東方万能録   作:オムライス_

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いつもよりちょっと早く投稿です!



133話 二人の師匠

暁美の回し蹴りが、スキマから飛び出した廃列車と衝突する。

周囲を爆風と衝撃波が襲い、ぐしゃぐしゃにひしゃげた列車が錐揉み状に回転しながら遠方までぶっ飛ばされた

 

そのまま爆発的な脚力で瞬時に紫の前に躍り出た暁美は、手先を尖らせ、胸の中心に向けて突き出す

 

紫は後方に飛びながら移動先に開いたスキマへ飛び込む事で此れを回避。

同時に暁美を囲む様にスキマを配置し、カウンターとなるタイミングで一挙にレーザーと弾幕を放つが、暁美はいとも容易く包囲から脱した

 

 

(躱した!?タイミングは完璧だったのに…!いくら何でも身体的スペックが高過ぎる!!)

 

 

紫がスキマの空間へ逃れた事で、暁美はその場に立ち止まった。

そして仁王立ちのまま、やや俯き加減の状態で静止する

 

 

(止まった…?)

 

 

 

 

ゆらりと。

 

 

暁美は頭だけを動かし、別次元に身を隠している筈の紫を見据えた。

同じ場所、同じ座標でも次元が違えば干渉することは出来ない。紫はそれを逆手にとり、スキマを移動手段かつ安全地帯として使用している。

 

詰まる所、紫本人が意図して行わない限り、普通なら視認は疎か存在を認識する事すら不可能なのだ

 

 

別次元で紫が存在している場所へ、瞬時に移動する暁美

 

 

(しまった!暁美の能力は……!)

 

 

黒い靄に覆われた腕が伸びる。

暁美は虚空から次元の壁を越え、紫の頭を鷲掴みにして引き摺り出した

 

 

「放しなさ……ッッ!?」

 

 

抵抗しようと腕を掴み返す紫の頭に、万力の様な力で暁美の指が食い込む。

みしみしと嫌な音が脳内で響き、徐々に視界が揺らぐ。

更に暁美は一度空中に持ち上げ、そのまま地面へ叩きつけた

 

 

「ぐっ…!?」

 

凄まじい衝撃が襲う。

チカチカと暗転を繰り返す視界に続き、それまで腕を掴んでいた手から力が抜け落ちた。

暁美は腕を脱力した状態から短く、一瞬だけ息を吐き、紫の胴目掛けて振り下ろした

 

 

 

「がっ、ぁごふっ……ぅあ……っ!?」

 

 

呼吸が止まり、口から大量の真っ赤な液体を吐き出した。今の一撃で内臓全てが均等に叩き潰された様な感覚が鈍痛として広がっていく

 

嘗て、師である柊 隼斗から教わり、独自で昇華させた『内臓破壊』と言う技だった。

 

身体を痙攣させ、意識を手放しかけながらも、なんとか踏み止まる。反撃に出ようと展開しかけていたスキマは保持出来ず消滅した

 

 

(思考が……定まらな…い…。兎に角……動かないと)

 

 

策を講じようとも思考が働かない。固めた側から崩れていく。

頭部に極度の負荷が掛かった為か、全身の感覚が空気を吐き出す風船の様に抜けていく

 

僅かに映る視線の先では、片方の腕を視界の上部に伸ばし、もう片方の腕を振り上げている暁美の姿があった

 

朦朧としている中でもわかる

 

……とどめだ。

 

 

次に紫の脳内に浮かんだ言葉は「呆気ない」、だった。

それは今まで作り上げてきた『生涯』などと言う大それたものではない

 

……今この瞬間、この戦いに於ける自分が、だ

 

決して勝てない戦闘ではなかった筈だ。

自分とて長年生きてきた大妖怪の一人。

遣り様などいくらでもあった

 

無意識の内に、暁美をなるべく傷付けない方法を模索していたのかも知れない。

その結果がこのザマだ

 

 

………人と妖怪の動乱の時代に生まれ、共存を目指しつつも時には冷酷になれた時代が懐かしくすら思えた

 

 

「…あ…け…、美……」

 

 

名を呼び、ゆっくりと紫の掌が暁美の頬に触れる

 

 

「……」

 

 

返答はない。表情も変わらない。

赤く光る瞳には、紫の声は届かなかった

 

 

 

 

 

(……後は頼んだわ。………隼斗)

 

 

 

 

 

 

 

白い巨人を前にして、肩で息をする幽々子。だが巨人は地上に降り立ってから現在まで、幽々子達に一切の攻撃を行っていなかった。

 

そう、巨人『自体』は…。

 

 

巨人は身体を少し反らし、大きく息を吸い込んだ

 

 

「!……もうこれ以上は…!!」

 

 

背後に大量の妖力で形成した死蝶を形成し、一斉に打ち放つ

 

 

同タイミングで巨人の口から吐き出されたモノ……。

 

 

ーーー化物達の卵だった

 

 

卵は空中に吐き出された瞬間から羽化し、地上に到達する頃には完全な状態で誕生を迎える。

唯でさえ数の多い化物が、巨人によって半永久的に増え続けてしまうのだ

 

今となっては幽々子等が減らしてきた分を大きく上回る数が補充され、最早一方的な消耗戦になりつつあった

 

 

少しでも新たな増兵を減らす為、千単位で吐き出される卵に向けて、幽々子は能力を反映させた死蝶の弾幕で応戦する

 

勿論、初見で化物を生み出す能力持ちだと分かった瞬間から、巨人には最優先で倒さなければならない相手として持てる全ての攻撃を行った。

だが圧倒的な巨体と再生能力によって、その全てが唯力を消耗するだけの結果に終わってしまった

 

 

(やっぱり全ては殺しきれない…!)

 

 

大部分は相殺できた。しかし掬った水が指の隙間から零れ落ちる様に、確実に討ち漏らしが発生してしまう。

その何度目かになる討ち漏らしが、化物達の勢力を飛躍的に上げていく

 

 

「くそ!ゴキブリみたいに湧いてきやがって!!限度ってあるだろ!!」

 

 

そう悪態づく魔理沙は、懐にある壊れた八卦炉を握りしめた。

十八番である魔砲は、恐らく後一発は撃てる。撃てば続々と群がってくる化物の一角を吹き飛ばす事が出来るだろう。……が、逆に言えばそれで打ち止めだ。

工場で大量生産される機械部品の様に増え続ける化物には、さしたる被害にすらならない

 

 

そうして尻込みしている魔理沙の死角から、化物達は容赦なく己の武器を振るう

 

ガッ!!と、間に割って入った霊夢の障壁と化物の爪が衝突する

 

 

「魔理沙!集中して!!」

 

「す、すまん」

 

 

ここで霊夢が防御に回った事で、三人分の防波堤に綻びが出来てしまった。

その部分を狙って化物達は一斉に攻撃を集中させていく

 

 

「ちょ、ちょっと!タイム!タイムッ!?」

 

 

障壁越しにくる怒涛の攻撃に堪らず叫ぶ霊夢

 

 

 

「『未来永劫斬』!!!」

 

 

化物の雑踏へ向けて、一筋の影が飛び出した。

影は疾風の様に化物の間を駆け抜け、擦れ違いざまに斬撃の乱舞を叩き込んだ

 

 

「半霊……!」

 

 

 

「止まるな!!」

 

 

魔理沙の言葉に妖夢は叫び返す。同時に背後から爪を振り下ろす化物を、身体を駒のように回転させながら側方に回り込み斬り倒した

 

 

「死にたくなかったら動きなさい!!」

 

 

続けて叫ぶ。

こうしてる今も、化物達は四方八方から襲い来る。一瞬たりとも気を許す時間が無い程に。

魔理沙と霊夢は一瞬だけ互いに顔を見合わせて頷き、すぐ様背を向けて駆け出した

 

 

 

……直後だった。

 

 

 

ゴッ!!!と、少女等三人の視界の端で、何かが地面に打ち込まれた。

三人とも足は止めず、瞬間視線を横へ向ける

 

そして。

 

 

「………えっ?」

 

 

先程まで勇猛果敢に戦場を駆けていた銀髪の少女はその場で『立ち止まった』。

 

 

砂塵が晴れ、目の前に広がっているものは、少女にとって余りにも………、

 

 

「あ………、ああ………」

 

 

先程まで仲間を激励していた少女は震える唇を必死に動かしその名を叫んだ

 

 

「幽々子様ァァ!!!」

 

 

 

……余りにも過酷な光景だった

 

 

「あああああああああッッ!!」

 

 

周りの化物には目もくれず、妖夢は地に倒れ伏す主君の元へ駆け出した

 

その瞬間、ついさっきまで妖夢が立っていた地面が直径5メートル程爆ぜ飛び、そこにいた化物は凄まじい衝撃を受け吹き飛んだ

 

 

「な、何が……」

 

 

霊夢と魔理沙は思わず上へ視線を転じる

 

 

 

指先から赤黒い光を放つ白い巨手が見えた

 

 

光はやがて光度を増し、その先の空間が揺らぎ始める

 

 

「!?」

 

 

二人は咄嗟に全力で横へ飛んだ。

そして目の当たりにした。一瞬後に、赤黒い力の塊が高速で自分達のいた地面を吹き飛ばす瞬間を。

余りにも速過ぎる為、よく見ていないと何が飛んできたのか分からない程だ

 

 

「……ここに来て、今更攻撃してくるのかよ…っ!?」

 

 

魔理沙は絶望の混じった声色で呟いた

 

 

先程まで立ち尽くし、化物共を生産していた巨人は、虫の様に冷たい瞳で見下ろしていた。

 

 

人間は虫を殺す時、態々全力を出すまでもなく指先の力だけで簡単に潰す事できる。

それは生まれつき持っている力や技ではなく、単純に圧倒的な体格差故。

巨人にとって足下で蠢いている小さな命など、最早敵として相対する事すら馬鹿らしい存在なのだ。

故に、妖夢や霊夢達への攻撃を『外した』のも、単に的が小さ過ぎて狙い辛かったから

 

 

 

妖夢は横たわる幽々子の肩を揺すり、必死に呼び掛けた

 

 

「幽々子様!しっかりして下さい!幽々子様!!」

 

「うぅ……」

 

 

僅かに発せられた呻き声。

幽々子は流血する額を押さえながら上体を起こした

 

 

「………大丈夫…。少し貰っちゃったけど直撃はしてないわ。殆ど余波で吹き飛ばされただけ……」

 

「少しって…!そんなにぐったりしてるじゃないですか……っっ!」

 

 

一見、外傷は額の傷だけに見えるが、それとは別の要因によって幽々子は弱っているようだった

 

 

(これは…、肉体的ダメージじゃない……。まるで魂を喰われたような……………まさか、あの巨人は……!)

 

 

幽々子は自身の違和感に気付き巨人を見上げた

 

 

巨人は首を傾げ、今度は掌に赤黒い光を集中させ始めた。指先と掌では格段に攻撃範囲が広がる。放たれてから回避行動を取っていては確実に間に合わない。

霊夢達の表情が見る見る狼狽したものへと変わっていく

 

 

「あらあら、可愛い顔しちゃって。ふふっ」

 

 

その光景を楽しそうに静観しているサリエルは、一興とばかりに幽々子を指差し告げた

 

 

「次は亡霊のお姫様を狙うから頑張って避けてね?」

 

「!?」

 

 

直後に放たれる赤黒い光。

だが同時に幽々子の目の前に複数の護符が投げ込まれ、光との間に障壁が出現した

 

 

「さっさと立って!!」

 

 

一拍遅れて霊夢は障壁の内側に滑り込みながら叫んだ。

しかしこの障壁は押し寄せる赤黒い光を防ぐ為のものでは無かった。横合いから閃光が奔る

 

 

「打ち止めだこの野郎ォォォ!!!」

 

 

真上から降って来る赤黒い光に対し、斜め下の角度からぶつける形で魔砲が放たれた

 

仮に障壁で防御しようものなら、コンマ一秒足りとも持ち堪える事は出来ない。

仮に魔砲を正面から衝突させていれば、均衡すら成立せず一瞬で押し負ける

 

だから防ぎ切る必要など無かった。

全力で横腹にぶつかり、その軌道を逸らすことさえ出来ればいい。

軌道が逸れ、近場に着弾した際に生じる余波から身を守れればいい

 

 

ガガガガガガガガッッ!!!と、魔砲が光にぶち当たり、筒花火の様に弾けたエネルギーが飛び散る。

そして魔理沙の全力の魔砲は、ほんの僅かに光の軌道をずらし、それに合わせて霊夢は障壁の向きを変えた。

直後に轟音と共に凄まじい衝撃波が襲い、すぐ近場の地面に巨大なクレーターが出来上がった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「次は今のを百発くらい撃つから頑張って避けてね?」

 

 

間髪入れずに、先のトーンと変わらない声色で、気軽に、天使の言葉はその場の全員の思考を停止させた。

生きるか死ぬかの局面を乗り切り、安堵の言葉さえ口にしていない少女達の頭上では、辺り一帯を照らす程の赤黒い光が集束されていく

 

 

完全に焼け切れ、熱を帯びている八卦炉を魔理沙は気に留めず掴んでいた

 

何とか立ち上がろうともがく幽々子の前に立ち、力無く刀を握る妖夢の姿があった

 

数日前、師から投げ渡された『御守り』を、霊夢は無意識のうちに握り締めていた

 

 

(……幕引きね。賢者の方も間も無く片が付きそうだし。こっちは折れちゃったかな?)

 

 

サリエルは少女達の絶望しきった顔を満足気に眺めた後踵を返した。

その際、攻撃準備を終え、命令を待っている巨人に向けて目配せで合図を送った

 

 

「さようなら。貴女達の『絶望の味』、中々良かったわよ?」

 

 

振り返りもせず立ち去って行くサリエルの背後では、どうする事も出来ない少女達に向けて数多の光の塊が降り注いでいく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その一瞬前の出来事だった。

 

 

 

 

 

魂魄 妖夢は確かに聞いた

 

 

 

 

「最後まで刀を握っていた事だけは褒めておこう。……だが、まだまだだな」

 

 

優しくも厳格な声を。

 

 

 

 

 

 

 

揺らぐ視界の中で、とどめの拳が振り下ろされる瞬間、八雲 紫は確かに見た

 

 

 

 

 

 

 

「ギリギリセーフか?紫」

 

 

 

振り上げられた拳を掴み、此方を見下ろす男の姿を

 

 

 

直後、霊夢達の頭上に殺到していた大量の赤黒い光の塊が、一つ残らず塵へと変わった

 

紫にとどめを刺そうと拳を握っていた博麗 暁美の身体が、一瞬で上空に放られた

 

 

 

ーーーその二人は。

 

 

「お久しぶりです。幽々子様」

 

 

 

「ありゃ、ボロボロだな。大丈夫か?」

 

 

 

 

ーーー師である二人の男は優しく語り掛けた

 

 

「師匠っ……嘘………、おじい……ちゃん?」

 

 

 

 

「何とか生きてるわ……。出来ればもう少し早く来て欲しかったけど」

 

 

 

 

 

ーーー二人は、ゆっくりと少女達に気骨のある背を向け、目の前の敵と対峙する

 

 

 

 

「後は私が引き継ぎましょう」

 

「後は任せな」

 

 

 

 

絶望を塗り替える言葉がその場を包んだ

 




やっとこさ主人公の登場です。
暫く出ていなかったので主もワクワクしています


次回は4月24日日曜日に投稿いたします!
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