東方万能録   作:オムライス_

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お待たせ致しました。
今回は『あのキャラ』が再登場します。



131話 いざ、倒れ逝くその時まで

天使の合図と共に天高く聳える巨大な扉がゆっくりと開き始め、その振動に合わせて大気が震える。

加えて、紫と幽々子の放った攻撃が天使へ着弾し、大地をも揺るがした

 

 

視線が一斉に扉へと向けられる。

今しがた攻撃を行った二人でさえも、既に着弾地点を見ていなかった

 

 

 

ズンッ……、と重量のある何かが大地へ落ちてきた。

皆、同タイミングでその方向を見る

 

 

「ヴヴゥゥ……」

 

 

猛獣の様な唸り声をあげ、立ち上がったその生物には顔が無かった。

……正確には顔の部分だけ白骨化しており、頭部が黒い靄に包まれている、優に3メートルは超えるであろう背丈の巨人。

『人型の其れ』の頭には捻じ曲がった二つの角が生え、全身が強靭な筋肉と体毛に覆われている。手は人間と同じ形状だが、足には蹄がついていた

 

 

「……まるで『ミノタウロス』ね」

 

 

それを見た紫がボソリと呟く。

ギリシャ神話に登場する牛の頭を持った巨人を指し、気性が荒く残忍な性格に加え、人肉を好んで食らう化物の名だった

 

 

「ヴ オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッ!!」

 

 

……咆哮。

遠間にいても内臓が震える程の雄叫びに、霊夢や魔理沙、妖夢の3人は顔を顰める

 

 

「!」

 

 

そして牛の化物は標的を見据える。

今この場にいる者の中で『一番消耗している』獲物に飛び掛かる為、姿勢を落とし地を蹴った

 

 

ゴバァッッ!!!と地面が抉れとび、ほぼ一瞬にして『霊夢』の前へ躍り出た化物は拳を握り締める

 

 

「ッ!?」

 

 

霊夢は咄嗟に身構えるが、それよりも先に目の前を一筋の線が走った

 

 

シュコンッ!と竹を斬った様な軽い音

 

 

 

「ヴォ…ォ…?」

 

 

……化物の首から上がスライドし、重々しい音を立てて地面にズリ落ちた。

頭部を失った胴体は力無く倒れ伏す

 

 

「霊夢、下がってなさい。今の貴女には手に余るわ」

 

 

冷ややかにそう告げた紫は日傘を畳み、周囲に複数のスキマを展開させる

 

 

「わかってると思うけど今幻想郷は各地に出現した化物達の所為で混乱状態よ。元凶は言わずもがな、あの天使の仕業」

 

 

そして…と、空に浮かぶ開け放たれた扉を一見しながら続けた

 

 

「あの扉の先は人間界にも魔界にも存在しない世界が広がっている。恐らくあの天使独自で創り出した世界なんでしょうね」

 

「……何者なの?アイツ」

 

「……通称『死の天使』。天使の中でも神に近い存在とまで言われている大天使の一人よ。私も実際に対峙したのはこれが初めてだけど」

 

 

ふと霊夢と天使の目が合う

 

 

「サリエルよ。遅くなってしまったけれどよろしくね」

 

 

サリエルはスカートの裾を持ち上げながら穏やかな表情で微笑んだ

 

 

「天使って言うより悪魔にしか見えないんだけど……。」

 

「『悪魔』なら……、まだ可愛い方だったでしょうね」

 

 

紫の頬を一筋の汗が伝う。常日頃から目にしていた余裕ある面持ちが目に見えて険しくなっている。

幻想郷の賢者ですら本気で挑まねばならない相手が目の前にいる

 

 

そいつは幻想郷を、この世界を壊すと口にした

 

 

 

ーーー正真正銘の『異変』

 

 

これ迄解決してきた異変の様にスペルカードルールに守られた遊びとは違う。間違っても勝敗の末に和解など存在しない。

勝った者が生き、負けた者は滅びる。至極単純にして残酷な、幻想郷が長らく忘れていた概念だった

 

 

「…だ、大丈夫なの?」

 

「さぁ…。どうかしらね」

 

 

 

直後、けたたましい轟音が霊夢等の耳を叩いた。

それは空中に佇む扉から。

数百単位のミノタウルスの群れが、雄叫びを上げながら次々と飛び降りてきていた

 

続いて凄まじい振動が周囲一帯に響く。

幻想郷の地へ放たれたミノタウルスの群れは、仲間の死によって極度の興奮状態にあった。

近場にあった大木に指をめり込ませ、片手で軽々と引っこ抜くと、棍棒のように肩に担いだ

 

 

「貴女達の相手をするのも面白そうだけれど……、まずはこの子達と遊んであげてちょうだい ♪」

 

 

湖上空へ飛翔しながら、高みの見物と言わんばかりにサリエルは空中に腰掛けた。

それを合図としたのか、ミノタウルスの群れが一斉に動き出す。

一歩踏み出すごとに、その数からか地響きが爆音の様に押し寄せる。

木々を薙ぎ倒し、周囲の地形を変えながら四人の獲物へと殺到した

 

 

 

 

ーーーそして襲い来る喧騒は一瞬にして静寂へと変わる

 

 

 

 

「今日は死神達が大忙しになるわねぇ」

 

 

既に『息をしていない』ミノタウルス達を見下ろしながら、冥界の主は静かに囁いた

 

 

「……」

 

 

サリエルはその穏やかな表情を一瞬だけ固め、再び和かに微笑むと幽々子へ語り掛けた

 

 

「貴女は冥界のお姫様ね。西行妖は気に入って頂けたかしら?」

 

「え?」

 

「!!?」

 

 

その言葉に誰よりも反応を示したのは、幽々子当人ではなく紫の方だった。

頭の中を様々な思考が駆け巡る

 

 

 

西行妖は幽々子の生前から存在していた

 

『気に入ったか』とはどう言う意味か…。

 

隼斗は西行妖が元々人間界で生まれた存在ではないと言っていた

 

意図的に送り込まれた…?

 

悪魔の少女と幻想郷、二つの世界を壊そうとしている天使

 

本来ならば神の元に使える筈の存在が、『死の天使』と呼ばれている理由

 

 

 

 

 

 

………つまりそういう事か。

 

 

 

ズアッッ!!!!と紫から天使に向けて縦一文字の光が走る。光は空中を凄まじい速度で突き進み、直線上にある空間を斬り裂いた

 

サリエルは掌をかざし青紫色の障壁を展開させ防ごうとした

 

 

……だが。

 

 

 

「!」

 

 

次元をも斬り裂く『境界の斬撃』は、いとも容易く障壁を両断し、サリエルの身体を突き抜けた。

脳天からヘソ辺りに掛けて一筋の線が入り、まるでチーズの様に左右へ裂けていく天使の身体

 

 

 

「やった!」

 

 

それを見た魔理沙が叫ぶ

 

しかし紫は依然表情を険しくしたまま別の方向を睨み付けて言った

 

 

「つまらない茶番は止めなさい」

 

 

それに応答する様に、地上の何も無い空間から無傷のサリエルが現れ、入れ替わる様に身体の裂けた水人形がバシャリと湖に落ちた

 

 

「あら、お気に召さなかった?」

 

「……『お前』だったのか」

 

「……?」

 

 

天使の言葉を無視して、紫は爆発しそうな感情を抑えながら震える声を洩らす。

あの惨劇を怒りに任せて叫ぶ訳にはいかない。その真実を、生前の記憶が無い友人に聞かせてはいけない

 

 

だから……、

 

 

「……………数年前、幻想郷を襲った怪異は貴女の仕業ね…?」

 

 

敢えてズラした。

怒りの生じる要因を。

一連の悲劇の原因が目の前の存在ならば、その他にも追及すべき事は腐る程ある

 

 

「賢者の貴女にしては今更な事聞くのね。規模は違えど、手口は同じなんだし態々確認するまでもないと思うけど?」

 

 

あっけらかんと返ってくる言葉。

紫は一度後方にいる霊夢を一見し、ある疑問を口にした

 

 

「あの日を境に当時の博麗の巫女が失踪している。異変解決に向かったっきり戻ってこなかった。……黒幕の貴女が知らないわけが無いわよね?」

 

「!!」

 

 

そのやり取りは当然、後方の霊夢の耳にも入っていた。生死不明のまま行方不明となっていた身内の存在。

自然と足が一歩前に出てしまう程に知りたい答えだった。

その反面、最悪な答えが待っているかも知れないという恐怖にかられながら……。

 

 

 

 

 

「巫女?居るわよ、今『此処』に」

 

 

 

 

「…………えっ……?」

 

 

 

思わず聞き流してしまいそうになった。

そのあまりにも軽く、簡単に告げられた事実に、霊夢の思考が一瞬停止する

 

 

 

 

「会いたい?なら少し早いけどお披露目といこうかしらぁ」

 

 

サリエルは上空の扉へ向けて指を鳴らした。

直後、扉から一つの影が飛び出した。

それは今までの化物達と比べてあまりに小さく、華奢なシルエット。

50メートル強はあろう高度を重力に従い落ちてくる影は、一切の音を立てずに着地した

 

 

 

「あっ……」

 

 

思わず唇が動く

 

 

「暁美……お姉…ちゃん?」

 

 

 

霊夢と同じく紅白色の巫女服を身にまとった人物は着地姿勢からゆっくりと立ち上がり、俯いていた顔を上げた

 

 

「!?」

 

 

 

ーーーそれは白い仮面だった

 

 

半分程欠けている髑髏の様な面をつけた『博麗 暁美』がそこに立っていた。

仮面から覗く眼球は闇の様に黒く、瞳は血の様に紅い。

 

 

 

「驚いたー?久しぶりの再会だもんね?嬉しいよね?」

 

「……暁美に、何をしたのッ…?」

 

 

紫は沸々と湧き上がる怒りを抑え、何とか冷静を保っていた。自分が冷静さを欠けば、不測の事態から霊夢を守れない

 

 

「何って…、ちょこっとだけ弄っただけよ?身体の中に私の力を埋め込んで兵士になってもらったの。処置が終わって顔を仮面が覆うまで『悶え苦しんで』いたけどね ♪」

 

 

一瞬。

そのワードが、ほんの一瞬だけ紫の怒りを引き上げ、思考に空白を生じさせた

 

 

「…、ッ」

 

 

再び意識を取り戻した紫は頭をクールダウンさせようとした……。させようとしたのだが、ほんの僅かにある感情が漏れ出てしまった

 

 

……天使に対する『殺意』。

 

 

その殺意に兵士は反応した。

一瞬前までサリエルの隣にいた暁美の姿が消失し、『完璧な攻撃態勢を整えた状態』で紫の前に現れた

 

 

腰だめに構えられ、最速で放てるように脱力された拳。

ドス黒い力の塊を纏った拳は、刹那の瞬間に放たれた

 

 

 

 

……拳の先が、遠方に掛けて消し飛ぶ。

まるで空間を丸く切り抜いた様に、直線上の大地や木々が抉れ、消滅する

 

パァンッッ!!!と、数瞬遅れて空気が破裂した

 

 

「……ッ!!」

 

 

紫は殆ど視認できなかった攻撃を、紙一重で回避していた。

空中から紫達のやり取りを冷静に見ていた幽々子の咄嗟の介入(駄目元での能力使用)により、一瞬にも満たない僅かな時間、暁美の動きを遅らせた事でスキマを開く事が出来たのだった

 

 

「紫…!ちょっと、大丈夫…!?」

 

 

慌てて霊夢が駆け寄る。

紫のドレスの背中から脇腹に掛けてが出血で赤く滲んでいた

 

 

霊夢を抱えてスキマに飛び込む。

『これだけ』の事を実行するには、あの時間は短過ぎたのだ

 

 

「紫、動けそう?」

 

 

決して前方から視線を外さずに幽々子は尋ねた

 

 

「……ええ。助かったわ幽々子」

 

 

身体中に広がる鋭い痛みを堪え、立ち上がる。

相変わらず穏やかな笑みを崩さないサリエルの隣には、人という存在から脱した瞳を此方に向ける博麗 暁美の姿があった。

追撃してこないところ見ると、先程の一撃は単純に殺意にのみ反応したという事。

まるで殺意を感知して動くロボットだ

 

 

 

 

幽々子は普段のおっとりとした性格から一変し、冷静な物腰のまま囁いた

 

 

「あの二人には私の能力が通じない。此処は撤退した方がいいわ」

 

 

尤もな意見だった。

負った傷自体は気力でどうにかなる。

だが、この場にアレとまともに戦闘が出来るのは自分と幽々子だけ。

最大の強みでもある幽々子の能力も、雑兵にしか効果がないのであれば意味がない。

天使は暁美を兵士だと言った。

もしもあのレベルの奴がまだ出てくると言うのであれば圧倒的に分が悪い

 

 

何より霊夢や魔理沙を狙われたら守り切れる余裕が無かった。従者の妖夢も恐らく太刀打ち出来ないだろう

 

 

「っっ!仕方な……ッ」

 

 

紫の選択を、天使の言葉が遮る

 

 

 

 

 

 

 

「逃・げ・た・ら、その瞬間この世界を終わらせるわよ〜?」

 

 

「ッ!!?」

 

 

 

 

退路は潰された。

もう戦うしか道が残されていない

 

 

 

 

 

「…………幽々子、ごめんなさい。私の読みが甘かったわ」

 

「私は亡霊よ?元より死の恐怖なんて無いわ」

 

 

幽々子はそう言って笑い、従者の隣に並んだ

 

 

「妖夢、貴女はあの娘達の支援に回りなさい。気を緩めては駄目よ」

 

「……しかし!私は幽々子様をお護りする為に此処へ…!………いえ、すいません」

 

 

妖夢とてわかっていた。

あの天使と巫女は明らかに次元の違う存在だと。

こんな日が来た時の為に毎日刀を振ってきた。

師である祖父の教えを忠実に守り、絶え間無い努力をしてきたつもりだ

 

 

わかっていた。

 

 

自分は未だ主君を護れる程強くは無い。

祖父には到底及ばない。

強者が強者の相手をする。適材適所だ。

……ならば自分は弱者か?

そんな葛藤があり、出た言葉だった

 

 

 

ーーーだから幽々子は否定した

 

 

「貴女は強いわ妖夢」

 

「!!」

 

 

 

 

それ以上の言葉は不要だった

 

 

 

「お願いできる?」

 

「……はい!!」

 

 

 

戦う意思を見せる面々を眺め、死の天使は不敵に笑う

 

 

「では改めまして、『開戦』といきましょうか〜!」

 

 

サリエルは陽気に言い放った。開戦という言葉を強調気味に。

それはこの戦いに於ける本当の幕開けを意味していた

 

 

 

『グ オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ッッッ!!!』

 

 

巨大な扉から咆哮が響き渡る。

先程のミノタウルスの比ではない、幾千もの数の化物が、あの中で雄叫びをあげている

 

 

次の瞬間、空が黒色に染まった。

それは雨の様に降り注ぐ化物の大群であり、次々と大地を埋めていく

 

 

魔理沙は過去に、もしも弾幕で自信の分身を作れたら相手はどんな顔をするだろう?と考えた事がある。弾幕の数だけ敵が増える。勝負になる訳がない。すぐに馬鹿馬鹿しいと思い取っ払った

 

 

 

……今自分はどんな顔をしているだろうか?

 

 

 

ズズッ……、と重々しい音が響く。

未だ開いたままの巨大な扉から、その『サイズに合った』巨人が姿を現した。

体色は白く、人の形状はしているが所々人間離れした部位が目立つ体長80メートル程の巨人

 

 

「うふふ」

 

 

 

 

絶望はすぐそこまで来ていた

 

 

 




数の暴力って怖いですね。ドラッグオンドラグーンBエンディングの妹の大群思い出しながら書いてました

それと久しぶりの登場の先代さん(闇落ち)でした。
他にもミノタウルスとか巨人とか、その他展開考えてる内にしっちゃかめっちゃかになってきて文章がへんになってないか心配しております。

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