今回については冥界編!
交閃が瞬き、鋭い衝突音が響き渡る。
既に打ち合った回数は覚えていない。先程から一切止めていない足から疲労を感じ取る間もない程の、壮絶な打ち合いが繰り広げられていた
銀髪の少女、魂魄 妖夢の手にはそれぞれ長刀と短刀を握られ、続け様に鋭い剣撃を叩き込んでいく
対するは三ツ又に分かれた槍を構える武神 『蚩尤』。
左半身で腰元に構えたオーソドックスな構えから、手首の僅かな動きだけで、その穂先や柄が少女の連撃を払っていく
「魂魄『幽明求聞持聡明の法』!!」
妖夢と常に行動を共にしている半霊が、彼女と瓜二つの半人へと姿を変える。
そして二人の少女は互いが邪魔にならぬ様左右へ跳び、蚩尤を挟み込む様に移動した
(一方が駄目と見るや、直ぐ様多方への攻めに切り替えたか。狙いは悪くない、判断もだ)
「「しっ!!」」
短く重なった掛け声と同時に、四刀による剣閃が疾る
「だがそれでも足りないものがあるとすればそれは……」
蚩尤は悠長に呟き、しかし身体は神速をもって動く。槍をコントロールする為に用いる右手のみに柄を託し、そのリーチをふんだんに使った回転技が繰り出された
「ぐッ!?」
後一歩まで踏み込んでいた妖夢(本体)へ、槍の穂先が側面から打ち込まれる。
槍はそのまま勢いを殺すことなく、少女の身体を巻き込みながら、反対側の分身へ叩きつけた
「……
二人の少女が重なったその一瞬で、蚩尤は更に横へ薙いだ。
踏ん張る間もなく地から足が離れた少女等は、そのまま白玉楼庭園にある池まで吹き飛ばされ、大きな水飛沫を上げる
「……両断するつもりで振るったが」
槍を返し、穂先に血痕が付着していないことを確認した蚩尤は、静かに少女を見遣った
「妖夢…ッ!」
その憂慮すべき事態を目の当たりにした、白玉楼の主である西行寺 幽々子は思わず傍の男を睨み付けた。
少女と同じくして、銀髪の剣客である魂魄 妖忌は首を横に振る
「加勢は致しません。私は万が一の事態から貴女を護らなければならない」
「……ッ、その万が一の事態が
「……」
妖忌は黙ったまま前方を見据えた。
池の中で身体を起こし、立ち上がる少女を。
先の一撃で、分身である半霊は元の白い魂魄へと戻っていた
(……ギリギリだった)
今手にしている刀が名刀でなかったなら、 その身体は刀ごと真っ二つになっていたかも知れない。刀からじんわりと痺れの伝わる腕を払い、妖夢は前方を睨み付ける
「確かに、この蚩尤に剣を向けるだけはあるな。…小娘」
天使軍の武神は確実に距離を詰めながら呟く。
急速にではなく、飽くまでゆっくりと…。
別に少女を未熟だからと舐めてかかっている訳ではない。
その行為は寧ろ、少女が如何様に動いても冷静に対処する為か…、
或いは、彼も『武』を振るう者として、少なからず少女の秘めたる力に興味を示したのか
「一つ、忠告しておく。今この場に於いては自身の腕を試す遊びの場ではない。実力を出し切る前に死にたくなければ足を止めぬことだ」
「!」
蚩尤が徐ろに動かした槍の穂先を、妖夢は自然と目で追った
次に妖夢の耳に入った音は急速な風切り音。
反射的に身を引いたその眼前を、今しがた間合いの外で見ていた筈の穂先が通過していく
「
既に槍を引き戻した蚩尤の穂先が、後方へ跳び退いた少女へ突き出される
「…ッ!」
ギャリンッッ!! と、金属同士が擦れ合う甲高い音と共に、挟み込んだ短刀で軌道をズラした妖夢は、改めて一歩踏み込む
「ーーー『未来永劫斬』!!」
彼女の持つ剣技の中で、特に手数の多い連続技。それを突き出された槍の懐に飛び込む形で繰り出した
(槍はリーチがある分戻りは遅い。一撃目さえ凌げば
だが……、長刀が一閃を描き初撃が入る瞬間、妖夢は自身の
前提として、槍にも至近距離での刺突は存在する。
槍という武器は刀と違い、刃だけが武器ではない。柄の長さを変えるだけで、戦法を多種多様に変化させることができる
通常よりも柄を短く構えることで、まるで巨大な棍棒のついた短剣の様に扱うことも可能であるが、その戦法は槍自体の長さに依存する為、必ずしも使い勝手のいいものではない。
万が一外した場合の反撃手段を自ら封じてしまっているからだ
ーーーだからこそ間合いを急速に詰めた
……しかし、この時蚩尤がとっていた構えは、
「そう言った固着した考えは感心できぬな」
ドゴッッッ!!! と鈍く、重い衝撃が妖夢の身体を再び空中へと放った
「えぅっ…ッ!?」
呼吸が止まり、視界が暗転を繰り返す中で、ノーバウンドで吹き飛んだ身体は屋敷の外壁へ激突して止まる
「がっ……はぁ……ぐッ!?」
壁に磔になったまま、数秒の時間差で地面に落ちた妖夢は、身体中に広がる痛みに構わず大きく息を吸った。そして呼吸が正常に戻り、改めて感じる激痛に顔を顰める
(つ、柄による殴打!?……いや、あれは打ち込んだと言うよりも……、単に柄で
「槍を使う者と戦い慣れていないのか、そもそも戦の経験自体が少ないのか。……この際どうでもいいことだ」
蚩尤の構えが変化する。
全長2メートル越えの槍を軽々と片手に持ち、頭上に掲げた
「今までのは人の身であっても成せる技だ。寧ろ、その程度で死んでもらっては拍子抜けだが」
「!」
打突、薙ぎ払い、打ち払い、左半身の構え
言われてみれば、今までの蚩尤の槍術や構えは一般的に目にする基本的なものばかり。
人間であるならば未だしも、その域に留まらない人外による戦闘ならば、ある程度は身体能力や特殊能力でカバーできてしまう為、軽視されがちだ
そして戦場では型に忠実な動き程、相手に予測され易い。
詰まる所、蚩尤の見せた槍術基本の型は、妖夢への
「……次からは
風が、蚩尤の掲げた穂先へ集束していく。
そうして生まれた竜巻が、高々と聳える塔のようにも見えた
「我の膂力で生み出した風圧を、魔力で固めて出来た産物だ。詰まらぬ幕引きを迎えたくなければ、反応してみろ」
ゴッッ!! と、凄まじい風圧で周囲を抉り出しながら、竜巻が接続された槍は少女の頭上へ振り下ろされた
「……確かに、私には
囁くような言葉と同時に、枝を軽く振ったような風切り音が二つ
「!!」
ーーーそれは斬撃だった。
十文字に、竜巻がパックリと割れる
その光景は切れ味の悪い包丁で、半ば潰しながら野菜を切るのとは違う。
刃に止まった羽虫が両断される程の切れ味を誇る名刀で、紙を撫で斬りしたように滑らかだった
「剣士は、水を斬るのに三十年、空気を斬るのに五十年もの月日を費やす」
霧散する猛威の中で、少女は強く続ける
「私は何処ぞの白黒みたいに魔法が使える訳でもない。かと言って、紅白巫女の様に霊術に長けてもいない。ーーー……私が使えるものは、『剣術』唯一つ」
二刀を握る手に一層力が入る。
……と同時に、今の今まで傍に漂っていた半霊が、片割れである少女へ寄り添う様に重なる
そして、
「如何なる理由があろうと、勝負の場に於いて手を抜かれるのは心外です」
「!」
音も無く、蚩尤の間近から声が届く。
音も無く、しかし鋭い剣閃が奔る
今戦いで初めて、武神は少女の剣撃をまともに防いだ
(魂魄である分身と一つに?……成る程、面白い種族だ、が)
一瞬の硬直を待たず、続け様に斬光が迸る。
その剣速は、先程攻めあぐねていた少女の其れではなかった
二刀から放たれる連撃は蚩尤に去なす暇を与えず、流れる様な足捌きは後退りや体当たりと言った間合いの調整を封じ、常に一定の間合いを保ち続ける
ーーー『妖夢が発動させたのは
妖忌や妖夢のような『半人半霊』は、生まれた瞬間から分身となる魂魄と自分とで力が配分されている。
そして生まれつき分かれている力を一つに融合させる事は容易ではなく、修行の末に修得する事は可能であるが、故意に融合させた魂は長時間持続させることができない、正に諸刃の剣と言える
(長くは保たない!相手が反撃に出る前に…!!)
「!!」
遂に少女の振るう長刀の鋒が武神の手甲を捉え、身体の外側へ大きく弾いた
必然的に槍の保持が緩む
「はああぁあああああああああァァ!!!」
妖夢は叫び、短刀を逆手に持ち替えると、間髪入れずに踏み込んだ
ーーー『奥義・西行春風斬』
桜色の剣閃が奔る。
行き交う二つの刃は神速をもって、至近にいる武神へ斬撃を叩き込んでいく
その衝撃は武神の身体を後方へ押し下げ、姿勢が僅かに崩れる
(…ここっ!)
妖夢は一度両腕を交差させ、一挙に腕を振り抜くことで、甲冑を纏った身体を斜め十文字に斬り付けた
その勢いに、蚩尤は後方へ大きく押しやられる
(まともに入った。……でも)
瞬間的とはいえ全力の『奥義』。
大きな負荷のかかった身体は節々が軋み、消耗した体力は普段から振るっている刀すら重く感じさせた。
未だ硬く握られた槍を視野に入れ、肩で息をしながら構える
「……お前は二つ、思い違いをしている」
「!?」
思わず鳥肌が立つほどに周囲の空気が張り詰めた。
亀裂の入った胸部を意に介さず、天使軍の武神は静かに言い放つ
「一つ、我は純粋にお前の実力を測りたかっただけだ。力量差を見ていい加減にあしらっていた訳ではない。
二つ、お前は先程『勝負』と口にしたが、戦に於いて勝ち負けなどさしたる意味を成さない」
黒い靄の混じった
槍の穂先がゆっくりと妖夢へ向けられる
「ッッ!」
身体中から嫌な汗が噴き出し、心臓の鼓動がけたたましく響く
「『生きる』か『死ぬか』、『殺す』か『殺されるか』。そう言った生殺の末に勝敗は付いて来るものだ」
武神は槍を水平に振るった
漆黒の波動が視界一面を覆い尽くした
妖夢の融合については主の解釈によるものです。
でも一回は考えますよね?あの近くで浮いてる白玉って身体に取り込んだらパワーアップするんじゃね?って一回は思いますよね?