「始まりは、太古の魔界で生まれた小さな種だ」
僅かな間を置いて、隼斗はそう切り出した
「突然現れたそれは、急激な成長と共に魔界の生態系を大きく崩した。それこそ、魔界だけでなくいずれは他の世界をも侵食する勢いだったらしい」
この場にいる何人かは早くも彼が何を指しているのか気付いた。
数人が眉をひそめる中、さらに隼斗は続ける
「一刻も早く事態を収める為、動いたのは魔界の創造神。そしてこの世界の創造神も交えて、その『厄災』は封じられた。魔界と人間界、二つの世界で分担する形でな」
「……ッ」
この会に出席しているニ柱の表情が強張る
『創造神』がニ柱も動いた。
動かなければならなかった事態
それは言うまでもなく、天変地異や世界改変レベルの…、下手をしたらそれ以上の異常事態だと言うこと
「その厄災こそが、数百年前に俺が力の大半を失うハメになった直接的な要因、『西行妖』だ」
「!?」
ーーー『力の大半を失う』。
その言葉に、これまでの彼を知る者。更に昔の彼を知る者の表情は驚愕に染まった
隼斗がその事実を隠していたのは、当時西行妖の一件に関わっていた紫や幽々子を気に掛けての事。そして力を失っても尚、今まで切り抜けて来られた事が主な理由であったが、現状となってはそんな甘ったれた事情は切って捨てる他ない
「紫、俺がここ数日幻想郷を留守にしてた理由はこれだ。この話はその時に魔界で会った創造神から聞いた。……悪かったな、黙ってて」
「………その様子だと無事取り戻せたみたいね」
「ああ」
無事では無かったが……、と胸の内ではそう思いながらも即答して見せた隼斗。
紫や永琳と言った、古くからの付き合いがある者達がそれを100%鵜呑みにする訳がないことくらい、彼とて分かっている。
……少なからずそんな空気を察してか、間髪入れずにレミリアは尋ねた
「じゃあ何か?その西行妖って言うのが今回の異変を起こしたとか言う天使の正体だとでも?」
「いや。西行妖は天使が生み出した力の極一部に過ぎない。……多分、奴にとっては挨拶代わり程度だったんだろうがな」
極めて容易く、
それこそ挨拶代わりに、
威嚇射撃でもしてやろうか位の感覚で、
世界を滅ぼしかねない存在だと言うことをこの場の全員が改めて再認識させられた
再び沈黙が続く中で、幽々子の隣に座っている妖忌は静かに語り始めた
「幽々子様。誠に勝手ながら、私が白玉楼を弟子に任せ、魔界へ足を運んでいたのはそこにあった西行妖の本体を監視するためでした。魔界と人間界。二つの世界に存在しているあの桜の木はやがて互いに引き合い、自力で封印を解いてしまう可能性があった。そうなる前に何とかしなければならなかったのです」
「……それは貴方なりの考えがあっての上で?」
「……はい」
「なら、これ以上の追及はしないわ」
亡霊である幽々子には生前の記憶がない。
したがって、西行妖の下で封印(その媒体となっている)されている亡骸の正体が自分自身だと言うことを知らない。知らされていない。
その存在を知ったことで、万が一封印が解けてしまうきっかけに繋がってしまってはいけないからだ。そうなれば幽々子の存在そのものが消滅してしまう
「ふむ。天使の力量については未知数か……。その目的は?」
「分からん。だがどんな正当な理由があろうと受け入れる気はサラサラ無いけどな」
「では対抗策は?」
続けて質問した彩芽に対し、
「彼よ」
答えたのは紫だった。
再び皆の視線が隼斗へと集まる
「天使の能力はあらゆる『絶望を体現』すること。如何なる策を講じようとも此方側が望まない結果が現実となって反映されてしまう以上、いくら戦力を増そうが私達では戦闘にすらならない。だから概念的な力の影響を受けない隼斗が唯一の対抗手段であり、天使にとっての『天敵』と成り得るのよ。…事実、天使は去り際に隼斗と、この事実を導き出した妖忌の二人を『特記戦力』として数えていたわ」
その言葉が意味することを、この場の全員が深く受け止める必要があった。
柊 隼斗と言う男は唯一、死の天使と対峙する事が可能な存在。
それはつまり、今集会に集まった者だけで無く、彼の仲間と呼ぶべき者達は皆、彼と並んで戦う事が許されないということ。
その場にいるだけで、例えパーティの回復役に徹しようとも、天使の力の影響を受けて彼の足を引っ張ってしまう
………確実に打破するには、隼斗一人に任せる他無かった。幻想郷の……、世界の命運を彼一人に押し付ける形で
「何てことねー。任せときゃいい」
各々の背徳感を払拭する様に隼斗は言い放った
「その代わり頼むぜ。俺は天使を、お前達は幻想郷への進撃を食い止める」
天使が去り際に口にした『全力の出せる場』とは、恐らく『互いに邪魔の入らない何処か別の場所』という意味合いだろう、と隼斗は踏んでいた
(端から奴とは一人で戦うつもりだったしな。それをどう切り出したもんかと思ってたが)
ふと、真向かいに座る妖忌と目が合った。特に会話がある訳でも無く、交わっていた視線はすぐに外れた。
その僅か一瞬の内に行われたアイコンタクトに、周りの者達は誰一人として気付いていなかった
改めて見てみると、この小説西行妖の名前めちゃ出てくんなぁとか自分で思ってみたり。
ここまでは約1週間刻みで投稿してこれましたが、次回からはお伝えしていた通り投稿ペースが下がる可能性があるのでご了承くださいm(_ _)m