東方万能録   作:オムライス_

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今回はタイトル通り妹紅戦!!




146話 不死鳥の焔

決戦前夜、少女は尊敬する師と共に人里の一角を歩いていた。

いつか来る襲撃に備え、多少慌ただしくはあったが、それなりに賑わっている大通りが前方に続く

 

 

「相変わらずここの連中は呑気だな。いつ襲われるかわからねーってのに」

 

「それはほら、師匠とかがいるし安心できるんじゃない…?」

 

「そりゃ、俺がいるタイミングで現れてくれりゃあ叩き潰してやるとこだが…、」

 

 

少女より頭一つ分程高い男は、雲一つない空を見上げて溜息を漏らした

 

 

「今更ながら厄介な事になったな。こうしてる今も気が気じゃねーや」

 

「大丈夫だって。私だって強くなったんだからあんな奴らになんて負けないよ」

 

「確かにお前があそこまで力を付けるなんて思ってなかったよ。大したもんだ、いやホントに」

 

「にひひ」

 

 

ポンッと頭に乗せられた掌を誇らしげに受け入れる少女へ、男は釘を刺すように告げる

 

 

「……いいか?意固地にはなるな。頼れるもんは全部頼ったっていい。怖いなら戦場から身を引いたって誰も責めやしねェ。だから……」

 

「ッ!師匠…!私は!」

 

 

頭に乗った手を振るい落としそうになる程の勢いで振り返った少女へ、掌に少しだけ力を込めて男は言った

 

 

「此処を頼むぞ、妹紅」

 

「……へ?」

 

 

思わず足を止めた少女から間の抜けた返事が漏れる。

それとは対照的に、男は手を離してどんどん歩いていってしまう

 

 

「ちょ、ちょっと師匠!?……今っ!」

 

「ん?」

 

「………あっ、いや…、何でもない」

 

「?」

 

 

 

(頼む、か……)

 

 

自然と笑みの零れる表情を隠しながら、急ぎ足で追いついた少女は再び男の隣を歩く

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

人里の通りに出来上がった針山。

シルエットで見れば奇抜なオブジェに見えなくも無いその正体は、無数に突き刺さった矢の塊だった。

すぐ下の地面には赤い染みが広がり、一層その惨状が強調されている

 

 

「妹紅…さん…!」

 

 

その瞬間を目の当たりにしていた白蓮は、地に倒れ伏しながら力無く声を漏らす。

立ち上がろうともがくが、彼女の頭を万力の様に押さえつける足がそれを許さなかった

 

 

「結局何もできなかったな、お前ら」

 

 

レラジェはそう言って足裏の圧力を更に上げた。

白蓮の耳に頭蓋の軋む音が走る

 

 

「がっ、あああああ…!?」

 

 

悲痛な悲鳴が漏れるが、それを実行している悪魔の表情は変わらない。

そのままキリキリッ と弓を引き絞り、確実に被弾部位ごと弾け飛ぶであろう至近距離から矢を構えた

 

 

「本来俺は獲物を嬲る趣味はない。獣ってのは一撃で仕留めねぇと面倒くせぇんだ。今回のお前達みたいに噛み付いてきかねない」

 

 

それに……と付け加え、未だ民家を護るために展開されている障壁を睨み付けた。

術者同様に効力は薄れつつあるものの、魔人経巻から引き出した多彩な術式の組み込まれた障壁はレラジェの強大な力から人里を守っていた。

貫かれ、崩壊しようとも術者の魔力供給で再び再構築されるが、逆にそれが白蓮自身を防戦一方に追い込んだ一番の要因かもしれない

 

 

「つまらん時間を食った」

 

 

レラジェの指先から筈が離れる。

矢は真っ直ぐに白蓮の頸椎へ放たれた

 

 

「あら?あれ位で『時間を食った』だなんて……」

 

 

その声は何処からともなくレラジェの耳に入ってきた。

狩人である彼のセンサーにすら引っかからなかったその声の主は、目と鼻の先に立ち、優雅に靡く黒髪を押さえクスクスと笑う

 

 

「随分生き急いでるのね?貴方」

 

「…あ?」

 

 

その者の足下には今し方仕留めようとした獲物がへたり込んでいるが、当人も何が起こったのか理解できていないようだった

 

 

(……何が起きた?)

 

 

矢を射った瞬間、レラジェの眼は白蓮の姿を捉えていた。

当たれば確実に即死するであろう神経の束が通う急所を狙ったのだ。生きて助け出すには被弾する前に掻っ攫う必要がある

 

……普通、そんな事が可能だろうか?

 

仮に可能だったとして、それ程の速度で滑り込んだならば凄まじい風圧が発生する等、何らかの痕跡が残らなければ可笑しい

 

何の予兆もなく、気が付けば事が済んでいたなんて言う、まるで事象の過程のみをすっ飛ばした様な現象に、レラジェは疑問を抱かずにはいられなかった

 

 

「誰だお前は?」

 

 

返答を待たず、レラジェは一挙に大量の矢を射ち放った。

視界一面を埋め尽くす程の密度だが、レラジェは当てるつもりで射ってはいない

 

 

(まあ、躱すよな)

 

 

クスクス と、再び後方から聞こえてくるせせら笑い。

今度は冷静に振り返った。

あの一瞬で起きた出来事を分析する為に放ったデコイであったが、またもその姿を視認することは疎か感じ取る間もなく回避されている

 

 

「蓬莱山 輝夜」

 

 

余裕を見せつけ、先の不意打ちなど無かったかの様に、輝夜はその名を口にした

 

 

「いつまで寝てるの?……貴女」

 

 

続いて側方の針山へ声を飛ばす

 

それは針山の底から…、

 

小さく弾ける様な、燃え焦がす様な音が聞こえた瞬間だった

 

 

ゴォッッッ!!! と、突然発生した爆炎によって、針山は一瞬で灰塵と化す。

その中から、鳳凰の如く鮮やかな烈火を纏った藤原 妹紅が現れた

 

 

「……勘違いするな」

 

 

妹紅は低く、静かな怒りの籠った声で吐き捨てる

 

 

「少しばかり力を溜めるのに手間取っただけだ」

 

「あら、私が来なかったらこの人死んでたわよ?感謝くらいしてほしいものね」

 

「……………………ならついでに頼まれてくれ。多分、『里ごと』吹き飛んじまう」

 

 

既に眼光の先を敵へと移した妹紅は、溢れ出る炎を抑える等の、周囲への配慮を放棄していた

 

 

「とうとう顧みなくなったか。もっと早くにそうしてりゃあ、少しは手傷位負わせられたかも知れんが、生憎とお前の手の内は知れている」

 

「……知れている?」

 

 

視界の端でやれやれと言った感じに肩を竦めている輝夜を捉えつつ、妹紅は一呼吸おくように溢れ出る火勢を一瞬だけ沈めた

 

 

「お前に手の内を見せた覚えは無い」

 

 

 

ーーー直後だった。

 

周囲を凄まじい衝撃波と熱風が埋め尽くした。

上空高くに上る巨大な火柱は、空を覆う赤黒い靄の一部を突き抜け、吹き散らしていく

 

 

 

 

「『 瞬 閧・鳳 凰 戦 形(しゅんこう・ほうおうせんけい) 』」

 

 

その背部に瞬閧による高密度のエネルギーで形成された、巨大な翼と孔雀の様な尾羽を展開した妹紅は、今戦闘間で初めて驚愕の表情を浮かべたレラジェに対し、淡々と言い放った

 

 

「これは蘇る度に強大になる不死鳥の炎だ。私の体力が尽きるまで解除はしない。ここから先は一切の加減は無いと思え」

 

 

踏み込みはなかった。

ただレラジェの視界には、突然発生した爆風のみが映る。

それとほぼ同時に、レラジェの横腹をソニックブームが突き抜けた

 

 

「!?」

 

 

一瞬遅れ、レラジェは手元から大弓が消失している事に気付く。

そして無意識に後方へ視線を転じたその先に、既に燃えカスとなった弓を握る妹紅の姿があった

 

 

「…」

 

 

ザリッ と、踵を返す為に少女の靴底が地面に擦れる

 

 

「ッ!」

 

 

次の瞬間、レラジェは新たな弓を生成し、矢を射っていた。

それこそ、不意に飛んできたボールから、思考が追いつく前に手で顔を庇う様な、反射的な行動に近い

 

矢は寸分違わず少女の眉間に向けて飛翔するが、その矢尻が突き刺さることはなかった

 

 

「『赤火砲』」

 

 

妹紅はノーモーションで放つ

 

それは先程まで、翳した掌から火塊を打ち出す霊術だった。

レラジェも一度目にしているこの術は、決してこんな…、目の前の空間ごと飲み込む炎の津波を発生させる術ではなかった筈だ

 

 

 

「……チッ」

 

 

レラジェの身体が火炎の渦に包まれていく刹那、

 

 

「!」

 

 

その顔が髑髏の様な仮面に包まれていく様を、妹紅は目撃した

 

 

そして確信する。

ーーー敵を本気にさせた、と

 

 

確信は直後に現実となる

 

進行する炎は一瞬で掻き消された

 

内側より溢れ出た、乱気流の様に渦巻く黒い力の余波が、衝撃波となって押し寄せる

 

 

 

 

「……特記戦力以外には使う必要は無いと言われてたが、仕方ねぇ」

 

 

空中に浮かぶ四つの大弓と、顔全体を覆う髑髏の様な仮面を指し、レラジェはそう吐き捨てた。その声からは、明らかな苛立ちが含まれていることが伺える

 

 

「こうなった以上楽に死ねると思うなよ」

 

「お前頭悪いだろ」

 

 

妹紅の背から伸びる両翼が、数十メートルにわたって肥大する。

圧倒的なリーチを持った紅蓮の翼は、人里の大通りを埋め尽くす勢いで振り下ろされた。

その際に生じた爆炎によって、天高く昇る巨大な火柱が発生する

 

だが広範囲的攻撃に構わずレラジェは突っ込んできていた。

具体的に言えば、周囲に展開している四つの大弓が自律的に矢を発射し、翼の一部に風穴を開けていた。

自律砲台を常備したレラジェは、自身の手にも弓を出現させ、弦を引いた

 

 

「お前を本当の死に追いやるのに肉体的損傷は関係ねぇってことはわかった。ならその起点になってるお前の精神を破壊し尽くす。要は燃料切れになるまで狩りまくればいいんだろうが!」

 

 

そう吐き捨てたレラジェ本人の持つ弓から放たれた矢は、極太のレーザーとなり、ドス黒いエネルギーを撒き散らしながら飛翔した

 

妹紅は即座に広げていた翼を戻し、正面から巨大な矢と衝突させる。

瞬間、凄まじい轟音と衝撃波が発生するが、両者は足を止めず、連続で苛烈な攻防を繰り広げていく

 

その一発で強固な障壁をも貫く矢を無尽蔵に打ち出す四つの大弓と、一振りで視界一面を爆炎で埋め尽くす翼は、何度も何度も人里の中心で衝突し合った

 

 

「ッ!」

 

 

しかし、一発の矢が妹紅の左肩を貫いたことにより、均衡したかに見えた攻防戦は崩れ始める。

火力と範囲に長けた妹紅に対し、加えて機動力と手数がプラスされたのがレラジェの戦闘力だった。

寧ろ、戦闘経験に於いても圧倒的に高い水準にいるレラジェを相手にここまで戦えただけでも、妹紅は間違いなく強者のカテゴリーに区分されるだろう

 

 

「終わりだな。次に復活してきたとしてもお前が態勢を整える前に再度息の根を止めてやる。その術だってそうだ。何度も発動する力が残ってるかどうかも怪しいよな?」

 

「……よく喋るようになったな。その仮面のせいか?」

 

 

矢が身体を掠め、徐々に痛々しい傷が刻まれていく状況下でも、妹紅の表情は崩れなかった

 

 

「?」

 

 

激化する戦闘の最中で、ふとレラジェは違和感を感じた

 

確かに両者の均衡は崩れ、今では目に見えてレラジェの方が押してきている。

白髪の少女は治癒の許されない傷を負わされた。戦況が悪くなるのは当然のことだ

 

戦闘の主導権は掌握しつつある。

此方に比べて相手はボロボロだ

 

 

……この場所だって、

 

 

「!?」

 

 

レラジェは思わず動きを止め、周囲を見渡した。

そこに広がっていたものは、半壊した家屋や所々抉れ、穴だらけの大通り

 

その風景に見覚えはあった。

何よりレラジェの手で破壊したものばかりなのだから

 

レラジェが驚愕していたのは、その光景そのものに対してだ

 

大木の様なサイズの爆炎を振り回して、一発で建築物を倒壊させる矢をあれだけ射っておいて……、

 

況してや人外クラスの二人が本気を出している戦場で…

 

 

ーーー目の前に広がっている惨状では余りにも被害が小さ過ぎた

 

 

「今更、そんなことに驚くの?」

 

「ッッ!」

 

 

心情を見透かした様な囁き声が、耳のすぐ近くから発せられた。

即座に振り返るが、そこには誰も居らず、再び視線を戻したその先で、長い黒髪を靡かせる少女と目があった。

少女は微笑み、手を振る余裕さえ見せる

 

 

(……あいつッ!!)

 

 

この戦闘に於ける被害を抑制しているのは間違い無く彼奴だと確信はしたものの、何をしたのか見当がつかなかった。

事実、目立った行動などしていないのだから

 

 

「戦闘中に余所見か?」

 

 

バキンッッ!! と、大弓の一つが音を立てて砕き割れた。

そして視線を転じる間もなく、急接近していた妹紅の右拳がレラジェの顔面をとらえた

 

 

「がっ…!?」

 

 

肘から噴き出す炎が更なる推進力を生み、華奢な身体からは想像もつかない様な撃力によって、レラジェは弾丸の様に民家へ叩き込まれた。

妹紅は足を止めず、三つの球体を展開していく

 

 

「『赤火砲』!!『黄火閃』!!『蒼火墜』!!」

 

 

続けざまに打ち込まれた三つの炎術は、瞬閧によって格段に威力が向上されていた。

咄嗟に回避しようにも屋内であった為か、行動に制限がかかり次々と被弾、その身を焼き焦がしていく

 

 

 

「クソ人間がぁああッ!!舐めてんじゃ……ッッ」

 

 

激昂したレラジェは民家ごと吹き飛ばそうと先程放った極太レーザー級の矢を射った

 

…だが矢は民家の壁を突き破るどころか、針の穴ほどの傷すら与えられずに床に落ちる

 

 

「……は?」

 

「破道の七十二…!」

 

 

そうして思考に空白が生じたレラジェへ、妹紅の火炎を纏った掌が伸びる

 

 

「『双連蒼火墜』!!!」

 

 

民家全体を包む凄まじい閃光の後、開いている窓や入口から莫大な量の爆炎が噴き出した

 

瞬時に民家から脱した妹紅は、傍に立つ輝夜へ向けて言葉だけを飛ばす

 

 

「相変わらずとんでも能力だな、お前」

 

「とんでもとは失礼ね。これでも速度だけなら隼斗より上なんだから」

 

「お前のは速度とは言わないだろ、…っと」

 

 

踏ん反り返る黒髪少女に呆れつつ、妹紅は会話をそこで切り再び意識を家中へと戻した

 

漂う白煙を抜ける人影が一つ。

だがその足取りは明らかに痛手を負った者のそれだ。

狭隘な空間に於いて、ゼロ距離から放った高火力の破道は、確実にレラジェへダメージを与えていた

 

 

 

だからなのか…、

 

 

「……やめだ」

 

 

今のレラジェには、最早天使軍としての任務など関係なかった。

大きく亀裂の入った仮面を掌で覆い、ひたすら湧き上がる憎悪を抑え込むかの様に、仮面の表面に爪を立てている

 

 

「今俺はお前達を殺したくて仕方がない。今なら、ムカついたからってすぐ相手を縊り殺す頭のイカれた殺人犯の気持ちがよくわかるぜ。さぞ気持ちいだろうなぁ?お前等を縊り殺せたら。焼き殺せたら。今この場で無惨な死体に変えられたらぁぁああああああああッッ!!!」

 

 

最早そこに『レラジェ』と言う天使軍の狩人は存在していなかった。

レラジェの感情と共鳴するように、仮面の亀裂からドス黒いナニかが漏れ始める。

まるで仮面自体が彼の憎悪を煽っているかのような、なんとも形容しがたい悪寒を感じた

 

 

(思えば、仮面を出した時からあいつの口数が増えだした。感情を昂ぶらせる作用でもあるのか、程度にしか考えていなかったけど……。)

 

 

妹紅は後方で呑気に突っ立っている殺し合い仲間を一見した後、ぼそりと囁いた

 

 

「!…、いいの?隼斗が聞いたら怒るわよ?」

 

「……仕方ないさ。あいつ相手に生半可なものは通じない。さっきので倒れないならこれしかない」

 

「……それで決めきれなかったら?」

 

 

妹紅は即答した

 

 

「いいや、決める」

 

 

一歩前へ出る。

歩みを進めるごとに、身に纏う炎が一層強く燃え上がっていく

 

 

「ゔぅ……、あ゛」

 

 

敵対する狩人だったモノは意識が混濁しているのか、言葉にならない呻き声を漏らしながら周囲に矢だけを出現させた

 

 

「どうした?とうとう弓すら出せなくなったか?」

 

「!」

 

 

妹紅の問いかけに、レラジェは矢を射出する形で応じた。

だが矢先は妹紅の横をすり抜け、やや後方の地面へと突き刺さる

 

続いてもう一本。

今度は真っ直ぐ標的の眉間へと飛翔するが、

 

 

「遅い」

 

 

ゴッッ!! と、それよりも速く振るわれた炎の翼が、正面のレラジェごと真横へ薙ぎ払った。

大通りを何度もバウンドしながら吹き飛ぶレラジェの身体は、突き当たりの民家の壁に激突して漸く止まる

 

 

「がっ…、ぐばぁ…ッ!」

 

「少しはわかったか?追い詰められる獣の気持ちってのが」

 

 

顔を上げたレラジェを見下ろすように、既に距離を詰めていた妹紅は冷めた声色で吐き捨てた

 

 

「このまま帰るなら見逃してやる。金輪際幻想郷に手を出さないと誓えるならな」

 

 

完全に立場が逆転していた。

 

だがこの状況が……、

 

今まさに追い詰められている自分の様が…、

 

力に飲まれかけていたレラジェの意識を再び戦争へ引き戻した

 

 

「……が。…………獣ごときがッ」

 

 

レラジェは仮面を乱暴に掴み、亀裂の部分から一挙に引き剥がした。

ボロボロと砕き割れる仮面は、それまで蓄積していた怒りや憎悪といった負の産物を、破裂した水風船のように放出し、レラジェの身体を包み込んだ

 

 

「俺に楯突いてんじゃねぇぞぉぉおおおおッ!!!!」

 

 

咆哮し、その手に大弓を出現させる。

黒いオーラを纏ったそれは、レラジェの感情に呼応するように一本の矢を形成した

 

ズズッ…! と、矢を中心に時空が歪む。

余りにも強大な力は引力を生み、周囲の物を引きつけ取り込もうとするらしい。

一番身近な物で言えば地球などの惑星であるが、目の前の矢はそれを凝縮したような存在感と圧力を発していた

 

弦をキリキリと引くたび、強大な力そのものが、解放される瞬間を今か今かと待ちわびているような凄まじいプレッシャーが襲う

 

 

「小さいな」

 

 

それを前にして、妹紅から出たのはそんな言葉だった。

一見、見た目相応の華奢な腕が伸び、莫大な力が奔流する矢を、番えている弓ごと掴みとった

 

 

「馬鹿が!そんな小技で止められるほどコイツは……」

 

 

被せるように妹紅は言った

 

 

「だから、小さいっての。そんな程度の力なら昔から見てきてる」

 

 

とある人物の顔が浮かぶ

 

 

「それ以上に強い背中を知ってる」

 

 

何度も救われた大きな背中が映る。

そんな『彼』が、自分にこの場所を頼むと言ってくれた

 

だから退くわけにはいかない。

例えその人から逃げろと言われても決して踵は返さない

 

だから妹紅は叫んだ

 

 

「お前達の好きにはさせないッ!!此処はあの人が大好きな場所なんだ!!!」

 

 

妹紅から溢れ出ている瞬閧のエネルギーが消失し、同時に身体が赤黒く変質していく。

全身がまるで焼け焦げたようにひび割れ、その隙間から赤い閃光が漏れる

 

 

 

 

 

「ーーー破道の九十六……」

 

 

レラジェの指先が筈を離れ、矢尻が妹紅の掌に食い込んだのと同時に、最後の術は発動した

 

 

『 一 刀 火 葬 』

 

 

その瞬間、周囲全ての音が消失する。

次に来たのは凄まじい閃光と爆発だった

 

妹紅を中心に広がった爆炎は里の外にまで達し、輝夜の能力が及んでいない周囲の自然物を一瞬で消し去った。

そうして人里全体を埋め尽くす超巨大な焔の刀身が天高く伸びる

 

それは術者の身を触媒に発動する。

犠牲破道とも呼ばれる禁術であるため、本来は腕の一本を引き換えにする位の覚悟がなければ、詠唱を口にする事さえ許されない

 

爆炎を操る妹紅の瞬閧は、炎系最大の鬼道である一刀火葬の威力を何倍何十倍にも引き上げていた

 

……当然その代償も。

 

 

爆炎は瞬く間に消え去った。

これは一刀火葬の効果時間が短いわけではない

 

……術への霊力供給が途絶えたからだ

 

 

爆心地中心では、焦げ跡一つない通りが続いていた。

そこには立っている者も、倒れている者もいない唯の道

 

 

「……」

 

 

輝夜は何も言わずにその場所へ歩み寄った

 

 

「!」

 

 

徐ろに見上げた先で、灰の様な粒が舞っていた。

その内の一つを掌で優しく掬った輝夜は、着物が汚れるのも構わず地面に膝を着いた

 

そして、

 

 

「安心しなさい。貴女は確かに里を守ったわよ」

 

 

 

 

その言葉は……、

 

 

 

ーーー傍で眠る白髪の少女へ贈られた

 

 




輝夜の能力便利すぎ。
途中からナムさんを退場させたのは扱いきれなくなったからじゃないんだからね!

因みに夜一さんの雷神戦形を見た時から、妹紅の瞬閧のイメージは浮かんでおりました。……あんまり捻れなかったけど

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