い込んだ悪魔【ばけもの】を、軽く嬲り殺そうとする天使【ばけもの】。

消耗した状態での拘束術など効果は無いに等しかった

 

 

 

 

……それでも。

 

 

押し寄せる圧力を振り払い、霊夢は空に向かって声を飛ばした

 

 

「ナイスタイミングよ、『魔理沙』…!!」

 

 

 

ゴオッッッ!!と空気を裂きながら、湖のど真ん中に巨大な閃光が放たれる

 

 

 

ーーーそれは上空から

 

 

 

 

八卦炉を構え、霧雨 魔理沙は高らかに叫ぶ

 

 

「状況はさっぱりだが、助っ人に来たぜ!!」

 

 

そして静かに、『黒煙の混じった』硝煙を立てる八卦炉を見た

 

 

(……流石に無茶させ過ぎたか?マスタースパークは撃ててあと1発ってところか)

 

 

再び視線を湖へと戻す。

駆け付けたばかりの彼女でも理解できる程に、あの場には邪悪な気を放つナニかがいた。

傍らには瀕死の状態で倒れ伏す二人の少女と、明らかに疲弊の色が見える友人の姿

 

これだけ条件が揃えば、最大出力の魔砲をぶっ放すには十分だった

 

……だが魔理沙の表情は険しくなり、こめかみに一筋の汗が流れる

 

理由は明らかだった

 

 

「次から次へと忙しない子達ねぇ」

 

 

視線の先には何事もなく湖の上に浮く天使の姿。周囲に展開されていた青紫の障壁が揺らぐ様に消え失せる

 

 

 

 

「貴女も、死ぬ?」

 

 

 

 

魔理沙を、再び霊夢を……、死のイメージが襲う。言葉を発しているだけの天使に対し、全身から嫌な汗が噴き出す

 

天使は掌を上に向け、先程の障壁と同様、青紫色のエネルギー球を生み出した。

直径3メートル程あるその球体の表面は、死霊の様な禍々しい顔が幾つも入り混じって見えた

 

 

 

………わかる。

 

『アレに触れたら死ぬ』

 

 

 

 

「ッッ!…魔理沙!!」

 

「くそ、ぉっ!!」

 

 

二人は同時に動いた。

策なんて無い。考える余裕など無い。

目の前の死に向かって反射的に動いてしまった身体に頭ではブレーキを掛けながら、なんとか食い止めようと『残り僅かな力』を、『残り1発の力』を放つ為、全力で動いた

 

 

「……皆んな仲良くさようなら ♪」

 

 

 

天使は微笑み、怨霊渦巻く死の爆弾を投下した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結界『魅力的な四重結界』」

 

 

ギシッッ……、と氷が軋む様な音が響き、死の爆弾は赤紫色の結界に封じ込められた

 

同時に、霊夢の目の前の何もない空間から日傘を差した人物が現れる。風に吹かれて靡く金髪を押さえながら、その妖怪は言う

 

 

 

 

「危機一髪ね。霊夢?」

 

 

 

「紫…!?」

 

 

 

驚く霊夢を他所に、八雲 紫は上空にいる『友人』へ声を飛ばす

 

 

「今よ!」

 

 

「ええ」

 

 

今度は落ち着いた調子の声と共に、上空に開いたスキマから冥界の主・西行寺 幽々子とその従者が飛び出した

 

 

「妖夢、貴女ならいけるはずよ。お願いできる?」

 

 

 

「お任せを!…はあああああッッ!!!」

 

 

主人の言葉を受け、魂魄 妖夢は二本の刀の内、迷いを断ち切る短刀『白楼剣』を抜き放った。

そのまま急降下し、結界ごと邪悪な気を放つエネルギー球を一刀のもとに両断する

 

 

「幽々子様!」

 

 

「彼岸へお還りなさい」

 

 

幽々子は手を翳し、白楼剣によってこの世の未練ごと断ち斬られた怨念の塊へ能力を行使する。

淡い光に包まれた怨念は、弱々しく瞬いた後、立ち上る煙の様に消失した

 

 

「凄え…、アレを一瞬で……!?」

 

 

目の前で起こった出来事に目を丸くして呆然とする魔理沙。その様子を後目に見ながら、幽々子は優しく微笑んだ

 

 

「大丈夫?少し来るのが遅れちゃったかしら?」

 

「……いやそんな、怯えきった子猫を見る様な目で見るなよ。確かに助かったけども。私は大丈夫だ!」

 

「でもその様子じゃ碌に戦えないでしょう?……それ」

 

「!……っ」

 

 

ヒビ割れた八卦炉を指摘され、魔理沙は押し黙った。

事実、幽々子達の介入が無ければ自分達は確実に死んでいたのだから

 

 

 

 

「随分賑やかになってきたわねー」

 

 

その声が再び耳に入った瞬間、霊夢と魔理沙は思わず身構えた。

仲間が駆け付けた事により、一瞬にも満たない僅かな時間、意識から外していた存在。

……否、外していたかった存在【ばけもの】。

 

天使は新たに現れた紫達を見遣り、指をぱちんっと鳴らした

 

 

 

ズズズ……ッッ!!!と虚空より巨大な扉が出現する。

高さにして全長100メートル程の漆黒の扉からは、先程の怨念と同じ様な禍々しい気配が漂っている

 

紫は霊夢を後ろ手で下がらせると、険しい表情で天使を睨み付け、言った

 

 

 

「幻想郷へ何の用かしら?『死の天使』を歓迎した覚えはないのだけど?」

 

「あら……。此処の管理者は随分と冷たい事を言うのねぇ。お姉さん悲しいわ」

 

「巫山戯てるの?すぐに幻想郷中で暴れている獣どもを連れて出て行きなさい」

 

「その事なんだけど……」

 

 

天使は困った様な仕草をした後、上空に浮かぶ扉を指差して続けた

 

 

「『あの子達』、まだまだ遊び足りないみたいなのよ」

 

「!…、紫…扉が…!!」

 

「!?」

 

 

霊夢の声に反応し、扉に視線を転じた紫の目に飛び込んできたもの……、

 

 

 

ーーー『僅かに開いた』扉の隙間から、今か今かと顔を覗かせる化物の群衆だった

 

 

 

それを目にした紫と幽々子はすぐ様天使へ向けて攻撃態勢を取る

 

 

 

「ッッ!廃線『ぶらり廃駅下車の旅』」

 

 

「蝶符『鳳蝶紋の死槍』」

 

 

紫の背後に開かれたスキマからは巨大な鉄塊もとい廃棄となった列車が…、

 

幽々子の背後には巨大な扇子が展開され、蝶形の弾幕とレーザーを撃ち放った

 

 

「ふふふっ」

 

 

 

天使は短く笑い、もう一度指を鳴らす

 

 

 

 

 

そして。

 

 

 

 

 

ーーーゴゴンッッ!!! と鈍い音が鳴り、巨大な扉が開放された

 

 

 

「さあ、貴女達の『絶望』を教えて頂戴」

 

 

 

 





主「次回からはサクサク進めると言ったな。アレは…………………………………。うん」



次回の投稿は4月3日の日曜日を予定しております
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。