東方万能録   作:オムライス_

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始めにお詫びします。
前回の投稿の際、『月の増援』については前編と後編で分けると記載したんですが、話の構成上やはり魔理沙戦と霊夢戦を分けた方が良いと判断し、別々に投稿させていただくことにしました。

まずは今回魔理沙戦を投稿いたしますが、中編ではなく『月の増援②』と。そして前回のタイトルを『月の増援①』に変更しいたしました。

次回の霊夢戦は『月の増援 ③』として投稿する予定です。




163話 月の増援 ②

砂塵舞う戦場に降り立った月の民、綿月 豊姫は興味深そうに周囲を見渡した。

一帯にかけて薙ぎ倒された大木、抉られた地面、自分のことを怪訝な表情で見ている地上人。

 

 

最初に言葉を発したのは銀髪の男だった。

 

 

「………綿月さんと言ったね。貴女は何者なんだ?」

 

「先生やお師匠様の味方。となれば、貴方達の味方でもあるわね」

 

「せ、先生?」

 

 

困惑する霖之助を余所に、豊姫は振り返りながら手にしていた扇子を視線上に掲げて言った。

 

 

「とりあえず、あれが『敵』ってことでいいかしら?」

 

 

扇子が突き付けられた先で浮遊する巨体。

魔法の森の面々を苦しめてきた天使軍の邪竜、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)

未だ襲ってこないのは、突然の乱入者を警戒しているからか。

 

 

「……ああ。だが奴の生命力と再生能力は驚異的だ。例え粉々にしたとしても、元通り身体を修復してしまう」

 

 

そう言った霖之助に対し、豊姫は扇子を振り上げながら一言呟く。

 

 

「あらそう」

 

 

一つの風切り音が鳴った。

直後に起こった現象を、当初の面々は誰一人理解できなかった。

 

 

魔法の森全体に、凄まじい衝撃と轟音が走った。

乱気流のように入り乱れた空気が炸裂し、爆縮状の球体となって三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)を飲み込んでいく。

 

 

正確に言えばそれは、圧縮された極大の風だ。

例えば大型の台風のエネルギーを一箇所に固めたとしたらこんな感じだろうか?

 

 

「な、なん……っ!?」

 

 

共に巻き込まれた大樹が一瞬で塵と化す。

それは岩が削岩機に掛けられ砂粒になるのとはわけが違う。冗談抜きで、それこそ()()()()()()にまで分解されていた。

 

時間にして数秒。烈風の塊は小さな微風となって消えた。

 

 

「あら」

 

 

豊姫は扇子を畳みながら前方の巨影を見遣った。……動いている。

 

 

「グ……、ガ、ルルッ!!」

 

 

先程とは違い弱々しい唸り声。

三つあった首の内一つは千切れ飛び、残された二頭もズタズタに引き裂かれていた。

身体に刻まれた夥しい数の傷口からは大量の毒蛇が溢れ出ている。

 

 

(あわよくば今ので勝てると思ったけど…、彼の言ってたことは本当だったのね)

 

 

視線の先で、早くも三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の身体は再生を始めていた。

傷口は塞がり、消失した首は徐々に元の形を取り戻していく。

 

 

「ねえ、さっきの貴方達の会話に出てきた、『はっけろ』とか言うのは上にいる金髪の子の奥の手よね?それは今し方私の出した『風』よりも強力なのかしら?」

 

 

豊姫の声色にこれと言って動揺の色は混じっておらず、只単に興味本位で尋ねているだけのような気軽さだった。

例え質問の答えが意にそぐわなくとも、別段気に止めるつもりはないのかも知れない。

 

 

「確実……、とは言えない。しかし、より多くの魔素を取り込めば或いは……」

 

「その『魔素』って言うのは此処に漂ってる醜悪な成分のこと?」

 

 

やや嫌悪感を露わにしながら、豊姫は扇子で顔の前を仰いだ。

 

尤も、霖之助等は知る由も無いが、彼女を始めとする月の民は地上の『穢れ』を取り込まぬよう、身体を特殊なベールで包んでいるため、身体に有毒な瘴気の影響も受けていないのだが。

 

 

「ああ、そうだ。魔法の森(ここ)は特殊な胞子を散布する茸が群生している他、()()()()()が『魔界』に限りなく近い点から魔力を含んだ瘴気が非常に多い。だから魔理沙(かのじょ)の持つ八卦炉にとって絶好のエネルギー源になるんだ」

 

「ふーん」

 

 

豊姫は周囲に漂う瘴気に意識を向けながら、霖之助の話にも出てきたとあるポイントに注目した。

 

 

「その『一部の場所』ってあっちかしら?」

 

 

徐に畳んだ扇子で方角を指した。

 

 

「……あの、私の家がそうだけど」

 

 

答えたのはアリスだった。

豊姫の質問は続く。

 

「私は古い書物でしか知らないんだけど、『魔界』って魔が蔓延る欲界の内の一つよね?貴女そこの出身?」

 

「え、ええ」

 

 

次々と言い得ていく彼女に少なからず不信感を覚えつつもアリスは頷いた。

 

 

豊姫は再び話し相手を霖之助へと変えて、

 

 

「素朴な疑問なんだけど、もしも今この場所がまるっと()()()()()()()()『はっけろ』はより強力な力を得るのかしら?」

 

「…………………………はっ?」

 

 

霖之助は思わず言葉を詰まらせた。

流石の彼も言葉の意味を理解できずに、一瞬思考を停止させる程の突拍子も無い質問だった。

 

 

「それは飽くまで可能性の話をしているのかい?」

 

 

しかし彼女は変わらずの調子で、

 

 

 

「どうなの?」

 

 

 

……答えを促すようにほんの一瞬だけ漏れ出た圧力。

霖之助含む一同は息を飲んだ。

 

 

「……ッ、破壊力・充填速度共に人間界(ここ)とは比べ物にならない程跳ね上がるだろうね」

 

 

やがておずおずと答えた彼の額からは一筋の汗が落ちた。

 

 

「そっ」

 

 

豊姫は微笑を浮かべると、上空で待機する少女の元へ()()で移動した。

 

 

 

「うわっ!?」

 

「ふふっ」

 

 

彼女は、その光景に思わず飛び退いた少女の反応を楽しむように告げる。

 

 

「準備しなさい。()()()()()()()()()、貴女の八卦炉(それ)は莫大な力を得るわ」

 

「な、何を言っ……」

 

 

返答待たずして豊姫の姿は消失した。

高速移動とは異なるその動きは、過去に見た紅魔のメイド長、十六夜 咲夜が使う時間停止を彷彿させる。

 

 

再び霖之助の前に現れた豊姫は、眼前で傷を完治させた三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)を一瞥し、静かに告げる。

 

 

「始めます」

 

 

直後だった。

 

 

 

その場の空気が、地形が、景色が……、

─── 瞬く間に別世界へと変貌した。

 

青々と生い茂っていた大樹は消失し、一面岩だらけの荒野。

地平線の向こう側まで永遠と続いているような広大な世界。

 

周囲すべての物が、人間界の常識(それ)と逸脱していた。

 

 

「これはっ!?」

 

 

魔界出身者であるアリスが思わず呟く。

 

 

「嘘ッ、───『魔界』……っ!?」

 

 

肌を通じて感じ取れる尋常ならざる魔素の量が、既に此処が魔法の森ではないことを裏付けていた。

そしてその中でも確定的だったのは……、

 

 

「!」

 

 

その場を強い光源が包んだ。

 

発生源は上空、光色は何処となく『闇』をイメージさせる紫。

霧雨 魔理沙の持つ八卦炉の充填が()()()()()()()()()()だった。

 

 

「馬鹿な……、こんなに早く……っ!?」

 

 

先程から驚愕の連続である霖之助は小さく漏らした。それを隣で聞いていたアリスもその禍々しい光に視界を覆っている。

 

だが一番驚いているのは八卦炉の所有者である魔理沙本人だろう。

 

 

「お、おいおい………。これって明らかに『悪役側(ダークサイド)』が放つ光じゃないか…?」

 

 

魔理沙はまるで起爆寸前の爆弾でも扱うかのように、出来るだけ八卦炉を身体から離して持った。

 

 

「グルルルッ!!」

 

 

直後に少女の視界一面を巨大なレーザービームのような閃光が覆う。

 

 

 

「ほらほらボーっとしない。それだけ強い『妖力』を放ってたら彼方さんだって警戒するに決まってるでしょ?」

 

 

真横から諭すような言葉。

視線の先では上空に消えていく光の柱が映った。

いつしか魔理沙の身体は、上空から地上に立つ豊姫の隣へ移動していた。

 

 

「あ、ありがとう」

 

「どういたしまして」

 

 

豊姫は和かに返答し、空いている掌を霖之助へと差し出す。

 

 

「その剣、借りるわね」

 

「えっ?」

 

 

何の前触れもなく、霖之助の手にしていた『霧雨の剣』が消失した。

だがそれは抜き取られたのではなく、『握り込んでいた柄が彼の手の中で消えた』っと表現した方が適切だ。

 

 

「ガ、ッ!?」

 

 

直後、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)に異変が起きた。見れば、今し方消失した『霧雨の剣』が深々と胸に突き刺さっている。

 

 

「構えておきなさい。仕上げよ」

 

 

豊姫は一歩前に踏み出しながら言った。

 

 

「ゴアアアアアァァアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の憤怒を孕んだ咆哮が響き渡った。

同時に展開された複数の魔法陣は、間隙を待たずして一挙に放たれる。

 

 

ズアァアアッッ!!! と迫り来るは、『地』・『水』・『火』・『風』・『空』の五大元素を始めとする、多種多様の属性が入り混じった魔法の嵐。

それは魔界の荒野をまるごと殺風景な平地に変えてしまえそうな規模で迫る破壊の波。

 

 

「あっ…」

 

 

アリスは思わず後退った。……が、すぐにそれは意味のないことだと気付く。

傍にいる魔理沙や霖之助も、同様にその時が来るのを待っていた。

 

 

絶望とは、自分の見出した未来が実現しないと分かった時点で起こる一種の『諦め』だ。

 

例えば、丸腰で猛獣に囲まれた時。

 

例えば、残り僅かの余命宣告を受けた時。

 

例えば、失ったものは戻らないのだと自覚した時。

 

あらゆる場面に潜む絶望。どうあがいても未来を変えることができないのだと悟った時、人は諦める。

 

 

 

 

───だが彼女らが逃げることを止めたのは、迫り来る絶望に対してではない。

 

 

「良い演出をありがとう」

 

 

そう一言呟いた豊姫は、全くのノーモーションで『それ』を実行した。

慌てず、或いは怒りに任せずに冷静になって思い返してみれば予測できたはずだ。

 

最初に彼女が一同の前に現れた際、()()()()()()()()()()()

 

 

 

カッ!!! と、閃光が走った。

続いて発生した轟音と衝撃が、魔界の広大な大地を揺るがす。

 

三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)は改めて驚愕しただろう。

───()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 

「ゴ、アアア……ッ!」

 

 

しかし彼とて何も学ばなかったわけではない。

 

バラバラにされ、再生した際に、より硬度の高い鱗へと作り変えていた。

その結果、地形をごっそり変える規模の攻撃を受けた身体は、僅かばかりの亀裂が入るダメージ量に留まったのだ。

 

 

 

 

(……やはり、『空間転移』っ!?)

 

 

霖之助は豊姫の能力に心当たりがあった。

いつしか目にした魔導書に記されていたその魔法は、『空間ごと又は個を一時的に別次元へ飛ばし、任意の場所へ瞬時に移動させる』、というもの。幻想郷の賢者 八雲 紫の能力もこれに類似している。

 

だが、仮に霖之助の予想した能力であったとしても、彼女は()()()()()()を一瞬で移動させたことになる。

 

 

(次元が違う…っ!)

 

 

霖之助は改めて息を飲んだ。

 

そしてあまりの出来事に忘れていた。

三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)に刺さったままの『霧雨の剣』……、その能力を。

 

 

再び大規模な魔力爆発が空間を震撼させる。

 

今度こそ、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の身体に大きな亀裂が入った。

 

 

「お膳立てはここまでよ。後はよろしくね ♪」

 

 

いつの間にか後方へ移動していた豊姫は、一仕事終えた後のように肩をぐるりと回して言った。

一同の視線が、八卦炉を構えた少女へと集まる。

 

 

 

 

 

「いくぜッ!!」

 

 

 

─── 妖器『ダークスパーク』

 

 

ゴォッッ!!! と、黒紫色の閃光が前方で炸裂した。

過去に魔理沙が放った魔砲とは比較にならない出力で吐き出されたそれは、瞬く間に三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の身体を飲み込んだ。

 

 

「ガッ!?……ゴ、アアアアアアアァァアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

着弾の瞬間、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)は身体の硬化を更に高めた。

本能的に『これはヤバい』と悟ったのだ。

 

凄まじ勢いで放射された黒紫色の魔砲と、ありったけの魔力によって固められた鱗がぶつかり合い、均衡する。

その様は川の流れを分断する岩のようだ。

 

三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の後方へ漏れた魔砲の余波が、失速することなく広大な大地を抉り進んでいく。

 

 

「ぬ、ぐぅ…ッ!」

 

 

余りの出力に少女の顔が歪む。

何とか耐えてはいるが、その身体は後方へ崩れかけている。

 

 

「もう一息だ!」

 

「頑張って魔理沙!!」

 

 

そんな少女の肩を、霖之助とアリスは両側から支えた。それでもジリジリと押し下げられていく。

 

 

「ッッ正念場だぜ……っ!気合い入れろよ『八卦炉(あいぼう)』ッ!!!」

 

 

バギィンッッ!!! と、三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)を包む鱗の破断が更に広がった。

魔砲によって削り取られた部分から血飛沫が舞い、毒蛇に変化した傍から消し炭と化していく。

 

 

「グ……ッ、ガァ、アアアアアアアァアッ!!」

 

「おおおおああああああァァああああああああああッッ!!」

 

 

響く両者の咆哮。

 

 

 

─── そして、

 

 

「!!」

 

 

遂に三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の黒い体表一帯が砕き割れた。

直後、その巨躯は黒紫色の雷によって内側から燐光を発し、徐々に灰塵と化す。

更に放射される魔砲が、塵となった三ツ頭の竜(アジ・ダハーカ)の身体を完全に消滅させた。

 

 

「あら、予想以上」

 

 

その光景を静観していた豊姫から率直な感想が漏れる。

だが続いて、白黒魔法使いの少女から焦燥の混じった声が上がった。

 

 

「お、おい香霖!これどうやって止めるんだっ!?」

 

 

見れば、魔砲の止め方が分からずにあたふたしているようだ。

だが開発者が隣にいるし大丈夫だろうと、後方から見ていた豊姫は銀髪の男に視線を移す。

 

 

「あっ、そうか!これは魔素がある限り自動で魔力が供給されるから…っ」

 

「止まらないってッ!?欠陥品じゃないかッ!!」

 

「い、いや……、そもそもこれは幻想郷内で使うことを想定していたわけで……。丁度魔素を使い切った辺りで敵に勝つのが理想的だったと言うか」

 

「何でもいいから早く何とかしてぇぇ!?そ、そろそろ腕が限界……ッ」

 

 

豊姫はぎゃーぎゃー騒ぎ立てる三人へ冷めた視線を送りつつ、徐に能力を使用した。

瞬間、今の今まで止め処なく流れ出ていた魔力の波が止み、魔砲はぷつりと途切れた。

 

当然前に体重を掛けて踏ん張っていた三人が、ドミノ倒しのように転がったのは言うまでもない。

 

 

「まったく、何をやってるのよ貴女達」

 

 

呆れ顔の豊姫へ、魔理沙はひっくり返った姿勢のまま尋ねる。

 

 

「……えーと、何したんだ?」

 

八卦炉(それ)の周りの空間だけを人間界の魔素が存在しない場所に繋いだのよ。一度供給が途切れれば止まると思って」

 

「は、ははは。ナイス!」

 

 

豊姫は親指を立ててガッツポーズを取る少女を引っ叩いてやろうかと思い、踏み止まった。

一度咳払いをし、次の瞬間には周囲の景色が元の瘴気漂う森へと変わる。

 

団子重ねの状態から脱した霖之助は、衣服の泥を払って豊姫の前に立つと、深々と頭を下げた。

 

 

「御助力感謝します。ありがとう」

 

「いいえ、私も丁度退屈してたところだったから良い刺激になったわ」

 

 

和かにそう返した豊姫は、空を一瞥してこう続ける。

 

 

「綺麗なお月様ね」

 

「?」

 

 

その言葉に違和感を覚えた霖之助は、自然と空を見上げた。

今は昼前だった筈だが、と。

 

 

「!?」

 

 

空に浮かぶ満月。

発する光に、霖之助は異様な寒気を覚えた。

 




魔理沙戦終了になります。
ダークスパークの発動条件はこの話のオリジナルです。

次回、霊夢戦につきましては11月27日(月)に投稿予定です。
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