東方万能録   作:オムライス_

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前回の投稿から、侵攻する天使軍ヤバくね?ってご感想を多数頂きました!
不死身やら魔王やらなんとか。

いやホント、自分でもマジびっくりっス……。
頑張れ幻想郷!!



145話 蹂躙

天使軍襲来により、幻想郷の空は不気味な程赤黒く、瘴気の様な空気に包まれている。

過去に起きた紅霧異変に類似する現象が起きているが、唯一異なる点は、その霧が日の光を遮る為に発動されたものではないということだ

 

紅魔館上空を高速で飛行する三つの影が激しい衝突音を響かせていた。

燃え上がる紅蓮の大剣と、魔力が凝縮された魔槍を手にした二人の吸血鬼の猛攻を、敵対するアスタロトは平然と対処していく

 

本来最強の種とされる吸血鬼は、圧倒的な膂力・速度・魔力を持っている。

事実、スピードに於いてはレミリアとフランが上回っていた

 

……にも関わらず、

 

 

(コイツ…!明らかに死角からの攻撃にも反応している…っ!?)

 

 

振るう魔槍は空を切り、回避地点に先回りしようと、既に対応すべき構えを取っている。

アスタロトの動きは、明らかに二人の少女の行動を掌握しているものだった

 

だがいつまでもあしらわれている訳にはいかない。レミリアはアスタロトを挟み込むように動き、丁度フランと敵との位置関係が直線上になった瞬間叫ぶ

 

 

「フランッ!」

 

「『フォーオブアカインド』!!」

 

 

フランの身体がぶれ、三体の分身が飛び出した。分身は即座に分かれ、アスタロトの左右及び下方へと移動すると、一斉に掌を翳す

 

 

ゴォッッ!! と、弾幕とレーザーが一斉に放たれた

 

これにもアスタロトは当然のように対応し、回避行動を取るが、飛んだ先から小さな掌が伸びる

 

 

「まあ、上に逃げるよな?」

 

 

レミリアはにんまりと笑みを浮かべ魔法陣を展開、アスタロトの視界が眩い閃光で埋まる

 

ゴバァッッ!! と、魔力を大量に注ぎ込まれた巨大な魔弾は、先程まで自分達がいた空間諸共飲み込み、眼下の地面を吹き飛ばした

 

 

「上手くいったね」

 

 

事前に回避行動を取っていたフラン及び分身がレミリアの元へ並び、土煙に包まれた先を覗き込もうとした

 

 

「やっぱりな」

 

「えっ?何が…ッッ!?」

 

 

言い掛けたフランの襟首を、レミリアは強引に引き寄せた

 

突然の事に一瞬状況が掴めず目をパチクリするフランの真横を赤黒い閃光が通過する

 

その閃光に三体の分身は身体を貫かれ四散した。

攻撃は真上から。

反射的に見上げた先で、アスタロトは平然と見下ろしていた

 

 

「子供にしては勘がいい」

 

「舐めるなよ下郎が。その程度見抜くくらい造作もないさ」

 

「…ッ!」

 

 

フランは奥歯を噛み締めた

 

視界の端に映る、姉の肩口から流れる血は、先程の閃光を掠めたもの。

不意の攻撃に反応できなかったこともそうだが、何より…、今確実に姉の足を引っ張ってしまった事に対して苛立ちを覚えていた

 

 

「どうやらお前は私達の動きを読む術を持っているようだな。さっきまでのは兎も角、今のは明らかに不自然な避け方だった。一体なんだ?歴戦の戦士の勘とやらか?」

 

「……。確かに長年培ってきたモノはあるが、例え経験等無くとも俺にはお前達の動きが『視えて』いる。いくら策を講じようと所詮無駄な足掻きだ」

 

「足掻きだと?言ってくれるな、天使の犬めっ!」

 

 

掌に再び魔槍を作り出そうとしたレミリアは、後方にいる妹の気配に思わず振り返った

 

 

「ッッ、なんで…!?」

 

「どうかしたのフラン?」

 

「………あいつの『目』が見えない…!何か、靄みたいな霧状のものが重なってて邪魔してるって言うか」

 

「……!」

 

 

フランは全ての物に必ず存在すると言う『目』を捉えることができる。

その目を破壊することで、同様に対象を破壊することができるわけだが……

 

勿論、この能力が通じない柊 隼斗という様な例外も存在する。

彼は能力の恩恵で概念的な異能の力を無効化している。だから当時対峙した際『目』を破壊することはできなかったが、それを視認し、手元に掌握することができたのだ

 

今回の様に『目』そのものを捉えることすらできない事態に、フランは驚愕していた

 

しかし、レミリアが感じた違和感は別にある

 

フランは『目』に霧状のものが重なっていると言った。

つまり掌握されない様に隠されていると

 

本来フラン以外は視認することができない筈の『目』を、事前対策として処置していたとしたら。

先程アスタロトが口にした言葉を思い出す

 

 

(『みえている』って言うのは、単に予測できるといった意味合いではないのか?フランの力についてはそれこそ予め目撃でもしない限り認知は不可能の筈だ)

 

「!」

 

 

レミリアは小さく手招きをして、近寄ってきたフランに対し、敵方を向いたまま囁いた

 

 

「試したいことがある」

 

 

 

ーーー

 

 

天狗軍と対峙する鴉頭の男『アンドラス』は、妖怪の山全体に行き渡らせるかの如く、甲高い奇声を発した。

声は特殊な音波となり、天狗達によって倒された髑髏型の化物の身体を震撼させる。

 

…そして、

 

 

「くそッ、まただ!また蘇りやがった!!」

 

 

天狗の一人が叫び、その言葉通りに化物等はのそりと起き上がった。

身体中 刀傷や欠損箇所があるにも関わらず、明らかに致命傷を与えた奴等まで再び瞳をギラつかせて…。

開いたままの口からは血反吐が零れ落ちるが、そんなものは御構い無しに化物は咆哮した

 

途中で合流した鴉天狗の文へ、椛は警戒しつつ囁いた

 

 

「……どう思います?文さん」

 

「うーん…、あの鳥頭の奇声で蘇ってるのは間違いないとして、プラスアルファで別の何かも絡んでる気がするのよね」

 

「別の?」

 

「なんて言うか……、怒りとか闘争本能って言えばいいのか…、ハッキリとはしないんだけどそれらを煽ってる感じ?」

 

 

椛は周囲の化物に視線を移す。

確かにあの奇声に晒された化物等は、まるで煽動された様に凶暴化していた。

その衝動に駆られているせいか、一撃で息の根を止める攻撃以外では、怯むどころか痛がる素振りすら見せない

 

 

「ならば奴を先に仕留めねばならないと言うわけか」

 

 

後方から大柄な男が一歩前へ出た

 

 

「大天狗様…!」

 

 

大天狗と呼ばれた男は身の丈ほどの大刀を抜き放ち、刀身に目視できるほどの高圧の風を纏わせながら言った

 

 

「奴は儂が屠る。お前達は周りの雑兵を頼むぞ」

 

 

大天狗は構え、直後に足下の地面が爆ぜた

 

土塊を巻き上げるほどの脚力と速度で間合いを詰めた大天狗は、上段に構えていた大刀を振り下ろす

 

 

ドゴォオッッッ!!! と、爆発でも起きたのかと錯覚してしまうほどの轟音が響く。

圧縮された風の塊は斬撃となってアンドラス諸共周囲一帯を吹き飛ばしたかに見えた

 

 

「ふん、唯の狂人ではないということか」

 

 

大刀を肩に担ぎ直した大天狗の視線の先には、空中に降り立った狼と、それに跨るアンドラスの姿があった。

アンドラスは腰に下げている剣を抜き、氷の様な瞳で大天狗を見据える

 

 

「!」

 

 

それは矢の様に射出された。

ガギィィイインッッッ!! と言う甲高い音が聞こえたのはその一瞬後。

大刀の腹で刺突を受けた大天狗は、眉間に皺を寄せつつ振り払った

 

 

(速いな。それも我々に引けを取らない速度だ。……いや、速いのはあの狼の方か?)

 

 

通常の狼より巨大な身体以外は何ら変わりない外見の獣だが、周囲の化物同様、その瞳は狂気に染まっていた

 

 

(何より油断ならん相手だ。もう様子見は不要だな)

 

 

再び風が刀身を、そして大天狗自身も其れを纏う。

小規模な竜巻の様に刀身を漂う風の刃は、身の丈ほどの大刀を更に巨大なものへと変える

 

 

「お前達!下がっておれ!!」

 

 

大天狗は叫び、返答待たずして地面を蹴った。

爆発的な加速に加え、身を捻りながら繰り出す横薙ぎ。単純に見えて、その威力は一振りで周囲の地形を変えるだけの破壊力がある

 

この時、大天狗のトップスピードは、アンドラスの移動速度を大きく上回っていた。

回避するだけの時間を与えず叩き斬る

 

 

「終いだ」

 

 

慌てて退避する天狗等を横目に、一閃はアンドラスの首筋目掛け容赦なく振るわれた

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

直後、3メートル圏内まで接近した大天狗に向けて、アンドラスは耳を劈く様な奇声を発した

 

 

「ッッ!?ぬぅ…あああああああッッ!」

 

 

奇声は超音波となって大天狗の耳から脳へ走り、平衡感覚を狂わせた。

その状態でも尚、剣筋を狂わせることなく振り抜いた大天狗の手腕は賞賛に値するものだろう

 

だがほんの一瞬。

剣速は僅かに落ち、アンドラスに回避する為の時間を与えてしまった

 

空を切った一閃は周囲の木々を薙ぎ倒し、前方の地面を抉り飛ばして砂塵を巻き上げた

 

 

「ぐっ…!」

 

 

頭が割れそうな激痛と目眩が襲うが、大刀を地面に突き立て、杖代わりにして何とか耐えた。

止まっている時間などあるわけが無い。直ぐに反撃が来る

 

 

 

……後方から殺気。

続いて襲う凄まじい衝撃と共に、アンドラスの剣先は大天狗へと放たれた。

援護に入ろうと大天狗の元へ向かっていた天狗等の動きが止まる

 

 

「だ、大天狗…様…!」

 

 

口々にその名が漏れる。

皮肉なことに、彼等を遠ざけたのは他でもない大天狗なのだ

 

だから大天狗は言った

 

 

「構うな!」

 

 

アンドラスの剣は、間に挟み込まれた大刀の腹で止まっていた。

片膝をつき、ギリギリ踏ん張っている状態であったが、何とか一撃を防いでいた

 

 

「舐めるなよ侵入者。儂はこの程度で……」

 

 

…大天狗の言葉はそこで途切れる

 

 

 

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」

 

 

無情にも、再び発せられた超音波は容赦無く大天狗を襲った

 

 

「ぐっ、ああああああああああああああああああああああああッッ!!」

 

 

しかし苦痛に耐え、大天狗は踏み止まった。

ここで引いたら確実にやられてしまう。

脳を揺るがす音波に、目や鼻、耳からは血が流れ出るが、大天狗は吼え、逆に押し返そうと力を込めた

 

 

 

ドスッ! と、鈍い音が鳴る

 

 

「……なん」

 

 

超音波は消え、周囲を静寂が包む中、大天狗は徐ろに視線を落とした

 

 

「くるるる……」

 

 

鳥が喉を鳴らした様な小さな声が鳴る

 

アンドラスが突き出している剣先は、大刀を貫いて自分の左胸に突き刺さっていた

 

 

「き、貴様……!刃に振動……ッ」

 

 

血飛沫が舞う。

躊躇なく抜き放たれた剣には鮮血が滴っている

大刀はその堅固な手を離れ、力無く崩れ落ちた主人の横へ、共に倒れた

 

 

「大天狗様ァァァァッ!!」

 

 

悲痛な叫びがこだまする

 

 

「くるる…?」

 




ここで、以前の天使軍募集で一番人気?のあった(名前があがってた)アンドラスさんの能力を、主のオリジナルを混じえつつちょっくら紹介。


〜『アンドラス』

身体から発する靄を音波によって拡散させる。靄を受けた者は憎悪などの負の感情が掻き立てられ、破壊衝動に駆られる(精神が肉体を凌駕的な)。
音波には間近で聞いた相手の平衡感覚を狂わせる効果や、振動を剣に纏わせてチェーンソーの様にするなど可能。

狼めっちゃ速い。
……的な?

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