東方万能録   作:オムライス_

147 / 196

新年明けましておめでとうございます!!
また新しい年になりましたが、今年もバシバシ書いていけたらなと思います!
今年もよろしくお願いしますm(__)m




144話 猛威との対峙

 

妹紅によって生み出された火炎が壁のようにそそり立ち、民家を守るように展開されていく

 

同時に次々と打ち込まれていく発火作用のある矢の連射。

それを阻止する為に接近戦に持ち込もうとする白蓮を上回る速度で、レラジェは人里を駆け巡った

 

 

「くそ!あいつ私らを無視して里全体を燃やす気か!?ふざけやがって!!」

 

「妹紅さん!もう少し里の守りに集中していてください!!」

 

 

白蓮は手にしている魔人経巻を掲げ、魔法による詠唱を省く。直後に爆発的な加速でレラジェの前に躍り出ると、鋼鉄の如く硬質化された拳を放った

 

 

「!」

 

 

ボッ!! と空気が弾け、音速の域に達した拳は空を切った。

不意をついた筈の一撃を、首の移動だけで躱したレラジェは、大弓の標準を白蓮の眉間に合わせ躊躇なく矢を放つ

 

 

「緩いんだよ、お前の動きは」

 

 

レラジェはギリギリで身を逸らして矢を回避した白蓮の真上を取るように、再び矢を構える。

だが待ち構えていたように、白蓮は両の手を合わせた

 

 

「!」

 

 

次の瞬間、凄まじい閃光と同時に、白蓮を中心に拡散する光線が放たれた。

最初に出た閃光によって、一瞬目が眩んだところへのまさに虚を突いた攻撃、

 

 

「だから、甘ぇって」

 

「ぐっ!?」

 

 

声は真後ろから聞こえ、途端に髪を掴まれた白蓮は地面へ向けて投げつけられた。

激突すんでのところで態勢を戻し、着地した白蓮の眼前に、既に放たれた矢先が迫る

 

 

ギィィン! と、矢とは思えない甲高い音が鳴り、ギリギリ挟み込まれた障壁によって防がれた

 

 

「反応速度だけは中々だが、狩人の俺からしてみれば格好の獲物だ。大体お前らは……」

 

「赤火砲ッ!!」

 

 

動きを止めたレラジェへ、横合いから特大の火球が打ち込まれる

 

 

「ったく、話してる途中で打ってくんじゃねぇよ」

 

 

レラジェは迫る火球を鬱陶しそうに睨むと、即座に一本の矢を射った

 

 

「!?」

 

 

……そして矢は一瞬で火球を突き破り、速度変わらず妹紅の肩部へ突き刺さる

 

 

「痛ッッ…!」

 

 

矢はそのまま肩の肉を抉りながら貫通し、後方の地面へ深々と食い込んだ

 

 

「妹紅さん!」

 

「はぁ、少し強く射っただけでこれか。言っとくが、さっきから無駄に張ってるその炎の壁じゃあ、『今』の矢は防げねぇぞ?」

 

 

言って、レラジェは弓を上空へ構え射った。

矢は一定の高さまで登ると放物線を描く様に下降し、そして幾千もの矢の雨へと変貌する

 

 

「ッッ!白蓮!!」

 

「わかっています!!」

 

 

咆哮と同時に、妹紅は特大の炎をドーム状に展開させ、更に炎へ重ねる様に白蓮は障壁を張り巡らせた

 

ドドドドドドドドドドッッ!! と、最早矢とは思えない、それこそ砲弾や土砂のような轟音が立て続けに鳴り響く。

だが魔力によって練り上げられた障壁はあっという間にぼろぼろとなり、通過過程で矢を焼き尽くす数千度の炎はその一つ一つの風圧で文字通り風穴を開けられていく

 

容易く二つの防壁を突き破った矢は次々と民家に突き刺さり、その余りの威力に炎上する間も与えず倒壊させていった。

地中深く食い込んだ矢は時間差で発火。

瓦礫となった家屋はあっという間に燃え広がった

 

 

「くっそォォ!!」

 

「妹紅さんまずは回復を!その傷では無茶です!」

 

 

憤怒の形相を浮かべる妹紅の肩からは夥しい量の血が流れ出ていた。先程食らった矢によって骨まで砕かれているのか、左腕は唯肩口から垂れているだけになっている。

彼女の身を案じ、更に障壁を重ね掛けした白蓮は、ありったけの魔力を身体に纏いレラジェへと突っ込んだ。

右手には光の剣、左手には魔人経巻を持ち、音速の数倍の速度で攻撃を仕掛けるが、レラジェは相変わらず涼しい顔で回避していく

 

 

「さっき俺が言った緩いって言葉の意味を理解してねぇみたいだな。碌に隙も作らねぇ内からそんなもん当たるか。見え見えなんだよ」

 

(剣を振るう前から避けた…!?動きが読まれてる…っ!)

 

「ついでに言うが、あの白髪の女が受けた傷が癒えることはねぇぞ?」

 

「!?」

 

 

その言葉が指す様に、後方で自身の傷口へ回道を施していた筈の妹紅は、がくりと膝をついていた。止めどなく流れ出てる血が、地面に赤い波紋を作り上げていき、出血多量によってデッドゾーンに入りつつあったのだ

 

 

(…傷が塞がらない…?一体、どうなって……)

 

 

朦朧とする意識の中で、既に回道が出ていないことにも気付かず掌を何度も翳すが、その命は風前の灯火だった

 

 

「ッッ!!妹紅さんに何をしたんですか!!」

 

 

吠える白蓮を尻目に、レラジェは一度視線を妹紅へと向け、徐ろに手にした矢をそのまま白蓮の太腿へと突き立てた

 

 

「あぐっ…!?」

 

「気になるなら自分で体感しろ」

 

 

一瞬で機動力を奪われた白蓮の腹に、容赦なくレラジェの足裏が食い込み、瓦礫の山へと叩き込まれた

 

 

「『治癒の阻害』。一見地味だが、お前らみたいな脆い人種には致命的な能力だろ?」

 

 

弓の照準が、出血によりショック状態に陥っている妹紅へと向けられる

 

 

「クソつまんねぇハンティングだったぜ」

 

 

矢はレラジェの指を離れ、無慈悲にも彼女の頭部を打ち抜いた。

それもだだ風穴が開いたわけじゃない。大口径の弾丸に撃ち抜かれたかの如く、脳漿を撒き散らせながら弾け飛んだ。

身体は力無く地面に転がり、欠損箇所から大量の血溜まりを広げていく

 

レラジェはかったるそうに溜息を吐き、人里奥の命蓮寺方向を一見した

 

 

(住民はあそこだな。とっとともう一匹始末して向かうか)

 

 

瓦礫を払いながら立ち上がる白蓮に向き直り、狩人はとどめの矢を引き絞った

 

 

「狩猟完了」

 

 

 

……直後だった

 

 

「勝手に終わらすな」

 

 

 

ゴッ!! と、鈍い衝突音。

レラジェのこめかみ目掛け、火炎を纏った爪先が突き刺さった音だった

 

 

「……確かに仕留めた筈だがな」

 

「なんだ、案外甘いんだね。狩人ってのは」

 

 

身体中を炎上させたまま、魂起点の元『蘇った』妹紅は鼻で笑った。

不意をついた一撃は、爪先とこめかみの間に挟み込まれた掌によって防がれてしまったが、白蓮へ向けられた矢の軌道は大きく逸れ明後日の方向へ突き刺さった

 

未だ炎上する足を涼しい表情で掴み返したレラジェは、腰から小刀を取り出すが…

 

 

「!」

 

 

突如、妹紅の突きつけている足の踵からジェット噴射の様に炎が噴き出し、爪先は更にガードごとレラジェを側方へ押しやった

 

 

「ッッ!?」

 

 

倒れたのは妹紅の方だった。

今し方蹴りつけた脚を地面に降ろした瞬間、崩れ落ちる様に力が抜けた

 

 

「…な…に……っ!?」

 

 

視界が暗転を繰り返す中、斬り裂かれた自身のアキレス腱を目にしたのを最期に、ぷつりと意識は切れた

 

 

「刃に塗ってある毒は一瞬で全体に回る。致死性も十分だ。残念だったな」

 

 

血の滴る小刀を払い、レラジェは冷めた調子で吐き捨てた

 

 

だが、既に物言わぬ骸となっている筈の少女は応答する

 

 

「致死性?好都合だ馬鹿野郎」

 

 

瞬間、妹紅の身体から膨大な炎が噴き出す。

正確にはその背から、約5メートル程に凝縮された炎の翼が形成された

 

 

「……何だそれは?」

 

 

妹紅は返答するよりも早く、地面を踏みしめる

 

 

ーーー『瞬閧』、

 

 

直後にレラジェは目の前の空気が弾ける爆音を耳にした

 

次のアクションが起きる

 

一瞬でレラジェの眼前に迫った妹紅は、握り込んだ拳に高濃度の霊力を集中させた。

そして、拳を中心に炎の渦が発生する

 

 

「気になるなら自分で体感しろ」

 

「!?」

 

 

圧縮された力は一挙に解放された。

突き出した拳と同時に前方を放射状に埋め尽くした炎の奔流は、レラジェに回避の時間を与える事なく人里上空に火柱を作り上げた

 

「白蓮、大丈夫?」

 

「はい…。妹紅さん、貴女は一体…ッッ!」

 

 

言葉を続けようとした白蓮は脚に走る鋭い痛みに顔を顰める。

妹紅同様に治癒術を阻害するナニかが働き、先程矢が刺さった箇所は出血と激痛に襲われていた

 

 

「白蓮、すぐに止血して。あと出来れば里への障壁の準備も…」

 

 

せめてもの救いは突き刺さった矢が射られたのでは無く直接突き立てられたこと。

ギリギリではあったが大腿動脈は逸れていた。

白蓮は頷くと、光の念糸を形成して足の付け根を緊縛するが、改めて思考を巡らせ慌てて顔を上げた

 

 

「…まだ、終わってないから」

 

 

妹紅は静かに言った。

この戦闘が始まってから漸く生じた間。

その僅かな時間の中に、白蓮は無意識の内に安堵を覚えてしまっていた

 

冷静に考えれば、敵の能力が消えていないこと以前に、自分達二人がかりでも苦戦を強いられた相手がこんなに呆気なく退場するわけがなかった

 

 

「流石にそこまで馬鹿じゃなかったか」

 

 

声の直後、空中を漂っていた黒煙が一瞬で吹き飛んだ。

それは急な突風によるものでは無く、今まで押さえ込んでいたものが解放され弾けた様な衝撃波だった。

半分程欠けた髑髏の仮面を不機嫌そうになぞり、レラジェは更に悪態を垂れる

 

 

「とは言えさっきのはムカついた。俺は用心深いんでな。半分だけとは言え、ついつい『仮面』まで出しちまったよ」

 

「用心深い?ビビリの間違いじゃないの?」

 

 

妹紅はそう悪態を返し、鼻で笑ってみせた。

それが挑発とわかっていながら、しかしレラジェは敢えて乗った

 

 

「そんなに寿命を縮めてぇのか?」

 

 

次の瞬間、レラジェの周囲に黒い影の様なものが出現した、

空中を一定間隔で浮遊するそれは、形を変え、分裂していく

 

 

「本来は大型の獲物を狩る時に使うもんだ」

 

 

影はその全てが、指向性を持ったかの様に妹紅に狙いを定める幾千もの矢へと変化した。

いや、それは矢と言うよりも両端の尖った杭と表現した方がいいか

 

 

ゴオッッ!! と妹紅の背から噴き出る炎の霊力が一層強まった。

この際目の前の男がどんな武器を使おうと関係はない。

相手の攻撃は一発でも喰らえばアウトの反則能力付きだ。

不老不死の身体を持つ自分でも、そうほいほい復活に力を奪われるわけにはいかない。

いくら甦ったとしても、そこに戦う為の力が残っていなければ意味がないのだ

 

よって攻撃は避けるか撃ち落とすしかない

 

 

「無 窮 瞬 閧」

 

 

背に纏う炎の翼が肥大化し、妹紅の身体全体を包み込んで鎧の様な姿をとった

 

 

「そんな薄っぺらい外皮で俺の矢を防げるとでも?」

 

「残らず灰にしてやるよ!」

 

 

後方にいる白蓮は障壁を張っているとはいえ足の負傷によって満足に動けない状態だ。

だが、彼女がいなければ人里の被害は今現在の比でなかっのも事実。

妹紅に残された選択は、必然的に矢全てを受け切ることだった

 

 

妹紅の背の翼がジェットエンジンの様に炎を放出し始める。

両手を翳し、迎え撃つ為の態勢をとった

 

 

「お前が死しても尚甦るカラクリはわからんが、それは神に背くかの如し行為だ。代償も無し、と言うわけにはいかないんだろう?」

 

 

ズンッッ!!! と、何千・何万本以上ある内の一本が、妹紅等の前方の地面に打ち込まれた。

それは矢一本の威力を誇示する為だったのか。

矢は地中深くまで食い込み、地面に開いた穴の周囲はひび一つ無く焼け焦げていた

 

 

「さて、これでお前は何回死ぬ?」

 

……一斉に。

空を覆い尽くす量の矢が雨の様に降り注いだ。

矢は猛スピードで飛来するも、風を切る音も無く無音で迫る

 

 

「はああああぁぁああ!!!!」

 

 

妹紅の両掌から大砲をぶっ放した様な爆音が鳴り、莫大な出力の火塊が打ち出された。

余りの炎圧に、妹紅自身も後方へ吹き飛びそうになるが、背から噴き出る翼がその体勢を制御する

 

 

無数の矢の束と高出力の炎が衝突し、削岩機にかけた様な大音響が耳を叩いた

 

 

 

……しかし、

 

 

「!!」

 

 

均衡したかに見えた両者の激突は、一つの血飛沫によって崩れた

 

 

「ぐっ…」

 

 

炎を抜けた矢の数本が、妹紅の身体を貫いた。

更に矢は次々に火塊や炎の鎧を突き破って妹紅へと降り注ぐ

 

 

「あぐっ…!ぬ、があ…っ!……おおおおぁああああああああッ!!!」

 

 

妹紅は咆哮し、身体に走る激痛に耐えながら放出する炎を一層強めた。

 

 

「無駄だ」

 

 

それでも矢は進行する。

その内の何割かは炎によって融解するも、容赦無く白髪の少女を赤く染めていった

 

 

ーーー

 

 

 

幻想郷に侵攻した天使軍は、対峙する各地の強者等を嘲笑うかの様に、その猛威を振るっていた

 

 

…太陽の畑

 

 

「どうした花妖怪、もうバテたのか?」

 

「黙れ!!」

 

 

風を切り、高速で振るわれた日傘は次々に飛来する蝗の大群を薙ぎ払った。

だがバラバラになっていく蝗は皆、直前に日傘へと牙を立てていた。

その一匹一匹が魔力を喰らう異界の蝗であり、喰らった魔力は蝗を介して主であるアバドンへと送られる

 

魔力を攻撃に転換している幽香は、アバドンにとって格好の獲物だった

 

 

「あと蝗の毒にも気を付けな?刺されたら痛いじゃ済まないぜ?精々ぷすりとやられねぇ様に……」

 

「ベラベラとよく動く舌ね、引き千切ってやるわ…!」

 

 

幽香の意思に反応し、地中から勢いよく飛び出した巨大な蔓が、アバドンを捕らえるべく伸びる

 

 

「無駄ぁ!!」

 

 

不敵な笑みと同時に、両者の間に展開された蝗の大群は、突き進む蔓を先端から囓り、瞬く間に喰らい尽くした。

 

アバドンは戦闘が開始されてから一歩も動いていない。

無限に湧き出る蝗の群れを操り、着実に獲物を追い詰めていく

 

 

 

 

「……無駄?案外そうでもないんじゃない?」

 

「あ?」

 

 

ぼとりっ と、周囲を漂っていた蝗の何匹かが地に落ちた。

ピクピクと痙攣し、やがて動かなくなった蝗を暫く見つめたアバドンは、先程までの陽気な調子を崩して言う

 

 

「……毒、か」

 

「御名答」

 

 

幽香は掌を下にして横に振るう。

するとその軌道上からキラキラと細かい何かが舞った

 

 

「人間界にはない魔界の毒花。それから取った花粉は一吸いで巨大な魔獣すらも昏倒させる。そんなちっぽけな虫けらが耐えられるわけないわよね?」

 

「さっき飛び出した蔓もその類の物ってわけかい。……小癪な真似を」

 

「心配しなくても貴方は直接私の手で叩き潰してあげるわよ」

 

 

幽香から一挙に殺気が漏れ出る。そのプレッシャーを受けてか否か、今戦闘で初めてアバドンは動いた

 

 





今回妹紅の技はイクスバーナーをイメージしていただけると分かりやすいかと思います。

あんまり痛々しい描写を書くのは(内面的に)苦手なんですが今回からどんどん増えてくんだろうなぁ〜。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。