東方万能録   作:オムライス_

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前回に引き続き、魔理沙team & 霊夢team の戦闘シーンです。



158話 魔を払う

森近 霖之助は三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)を見上げながら、ゆっくりと間合いを詰め始めた。

その手に握られている彫刻チックな剣は、武器と呼ぶには心許ない。

 

 

「こ、香霖…!」

 

 

そのあまりにも大胆極まる行動に憂慮な面持ちで構える魔理沙へ、霖之助は振り返ることなく、ただ一言呟いた。

 

 

「大丈夫」

 

 

 

直後だった。

 

周囲は再び熱気に包まれ、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)中央の口が開かれた。

アリスと魔理沙は途端に身構え、いつでも飛翔する態勢を整えたその瞬間───。

 

 

「二人共、()()()()だ」

 

 

飛び立つ箒へ飛び乗る様にその場から脱した魔理沙の瞳はその瞬間を捉えていた。

 

今まさに吐き出された火炎の渦へ降り抜かれる翡翠の剣を。

 

 

周囲に複数の人形兵士を展開しながら空中へ飛び出したアリスは、その光景に目を見開いた。

 

それは、男に迫る業火を迎え撃つ様に出現した、()()()()()()()だ。

 

 

「!?」

 

 

結果、ぶつかり合った二つの炎は、互いに相殺し合いながら消失した。

その光景に、目に見えて三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)は驚愕した反応を見せた。

 

 

「今だ!!」

 

 

間髪入れずに霖之助が叫ぶ。

その言葉へ続く様に、左右から回り込んだ二人の少女が其々反撃の火蓋を切った。

 

 

『ダブルスパーク』

 

 

『キューティ大千槍』

 

 

三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の背部へ、二つ同時に放たれた魔砲が。

鱗の薄い腹部へ、複数のゴリアテ人形による無数の刺突が、それぞれ炸裂した。

 

そして強固に覆われた竜鱗が砕け、赤紫色の血飛沫が舞う。

 

 

「ギッ…!!」

 

 

「効いてるぞ!!」

 

「ええ!!」

 

 

 

漸く明確なダメージが入った。

魔理沙とアリスは宙を舞う返り血に構わず、更なる追撃のために前へ出た。

 

 

ぽつりっ、と。

 

箒の柄の先端に、先行していたゴリアテ人形の一体に、赤紫色の血液が付着した。

 

 

ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾッッッ!!

 

 

その瞬間、二人の視界一面を黒く蠢めくナニかが覆った。

それは瞬く間に増殖し、血の染み込んだ箒や一丈もある人形兵士を呑み込むと、跡形もなく溶解させた。

 

 

「ッッ!?」

 

 

───もしも咄嗟に箒から飛び退いていなかったら。

 

───先行していたのが人形ではなく自分だったら。

 

そんな起こり得た未来に青ざめながら、二人の魔法使いは改めて眼前でぐねぐねと蠢めく黒い物体の正体を知った。

 

 

「蛇……ッ!?」

 

 

対象が消滅し、重力に従い落ちていく()()は、役目を終えるかの様に四散していく。……それも同時に高濃度の瘴気を撒き散らしながら。

 

 

「冗談じゃないぜコイツ!返り血が毒蛇に……ッ!?」

 

『僅かな量でも命取りね!魔理沙、一旦距離を取って態勢を……、』

 

 

念話は、割り込む様に発せられた咆哮によって掻き消される。

 

 

「ゴアアアアァアアアアアアアア!!!!」

 

 

凄まじい轟音は、やがて魔法陣を形成した。莫大な量を練り込まれた魔力から成るそれは、最早魔法のエキスパートである魔理沙やアリスですら判別し切れない程の数だ。

 

そして凄まじい眩耀 。

 

まるでスポットライトを浴びているかの様な圧迫感は、落雷、燃え盛る星、鋭利な風鎌、雪崩れ落ちる氷塊等、様々な魔法の雨へと変貌して殺到した。

 

 

「『 向 火 (むかひび)』」

 

 

そんな苛烈な嵐へ再び割って入った男は、先程と同様翡翠色の剣を振るった。

狙いは周囲を薙ぎ払う様に撒き散らされた魔法全体では無く、飽くまで眼前に迫る一部へ。

 

その魔法が『隕石』だろうが『氷塊』だろうが関係はない。

重要なのは、種類が()()()()()()()()()ことだった。

 

 

結果、()()()に集まった3人の下へ飛来してきた落雷は、全く同じ雷撃によって相殺された。

 

周囲では次々と数多の魔法が着弾していく。

それはまるで、爆撃地の真っ只中に置かれている様だった。

 

 

「………香、霖…?」

 

 

半ば放心状態の魔理沙は、ふと自分の身体に巻き付いている物を目で追った。

糸は自身の胴体から目の前の男の手に。そして反対側で同じくその光景を眺めている人形師の少女にも巻き付けられていた。

 

 

アリスはその糸に見覚えがあった。

日常から、そして今戦闘間でも自身の指先と人形達を繋いでいる、魔力で構成された糸だ。

 

 

「二人共、よく聞いてくれ。今から奴に関する僕の見解を述べる」

 

 

霖之助は背中を向けたまま語りかける。

今も尚押し寄せる雷撃を防ぎながら。

 

 

「まず特筆すべきは、扱う魔法の数と魔力の高さ。実際に見て分かる通り、一切の詠唱もなしにこれ程大規模な魔法を連続して使える者は早々いるものじゃない。……まあ、()()()()()()()()()()みたいだけどね」

 

 

正に一国を滅ぼしかねない規格外の魔力量。

しかし霖之助の言葉通り、強いのは飽くまで『銃』と『弾』であるということ。

大量の魔法を一括で叩き込まれていたら、今頃彼女らは原型をとどめていないかも知れない。

 

 

「併せて耐久力も恐ろしく高い。少なくとも、正面切って打ち込むなら()()()()()()()()二発分で漸くダメージが入ると言ったところか」

 

 

霖之助は「それに」と付け加え、先程少女等が負わせた胴体を指した。

 

 

「君達は確認する余裕がなかったようだけど、奴の傷口が塞がったのは蛇の出現と同時だった」

 

 

つまりものの数秒。

二人が攻撃に成功し、次の一手に移ろうとした瞬間には修復されていたことになる。

更に厄介なことに、与えた傷口から猛毒の蛇まで飛び出してくるのだから、自ずと戦い方が限定されてくる。

 

 

「……間も無く攻撃が終わる!二人共準備してくれ!」

 

「じゅ、準備ってどうすればいいのよ!?迂闊に近づいたらそれこそ……!」

 

「待てアリス!……香霖、何か作戦が?」

 

 

次第に薄れていく爆撃の様な衝撃と轟音の中で、霖之助は力強く頷いた。

 

 

 

──────

 

 

 

大気を震わせる咆哮が幻想郷の空へ響く。

 

この地に放たれた数多の天使軍も、残すところ二体にまで迫っていた。

 

弓を射る者、未来を見通す者、智によって敵を惑わす者、武を極めし者。

其々が各地に攻め入り、激闘を繰り広げた結果、敗れた。

 

しかし…、その散っていった者達の中に『将』、つまり()()()を名乗る者はいなかった。

……時同じくして、既に()()()()()()のに、だ。

 

()()()は其々の地で指示を出すこともなければ、後方地域で命令を送るわけでもない。

 

 

『彼』にも、()()()()()()

 

 

「……特記戦力を除けば、この地の守護者はお前達なんだろう?」

 

 

全身が白い体表で覆われた悪魔は、大きく広げた天使の様な翼を折り畳みながら、退屈そうに尋ねる。

 

 

「いいのか?これ程あっさり()()()()()

 

 

深紅色に染まった瞳を動かし、眼前で蹲る標的を見据えるは、天使軍の統率を一任された()()()()

 

 

「………霊夢。彼奴の『眼』……、」

 

 

震える四肢に一層力を込め、後方の少女を護るように立ち上がったのは、博麗の名を継ぐ武闘派巫女、博麗 暁美。

 

 

「………わかってる。これだけ()()()()()()!」

 

 

同じくして、現博麗の巫女である少女、博麗 霊夢は、懐から数枚の護符を取り出して視線の先の悪魔を睨み付けた。

 

その視線に応える様に、白い悪魔は口を開く。

 

 

「……わかってる?何をだ?」

 

 

淡々とした声色。

 

 

「アンタのその、()()()()()()()()()()()眼のことよ……!!」

 

 

吐き捨てる様に言った霊夢の手から、先程取り出した護符が離れる。

その一枚一枚が光を帯び、二人の巫女の身体を包んだ。

 

 

「《浄化》、か。……聖女らしいことだ」

 

 

白い悪魔は此処へ来て()()()()()()()()()()()

 

 

「常人なら、命が尽きるまで一瞬だ。……俺が『待った甲斐があった』と思える様、精一杯足掻いて見せてくれ」

 

 

 

 

汗が伝う額を拭い、暁美は空気を含む様に拳を握った。

 

 

「わかってると思うけど、奴の吐く息も最悪よ。()()()()()瘴気は無い」

 

 

霊夢は黙って頷いた。

そのまま相手の出方を伺いつつ飛翔する。

 

暁美の身体全体を、霊力によって視覚化された『気』が覆う。

 

 

「楽しませてみろ」

 

 

白い悪魔(サタン)の背後で複数の魔法陣が出現し、大規模な爆発が起こったのは同時だった。

 

 

「いきなり無茶苦茶やるわねコイツっ!!」

 

 

爆炎を振り切り、急加速で躍り出たのは、先代博麗の巫女だ。

霊力の凝縮された拳を突き出し、サタンの顔面へ向けて打ち放った。

 

 

ボッッッ!!! と、拳の直線上の大気が裂け、凄まじい衝撃波が突き抜ける。

 

 

「人間にしては、速いな」

 

 

空虚な手応えを感知するよりも早く、暁美の視界を白い掌が覆い、それを突きつけられている額は熱を帯びた。

 

 

「……ッ!!」

 

 

暁美は未だ態勢の整っていない身体を無理矢理捻り、寸でのところで反り返した。

瞬間、見上げた視線上で閃光が走った。

 

 

(ぐっ、しまった…!目を……!)

 

 

黒い影の様な残像が視界一面に広がる。

そのあまりに強い光度は暁美の視界を一時的に潰し、そんな隙を見逃すはずのない悪魔の腕が頭部に向けて振るわれた。

 

 

「っつああぁああ!!!」

 

 

叫び、暁美は碌に見えていない瞳を閉じた。

そして正確に、横薙ぎに振るわれた腕を側面から足裏を合わせて斜め上へ弾いた。

 

 

「……ほう?」

 

「なめるなよ化物。これでも近接戦闘能力(こっちの方)は歴代でも指折りだって言われてるのよ!」

 

 

未だ目が眩んでいる中で、暁美は姿勢を低く構える。

 

そして一瞬の脱力。

 

 

 

 

───『内臓破壊』。

 

 

トップスピードが音速に達し、空気を破裂させながら、身体の内部に衝撃を伝播させる防御不能の拳がサタンの胴体へ打ち込まれた。

 

 

だが返ってきたのは……、

 

 

()()()()では遅すぎる」

 

 

「っが……ッ!?」

 

 

凄まじい衝撃が身体全体を巡った。

何が起こったかを感じる前に、暁美は血反吐を吐きながら吹き飛ばされ、石畳へ叩きつけられた。

 

 

(……殴られたのか?あの一瞬で!?先に出した私の拳よりも速く打撃を…!!)

 

 

石畳が砕き割れ、クレーターが形成される程の衝撃を受けても尚、痛みに悶えている暇などない。()()()()()()()()

 

 

 

(今ので壊れんか。この世界の奴は中々に頑丈で………)

 

 

手負いの巫女目掛けて高速で接近していたサタンはそこで思考を切り、横合いから飛来してきた陰陽玉を片手で砕き割った。

 

 

「暁美姉さん!!」

 

 

常軌を逸した戦闘速度に漸く追い付いた博麗 霊夢は、無数の御札を射出しながら両者の間に割って入った。

その身体は不鮮明に揺らぎ、心なしか透化している様に見える。

 

 

既に、『()()()()』は発動していた。

 

 

霊夢の指先が空を走り、一拍遅れて煌びやかな文字が浮かび上がる。

 

 

カッッ!!! と、サタンを中心に直径20メートル程の円枠が地面に出現した。

 

 

「『八方龍殺陣』」

 

 

光そのものが間欠泉の様に上空へ伸びる。

そうして形成されたのは、何重にも重ねられた緋色の結界。

これは博麗に代々伝わる強力な結界術であるが、以前の霊夢ならば発動までに戦闘に於いては致命的な時間を要し、幾つかの『御札』を配置しなければ発動できなかった。

 

 

「捕まえたわよ」

 

 

霊夢は額から一筋の汗が伝いながらも、僅かに口角を上げて言った。

現在の発動にかかる所要時間は一秒にも満たない刹那の所作で終わる。

強度とて以前とは比べ物にならないほど飛躍的に向上していた。

 

これ程の速度ならば、発動を確認してから抜けられる者などこの幻想郷にはそうそういないだろう。

 

 

「そうだな。……で、この後のことは考えているのか?」

 

 

………そう。()()()()()、だ。

 

 

パキッ と、陶器にヒビが入る様な乾いた音が鳴った。

白い悪魔は対象の行動を抑制する結界の中で、静かに掌を内側の壁へ押し当てながら呟く。

 

 

「開通だ」

 

 

次の瞬間には砕き割れた結界の残骸が宙を舞った。

 

その最初の一欠片が地に着く前に、白い悪魔の貫手は霊夢の胸を貫いていた。

 

 

 

「…………………………なに?」

 

 

貫手が少女の身体と重なっているのに()()()()()()()

そんな視覚と触覚による矛盾に、サタンの動きが一瞬停止する。

 

 

 

「本命はこっちよ!!」

 

 

今度は霊夢とサタンを中心に霊力で形成された巨大な陰陽玉が炸裂する。

既に書き終えていた『印』が、霊夢の背後で浮かび上がっていた。

 

零距離で高威力の霊術をその身に受けたサタンの身体は、反発する様に後方へ押し下げられた。

 

 

「………」

 

 

直前に挟み込んだ掌は、焼け付く様な痛みと灰の混じった煙があがっている。

 

 

(……退()()()()か。中々に厄介………)

 

 

掌から視線を戻そうと再び前方へ目を転じたサタンの眼前に、高濃度の霊力を纏った武闘派巫女が迫っていた。

 

 

 

 

───「『 瞬 閧(しゅんこう) 』」

 

 

博麗暁美渾身の拳が、統率者の腹部に突き刺さった。

 




開幕から暁美がぶっ飛ばされるまで、僅か『3秒』!!
霊夢が遅いんじゃありません。他が速すぎるんです。 笑

常人の感覚的には……

「よっしゃ行くか!」

二、三歩出る

先に向かってった仲間 ドゴォォンッ!!!

「(゚Д゚)」

この間3秒!!


次回の投稿は今の所一ヶ月以内にはと予定しています。
変更があれば活動報告に載せます!

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