東方万能録   作:オムライス_

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134話 反撃の狼煙

空中へ放られた暁美は地上から100メートルの位置で漸く体勢を立て直すと、そのまま落下し、綿毛の様にふわりと着地した。

『気が付いたら』上空で空を仰いでいた暁美の前方には、『恐らく』自分を投げ飛ばしたであろう男が此方に背を向けて立っている

 

 

「治癒術を使うだけの余裕はあるか?無理そうなら俺がするぜ」

 

 

隙だらけ。

男は意識すら暁美に向けていない

 

 

「……大丈夫よ。それより暁美を……っ!?」

 

 

紫の視界に飛び込んでくる黒い影。

拳に莫大なエネルギーを集束させた暁美が、今も尚自信を眼中に留めていない男に向けて、破壊を叩き込む為迫っていた

 

 

 

一瞬遅れて空気の破裂する轟音が響く

 

 

 

 

拳の先を遠方に亘って消し飛ばす程の衝撃波を生み出す一撃は、しかし、男の背で止まっていた

 

 

 

 

 

 

 

「……暁美、てめェ何やってんだ?」

 

 

柊 隼斗から静かに、そして重々しい声が響く。

途轍もなく『堅い』壁にぶち当たった衝撃は、それより先へ突き進むこと無く、すぐ下の地面を抉るだけに留まった

 

 

「…」

 

 

暁美の目線が自然と足元へ向く。

唯その場に立っていた男は微動だにしていない

 

寧ろ……、

 

拳を放った暁美の方が僅かに押し下げられていた。

それは障壁による防御でも、能力的な要因によって反射された訳でもない。

単純に、身体的な耐久力によって、暁美の渾身の一撃は弾かれていた

 

 

「初めに言っとくが、『それ』に取り込まれてるからって仲間に拳を向けた事はチャラにはしねェぞ」

 

 

隼斗は徐に中指を曲げ、親指を添えて暁美の頭部へ突き付けた

 

 

「目ェ覚ませ馬鹿たれ。ついでに中に居座ってるクソ野郎に言っとけ。『てめェにくれてやる身体は無ェ』ってな」

 

 

そのまま、所謂デコピンで暁美の額を弾いた

 

ゴガンッ!!!と言う最早デコピンの音とは思えない轟音と共に、暁美の身体は一瞬で上空に打ち上げられた。

衝撃で頭部を覆っている仮面に大きな亀裂が入り、更に同時に掛けられた縛道の中でも最下位の番台である『塞』によって、身体の動きが完全に封じられる

 

暁美は微動だに出来ないまま地面に落下した。

損傷した頭部が音を立てて修復に向かうが、それに構わず隼斗は人差し指を頭部に押し当て、躊躇無く力を掛けた

 

 

 

「 発 勁 」

 

 

 

ゴゴンッ!!!!と大地が揺れ、暁美を中心に大きなクレーターが出来上がる

 

 

「……!……!?」

 

 

暁美の身体が打ち上げられた魚の様に跳ね、遂には頭部から広がる亀裂が全身に及んだ。

隼斗は徐に立ち上がり、後方の紫に向けて振り向かず声だけ飛ばす

 

 

 

 

「…………後は頼む」

 

 

 

「……ええ、お願い」

 

 

互いに短い言葉を交わし、その場に紫と倒れ伏す暁美を残して、隼斗の姿は消失した。

未だ鈍痛の停滞する身体を起こし、紫は暁美の隣に膝をついた

 

 

「ギリギリで帰って来たと思ったら結局良い所持ってちゃうのねあの人は。ホントにもう……」

 

 

 

 

ーーー

 

 

新たな戦士の参戦により、巨人は再び大量の兵士を口から生み出した。

上空80メートルから降り注ぐ化物達は、地上に降り立つと同時に臨戦態勢を整えて妖忌達を取り囲んでいく

 

 

「また面妖な」

 

 

次々と増えていく化物を尻目に、妖忌は腰に差す一本の長刀の柄に手を掛けた。

その隣には妖夢の肩を借り、なんとか復帰した幽々子が不穏の混じった表情を浮かべ並んだ

 

 

「妖忌…、あの巨人と戦うつもりなら攻撃は出来るだけ受けては駄目よ。まだ確証は無いけど……、多分、生体エネルギーを奪われてしまうわ」

 

 

亡霊である幽々子に生体エネルギーと言うものは存在しないが、彼女にとって直接的なエネルギー体である魂を削り取られた様な感覚。

そして言いようのない虚脱感から、対象が存在を維持する為に必要なエネルギーを奪い取っているのでは?、と推測していた

 

 

 

 

「承知致しました。では、そうなる前に斬り伏せるとしましょう」

 

 

妖忌がそう言って刀の鍔を親指で数センチ持ち上げると、鞘との間から白銀の輝きを放つ刃が顔を出した。

それを目にした周囲の化物達が、僅かに後退る

 

 

「お、おい爺さん。こいつらそう簡単に倒せる様な雑魚じゃないぜ…?」

 

 

その事に気が付かない魔理沙含め数名が、先程の言葉に耳を疑った。

何より数による不利が大き過ぎる。

紫や幽々子クラスともなれば、周囲を取り囲んでいる化物をいずれは掃滅出来るだろう

 

 

だがそれは数が有限である場合の話。

単体で脅威を発揮し、無尽蔵に兵力を増加させる『難敵』が目の前にいる

 

加えて、それら全てを統率する正真正銘の化物までいては、彼女等の反応も当然であった

 

 

………だが銀髪の剣客はこの場の状況を冷静に観察した上で、たった一言呟いた

 

 

「心配無用」

 

 

 

キンッッッ!!と甲高い音が鳴り、僅か数センチ持ち上げられていた刃が鞘に納められた

 

 

 

 

そして……、

 

 

 

「!?」

 

 

目の前に巨大な白い腕が落ちてきた。

自然と集まった視線の先では、巨人が茫然と先の失くなった肩口を眺めていた

 

 

「脆いな。そして……」

 

 

即座に再生が始まる肩口の傷を見て、妖忌は吐き捨てた

 

 

「その程度の再生速度で安心したぞ」

 

 

再び、妖忌の指先が刀の柄に触れる。

それに真っ先に反応したのはサリエルだった

 

 

「一斉に行きなさい」

 

 

呟き、呼応する様に化物達は動き出す。

その表情を焦燥や狼狽と言った『恐怖』に染めながら。

頭上では辺り一帯を照らす赤黒い光の塊が展開されていく

 

 

妖忌は一度だけ妖夢へ振り返り呟いた

 

 

「妖夢、いずれお前に教えるつもりでいる技だ。よく見ておけ」

 

 

 

 

ーーー抜刀。

 

その瞬間、妖忌の姿が前方に消え、青白い無数の残像が化物達の周囲を駆け巡った。

同時に金属が軋る様な甲高い音が鳴り響き、白銀の閃光が迸る

 

 

一瞬と言う速度が何倍にも引き上げられたと錯覚してしまう程、化物達の動きが緩やかに感じる中で、刃を残り数センチまで納刀した妖忌が姿を現した。拡散していた残像も一斉に彼の身体へ戻っていく

 

 

 

 

小さく、鍔と鞘口の触れた固い音が鳴った。

 

 

……直後、

 

 

ガガガガガガガガガガガガガガガガッッ!!!と一拍遅れて連続した斬撃音が響き渡り、その瞬間、巨人含む周囲の化物達は一斉に塵と化した

 

 

「……!」

 

 

死の天使から穏やかな表情が消える。

目を見開き、降り注ぐ化物の塵を暫く眺めた後、自身の身体に入った一筋の刀傷に目をやった

 

 

 

 

 

「他愛無い」

 

 

妖忌が天使へそう吐き捨て、同タイミングでその場に柊 隼斗が現れる

 

 

「てめェが親玉か」

 

 

 




悪役のほくそ笑んだ表情が消えるシーンはスカッとします


次回の投稿日は5月1日(日)となります

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