東方万能録   作:オムライス_

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いつもより早めの投稿です。

今回は魔理沙戦!



160話 神の魔剣

 

体表の硬質化によって最も火力の高い魔砲ですらダメージの通らない中、魔理沙は必死にそのチャンスを伺っていた。

 

 

あらゆる手段を思考した。

『鱗』で身を護る蛇や蜥蜴などの爬虫類は比較的腹部が軟弱だ。

目の前の(ドラゴン)にその様な部分は見られない。

外殻が堅牢であるということは、身体の内部は脆いと吐露しているようなもの。

となれば一番手っ取り早いのは、魔法を発動するために大口を開けた時……、つまり自分から弱所を曝け出した瞬間を攻撃すればいい。

 

だがそれは、今まさに弾が発射されようとしている銃口の前に飛び出していくのと同じこと。

一か八かを仕掛けるにはあまりにリスキーだ。

 

 

霖之助は人形師の少女が操る巨大なゴリアテ人形と並ぶ様に立ち回っていた。

 

その手に握る三種の神器が一つ、『草薙の剣』から所有者と認められている彼の攻撃手段だが、別段強力無比な技が放てるわけでも、全てを斬り裂く切れ味を持っているわけでもない。

 

元々戦闘で扱う武器としての逸話が少ないこの剣は、『向火』の様な返し技ができても先行的に攻撃する術が欠けている。

 

 

だからと言って、現状並走している人形に攻撃を代替わりさせているわけではなかった。

 

 

(……やれやれ、上手くいく保証はないんだけどね)

 

 

 

視線の先で人形を操る西洋ドレスの少女と目が合った。

 

 

(あまり私好みのやり方じゃないけど……)

 

 

アリスの繊細な指先が器用に動く。その先に繋がる複数のゴリアテ人形が、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の周囲を縦横無尽に飛び回った。

 

すると、視界の端でちょろちょろと動く目障りな人形へ敵の狙いが向くのは必然。

まるで大木の様な尾を振るい、巨大な鉤爪をもって打ち落とそうと暴れ始めた。

 

 

(思った通り。まとわりつく様に動き回れば()()()使()()()()()。)

 

 

簡単な話だ。

目の前を飛び回る羽虫を相手に、態々銃を使う者はいない。

単純だが、相手が獣の類であるならばこの作戦は有効だろう。

 

『魔法』という最大の脅威を封じることができた。思い付きの作戦としては十分過ぎる成果だ。

 

 

───だが、彼女等の思惑は別にあった。

 

 

「ゴ、ア……ッ!?」

 

 

突然、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の動きが鈍くなった。

まるで錆びついた歯車の様に、自由の利かなくなたった身体をぎこちなく震わせる。

その巨躯に、先程動き回っていた複数のゴリアテ人形の背から伸びる幾十にも束ねられた魔糸が網目状に纏わりついていた。

 

 

三人は一斉に身構えた。

指先に力を込めながら、アリスが叫ぶ。

 

 

「霖之助さん!()()()ッ!!」

 

 

霖之助は既に動いていた。

己の持つ唯一の『霧雨の剣(ぶき)』を、傍にいるゴリアテ人形へ手渡した。

 

瞬間、剣を受け取ったゴリアテ人形は青い炎に包まれた。

この炎は、『唯の炎と違って対象を燃やさない』なんて言う都合のいいものではない。

見た目通り、炎上した人形は消し炭への一途を辿り始める。

 

 

「時間がない!そのまま行くんだ!!」

 

「ええ!お願い!!」

 

 

アリスはこの場に展開している複数のゴリアテ人形から『糸』を切り離し、操作を炎上している一体のみに絞った。

 

 

瞬間、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の動きが戻る。

 

 

その一瞬で、霖之助は指先から同様の糸を伸ばし、一度切り離された複数の人形の操作を引き継いだ。

 

 

「ゴアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

再び自由を奪われ、怒りの形相で暴れ出した三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)を縛り付けることは容易ではなく、人形達は剣やランスを地に突き立てて耐えるしかなかった。

 

それらを統括する霖之助の表情が歪む。

 

 

(ッッ、流石に俄仕込みじゃ無理があるか…!早くッ!!)

 

 

身体を炎上させながら三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)へ向けて飛翔するゴリアテ人形の背を視線で追う。

そして確認した。

その手に握られている剣の()()()()()()()()()ことを。

 

霖之助は身体中に掛かる負荷を無理矢理抑えつけながら、上空へ向けて叫ぶ。

 

 

「魔理沙ァ!準備だッ!!」

 

「ああ!!」

 

 

上空で三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の頭上を取るように旋回していた魔理沙は力強く叫び返す。

その手にありったけの魔力を充填した八卦炉を握り締め、来たるべきポイントへ照準を合わせた。

 

視線の先で、形状変化した『霧雨の剣』を振りかざすゴリアテ人形の姿があった。

人形は身体の半分以上が灰となって崩れ落ちる中、飛翔した勢いそのままに三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の背部へ剣を突き立てた。

 

 

そして、

 

 

 

黒く硬質化した体表から赤黒い液体が散った。

 

 

 

 

〜〜〜

〜〜

 

 

遡ること数分前。

アリスから念話を通して伝えられた作戦に、霖之助はすぐさま訂正を入れた。

 

 

『作戦自体は悪くはない。でもアリス、恐らく君の武器では()()()を担うのは無理だ。例え一点集中の攻撃であってもね』

 

『なら狙う場所を、』

 

『口内に絞るって?それこそ悪手だ』

 

『ッ』

 

『……むぅ』

 

 

遮るように指摘を入れられ、アリスは押し黙った。魔理沙も同様に良案が浮かばず念話の中で唸る。

と言うより現在進行形で戦闘中なのだ。

机を囲んでの会議と違い、集中して思案できるわけがない。

 

 

そんな中で、霖之助はぽつりと呟いた。

 

 

『……僕の『剣』なら、いけるはずだ』

 

 

二人の少女は一斉に霖之助を見た。

正確には彼の持つ、鈍器と言っても差し支えない、刃物としては粗悪品の剣を。

 

発言した当の本人は淡々と言い進める。

 

 

『時間もないから端的に言うよ。霧雨の剣(このけん)はある特殊な条件下に於いて変化する。───()()()()()()()()()()()()()にね』

 

 

まるで以前から練っていたかのように、計画の一つ一つを繋げ、言葉にしていく。

まるで以前からこうなることがわかっていたように、不自然な程冷静沈着に構える。

 

……だが違う。

彼は『今』この場でそれらを組み立てていた。

 

 

『二人共、僕の言う通りに動いて欲しい』

 

 

 

〜〜

〜〜〜

 

 

 

背に剣が深々と突き刺さったことによって、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)はより一層暴れ出した。

そして霖之助とゴリアテ人形で縫い付けている糸が一気に緊張し、いよいよ束縛も決壊寸前を迎えた瞬間、魔理沙の持つ八卦炉が魔力を解放する。

 

 

 

「チェックメイトだぜ!!

───『ファイナルマスタースパァァァァク』!!!!」

 

 

音が消えた。

凄まじい閃光が視界一面を覆う。

一拍遅れて発生した衝撃波と轟音が、周囲の木々を根元から引き剥がした。

 

上から下へ真っ直ぐ打ち下ろされた巨大な魔砲は、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の背に刺さった剣の柄頭へと着弾する。

 

まるで毎秒数千トンもの水量を叩き出す滝のように、光の波は三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)を一瞬で呑み込んだ。

魔砲が剣を介して体内へと伝播していく。

 

 

「ガ……、カ………ッッ!?」

 

 

三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の目鼻口から同様の閃光が漏れ出し、雷に打たれたような衝撃が走った。

更にそこへ、剣の能力(ちから)向火(むかひび)』が発動する。

立て続けに体内へ同量の魔砲を打ち込まれた三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の身体が垂直に伸びる。

 

最後に、魔砲の質量で押し出された剣が、硬質化した身体を貫いて地面へと突き刺さった。

 

 

 

 

………吹き荒ぶ風。

その中に、消し炭と化した竜の残骸が散っていった。

 

 

「…………………………終わった」

 

 

片膝を突き、肩で息をしながら霖之助は呟く。その傍に二人の少女が降り立ち、心配そうな表情で駆け寄ってきた。

 

 

「お、おい、大丈夫か香霖…!」

 

「……ああ、なんとかね」

 

「……………霖之助さん、あの剣の変化は一体?」

 

 

全員の視線が地に突き刺さった剣へ向く。

 

お世辞にも秀抜とは言えなかった外見は一変していた。

 

鳥の翼のように広がった鍔。

ふた回りほど大きくなった刃には二本線の赤黒い模様が浮かび上がり、両刃にはそれぞれ鋒に向かって、鬼の角を思わせる刃が幾つも突出している。

柄はまるで血の付いた布を無造作に巻き付けたような、なんとも言い難い悍ましさを感じさせた。

 

 

霧雨の剣(あのけん)は認めた者しか振るうことを許さない。それ以外が振るおうとすれば、剣は機嫌を損ねて使用者を青い炎で燃やし尽くす。それが誰であれ、全てを拒絶し、斬り裂く魔剣へと変貌してね」

 

「な、なら…、今(あれ)は別のナニかなのか?」

 

「………そう、確か()()()()()()()

 

───『都牟刈の太刀(つむがりのたち)』、と。」

 

 

意味深に口にした言葉。

霖之助は次の質問が来る前に立ち上がると徐に歩き出し、地に刺さる『都牟刈の太刀』を抜いた。

 

 

その瞬間、禍々しい外見は再び元の彫刻チックな翡翠の剣へと戻った。

 

 

「何はともあれ、これで一段落…、」

 

 

 

─────ぞわりっ、と。

 

 

 

「!?」

 

 

その場の全員が、背中を虫が這うような悪寒を感じた。

 

 

「………ッッ」

 

 

 

振り返る。

 

 

何もない。

 

 

目線が自然と上を向いた。

 

 

「まさ、か……!」

 

 

ドス黒い靄が、()()()()()()()を成して浮いていた。

 





実際の都牟刈の太刀は、草薙の剣の別名らしいので、作中で出てきたような伝承はないです。主のオリジナルです。

次回は場面変わりまして霊夢戦!
投稿は一ヶ月以内の予定です。

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