東方万能録   作:オムライス_

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お待たせしました。
今回後書きの方にも目を通していただけると幸いです


141話 引いた波は再び迫る

 

魔法の森入口付近。

瘴気が漂う森の中でも、比較的安全に訪れる事ができるこの場所に建つ道具屋 『香霖堂』

 

ここの店主である森近 霖之助はいつも通り日差しの差す窓際で読書に勤しんでいた

 

一見平和に過ごしているように見える彼だが、数日前に起きた一連の騒動を知らない訳ではない。

被害も出た。不気味な風貌の化物の襲撃も受けた

 

 

「…!」

 

 

ふと、店の外から誰かの気配を感じた霖之助は、徐に隣の壁に立て掛けてある古びた刀に視線を落とした

 

 

(……いや、この気配は)

 

 

『化物の軍勢を薙ぎ払った』刀から、再び扉へと視線を戻した霖之助はゆっくりと本を閉じる。

同時に扉は開き、黒い三角帽子を被った金髪の少女が入ってきた

 

 

「霖之助ー、いるかー?」

 

「見ての通りだよ魔理沙」

 

 

霖之助は陽気な第一声に肩を竦めながらも立ち上がると、一応店主らしく店の奥に並ぶ商品を指し、

 

 

「ようこそ香霖堂へ。日用品から掘り出し物まで何でも揃ってるよ」

 

「長年此処に来てるけどそんなセリフ初めて聞いたぜ」

 

「……これくらいやらないと商品が売れなくてね」

 

「今更」

 

 

挨拶もそこそこに二人は本題に入った

 

 

「で、今日はどうしたんだい?」

 

「……ああ、こいつがな」

 

 

魔理沙は大きな三角帽子に手を突っ込み、中から手の平サイズの八卦炉を取り出して霖之助の前に差し出した

 

 

「……これはまた派手にやったね」

 

 

表面どころか内部まで焼け焦げ、大きな亀裂が入ってしまっている八卦炉を見て、溜息交じりに感想を漏らす霖之助

 

 

「何をしたらこうなるんだ?例え山一つ吹き飛ばしたってこうはならないよ?」

 

「答えは単純。山一つどころじゃない奴と当たっちまったんだ」

 

 

あっけらかんと答える魔理沙だが、その手に巻かれた包帯がその戦況の激しさを物語っていた

 

 

(熱を遮断する安全装置がイかれてる…。限界を優に超える火力を立て続けに解放した証拠だ)

 

 

一度目を伏せ、改めて少女の顔を見た。

その瞳から伝わる意思を読み取る

 

 

(まだ…、戦う気なのか)

 

 

八卦炉を受け取り、黙ったまま店の奥にある作業場へと踵を返した霖之助は、その丁度通路上にある刀 『草薙の剣』に目をやった

 

 

(一層の事、この場で破壊してしまった方が彼女のためか……)

 

 

ゆっくりと。

背後の少女に気付かれぬよう、自然な形で刀へと歩いていく。

一度後方へ意識を向けるが、少女は特に気にしている様子はない

 

 

そして刀まであと一歩。

 

 

「頼むぜ、香霖!」

 

 

何の気なしに発せられた言葉。

霖之助は刀まで伸ばしかけた手を止めていた

 

 

「……」

 

 

改めて、破損した八卦炉へ視線を落とす。

まだ成人にも満たない少女が、己の手を焦がしてまで戦わなければならなかった戦。

例え八卦炉を取り上げたところで、少女は戦へ出て行くだろう。

危うく身を守るための武器を奪ってしまうところだった

 

 

「魔理沙」

 

 

名を呼ぶ。

ある決心を秘めた顔付きで振り返りながら

 

 

「んー?」

 

 

店に並ぶ商品を弄りながら返事をする少女へ、霖之助は言った

 

 

「今度戦う時は僕も同行させてもらう。承諾するなら、修理代はチャラにしよう」

 

「……へ?」

 

 

間の抜けた声を背に受け、香霖堂の店主は奥へと消えた

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

その日、博麗神社からは巨大な光の柱が上がっていた。

全部で六つある角には印の書かれた札が配置されており、内部での事象を外界へ漏らさないように特殊な仕様になっている

 

六角柱の結界の中で、 先代博麗の巫女である博麗 暁美と、現博麗の巫女 博麗 霊夢は対峙していた

 

武器や呪具の類を一切持たず、素手の状態で構える暁美に対し、霊夢の手には数枚の護符。そして周囲には三つの陰陽玉が展開されている

 

 

「……ッ!」

 

 

数秒の沈黙の後、暁美の姿が踏み込みも何も無いノーモーションで消失した

 

 

バギンッ!!!と、真後ろからの破壊音と共に展開していた陰陽玉の一つが砕き割れる

 

 

「ボサッとしない」

 

 

正面から声。

続けて二つ目の陰陽玉も砕け散った。

霊夢はすぐにその場から離脱し、周囲に弾幕を拡散させながら真横へ飛ぶ

 

同時に、霊夢の真横を疾風が駆け抜けた。

直後に聞こえる破壊音

 

 

(陰陽玉が一瞬で全滅させられた…!?牽制で撃った弾幕も掻い潜られたか!)

 

 

この時既に、暁美の動きは弾幕慣れしている霊夢の動体視力をもってしても捉えることができなかった。

別に残像が見えるほどの速度は出ていない。寧ろ暁美の動きは緩やかだった

 

緩やかに、完全に霊夢の動きを読んで死角へと先回りしていただけ

 

暗殺者の使う歩法技術の応用。洗練された武術も加わり、最早視認不可能なレベルにまで引き上げられた移動術を、暁美は弾幕の雨をすり抜けながら実行していた

 

即座に霊夢は護符を四方に投げ、特殊な詠唱を唱え始める

 

 

「〜〜、〜〜!〜〜!!」

 

 

空中の護符が光を帯びる。

同時に4枚の護符は光の線で連なり、霊夢を中心に四角形の陣を形成した

 

 

「神降ろしか。でも貴女のソレはまだ不完全よ」

 

 

連なる護符の間に一枚の札が投げ込まれる。するとエラーでも起こしたように陣を作っていた光は消失した

 

 

「くっ!?」

 

「捕まえた」

 

 

そうして丸腰となったところへ伸びた手は、夢想天生を『発動している』霊夢の身体を容易く掴んだ。

成す術なく引き寄せられた霊夢はそのまま地面へ仰向けに倒される

 

 

「はい、貴女の負け」

 

 

間髪入れずに放たれた拳が顔の数センチ手前で寸止めされ、この実戦稽古は決着を迎えた

 

大の字に転がる霊夢を一見か細くも鍛え上げられた腕でいとも容易く起こした暁美は、自身の弟子であり後継者の少女へ今稽古の所感を述べた

 

 

「霊夢、その夢想天生って技は強力かもしれないけど、これから先の戦闘では心許ないわ。少なくとも丸一日は継続して発動してられないと。それに神降ろしだって発動までにあれだけもたついてたら格好の的よ」

 

「うっ……、確かに」

 

「それと最初に私の姿を見失った時点で動かず突っ立ってるだけだったのはいただけないわね。直接本体を狙ってたら貴女死んでたわよ?」

 

「でもそれは姉さんが…

「言い訳しない!」

 

「……はい」

 

 

暁美とて霊夢の言わんとしてることは分かっていた。

歴代最強とまで言われていた自分が、それなりに本気で動いたのだ。博麗の巫女としてまだ未完成な霊夢では、対応できないのも無理はない

 

それに暁美自身の能力 、『実体を捉える力』の前では、曖昧な形であらゆる物から浮いて無敵となる夢想天生は相性が悪い。

更に言うならば、夢想天生と暁美の能力は矛盾対当の関係にあたる

 

 

あらゆる物から浮くことができるという事は、実質何ものも触れることができないということ

 

実体を捉えることができるという事は、この世に存在している限り、触れられないものが無いということ

 

 

結局のところ、相反する二つの力は使い手の実力次第で優位性が変化する。

つまりそれは、今の霊夢の実力では病み上がり状態の暁美にすら敵わないということを示していた

 

 

「兎に角、まずはその夢想天生を完全なものにしなさい。持続時間及びその本質を全て引き出せるようにね。でなければこれから先の戦いにはついてこれないわ。貴女が本気で幻想郷を護るために戦いたいのなら尚更ね」

 

「……わかってる」

 

 

この特殊な術式の組み込まれた結界は紫と隼斗によって作られていた。

内部の事情を外部へ漏らさない。即ち、結界内の『時間の流れ』等を含めたあらゆる事象を外部から切り離してある。

結界とは、大きく取れば術者によって元の世界から切り離された小さな異世界。時間を掛けて綿密な術式を組み上げれば、ある程度なら時空間の流れを弄ることもできる

 

今回のように、いつ戦が起こるかわからない状況下での修行にはうってつけの場であった

 

 

(結界の効果が切れるまであと『小半年』残ってる。外の世界では大体1日くらい?……その間で何としても修得してやるわ!)

 

 

 

 

ーーー

 

 

博麗神社に聳える巨大な六角柱の結界は、もう一つ、遠く離れた場所に展開されていた

 

 

ギィィンッッ!!!と、言う甲高い音響が一つ、また一つと聞こえてくるのは庭園から。

その様子を 此処、冥界の主である西行寺 幽々子と、幻想郷の賢者である八雲 紫が、屋敷の縁に腰掛けながら微笑ましく?見守っていた

 

 

「相変わらず息の詰まりそうな稽古風景ねぇ。片や死に物狂いで剣を振ってるのに師匠の方は涼しい顔で容赦ない扱き方してるし。って言うか剣速が速すぎて見えないんだけど、この賢者の目にも」

 

「妖忌ったら久々の修行だから張り切っちゃってるのねぇ。何か奥義的なのを教えるんですって」

 

「奥義……って響きはかっこいいけど、妖夢に修得できるの?あの妖忌が奥義って言うくらいだから相当なものなんでしょう?」

 

「うふふ、妖夢だって凄いのよ?」

 

 

幽々子はそう言って、傍にある山積みにされた団子の一つを口へと運んだ。

紫がもう一度稽古風景へ視線を戻すと、ギリギリではあるが確かに妖忌の剣閃に少女は喰らいついていた

 

 

「時に紫、これが例の?」

 

 

幽々子は天高く伸びる緋色の結界を指して尋ねた

 

 

「ええ、幻想郷での被害を抑えるための結界。でも実戦投入は難しいわね」

 

「? と言うと?」

 

「これだけ高度な術式を組み込むとなると相当な力の消費に加えて時間がかかり過ぎる。まあ、力の方は隼斗が担当してるからあまり問題ないんだけど、幻想郷全体を覆う程の結界となるとねぇ」

 

「……今張ってる結界でどれくらいかかるの?」

 

「早くて半日。次の襲撃までのリミットがわからないこんな状態じゃあ、悠長に組み上げてる時間はないわ。現状では最優先で人里の結界を組み上げてるところ」

 

「その割には此処でのんびりしてるわねぇ」

 

「……別にサボってるわけじゃないわよ。術式の構成自体は藍と交代でやってるし、…それに今はなるべく消耗を抑えたいの」

 

 

そう言って徐に立ち上がった紫は、ギリギリ結界の範囲内である縁から室内へ踵を返した

 

 

「あら、もう行くの?」

 

「此処にいると無駄に歳を取っちゃうわ。それに、のんびりしてるって指摘も受けちゃったしね」

 

 

一歩、結界の外へ踏み出した途端、紫の姿は消失した。一人残された幽々子は、相変わらず聞こえてくる稽古音を耳にしながらポツリと呟いた

 

 

「お団子くらい食べてけばいいのに。…余裕がないのは貴女も同じね」

 

 

 

 

 

 

……数日経った幻想郷は、いつ訪れるかもわからない襲撃に対して恐怖や焦燥といった声が上がっていた。

今日も、各地域では其々が次なる戦に備え、張り詰めた空気を保つ。己の鍛錬に費やす等住民達は躍起になっていた

 

 

 

そして翌日。

 

 

ーーー幻想郷に再び動乱の時が訪れる

 





次回からついに動き出します。
個人的には修行編とか書こうか否か迷ったんですが、なんだかんだグダリそうな感じがしたので抑えました。

そして今回から約一週間にかけて、ある募集をしたいと思います。詳しくは後ほど活動報告に載せますのでご覧下さい。

投稿について。
次回の投稿から以前お伝えしていた通り、投稿間隔がグンと落ちます。理由としましては主の仕事の都合です。
期間は今年の12月末まで。以降は落ち着くので通常の投稿速度に戻ると思います。
楽しみに読んで頂いてる方には申し訳ありませんが、ご了承下さい
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