今回はいつもより短めですが、次回の投稿までのスパンは短いと思います。
今回から再び場面は幻想郷へ。
魔理沙チームの戦闘です。
天使軍再来の前日。
魔法の森では比較的安全な入り口付近にポツリと建つ道具屋。
此処の店主である森近 霖之助は、併用家屋の居室で小難し気な本を片手に紅茶を啜っていた。
「……」
ふと視線を上げたその先で、アンティーク風の壁掛け時計が静寂な空間に一定のリズムを刻んでいる。
(……明日、か)
ほんの数秒の間をおいて、再び視線は文字の羅列へと戻った。
今日は、
「……」
……にも関わらず、別段慌てた様子も無ければ、表立って戦慄する素振りは見られない。
紅魔の主が告げた日時まで、残り半刻。
こうして普段通りの一日を終えようとしている彼だが、その傍らには一振りの抜き身の剣が立て掛けられていた。
ーーーそれは数年前のある日、顔馴染みの少女が此処へ持ち込み、
外見は少女の言葉通り、薄汚れた翡翠色をしており、両刃ではあるが下半分は間隔の広い波刃。刀身は柄と一体化しており、左右に僅かに突起した一部が、鍔の役割を担っている。
そんな、見た目
日本古来、伝説の怪物の亡骸より出でし三種の神器が一つ。
その剣を、香霖堂の店主は
………『霧雨の剣』。
〜〜〜
魔法の森中央より、烈風が吹き荒れる。
周囲の木々が外側に向かって煽られ、今にも地面から引き剥がされそうに靡く。
この風が台風などの気象によるものではないと知っているのは現場に居合わせている者くらいか。
「ゴアアアァアアアアァアアアアアアアア!!!」
空気を震わせる咆哮が響く。
「……参ったな、
思わずそう漏らしたのは、吹き荒れる風に耐えながら周囲を飛行する霧雨 魔理沙。
『魔理沙、出来るだけ彼奴の斜め後方へ張り付く様に飛んで。決して向かい合っては駄目よ』
少女の頭の中でそんな言葉が響く。
眼下に視線を向けると、同じ様に此方を見上げる金髪の少女の姿があった。
『わかってるよ。魔界でその危険性については学習済みだぜ!』
『こら、余所見しない!』
親指を立ててニカッと笑った少女を咎めたのは、現在暴風吹き荒れる状況下での意思疎通を容易にする為、念話の魔法を発動しているアリス・マーガトロイド。
七色の魔法使いと称される一方で、凄腕の人形師でもある彼女の周囲には、両手に剣を装備した約一丈程の巨大な
「スペルカード風に言えば、完成版『ゴリアテ人形』ってところかしら」
人形の四肢には魔力で練り上げられた糸が接続されており、それを手繰るアリスの指の動きに合わせて、巨大人形兵士・ゴリアテは飛翔した。
まるで本物の人間の様に滑らかな動きで剣を構え、宙を漂う巨影へと向かっていく。
「!」
そして、その三ツ頭の内の一つが大口を開ける。
カッッッ!!!! と、閃光が走った。
周囲の音が掻き消され、一瞬遅れて凄まじい轟音が響き渡る。
「ッッ!……なんっ!?」
魔理沙の目が見開かれる。
途端に立ち込める黒煙。
眼下の森では一番背の高い樹木がぱっくりと割れ、炎上していた。
地上のアリスから念話が入る。
『驚いたわね。自然界でも中々お目に掛かれない雷だったわよ』
「アリス…!無事か!?」
念話に対して思わず叫んだ魔理沙とは対照的に、アリス落ち着いた物腰だった。
「運良く頭上には降ってこなかったわ。でも早速一体は消し炭よ」
供給先との接続が途切れた指先から糸を捨て、近場に置いていた新たな人形を手繰る。
更に、先の一撃の間に生き残ったゴリアテ人形を操作し、空中で敵を追蹤する魔理沙と合流させた。
『もしもの時はその子の後ろに隠れなさい』
言って、新たに繋ぎ直した人形を再び飛翔させる。人形達は特殊な技法と操作方法によって、其々が複雑な動きを実現している。
それらを全て把握し、操作しているアリスの手練もそうだが、それ以上に求められる集中力も膨大である。
(……さっきの雷は莫大な魔力を含んでいた。つまり
その手に戦闘の基点となる八卦炉を握り締め、魔理沙は今一度気を張り直した。
一度は焼け焦げ、森近 霖之助の手によって再び彼女の手に戻った、相棒とも言うべきマジックアイテム。
「……やってやるぜ!!」
少女は跨がる箒の頭を持ち上げ、
今や、風見 幽香と並び彼女の代名詞とも言える攻撃特化の魔法。
「『マスタースパーク』!!!」
視界が閃光に包まれ、極太のレーザーが射出された。
その出力は以前のものより大幅に強化されており、それを放つ八卦炉の耐久値も飛躍的に上がっていた。
魔砲は狙い通り
「グルル……」
轟音に、低い唸り声が混ざる。
それはどこか不機嫌そうな、それこそ顔の周囲を飛び回る蝿に苛立ちを覚える様に。
徐に振り返った三つの頭、その内の中央が大口を開けた。
「……ッ!?」
口内を中心に、凄まじい熱風が吹き荒ぶ。
何が来るかは容易に想像できた。
『魔理沙、下がって!!』
アリスの言葉の後に視界一面を大きな影が覆い、自身に追従していたゴリアテ人形が背負っていた円形の盾を構え、竜との間に割って入ってきた。
「…!」
魔理沙は一瞬だけ躊躇した。
敵の魔法は発動間際。
先程の雷撃の威力から見て、幾ら盾で防御したとしても目の前の人形が耐えられるものではないだろう。
ならば自分が取るべき行動は二択。
一つ、此方も魔砲を放って相手の威力を削りながら安全圏に避難する。
二つ、人形に一秒でも多く耐えてもらい回避に全力を注ぐ。
(……どっちも似た様なもんだ!!)
魔理沙は間髪入れずに八卦炉を
本来ならば箒の後端に取り付けて加速する移動技だが、生憎とそんな猶予は残されていない。
ゴォッッッ!!! と、八卦炉を通して凄まじい衝撃が少女の細腕を伝う。
だが出力を調整して打つ暇などなかった。
結果、魔砲によるブースターが功を成し、直後に放たれた
その業火によって立ち塞がったゴリアテ人形は灰塵へ変わり、直線上の地形は瞬く間に焦土と化した。
(……なんて威力だ!?
視界の端の光景に狼狽しつつも、態勢を立て直すべく出力を弱め始めた瞬間、再び魔理沙の身体は熱気に晒された。
「!?」
敵の背後に回る様に退避した魔理沙の周囲に浮かぶ無数の球体。
まるで小さな太陽の様なそれは、ボコボコと沸騰しながら膨張していく。
(やばい)
その
ーーー直後に魔法の森一帯を大規模な爆発の嵐が襲う。熱風と衝撃波は一瞬で木々を薙ぎ払い、爆心地を中心に巨大なクレーターを作り上げた。
「……まったく、無茶をしてくれる」
黒煙と砂煙が周囲を包む中、冷静でいて悠然とした言葉が発せられた。
……男の声だ。
声の主は抱えていた白黒魔法使いの少女を自身の背後へ降ろした。
「……えっ?」
少女から思わずそんな声が漏れた。
傍らに立つ人形師の少女も同様に目を見開いている。
「魔理沙、少し前に出過ぎだよ。これ程の相手なんだ。もっと慎重に行かなくてはね」
諭す様に言葉を発した銀髪眼鏡の男が立つ線から後方は、あれ程の爆発があったにも関わらず、一切の
その手に持つ彫刻チックな剣を前方へ掲げ、森近 霖之助は静かに構える。
「前衛は僕が引き受けよう」
アリスのゴリアテ人形は、原作では「試作品」となってますが、今回出したゴリアテ人形は戦闘用に改良されています。
こーりんの戦闘力については次回から!
次回の投稿は、大体1.2週間以内の予定です。