東方万能録   作:オムライス_

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予定より早く出来上がったので、1日早く投稿いたします。
……と言うより急遽明日の都合が悪くなってしまったので、作業ピッチを上げました^_^;




136話 死闘の幕開け

砕かれた隕石の残骸が、流星群の様に降り注ぐ。遥か上空まで跳び上がった隼斗は、その様子を見下ろしながら軽く空中に作った足場を蹴った

 

 

 

 

……瞬間、隼斗は地上と空中を最早視認できないレベルにまで加速しながら駆け回り始めた。

僅かに映る残像を残しながら、唯足場とした地面や空中を連続して蹴りつける音が響き続け、降り注ぐ流星群は削岩機にかけられた様に粉々になっていく

 

 

時間にして数秒程。

けたたましく鳴っていた轟音は止み、身体を回転させ減速した隼斗は再び一同の前に着地した

 

 

「『動くな』ってそっちの方だったのね」

 

「……派手だったろ?」

 

 

紫との軽口もそこそこに、既にその表情から笑みを消したサリエルへ向き直る。そこに焦燥や狼狽と言った感情は無く、冷静に目の前の男を分析していると言った感じだった

 

 

「少し、見誤っていたわね。このレベルの戦士が二人も控えていたなんて」

 

「だったらなんだ。今更泣き入れようってのか?」

 

「いいえ、とんでも無い。これから面白くなりそうだと言うのに。こんな事なら私が『直接行けば』良かったわ」

 

「……なに?」

 

 

思わず聞き返したのも束の間、徐にサリエルの足下が青い炎で燃え始め、同時に彼女の身体が蜃気楼の様に揺れる

 

 

「貴方はその戦闘力もそうだけど、何より私の能力に抗えるナニかを持っているようね。後ろで此方の隙を窺っている剣士さん同様に『特記戦力』の一人、その筆頭として数えておきましょう」

 

「なにが特記戦力だ。最後まで高みの見物決め込んでたヤツが抜け抜けと偉そうにしやがって。此処に居ないってんなら今すぐ出て来たらどうだ?」

 

「ふふっ、まあそう慌てないで。折角戦うなら貴方の全力を出せる場じゃないと勿体無いでしょう?」

 

 

青い炎によって胸下まで燃え尽きたサリエルは再びにんまりと笑みを浮かべ、宣言する

 

 

「近い内にもう一度、この世界を滅ぼすために私は現れる。兵力も今回の比じゃないレベルのものを用意するつもりだから楽しみにしていてね」

 

 

隼斗の耳に、皆の騒めく音が背後から届く。

同時に今の今まで幻想郷を覆っていた喧騒が嘘の様に止んだ。目の前で焼滅していく天使の気配も次第に薄れていく

 

 

「全力の出せる場?…分からねェな。同じ幻想郷でやるなら今と何が違うってんだ?」

 

 

力を取り戻した彼の全力を振るうには、幻想郷という場、もっと大きく取るならば人間界は脆すぎる。本当にサリエルの言った事を実現するならもっと頑丈な世界に場所を移す必要があるのだ

 

 

……例えば魔界とか。

 

 

「それも、その時のお楽しみ ♪」

 

 

サリエルはたった一言の回答を残し、遂にその全てが青い炎に包まれ消えた

 

 

その場で暫く口を開く者がいないまま、不吉な風が一同の間を吹き抜けていった

 

 

 

 

 

最早幻想郷基準の異変のレベルを超えた一連の騒動は、煮え切らない結果を残して沈静化した。

皆口々にため息を漏らし、疲労困憊と言った感じでその場にへたり込む

 

その中で隼斗は目に見えて弱っている紫の側に立ち、怪我の具合を見がてら言った

 

 

「……暁美はどうなった?」

 

「あれから意識を失ったままだし何とも言えないけど、蝕んでいた根源は取り除けたはずよ。怪我の方も永遠亭に送っておいたから心配ないわ」

 

「そうか。………何にしても怪我人が多い。一先ず全員永遠亭に行くぞ」

 

 

隼斗は周りの者に呼び掛け、同時に背後で突然開かれたスキマに意識を向ける

 

 

「紫様っ!ご無事ですか…!!」

 

 

紫の式、八雲 藍だった。

今回の一件に於いて、賢者たる紫に変わり、幻想郷全体の管理を担っていたのだ

 

 

「多分この中じゃ一番重傷のはずだ。一足先に永遠亭に連れてってやれ。紫、全体の被害状況についてはそこで藍から聞け」

 

「……ええ。……悪い…わね……」

 

「紫様!?」

 

「ちょっ、ちょっと…!?」

 

 

意識を手放した紫に、霊夢や幽々子が駆け寄るが、隼斗はそれを制止した

 

 

「今は治療が先だ。お前らも一緒について行け。妖忌、念の為同行頼んでもいいか?」

 

「勿論です」

 

 

式として、使用を許可されたスキマを開いた藍と一同は、その場に隼斗だけを残し永遠亭へと向かった。

スキマが閉じきった事を確認した隼斗は、踵を返して幻想郷上空へ跳躍、そのまま空中に足場を作って着地する

 

 

(……『近い内にもう一度』、か。漸く力を取り戻したと思ったらコレかよ……。いい加減ウンザリだぜクソったれっ!)

 

 

深呼吸をし、一瞬漏れかけた殺気を鎮める。今はぶつけようの無い怒りに浸っている場合ではない。

被害状況の詳細については後で藍から聞けばいいが、一度自身の目で確認しておきたかった

 

 

隼斗は空中を蹴りつけ、幻想郷の空へと消えた

 

 

 

ーーー

 

 

永遠亭の病室で、此処の薬師の弟子である鈴仙・優曇華院・イナバは慌しく亭内を走り回っていた

 

……理由は今日起こった異変。

 

 

「うう〜!師匠から今日は患者が沢山押し寄せて来るだろうとは聞いてたけど……、まさかこんなに多いなんて……!」

 

 

当初人里から大量の怪我人がなだれ込み、ついさっき物凄い剣幕で割り込んできた『九尾』他数名の診察を、現在師である八意 永琳が行っているところ。

はっきり言って患者全員にまわすだけのベッドも部屋も圧倒的に足りていない状態であるため、出来ることなら霧の湖に立っている目に悪そうな外観の館から、部屋を幾つか貸してもらいたいくらいだ

 

 

「鈴仙〜、また入院患者追加だってさ。全身包帯グルグル巻きのミイラ」

 

「ええーッ、またぁ!?もう空きベッドどころか空きスペースすら厳しい状態なのにー!?」

 

「その事でお師匠様から伝言。『軽傷のクセに重傷人面して寝そべってる』馬鹿共の尻蹴り上げて追い出せってさ」

 

「……へっ?もしかして師匠機嫌悪い?」

 

「さあ?顔は笑ってたけどね。……深い影を作りながら」

 

「それ怒ってるよね!?短時間の内に続けて舞い込んできた激務でストレスがマッハに達しちゃってるよね!?」

 

 

顔を青ざめる鈴仙を他所に、図々しくイビキをかく中年オヤジをベッドからズリ落としていく妖怪兎のてゐ

 

 

「はいはい、『擦り傷組』は帰った帰った〜」

 

「おおっ!?な、何しやがんだ!」

 

「さっさと其処空けたほうがいいよ?軽傷が本当の重傷に変わる前に」

 

 

妖怪特有の威圧に当てられ、シブシブ帰っていくオヤジ達を見送り、今し方てゐの運んできた包帯に身を包んだ少女に目をやる鈴仙

 

 

「あれ?この人なんか天使っぽい翼みたいのが……」

 

「鈴仙〜、もう一体ミイラ追加ぁー」

 

 

続いて容姿のよく似た少女を隣のベッドへ寝かせ、後は任せたと言わんばかりにそそくさと部屋を後にするてゐ。

此方の少女も同じくミイラ姿だ

 

 

「……はぁ、休憩は当分無理ね」

 

 

 

 

 

永遠亭の庭先で適当に腰掛けている藤原 妹紅は、亭内から聞こえてくる色々と騒々しい物音を耳にしながら空を仰いでいた

 

 

「なーに黄昏てるのよ」

 

 

横合いから声を掛けられ、視線だけを向けた妹紅は小さく息を吐き、

 

 

「……輝夜か。別に」

 

 

素っ気なく答え、視線を空へと戻す。

輝夜は遠慮無しに隣へ来ると、動きにくそうな着物を手で押さえながら腰を落とした

 

 

「隣、お邪魔するわね」

 

「邪魔するなら帰れ。後座ってから言うな」

 

「何よー、ただそうやって座ってるだけじゃない」

 

 

特に目的無く天を仰ぐ妹紅に合わせ、同じ様に視線を向けたまま、輝夜は呟いた

 

 

「気にしてるんでしょ?怪我人を出してしまったこと」

 

「……」

 

「貴女はそれ以上に怪我だらけだったのにね」

 

 

所々包帯や絆創膏の貼ってある身体。

その内の一つを剥がし、妹紅は言った

 

 

「『私達』はさ、傷の大小ってあんまり関係ないんだよ」

 

 

絆創膏程度で収まる傷など、有って無いようなもの。彼女らにとって、身体が動く程度の怪我であるならば、差し当たって気に留める事ではない

 

 

「……ええ、そうね」

 

「死なない身体ってのは時に不便でさ。多少無茶しても構わず戦闘を続行できちゃうから、『怪我』って言うものに鈍くなる」

 

「……」

 

「ヤケクソになってたのかもな。この身体になってから。無茶が出来るのは自分だけなのに」

 

 

しかし、不死の身体と言っても痛みを感じないわけじゃない。幾ら治癒が早いと言っても、足を負傷すれば動きは鈍るし、その分体力だって奪われる。ゴリ押し戦法が実行出来てしまうが故の、そう言った一時の『死』が、時に思わぬ被害に繋がってしまう。

死んでいる間は何も出来ないのだから

 

 

 

 

「そのことでさっきから落ち込んでるの?」

 

 

 

 

「落ち込む?」

 

 

 

 

 

対して、妹紅の口から返ってきた答えは疑問系だった。互いにキョトンとしたまま数秒の沈黙が続く

 

 

「……ええ。そう見えたけど?」

 

「……ふっ、ははは。そうか、そんな風に見えてたか」

 

 

妹紅は笑いながら立ち上がり、輝夜を見下ろしながら言った

 

 

「心配御無用。これからはもっと慎重にやらなきゃって思ってただけさ!」

 

 

肩をポンポンっと数回叩いた後、素っ気なく手を振りながら竹林へ歩いていく妹紅を見つめ、輝夜は小さく呟いた

 

 

「……別に心配してないし。何よ、ちょっとからかってやろうと思ったのに」

 

 

悪態とは対照的に微笑を浮かべ、亭内へと入っていった

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

異変の翌日、隼斗はすっかり静まり返った永遠亭の一室を訪れていた。

部屋の前で門番の様にして立番する銀髪の剣士に、呆れ顔で声をかける

 

 

「何やってんだ妖忌」

 

「御淑女が居られる部屋に何時までも入り浸るわけにもいきませんので」

 

「淑女ねぇ……。一応確認するけど入ってもいいよな?」

 

「はい。中で紫様がお待ちです」

 

「どーも」

 

 

適当な挨拶を交わし、襖を開ける

 

 

「あら隼斗。漸く来たわね」

 

 

室内のベッドで横になっていた紫は、付き添っている藍の補助の元、上体を起こした。

その隣では林檎を剥く妖夢を急かす冥界の主が、手をひらひらと振っている

 

 

「元気そうで何より」

 

「そう見えるかしら?」

 

「なんならリハビリ手伝ってやろうか?」

 

「……遠慮しとく」

 

 

挨拶代わりの掛け合いもそこそこに、隼斗は見舞い様に持ってきたフルーツバスケットを棚の上に置いた。この部屋には『三名』が入院患者としているが、早速瞳を光らせた食いしん坊のために、通常よりもデカめのサイズだ

 

 

そしてもう一つのベッドに向かって呟く

 

 

「……ウチの馬鹿弟子はまだ目ぇ覚まさねーか」

 

 

視線の先では、今異変の最中に助け出した先代博麗の巫女が眠っていた。

その身体に点滴以外、特に目立った処置は見られない

 

 

「優秀な先生の話だとこれと言って酷い外傷等は心配ないそうよ。唯、人としての生命力が著しく弱まっていたから回復するまで時間が掛かるみたいだけど」

 

「ああ、俺もさっき聞いてきた。多分身体の中に入れてた天使の力の影響だろうな。俺も同じだったからよく分かる」

 

「…」

 

 

紫は隼斗の何気なく発したその言葉に表情を曇らせた。

戦闘中、駆け付けた際にも、既に天使の力の事を知っている様な口振りで暁美に話しかけていたからだ

 

 

「隼斗…、『同じ』ってどういうこと?……まさか貴方も」

 

「………もう心配ねぇ。自己解決済みだ」

 

「ーッ!!そういう事じゃ……!!」

 

 

声を荒げ、思わず立ち上がろうとした紫を、藍が組み付いて制止させる

 

 

「紫様…!あまり叫ばれてはお身体に障ります。……落ち着いて」

 

 

その様子を見た幽々子は怪訝な表情を作り、妖夢は驚いて剥き終わった林檎を落としかけた

 

 

「……私は野暮用で魔界へ行くとしか聞いていなかったわ。どうして黙っていたの?」

 

「……俺が自分でケリをつけなきゃならなかったんだ。巻き込むわけにはいかなかった」

 

「だからってっ!せめて話してくれても良かったじゃない。……昨日今日の話じゃ無かったんでしょう!?」

 

 

隼斗は紫の肩に手を置き、なるべく柔らかい口調で宥める

 

 

「……紫、その事も含めて後日、『集会』で話すつもりだ。だから今は安静にしてろ。治癒力が低下してるのも天使の力の影響なんだからよ」

 

 

ハッとなった紫も、煮え切らないと言った感じで顔を伏せながら言った

 

 

「………………、わかったわ。その代わりちゃんと話してもらうわよ」

 

 

ここで一連の掛け合いを見ていた幽々子は、部屋の外にいる人物へ声を飛ばした

 

 

「貴方も、ちゃんと説明してね?ーーー妖忌?」

 

 

ガタタンッ、と部屋の外で物音が鳴り、隼斗は一人納得した

 

 

(だから外にいたわけか)

 

 

 




いつの間にかちゃっかり搬送されてる悪魔姉妹でした。
妖忌お爺ちゃんも能力の有効活用で、いずれ来るであろう空白の数年間へのツッコミを事前に回避しておりました


前回後書きで書いた、活動報告に記載する事項について載せましたので、宜しければご覧下さい

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