東方万能録   作:オムライス_

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長らくお待たせしました。
久々の投稿です。

前回の悪魔募集では沢山の案をありがとうございました!
それらを参考にさせていただき、今回から登場させていきます。




142話 甦る喧騒

ふと、ある切っ掛けから不吉な出来事の予兆ではとされる事象が存在する

 

買ったばかりの靴紐が切れる。

目の前を黒猫が横切る。

突然食器が割れる。

鴉の群れが忙しなく鳴く。

鼠が客船から逃げ出す。

 

だが所詮は人の作り出したジンクス。それを迷信だと言って信じない者もいるだろう

 

少なくとも、余程ナイーブな者でない限りそんなレベルの話ならばその場だけの不快感で終わるはずだ

 

 

ならば、全ての者が一斉に不吉や恐怖を感じるものはなんだろうか

 

 

 

 

……その日の幻想郷の空は赤黒く染まっていた。

空には幾つもの『穴』が開き、穴を中心に不気味な黒い靄が渦巻いている

 

前回とは違う。

人々は気付いていた

 

 

それは不自然すぎるほどに。

 

 

この日の幻想郷は静寂に包まれていた

 

 

 

ーーー

 

 

人里の住民がこの異常を感じ取るのに十分と掛からなかった。次の瞬間には一斉に()()()()へと駆け出し、普段は賑わっているはずの大通りはあっという間に無人となる

 

 

「……来ましたか」

 

 

命蓮寺の僧侶、聖 白蓮は人里の真上に開いた空の穴を見上げつつ呟いた。

その隣で腕を身体の前で組み、入念にストレッチをする白髪の少女、藤原 妹紅は上を見上げたまま尋ねる

 

 

「守備はどう?」

 

「ご心配なく。住民の警護は慧音さんや星達に任せてあります。私達は大本を叩きましょう」

 

「そっか。こんな事言うのも何だけど…、退がるなら今の内だよ。どんな奴が出てくるかわからないし」

 

「お気遣い感謝します。ですが、私も戦えますので」

 

「巻き込まれて死んでも知らないよ」

 

「ふふ、では僭越ながら足手纏いにならぬよう尽力します」

 

「…もう」

 

 

調子を狂わされたといった感じに呆れ顔を作った少女は、次の瞬間には眉間に皺を寄せ一言呟いた

 

 

「……来る!」

 

 

上空に開いた穴の入口から一層強い邪気が噴き出し、中心から狩人の装束に身を包んだ男が姿を現した。

その手には身の丈程の弓を携え、背には矢の入っていない矢立を背負っている

 

男は空中で停止し、眼下に立つ妹紅等を心底詰まらないと言った表情で見下ろし、吐き捨てた

 

 

「チッ、ハズレか。一番戦力の無いこの場所に特記戦力が集まると思ったってのによぉ」

 

 

次いで大弓をクルクルと回し、人気の無くなった里の住居を一見していく

 

 

「あいつ…、一体何して…!?」

 

 

直後、妹紅は目を見開き掌に霊力を集束させた。突如として目の前を通過し、住居へと向かっていく『矢』を撃ち落とすために

 

 

「『白雷』!!」

 

 

一筋の雷の閃光が、高速で突き進む矢を横合いから弾き飛ばす。

破壊こそされなかったものの、失速した矢は宙を舞い、そのまま重力に従って民家の屋根に突き刺さった

 

 

「あ?…何だお前」

 

 

男は不快な表情を作りながら再び眼下の妹紅を睨みつけた。

構わず妹紅は叫ぶ

 

 

「何だはこっちのセリフだ!いきなり私達を無視して好き勝手出来ると思うなよ!!」

 

 

間髪入れずに男の後方から声がかかる

 

 

「動かないで下さい」

 

 

白蓮は静かに囁いた。

その手に数多の魔法を集約させた巻物『魔人経巻』を握り、もう片側の掌から伸びている光の刀身を男の背へと向けて

 

 

「………その剣は飾りか?何故刺さない?」

 

「誰も傷付かずに争いが終わるに越したことはありませんから」

 

「………………あんまりがっかりさせんなよ人間」

 

 

男の溜息と同時、突然一軒の民家が一瞬で火達磨になった

 

 

「なっ!?」

 

「サリエル様の言った通りだな」

 

 

驚愕に染まる白蓮へ向け、既に弓を構えた状態の男は、彼女の背後を取りつつ言った

 

 

「!?」

 

「背後を取ってもつまらん虚仮威し。かと言って高々家一軒燃えたくれぇで標的から視線を外す」

 

 

キリキリと矢を引き絞る音が止まる。

 

 

「そんな弱者が、狩人の前に立ち塞がるな」

 

 

矢は男の指を離れ、白蓮の首筋へと向かう

 

 

「白蓮!…ッッッ!!」

 

 

続け様に新たな矢が現れ、加勢に向かおうとした妹紅にも幾十もの矢が放たれた

 

 

【天使軍『レラジェ』】

 

 

 

ーーー

 

 

一面に向日葵を始めとした花々が咲き誇る太陽の畑。

以前の襲撃によってその四分の一の被害を受けた畑には、次なる襲撃から花々を護るために強力な結界が展開されていた。

その陣前に立ち塞がる風見 幽香は、吐き捨てるように言い放つ

 

 

「穢らわしい。誰の許可を得て此処に踏み入っているのかしら?」

 

 

紅く光る眼光で目の前の敵を睨みつける。

その背に蝗の羽を生やし、体表を昆虫の様な甲殻に覆われ、頭には金の王冠を被った男

 

 

「お前が特記戦力か?」

 

「違うと言ったら?」

 

「…………此処は良い場所だな」

 

「?」

 

 

男はそう言って周囲を見渡すと、口角を上げて

笑った

 

 

「絶好の『餌場』だ」

 

 

直後、男の身体から大量の黒い靄が噴き出した。靄は瞬く間に周囲を覆う

 

 

「何をする気……ッ!?」

 

 

幽香は周囲の靄を睨み付け、そして驚愕する

 

 

ーーーそれは通常よりもふた回り程大きな『蝗』だった。

その姿は異形そのもの。

頭部は悍ましい表情をした女の顔を貼り付け、蠍のような尾からは鋭い針が見え隠れしている

 

その姿を見て、幽香は先程男が口にした言葉の意味を理解する

 

 

「殺す…ッ!!」

 

 

日傘の鋒に集束された莫大な魔力が、男に向かって一直線に放たれた。

 

男は一歩も動かず軽く指を鳴らす。

すると周囲を漂っていた蝗の群れは男と魔砲の間に割って入るように集まり、円形状に展開した

 

そして衝突。

一見魔砲は蝗の盾を突き破るかに見えた

 

 

 

「喰らえ」

 

 

男はそう呟いた。

直後に魔砲はその出力を落とし始める。

まるで蝗の盾に吸収されていくように少しずつ消滅していく

 

そうして魔砲が消滅し切った瞬間、幽香は蝗の群れが忙しなく顎を動かしている光景を見た

 

 

「……魔力を…、食べた?」

 

「中々美味いなお前の力」

 

「……チッ、面倒ね」

 

 

 

【天使軍『アバドン』】

 

 

 

ーーー

 

 

レミリア・スカーレットは従者と門番を下がらせていた。

普段は館の王室に座し、侵入者等の処置の一切を任せている彼女も、この時ばかりは館の屋根まで出向いていた

 

 

「中々、良いセンスしてるわね」

 

 

言葉を発したのはレミリア

 

 

「……何がだ?」

 

「態々この紅魔館を選んで現れたのだろう?まあ無理もない。これだけ見事な館は幻想郷のどこを探しても無いからなぁ。なんなら観賞して……」

 

 

遮る様に男は呟いた

 

 

「確かにどこもかしこも紅い……、お前はセンスが無いな」

 

「……」

 

 

ばっさりと言い放たれ、途端に黙りこくったレミリアは俯き、肩を小刻みに震わせる。

次の瞬間その小さな手に強大な魔力で形取られた神槍を形成して顔を上げた

 

 

「前言撤回。死にたいらしいわね」

 

「涙目で言っても迫力でないよ、お姉様」

 

 

その様子を冷めた目で見ていたフランは呆れ顔で横に並ぶ。姉と同様、その手に魔力で形成された真紅の大剣を構える。

レミリアは一度咳払いをして呟いた

 

 

「フラン、私達が直々に戦わなければならない相手よ。呉々も油断の無い様にね」

 

「わかってる。跡形もなく破壊してやるわ!」

 

「吸血鬼の姉妹か。お前たちも本来ならば魔族に値する種だろうに。…まぁいい」

 

 

天使の翼を黒く塗りつぶした様な漆黒の翼をはためかせ、男はゴキゴキッと指を鳴らし、

 

 

「子供だろうと容赦はしない。皆殺しだ」

 

 

淡々と高揚の無い言葉で言い放った

 

 

 

【天使軍『アスタロト』】

 

 

 

ーーー

 

 

妖怪の山。

来たる襲撃に向けて、日常的に行っている警備を更に強化していた。

一切の侵入者を出さぬ様、例え幻想郷の賢者であっても幾つかの手順を踏まねばならぬ程に

 

 

「折角厳重な警戒線を築いたと言うのに……。ここまで堂々と来られると逆に清々しいのぉ」

 

 

伝令からの報告を受け、屋敷にて控える彩芽は薄く笑った。

屋敷内にいても既に始まっている喧騒、そして殺意が肌にチリチリと伝わってくる。

既にこの屋敷の防衛を務める一部隊を残し、全ての部隊が襲撃者駆逐の為に出払っていた

 

 

「……私も、久々に戦さ場へ出るかの」

 

 

 

 

 

 

既に、妖怪の山の三分の一は天使軍によって侵攻されていた。

その軍の前衛には、幾十もの軍兵を引き連れた一人の男。

鴉の頭部に翼、手には鋭利な剣を持ち、巨大な狼に跨った異形の悪魔。

後方の兵士達は、以前幻想郷を襲撃してきた髑髏顔の化物だった

 

それらに対峙する大天狗率いる天狗軍。

幻想郷内では珍しく組織化された天狗達も、それを上回る兵力に苦戦の一途を辿っていた。

兵力だけじゃない。更に天狗達を追い詰めるもう一つの要因があった

 

 

「こいつら何なんだ!痛みを感じてないのか!?」

 

 

そう叫ぶ鴉天狗の一人は、自身の持つ刀を一体の化物に突き刺しながら思わず後ずさった。

しかし化物は怯むどころか鴉天狗の盾に喰らい付き、我を忘れた様に暴れ回る。

その背には他の天狗達が突き立てた刀や槍が突き刺さっている

 

 

「離れて下さい!」

 

 

白狼天狗の犬走 椛は、その化物目掛けて急降下しながら刀を振るった

 

ゴドンッ!と、切断された化物の頭部が地に落ちる。そうして漸く化物の身体は攻撃を止め、倒れ伏した

 

 

「た、助かった」

 

「こいつらは…、一体」

 

 

疑問を口にする椛へ、鴉天狗は返答する

 

 

「こいつら最初はこんなに異常じゃ無かったんだ」

 

「どういうことです?」

 

「あの化物達を率いてる指揮官…。アイツが奇声を発した瞬間急に化物達は正気をなくしたみたいに暴れ出したんだよ」

 

 

 

【天使軍ーーー『アンドラス』】

 

 

 




投稿期間が開き、主が失踪したのでは!?と思われた方もいるかもしれません。ご心配おかけしました。
今は忙しくて中々書けませんが、それも今年末までなので、それまでは不定期でいかせて頂きます。

作品は最後まで仕上げるつもりなのでご安心を!

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