東方万能録   作:オムライス_

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……サブタイに久々の『VS』をつけた気がします


135話 VS 死の天使

 

隼斗は静かに、明確な怒りを露わにしながら天使の前に現れた。

彼の姿を見た彼を知る者達が、口々にその名を呟く

 

 

「……は、はははは。遅いって、隼斗」

 

 

極度の緊張状態が切れた事で、間の抜けた声を漏らす魔理沙

 

 

「隼斗……、いつから?」

 

 

次々と起こる予想外の状況に、頭を整理しきれていない霊夢

 

それらに対し、概ね接近に気付いていたのか、幽々子の心情は周囲の者よりも落ち着いていた

 

 

 

隼斗は未だ霊夢が手の中で握りしめている御守りを指し、

 

 

「そいつには所持者の危機に反応して発動する一種の転送術式を組み込んでおいた。試作段階だから転送位置が微妙にズレちまったし、発動時期もギリギリだったが……、なんにしても持ってて良かったろ?」

 

 

天使へ向けていた憤怒の感情を抑え、気さくな物腰で笑いかける。

そこで漸く安堵した霊夢は、若干むくれながらいつもの調子で返した

 

 

「………なら事前に教えといてよ、馬鹿!」

 

「悪い悪い。俺も杞憂であって欲しかったんだ………。まさか……、『こんな事』になってるなんてな」

 

 

視線をすっかり地形の変わってしまった景色へ向ける。あれだけ長閑だった世界は爆撃でも受けた様に戦場と化している。

至る所から絶えず殺気の混じった喧騒が押し寄せてくる

 

湖の畔では血塗れの少女二人が抱き合って倒れている。片方は著しく生命反応が弱まっていた

 

 

(なんだ此処は?)

 

 

別に完全なる平穏を求めていたわけではない。

穏やかな日常の中にも争いがあったっていいとも思う。

仲良しこよしの退屈な世界よりかはその方がよっぽど現実味がある

 

しかし、それが紛争に傾き過ぎれば途端に魔道へと成り下がる。人は武器を取り、元の自分達にとって都合の良い世界を取り戻そうとする

 

謳っている事は都合の良い理想、身勝手な願望なのかも知れない

 

 

 

………だがそんなものだ。彼が拳を握る理由なんて

 

 

「妖忌、手を出すな。こいつは俺がぶっ潰す」

 

 

再び眉間に皺を寄せてそう言った隼斗に対し、妖忌は刀を下げつつ、

 

 

「私の分は既に済ませてあります故、御安心を」

 

 

天使の身体に刻まれた刀傷を指して答えた

 

同時に、傷跡を指でなぞるサリエルの表情が怪訝なものになっていた

 

 

(傷の治癒が著しく遅い?……唯の刀じゃないってことか)

 

 

一つ、足音が鳴った。

サリエルがその方向へ視線を向けると、僅か3メートルの位置まで黒髪の男が接近していた

 

 

「やってくれたな。どう落とし前つける気だ?」

 

「あら、怖い顔しちゃって。見てみなさい、後ろの娘達、怖がってるわよ?」

 

「……『西行妖』」

 

「!」

 

 

その名前にサリエルの眉が僅かに動く

 

 

「アレの元凶、お前で間違いねェな?それだけ確認取っときたくてよォ」

 

「そうだと言ったら?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、そォだな」

 

 

 

………刹那、サリエルの身体は跡形も無く消失した。

背後の地面に赤い染みが飛び散り、一瞬遅れて空を漂っていた雲が吹き飛んだ

 

 

「お前の身体が残るか消し飛ぶか。……それだけの違いだ」

 

 

……吐き捨てられた言葉に、当然の様に返答があった

 

 

「なら、あまり変わらないわね」

 

 

赤い染みの広がった地面が人の形に盛り上がり始め、先程と寸分違わぬ姿のサリエルが現れた

 

 

「酷い男ねぇ。女を本気で殴るなんて」

 

「アホ言え。俺が本気で殴ったら結界諸共幻想郷が吹き飛んじまうぞ」

 

 

隼斗はあっけらかんと言い放ち、再度拳を握る

 

 

「お前が粉々になっても再生出来る事は分かった」

 

 

ゆっくりと、唯普通に歩みを進めてサリエルへと近づいていく

 

 

「なら、お前の身体が再生を諦めるまで何度でもぶっ飛ばしてやるよ」

 

「……」

 

 

六枚の翼を広げ、サリエルは後方へ飛んだ。

同時に悪魔の姉妹の強靭な肉体をも容易に貫いた閃光を、大量に前方へ放つ。

勿論男に回避行動をとらせない為、閃光の射線上には疲弊してまともに動くことが出来ない少女達も入れていた

 

 

だが隼斗は立ち塞がらなかった。

 

 

サリエルの後方へ瞬時に移動した隼斗は、『これからお前を殴るぞ』、と誇示する様に分かりやすく拳を引いた。

まるでサリエルに防御するだけの時間を与えるかの様に

 

 

(仲間を庇わない…!?いや、まずは障壁を…!)

 

 

即座に身体を青紫色の障壁で覆ったサリエルに向けて、至ってシンプルな右ストレートが炸裂した

 

 

 

「!?」

 

 

ゴバァッッ!!!と、障壁が一瞬で砕け散り、サリエルは血飛沫を撒き散らしながら砲弾の様に吹き飛ばされる。

そして何か硬い壁に衝突し、その衝撃で更に身体の幾つかの部位が押し潰れた

 

 

「な…に……が……!?」

 

 

揺れる視界で目にした物は、少女達を守る様に展開されている橙色の障壁だった。

先程放った閃光全てが着弾したであろうその障壁には傷一つ入っていない

 

 

(いつの間に…!それに私は『絶対に防ぐ事が出来ない』攻撃を実行した筈なのに……)

 

 

後方から鳴る足音に反射的に振り返ったサリエルは、改めて自身を見下ろす男を見つめた

 

 

(この男には私の力が効いていない?一体何者……、)

 

 

男は冷めた口調で言った

 

 

「茶番はやめろ」

 

 

隼斗は目の前で膝を付く天使に背を向け、指先から上空の一点へ雷の閃光を放った

 

 

バリンッ!!と、硝子が砕け散った様な甲高い音が響き、空間そのものがバラバラと崩れ落ちる

 

 

「あら、お気に召さなかった?案外ノリノリだった様に見えたけど」

 

 

死の天使は笑顔でそこに浮いていた。隼斗の背後では、『天使の姿』をしていた泥人形が形を保てず崩壊した

 

 

「乗ってやったんだよ。偽物とは言え、その薄気味悪いにやけ顔が驚愕に染まる瞬間に興味があったんでな」

 

「奇遇ね。私も貴方に興味が湧いてきたわ。即席の分身とは言え、『同じ力』を持った私をいとも容易く叩きのめすなんてね」

 

「力?キモいデザインの獣を生産する能力か?」

 

「とんでもない。自分で言うのも何だけど、結構すごい力だと思うわよ?」

 

「あ?」

 

 

徐に、サリエルは天に向けて掌を翳した。

急激に空が瞬き始める

 

 

 

「何しようってんだてめェ」

 

 

 

「私からのプレゼント ♪」

 

 

 

「隼斗!!」

 

 

突然背後でスキマが開き、血相を変えて飛び出してきた紫に、隼斗は頭だけを動かし返した

 

 

「どうした?」

 

「厄介なものが結界を通過してきたわ!!」

 

「はあ?」

 

 

 

紫の差した方向へ視線を転じた隼斗の目に飛び込んできたものは、巨大な影。

それは旭光の様な眩い光を発しながら、激しく燃え盛り、隼斗等の頭上へと落下して来る

 

 

「嘘……、隕石!?」

 

 

珍しく、幽々子の口から狼狽気味の言葉が漏れた。その場に居る大半のものが思わず後退り、そして立ち尽くした

 

 

「幾ら何でも……、デカ過ぎるぜ……」

 

 

魔理沙の手から無意識に力が抜け、握られていた八卦炉が地面に落下する

 

 

「こんなの、どうすればいいのよ…!」

 

 

霊夢の表情が焦燥したものへと変わっていく

 

 

まるで月でも落ちてきたかの様な、圧倒的規模と質量を持った『絶望』がすぐそこまで迫ってきていた

 

 

 

「素晴らしいでしょう?貴方達の思い描く絶望がそのまま形となって体現されるの。どう足掻いても打破する事の出来ない、絶対的な力よ」

 

 

「『絶望の体現化』、と言う訳か。中々に厄介な能力を持っている」

 

 

ある一定の確定要素から本質を導く事の出来る妖忌は、サリエルの能力を目の当たりにし、額から一筋の汗を流した

 

それはつまり、敗北が確定している消化試合の様なもの。

此方が幾ら思考を巡らせ策を練ろうとも、相手は絶対的な力でその全てを覆してしまう

 

 

………当然だ。

 

『どんなに尽力しようとも倒せない敵』とか、

 

『如何なる最強の盾を持ってしても防ぐ事の出来ない必殺の攻撃』とか、

 

『守りたかった人や世界を、手も足も出ない様な圧倒的戦力差によって悉く破壊し尽くされ、最後まで無力感に包まれながら共に消し去られてしまう』とか……、

 

 

 

絶望に繋がるシナリオなど幾らでも思いつく。

希望を求める者の数だけ、無限に分岐していく

 

 

それが死の天使。

嘗て二つの世界の最高神をも脅かした、絶望を体現せし者

 

 

「さあ、貴方はどんな絶望を見せてくれるの?」

 

 

死の天使は不敵に笑い、目の前の男へ語りかける。

巨大隕石の接近による影響か、周囲では烈風が吹き荒れ、立て続けに地鳴りが響き渡っている

 

 

 

 

隼斗は暫く頭上の隕石を見上げた後、呟いた

 

 

「くだらねェ」

 

 

心底呆れ果てた様な口振りで

 

 

「何が絶望だ。何が絶対的な力だ。この程度でのぼせ上がんじゃねェよボケ」

 

 

心底苛ついた様な表情で

 

 

 

 

「……ならこの状況、どうする気?」

 

 

「おい、お前ら!」

 

 

天使の言葉を無視して、隼斗は後方の紫達に向かって叫んだ

 

 

「少し派手に行く。怪我したくなかったらその場から動くんじゃねェぞ!!」

 

 

 

 

 

 

言うや否や、返答が返ってくるよりも速く隼斗の身体は上空へと飛躍し、一拍遅れて彼が蹴り付けた地面は何重にも亀裂が入り波紋状に砕け散った

 

 

 

「俺達の幻想郷に……!」

 

 

 

風を切り、高速で上昇しながら、隼斗は拳を固く握り込み隕石へ突っ込んでいく

 

 

 

「落ちてんじゃねェっ!!!」

 

 

豆粒大も無い人影と巨大隕石が衝突する

 

 

 

……そして。

 

 

 

カッ!!!!と、思わず目を覆いたくなる程の閃光が辺り一帯に降り注ぎ……、

 

 

 

 

「なっ…!?」

 

 

 

死の天使の驚愕した声が聞こえる

 

 

 

 

ーーー巨大隕石は粉々に打ち砕かれた

 

 





補足として、隼斗の使った雷の閃光は『白雷』、橙色の障壁は『断空』です


次回は9日月曜日に投稿致します。
その時に、今後の投稿期間についてのお知らせを『活動報告』に載せようと思うので、同時にご覧下さい

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