東方万能録   作:オムライス_

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皆さん、お久しぶりです!
前回の投稿から大分時間が空いてしまいましたが、忙しかった仕事も年内に落ち着きますので、漸く投稿することができました。
長らく続きをお待たせしてしまって申し訳ない。
一先ず年内の投稿はこれで最後ですが、来年からまた投稿していきますので、来年もよろしくお願いいたします




143話 統率者

天狗と天使軍との抗争が起こる中、同じく妖怪の山に位置している守谷神社にも被害は及んでいた。

周囲には骸骨頭の化物達が倒れ伏し、それらを見下ろす様に立つニ柱と一人

 

 

「今ので全部か。早苗、怪我はない?」

 

「はい、大丈夫です!」

 

「はは、神奈子ってば私らがいれば基本大丈夫でしょ」

 

「邁進はよくないぞ。今の私達には昔程の力は無いんだから」

 

「やだなぁ、別に邁進なんて………」

 

 

洩矢 諏訪子はそこで言葉を止めた。

怪訝に思った早苗が首を傾げ尋ねる

 

 

「諏訪子様?一体どうされたのですか?」

 

 

徐に隣の神奈子へ視線を向けると、同様に真剣な表情のまま固まっていた

 

 

「神奈子様?」

 

「早苗、下がってなさい」

 

 

神奈子は片手を早苗の肩へ乗せ、自身の背後へ押し下げた

 

 

「……来るよッ!」

 

 

諏訪子が空に向けて叫んだのと同時だった

 

何も無い空間に突如黒い渦が発生し、続いて大気を震わせる程の咆哮が響き渡った

 

 

「な、ななな何ですかコレ!?」

 

 

次の瞬間、大地すらも震撼する咆哮はぴたりと止み、黒い渦はその口を広げる様に割れる

 

 

「おぉ?ワシの担当は此処か」

 

 

野太い声と共に、穴から身の丈が屋根を優に越える巨躯の男が姿を現した。

六本ある腕にはそれぞれ柳葉刀の様な刀や、メイスと言った重々しい武器を持っている

 

大男は周囲に倒れている化物の群勢を一見して笑い声を上げた

 

 

「がははははっ!そうかそうか。あの鳥男の一個部隊を潰したか。ざまぁ無いわい」

 

 

ぎょろりと、その大きな目玉が眼下の神奈子等を見下ろす。口角を吊り上げたままの大男は声高らかに宣言した

 

 

「儂は天使軍・強襲部隊筆頭『ラーヴァナ』。宣言しよう。お前達では絶対に儂は倒せん」

 

 

ラーヴァナは大木の様な腕を上げ、巨大な刀身を振り上げる様に構えた

 

 

 

 

…直後、辺り一帯に烈風が吹き荒れ、大地が沸騰した湯の様に盛り上がる

 

 

「不快な男だ」

 

 

押し黙っていた二柱は、これまで内に秘めていた神力を爆発させる

 

 

「身の程を弁えろよ下郎」

 

 

そこに以前程の力はない

 

しかし、その眼光にやどる覇気は衰えず

 

 

「…ほぅ」

 

 

ラーヴァナは薄い笑みを浮かべ、刀を握る手に力を込めた

 

 

「では、始めようぞ…!」

 

 

直後、巨大な刀身は刹那の瞬間に振り下ろされた

 

 

 

【天使軍『ラーヴァナ』】

 

 

ーーー

 

 

「ぐあっ!?…い、いきなりどうしたってんだ!勇儀の姐さん!?」

 

 

一体の若い鬼は苦悶の表情を浮かべながら叫ぶ。

此処、旧都の鬼達を束ねる頭、星熊 勇儀は鬼の青年の肩に指を食い込ませながら軽々と持ち上げ、呟いた

 

 

「だって……、仕方ないじゃないか。『あのお方』の敵は私の敵だからねぇ」

 

「な、何言って、ッッ!?」

 

 

ゴキリッと、青年の肩は外れた。そのまま落下し、更に自重によって外れた肩から鈍い音が響く

 

 

「がっ、ぐあああぁぁああぁあ!?」

 

「勇儀さん!?」

 

「何やってるんだ頭!!そいつを放してくれ!!」

 

 

堪らず悲鳴ををあげる青年と、その異常な光景を目の当たりにした周囲の鬼達は一斉に制止しようと詰め寄った

 

 

 

 

 

「ほっほっほ。無駄、ですねぇ」

 

 

後方から聞こえる不敵な笑い。

その言葉が示すように、勇儀は掴んでいた青年を外れた肩など御構い無しに横薙ぎに振るい、周囲の鬼達ごと吹き飛ばした

 

 

「同じ鬼でもその頭領となるとここまで違うのですか。成る程成る程、やはり貴女を先に引き込んでおいて正解でしたねぇ」

 

 

今異変の明確な『敵』であるその男は、当たり前のように勇儀の隣へ歩み寄った。

しかし、対する勇儀には敵対性の欠片も無く、逆に男に従うように頭を垂れた

 

 

「勇儀…さん…?何で、其奴なんかに!」

 

 

鬼達は混乱せずにはいられなかった。

先程まで肩を並べ、目の前の男と戦っていた筈の自分達の頭が、今ではその敵側についている。事実、たった今仲間の数人がやられたのを目の当たりにしたばかりだ

 

 

「さてさて、お集まりいただいた皆さんは非常に残念ですが、生きて帰ることはできません」

 

 

男は再びにんまりと不気味な笑みを浮かべ、ゆっくりと勇儀の肩に手を置き呟いた

 

 

「殲滅しなさい。その手で、肉を裂き、骨を砕いて、一人残らず…ね」

 

「ああ」

 

 

その残虐な指示を、二つ返事で承諾した勇儀はゆらりと鬼達へ向き直った

 

 

「ちょっ、待ってくれよ頭…、冗談だろ?」

 

「私は嘘が嫌いだ。知ってるだろう?」

 

 

言うや否や、石畳の道に足型が残る程の踏み込みで一気に詰め寄った勇儀は、最初の一人を手にかけるべく拳を握った

 

 

「ひっ…!?」

 

 

反応できないまま鬼は小さく悲鳴を漏らした

 

 

 

 

 

「妬符『グリーンアイドモンスター』」

 

 

突如、勇儀等の間に割って入るように出現した巨大な緑の蛇は、勇儀の腕や胴に巻き付きその動きを制止した

 

 

「あ、ついスペカ名で言っちゃったけど必要なかったわね。技名叫んだみたいで気恥ずかしいわ」

 

「いえ、颯爽と駆け付けたこの局面に於いてはアリだと思いますよ?」

 

 

二つの声の主は同時に皆の眼前に現れた。

それを見た男は興味深そうに目を細める

 

 

「ほほう、どうやらお目当の獲物が釣れましたねぇ」

 

 

右手に持つ本をぱたりと閉じ、男は勇儀に向けて再び指示を出した

 

 

「先程の命令に訂正を入れます。ピンク髮の妖怪以外を皆殺しにしなさい」

 

「ああ」

 

 

勇儀は身体に巻き付いている蛇の拘束を力尽くで解こうと掴み掛かった

 

それを見た金髪ショートボブの少女、水橋 パルスィは隣の少女へ囁く

 

 

「どうなってるの?彼女」

 

 

もう一人の少女は暫く勇儀を一見した後答えた

 

 

「……妙ですね」

 

「何が?」

 

「勇儀さんの思考がちゃんと読み取れたんです」

 

「は?」

 

「わかりませんか?『読み取れた』という事は、彼女の意識があるということ。つまり勇儀さんは操られているわけではないんです」

 

「……ますますわからないんだけど。じゃあ何?勇儀は自分の意思で私達の敵になってるってこと?」

 

 

質問に、少女は一度思考を巡らせた

 

 

「恐らく洗脳の様なものでしょう。何等かの方法で勇儀さんは私達を敵だと認識させられてしまっている」

 

「…何でそう言い切れるの?」

 

「今、彼女の心の中は私達への敵対心。そして傍に立つあの男への忠誠心で満たされているからです」

 

「『敵対心』、ね」

 

 

ブチィッッ!!と、拘束を無理やり引き千切った勇儀は肩を鳴らしながら臨戦態勢を取り始めた。その隣へと移動した男は閉じていた本を開くと左手でさとりを指し、

 

 

「お初にお目にかかります、地底の主よ。私、『ダンタリオン』と申します。貴女には一度会ってみたかったのですよ」

 

「(……思考が読めない?)何故私に?」

 

 

その問いに、ダンタリオンは狂気染みた笑みを浮かべ、言った

 

 

「覚妖怪古明地 さとり。『同じ力』を持つ者を一度嬲ってみたくてですねぇ…!」

 

 

【天使軍『ダンタリオン』】

 

 

 

ーーー

 

 

普段は罪なき霊魂等が漂う冥界。

霊の中には、自身の成り行きなど気にせず暢気に過ごしている者までいる比較的長閑なこの場所も、今日だけは鋭い空気に満ちていた

 

 

「…師匠」

 

「来たか」

 

 

白玉楼庭園。

突如現れた侵入者の前へ、二人の剣士が立ち塞がる

 

 

「………」

 

 

早くも二刀を抜き放った妖夢は、周囲を警戒しつつ臨戦態勢をとった。

そんな彼女へ、侵入者は厳格な声色で言い放つ

 

 

「案じずとも我一人だ。鋒はそのまま向けておけ」

 

 

侵入者は歩みを進めながら、右腕を水平に伸ばすと、何もない空間から三叉に分かれた槍が出現した

 

 

(……強いな)

 

 

一歩後ろでその一連の所作を見ていた妖忌は、一度視線だけを弟子の背中へと向けた

 

 

「!」

 

 

気配に気付いたのか、意識は前方に残したまま、頭だけを傾ける妖夢。

そして静かに頷いた

 

 

「この蚩尤相手に、その娘だけにやらせる気か?『強き』剣客よ」

 

 

柄から手を離した妖忌を見て、侵入者は歩みを止めた。

そしてその言葉に返答したのは妖夢だった

 

 

「私では力不足とでも?」

 

「お前からは殺気を感じない」

 

 

瞬間、蚩尤から殺気が漏れ出す。

まるで突風を真正面から受けた様な圧力と、肌をチリチリと叩く感覚が押し寄せた

 

しかし少女は以前の様に怯みはしなかった。

刀を握り締め、迎え討つ態勢を整える

 

 

「妖夢」

 

「はい。…っ!」

 

 

その頭を大きな掌が包んだ

 

 

「今一度、お前が背負っているものを思い返せ。それでは任せられんぞ?」

 

「!」

 

 

次いで強く、そして優しく頭を撫でたその手はゆっくりと離れた

 

 

「力み過ぎだ。いつものお前の剣を振れば良い」

 

「……はい!!」

 

 

今一度柄を握り直し、大きく息を吐いた妖夢は再び正面の敵を見据える

 

ーーそして

 

 

「はあッ!!」

 

 

ズァッ!!と、辺り一帯の落ち葉が宙を舞い、蚩尤の持つ槍の穂先が僅かに震えた

 

 

「……ほう、大した剣気だ」

 

 

蚩尤は槍を構えた

 

 

直後、空気を裂く鋭い衝突音が鳴り響いた

 

 

     シユウ

【天使軍『蚩尤』】

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

魔法の森。

幻想郷で森と言ったならば此処をさすほどの著名に広がるこの場所は現在、その四分の一が甚大な被害を受けていた。

木々は薙ぎ倒され、地盤は所々ひっくり返されている

 

その地に立つ魔理沙、アリス、霖之助の三人は、半ば唖然としながら上空を見上げていた

 

 

「私さ、二回目なんだよな。ドラゴン見るの」

 

「あらそうなの?私の地元では普通にいるわよ?」

 

「僕も実物を目にするのは初めてだな。魔界の龍と言うのはあんなにも禍々しいのかい?」

 

「まさか」

 

 

一筋の汗が頬を伝い、若干引きつった表情でアリスは答えた

 

 

「……魔界のはもっと可愛気があるもの」

 

 

 

 

「ゴアアアアァァアアアア!!!!」

 

 

耳を劈く程の咆哮。

三ツ首の竜は血走った眼光を向け、周囲に凄まじい衝撃波を撒き散らした

 

 

「……よーし。生まれ変わった『コイツ』を試すのに不足はないぜ!」

 

「はぁ、私達って結構な外れじゃないかしら」

 

「……さて、僕はどこまで戦えるかな?」

 

 

三人は掌の魔具を、指先から伸びる西洋人形を、腰に下げる剣を構えた

 

 

 

【天使軍『アジ・ダハーカ』】

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

今朝方は快晴だった空が、黒雲によって浸食されていく。

同色の雷が迸り、上空に空いた数多の穴からは絶えず襲撃者が降り注ぐ光景を目の当たりにしながら、悪魔の姉妹は今し方片付けたばかりの敵を地面に放った

 

 

「段々骨のある奴が出てきたわね」

 

「そう?呆気なく壊れちゃうけど。ほら」

 

 

夢月はそう言って腕を真横に薙いだ。

途端に血飛沫が舞い、首から上を切り落とされた魔獣は力無く崩れ落ちる

 

 

「うえっ、不っ味……」

 

「止めなさい。変な病気になるわよ」

 

 

刃に変化させていた腕に付着した血を舐めとり勝手に顰めっ面を作っている妹を嗜めつつ、幻月は後方に視線を転じた

 

 

「此処も大体片付いたし良いでしょ。夢月、そろそろ戻るわよ」

 

「えー、またあの巫女の所行くの?」

 

「文句言わない。また拳骨貰いたくないでしょ?」

 

 

姉妹の現在地は博麗神社近隣の湖。

過去に因縁のあるこの地に於いて、防衛線を張るよう半ば無理矢理巫女二人に押し付けられたのだった

 

 

「まったく、こっちも退院したてだって言うのに」

 

 

そんな文句も垂れつつ飛翔した二人は、博麗神社へ向けて加速した

 

そして見えてくる緋色の結界。

これは博麗神社を囲っている幻想郷の賢者特製の結界であり、外部との干渉を遮断する仕組みになっている

 

 

「『激化が予想される場所』、か。あんな小さな場所が一体どんな……ッッッ!?」

 

 

言いながら結界内へ侵入した幻月は、思わず急停止を掛けた

 

 

「な、なん……!?この魔力って…!?」

 

 

結界内は尋常じゃない力の奔流に埋め尽くされていた。今の今まで薄い結界一枚にこれだけの圧力が閉じ込められていたのかと疑う程に。

後方ではいつも饒舌な妹も押し黙っていた

 

先程から冷や汗が止まらない。

自分達でさえこれなのだ。この世界の人間が魔力を直接浴びれば一瞬で命を奪われる

 

 

眼前には博麗神社。

その正面には既に臨戦態勢に入っている巫女が二人

 

 

 

……そして。

 

 

「!?」

 

 

その視線の先。鳥居の上にそいつは座していた。

全身が白い体表に包まれ、巨大な四枚の翼を生やした人型のそれは、静かに眼下を見下ろしていた

 

 

博麗 暁美は隣に立つ霊夢へ、静かに言った

 

 

「全力でかかりなさい霊夢。多分コイツ、私や紫より格上よ」

 

「うん、何となくわかる」

 

 

 

ーーー白い悪魔は静かに立ち上がり、呟く

 

 

「さて、消すか」

 

 

【天使軍ーーー『サタン』】

 




はい!っというわけで、天使軍の強ぇえ奴らが出揃いました。前回の募集から、沢山の案をありがとうございました!!悪魔っていろんな伝説があって面白いですねw
あと、当初予定していた八雲組の戦闘なんですが、急遽内容を変更しまして、魔理沙組&博麗組を書くことにしました。八雲組については別件で後ほど!

今年もお疲れ様でした。残り少ない2016年をエンジョイして、また2017年からよろしくお願いいたします。
では、よいお年を!!

参考までにサタンです。
※あくまでイメージです↓


【挿絵表示】

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