東方万能録   作:オムライス_

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お待たせいたしました。
『月の増援』ラストのパート③です。




164話 月の増援 ③

素性の知れぬ乱入者にサタンは暴虐で応じた。空中を蹴りつけ、人が視認できるレベルを大きく凌駕した速度で横合いから黒炎を纏った魔手を伸ばす。

 

 

「その程度なら先生の方が速い」

 

 

依姫は身体に『雷』を纏いながら、振り向きざまに刀を振るった。

突き出された魔手と鋒が重なり、一瞬の均衡を破って弾き飛ばす。

 

 

「───『建御雷(たけみかづち)』」

 

 

「!!」

 

 

後方に押し下げられ、体勢を立て直す前のサタンへ再び迫る雷を纏った鋒。

そのまま閃光と共に眉間を突かれ、悪魔の身体は天を仰ぐような形で更に後方へ吹き飛んだ。

 

 

だが、依姫は刃から伝わってきた感触ですぐに判断する。

 

 

(……貫通していない)

 

 

先の彼女の踏み込みは確実に頭部を刺し貫いていた筈だったのだが、返ってきたのはまるで()()()()()によって阻まれたような感覚だ。

 

 

「……た、唯の攻撃は効かないわよ」

 

 

依姫は掛けられた声に意識だけを向ける。

後方で紅白巫女の少女が、漸く追い付いたとでも言わんばかりに肩で息をして立っていた。

 

 

「心当たりが?」

 

「そうね、彼奴の身体は……ッ!?」

 

 

言いかけた霊夢は思わず身を強張らせた。

彼女の言葉を阻むように黒炎の弾丸が射出され、眼前まで迫っていたからだ。

 

 

バシュゥッ!! と、黒炎の弾丸は霊夢の手前一メートルの位置で炸裂した。

見れば、少女を庇うように突き出された刃が水平に構えられている。

 

 

「……」

 

 

そんな不意打ちにも反応してみせた依姫は、斬り落とした際に付着した黒色の炎を凝視した。

 

長年『それ』を忌み嫌ってきた月の民だからこそわかる。

 

 

「これは『穢れ』、ね。それも()()()()()()()()

 

「ちょ、ちょっと待ってて!」

 

 

慌てたように霊夢は一枚の札を取り出すと、恐る恐る黒炎の付着した刃に貼り付けた。

 

 

「…………………成る程、『穢れ』だから浄化したってわけ」

 

 

途端に鎮火された黒炎を目の当たりした依姫は一人納得した。……と、同時に先程少女が言いかけた言葉を思い出す。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。さっきそう言いかけたのよね?」

 

「……うん」

 

「なら話が早い」

 

 

依姫の身体が淡い光を帯びる。

続いて鈴の音が鳴り、背後から巫女姿の神霊が出現した。

 

 

「!?」

 

 

霊夢は驚愕した。

この際、目の前の女が何を呼び出したかなんて関係ない。

『神霊』を使役するその術を、自分以外の人間が扱っていること……、

そして()()()()()()()()()それを実行したことに対してだ。

 

 

「神降ろし……!私と同じ能力(ちから)を───」

 

 

依姫は端的に答える。

 

 

「この身を依代にすることで神霊の力を使役する───、それが私の能力(ちから)

 

 

彼女は背後で浮遊する巫女姿の神霊へ、周囲を一瞥しながら命じる。

 

 

「祓いなさい『伊豆能売(いづのめ)』」

 

 

言霊に反応し、神霊『伊豆能売(いづのめ)』は手にしている神楽鈴(かぐらすず)を一連の動きに基づいて振るっていく。

透き通るような鈴の音が連続的に響き、空間全域を瞬く間に埋め尽くした。

 

 

「これは…っ!」

 

 

表情こそ読み取り辛いが、サタンの声色は僅かに焦燥していた。

現状この場を包んでいるのは『神直毘神(かむなおびのかみ)』と『伊豆能売神(いづのめのかみ)』の二柱による浄化の力。

単純に見て、サタンの力を阻害する存在が二倍に増えたのだ。

 

だが数で勝っていて尚、彼の力を抑え込むには至っていない。

 

驚愕しているのは依姫も同じだった。

 

 

「穢れを浄化する神霊の力が二つ合わさっても祓い切れない、か。もしこの戦いが私一人であったなら或いは……」

 

「でも好機よ。今なら私の霊術だって……、」

 

 

『通じる筈』と、言いかけた霊夢の頭上に影が掛かる。

改めて正面を見遣った先に、居たはずの白い悪魔の姿がなかった。

 

 

「わっ!?」

 

 

霊夢は不意に胸倉を掴まれ、引き倒された。

一瞬何が起こったかわからないまま、頭上で甲高い音が炸裂する。

 

 

「私の後ろへッ!」

 

 

叫んだのは依姫だ。

次いで、うつ伏せだった霊夢の身体が引き起こされ、今度は襟首を掴まれて後方へ放られた。

 

 

「!」

 

 

『夢想転生』を発動させている自身の身体を容易く掴んで投げた事実にも驚いたが、それ以上に驚愕だったのは現在依姫に降ろされている神霊の方だった。

 

 

間近で連続的な衝突音。

人外レベルで振るわれる悪魔の手足に対し、雷を纏った依姫の刀が何度も交差する。

 

彼女の背後には緑の衣を纏った厳格な風貌の男神が降ろされている。

 

 

「あの神霊って、まさか…!」

 

 

先程は常人離れした戦闘速度からよく視認出来ていなかった霊夢は目を見開いた。

 

 

───『建御雷神(たけみかづちのかみ)

 

 

日本神話に於いて、伊耶那岐命(いざなぎのみこと)が息子である火之迦具土神(ひのかぐつち)を斬り殺した際に、付着した返り血から生まれたとされる武神、又は雷神。

剣の神でもある建御雷神(たけみかづちのかみ)は、劣勢に追い込まれた神の御子へ()()()()()宿()()()()()()()を授け、見事戦況を覆したとされる、八百万の神の中でも屈指の強さを誇る神だ。

 

このレベルの神霊を、依姫は何の手順も踏まずに降ろしている。

それがどれだけ反則的な能力(ちから)か………、霊夢は思わず息を飲んだ。

 

 

だがそんな彼女とてその身に降ろすことのできる神霊は一柱まで。

先程降ろしていた『伊豆能売神(いづのめのかみ)』の浄化を維持しながら『建御雷神(たけみかづちのかみ)』の戦闘力を併用することはできない。

 

『浄化』を取れば『戦闘力』は失われ、その逆を取れば『有効打』を失う。

 

 

故に先程彼女は口にしたのだ。

………『自分一人では勝てないだろう』、と。

 

 

 

ミシッ!! と、金属の軋む音が鳴る。

サタンの魔手が突き出された依姫の刃を素手で掴み取っていた。

 

 

「当たっているのに斬れない感覚というのはもどかしいものだろう?」

 

 

サタンの邪気に触れ、『斬る』という選択肢を奪われた刀では引き抜くこともできない。

 

『穢れ』が刃を介して刀全体を侵食し始める。

 

 

「ッ!」

 

「逃げなくていいのか?」

 

 

サタンは徐にもう一方の魔手を依姫の顔へと伸ばしながら言った。

攻撃の起点と思われる刀を自ら手放させる()()()()()()()だ。

 

 

「くっ……!」

 

 

だがその誘導に依姫は引っかからざるを得ない。『穢れ』の侵食が柄を握る手に到達しかけている。

どのみちゆっくりと迫っている黒炎纏った腕も、刀を離した瞬間を狙ったものだろう。

 

『刀を掴み取る』と言った単純な行為一つで、依姫の選択肢は奪われた。

 

 

「どうした?」

 

 

嬲るような視線で笑みを浮かべる彼の様は、正しく悪魔と呼ぶに相応しい。

だがそんな最中、両者の間に割って入ってきた影があった。

 

霊夢と同じ紅白の巫女服……、─── 先代博麗の巫女だ。

 

 

「油断大敵ッ!!」

 

 

暁美は刀を掴み取っている腕の『手三里(てさんり)』へ向けて中指を突出させた拳を打ち込んだ。

 

 

「………ぬ、ッ!?」

 

 

一瞬サタンの表情が歪み、万力の様に握りこんでいた刃から手が離れる。

綿毛の様な動きで着地した暁美は、至近距離から『瞬閧』のエネルギーを解き放った。

砂塵を巻き上げ、サタンの身体が後方へ押し下げられる。

 

 

「貴女は…!」

 

「良いから、ちょっと耳貸してくれる?」

 

 

目を見開く依姫に対し、暁美は短く囁くと、すぐ様前方へ向き直った。

 

今度はその方向へ悪態付いた言葉を飛ばす。

 

 

()()()でしょ?貴方みたいな化け物にもツボが存在してるなんて笑えるわね」

 

「貴様……!俺の気に当てられてまともに動けなかった筈だが?」

 

「私だって『博麗』を名乗ってた巫女よ。神霊には遠く及ばないまでも、邪を清めるだけの力はあるさ」

 

 

だがサタンはすぐに気が付いた。威勢良く立ち塞がった巫女の肩が僅かに上下しているのを。

 

 

「……見え透いた虚勢だな。確かに当初よりかは動けるみたいだが、それでもお前の身体から消えたわけではない」

 

「はて、なんのことやら」

 

「大方、小娘と紫髪の女が出した神の力が合わさって漸く蝕んでいた力が弱まったと言ったところだろう?今更弱った身体で何ができると言うんだ?」

 

 

一方的に、サタンは敢えて長々と言葉を発した。それは相手を軽視し、余裕を見せつけているわけではない。

 

悪魔(かれ)の一瞥は人の魂を抜き取り、漏れる吐息はあらゆる生命を蝕む。

故に彼の通った大地からは未来永劫、新たな生命(いのち)が芽生えることはない。

 

人の身である彼女等がこうして対峙出来ていること事態が、サタンにとっては物珍しい光景なのだ。

 

事実、暁美の疲弊と並行してその身を包む『博麗の加護』も弱まってきていた。

そんな状態で、もしもこの場から神霊による浄化の力が消失した場合、彼女は悪魔の呪いから身を護る術がなくなる。

本当ならば今すぐにでも戦場から離脱すべき状況なのだ。

 

 

「べらべら煩いわね」

 

 

それでも暁美は拳を握った。

高熱にも似た倦怠感と、骨から軋む様な痛みが広がる身体を抑え付けて立ち塞がる。

 

 

「御託はいいからかかって来なさい。師匠仕込みの博麗武術はこれからが見せ場よ」

 

 

彼女は、後方に託した希望を護る。

 

 

「死に損ないが」

 

 

意外にも、先に動いたのはサタンだった。

放っておけばやがて命を落とすであろう人間の頭上へ高速で飛び、力任せに魔手を振り下ろした。

そして暁美の頭頂部へ掌が触れるか否かの瞬間に、視界が反転する。

 

 

ゴドンッッ!!! と、石畳が砕け散る。

迫る魔手をいなし、流れる様な動作でサタンを脳天から叩きつけた暁美は、その喉元へ足刀を打ち下ろした。

 

 

「ちっ……」

 

 

サタンは喉へ食い込んでいる足裏に構わず力任せに上体を起こした。

瞬間、のしかかっていた圧迫感が消失する。

 

目の前に居たはずの巫女の姿がない。

振り返る間も無く後頭部に衝撃を受けて、今度は前のめりに吹き飛ばされた。

 

 

「脳天から叩きつけて、急所を二度も蹴りつけたのにその反応?少し傷付くわね」

 

 

そう漏らした暁美は、視線の先で平然と立ち上がる悪魔に対して肩を竦めた。

 

 

「今、漸くわかった」

 

 

サタンは淡々とした口調で呟いた。

 

 

「触れられぬ筈の小娘を抱える。浄化の力無しで『ちから』を纏った俺に物理的に干渉する。─── それがお前の能力(ちから)だな」

 

 

しかし、一切のダメージ無し。

 

 

「確か、()()()()()()?」

 

 

サタンの背からドス黒い陽炎が噴き出す。

それは高濃度の『邪気』。

言うなれば、暁美が今戦闘の主軸として発動させている『瞬閧』と瓜二つだ。

 

 

「……嘘っ」

 

 

徐に突き出された掌。

 

次の瞬間、邪気によって視覚化された力の塊が空気と共に打ち出された。

 

 

「はぁああッ!!!」

 

 

凛とした掛け声。

暁美の傍から雷を纏った依姫が飛び出し、縦一文字に『穢れ』の波動を断ち切ったのだ。

 

 

「先程の借りは返しました」

 

「随分強引な返済だこと」

 

 

改めて歩を進めた暁美はその傍へ並ぶと、小さく呟いた。

 

 

「首尾はどう?」

 

 

依姫も同じ声量で返す。

 

 

「もう少し掛かるわ」

 

 

ぱしりっと、暁美は拳を掌に打ち付けた。

刀を中段に構えた依姫は、柄をやんわりと握り直した。

 

 

「私の動きについて来られる?」

 

「愚問よ」

 

 

瞬間、二人の姿が前方へ消失する。

僅か十数メートルの距離を音も無く突き進み、目標となる悪魔を前後で取り囲んだ。

 

轟音と衝撃が響き渡る。

 

サタンを挟む様に前後から拳を、刀を振り押したことによって、地面が破断されたのだ。

 

 

「「上!!」」

 

 

同時に叫び、跳躍する。

先の攻撃の直前に上空へと逃れていたサタンは、掌を其々向かってくる二人へと向けた。

 

連続して打ち出される『穢れ』の波動。

 

その間を縫う様に飛翔する依姫の刀が、悪魔の身体を真下から突き上げる。

 

 

「お前も学ばないな」

 

 

サタンはその鋒を不動のまま受け止め、吐き捨てた。

 

だが依姫は変わらぬ調子で返す。

 

 

「……そうでもないわ」

 

 

直後、サタンの側頭部に衝撃が走る。

 

打ち込まれたのは爪先。

弾幕の影から上空へ移動していた暁美からだ。

 

 

「三度目の足蹴にて失礼っと」

 

 

「くだらん」

 

 

蹴り足をぱたつかせて煽る暁美に対し、サタンは冷めた口調で続ける。

 

 

()()()()も此処まで露骨だと呆れて付き合う気にもなれん。今度はなんだ?今は姿が見えないあの小娘に何かさせてるのか?」

 

 

サタンは掌を眼下の神社へと向けた。

集束されれドス黒いエネルギー球。───狙いは明らかだ。

 

 

「ちょ、待っ───!!」

 

 

慌てて飛び出した暁美だが、不意に空から降ってきた水滴に、動きを止めた。

サタンも同様だ。怪訝な表情で上空を見上げている。

 

ぽつりぽつりと落ちてくる水滴は、瞬く間に激しいスコールとなって降り注いだ。

雷鳴が轟き、空を駆けるそれはやがて七匹の炎の龍へと変貌する。

 

 

「『炎雷神(ほのいかづちのかみ)』───神に仇なすその者に天の裁きを」

 

 

依姫がそう口にすると、七匹の龍は一斉にサタンへと殺到した。

周囲を取り囲む様に群がり、火災旋風を思わせる巨大な火柱を形成する。

 

 

「神に仇なす、か。的を得ている」

 

 

燃え盛る業火の中から、空気が膨張する音に混じって声が聞こえた。

それは次第に相手を揶揄するような嘲笑へと変わる。

 

 

「悪魔とは本来、『神の敵対者』を指す言葉だからな」

 

 

炎の渦が内側から黒く染まっていく。

その様は朽ちていく枯れ木のように、末端からぼろぼろと崩れ去り、消えた。

 

 

「お前達生者が神の創り出した産物なら、俺はその全てを破壊し尽くすだけだ」

 

 

サタンは上空へ向けて掌を翳した。

 

暁美と依姫の二人は自然とその先を目で追って、背を刺すような寒気を覚えた。

 

 

「!?」

 

 

 

 

いつしかその頭上には黒い靄のようなものが立ち込めていた。

それが唯の雨雲ではないことは火を見るよりも明らかだ。

 

 

「やめろ……!」

 

 

直感で理解した。

 

あれはこの世の安寧を崩すもの。

 

『朽廃』或いは『老い』、『厄災』或いは『病魔』、そして『死』。

 

全ての負の事象が丸ごと凝縮された、この世に終焉を与える絶望の塊だ。

 

サタンの手が、やがて渦を巻くように降りてくる靄を静かに掌握した。

彼は眼下の神社を中心に展開されている博麗結界を見下げながら告げる。

 

 

「これは薄ぺらな結界程度では防げん。一刻の内に地上は死の世界へと変貌するだろう」

 

 

 

暁美は動けなかった。

あの靄がどういった形で撒かれるのかは分からないが、サタンの構えから見てそのまま地上へ振り下ろすのだろう。

その前に接近することは恐らく可能だ。

だが接近した後はどうする?

長年鍛え上げてきた自身の拳は、体勢へのノックバックは狙えても、攻撃を中断させる程のダメージは与えられない。

あれだけ濃い『穢れ』だ。下手をすれば()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

(………現状、万事休すってやつね)

 

 

 

依姫の脳裏には真っ先に神霊『伊豆能売(いづのめ)』が過ぎっていた。

……が、十中八九効果は無いと悟る。

元々()()()()()()()()()()()。その内の一柱が『伊豆能売(いづのめ)』だ。

強大な力を持つサタンを相手に、一柱では精々此方のダメージを通す程度、二柱でもその力全てを打ち消すには至らない。

 

 

(せめて、あの一柱を降ろすことが出来れば……!)

 

 

 

そんな二人が共通して願っていたことがあった。

 

 

 

地上の、もう一人の博麗の巫女へ ───。

 

 

 

 

『早くっ!!』

 

 

 

 

─── その願いは、突然出現した光の柱によって実現することになる。

 

 

 

地上から天に掛けて伸びる光線は、一同の中心へ『その者』を導いた。

 

 

「お待たせ……!!」

 

 

博麗 霊夢はそこへ一瞬で現れると、額から流れる汗を拭いながらサタンを睨み付けた。

その顔色はあまり良くはない。

まるで長距離走を走り終えた後のような疲労感が滲み出ている。

 

そんな少女を見たサタンの表情は、以前のような軽侮したものではなかった。

 

 

「貴様っ!それは……!?」

 

 

サタンは驚愕の声を漏らした。より正確には少女にではなく、その背後に佇む()()()()()に対して。

 

 

「……………成功ね!」

 

 

暁美は目を見開き、同時にほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「まさか、本当に……!」

 

 

依姫の脳裏にその四柱の名が浮かび上がった。

 

 

浄化を司る三柱、

 

神直毘神(かみなおびのかみ)

 

大直毘神(おおなおびのかみ)

 

伊豆能売神(いづのめのかみ)

 

 

 

 

───そして。

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()

 

 

伊邪那岐命(いざなぎのみこと)』。

 

 

 

……その身に降ろすことの出来る神霊は一柱のみ。

そんな定説を覆したかのように四柱を引き連れた霊夢に対し、サタンは焦燥の色を隠そうともせずに叫ぶ。

 

 

「そいつら全て貴様が使役しているとでも言うのか!?ならば先程まで出さなかった理由はなんだ!何をした……!?」

 

「何よ、途端にお喋りになっちゃって」

 

 

霊夢はサタンと同様に掌を翳した。

すると後方の浄化の神三柱から眩い光が発せられ、瞬く間に結界内全てを包み込んだ。

 

 

「……ッ!」

 

 

二度、三度の瞬きの後に……、悪魔を包む邪気が、空中に漂う黒い靄が、この場に存在する『穢れ』全てが一瞬で浄化された。

 

暁美の身体を蝕んでいた黒炎の効力も、毒気が抜けるように消失する。

 

 

 

やがて静かに腕を下ろした霊夢は端的に言う。

 

 

「私が降ろせる神は()()()()()。後にも先にもね」

 

「……なん………だと………?」

 

 

未だ沈黙を保つ一柱 『伊邪那岐(いざなぎ)』を一瞥しながら彼女は続ける。

 

 

「………この神様は『天照大神(あまてらすおおかみ)』や『須佐之男命(すさのおのみこと)』、その他多くの神々を生み出した『祖神』と言われている凄く偉い神様なんだって。だから私の代わりに()()()()()()()()()()。後ろにいる浄化の神様達をね」

 

 

少女はあっけらかんと話した。

だがその身に掛かる負荷は相当なものらしく、呼吸が若干荒い。

 

神降ろしとは、飽くまで神々の力の一端をその身に降ろして借りる儀式のようなもの。

人の身でありながら神の力を振るうことがどれだけの行為か……。

況してや『伊邪那岐(いざなぎ)』は、八百万の神の長である『天照大神(あまてらすおおかみ)』を生み出す程の存在なのだ。

 

今の霊夢のレベルでは、降ろす為の儀式に時間を取られ、況してや()()()()を展開している余裕などなかった。

 

 

そんな無防備状態な彼女の前へ、暁美と豊姫は立ち塞がる。

 

 

「─── 建御雷(たけみかずち)

 

 

 

「─── 瞬 閧 」

 

 

全身を覆う雷が、背部から噴き出す霊力が、この瞬間を待ちわびていたかの様に膨れ上がる。

 

 

「他で被害が出ぬよう、此処で仕留めさせてもらうわ」

 

 

「今までやられた分ははきっちり返させてもらうわよ」

 

 

今まではこの場を包む邪気によって、此方の攻撃全てが無効化されていた。

『穢れ』が立ち込めた空間は、徐々に彼女等の生命力を削いでいった。

 

 

だが今───。

 

空間全体に浸透した浄化の力により、無敵を誇った鎧は剥がされ、『穢れ(さんそ)』を取り込めなくなった黒炎(ほのお)が灯ることはない。

 

完全に立場が逆転していた。

 

 

「貴、様等ァ……ッ!」

 

 

ビシッッ!! と、乾いた音が鳴った。

見れば、塗装が剥がれるように、サタンの掌に亀裂が生じていた。

 

『穢れ』という存在が彼を強化するのとは対照的に、清められた空間は邪悪な者から力を奪う。

 

 

その中心で振り絞るように。

 

肩で息をする少女は力強く言い放つ。

 

 

「『人間』を、舐めないでよね……!」

 

 

二つの閃光が走った。

最早背後へ回り込んで挟み討ちにする等の巧妙な動きは必要ない。

 

真っ直ぐに。

 

ミシリッ と、固く握り込まれた拳が爆発的な推進力を得て悪魔の顔面に突き刺さった。

 

周囲を青白い光が駆け巡り、集約された力が乗せられた一太刀は、悪魔の身体を縦一文字に斬り裂いた。

 

 

「人間、風情…がッ!」

 

 

戦いが始まって初となる負傷。

その最初で最後の傷が、白い悪魔の致命傷だった。

 

 

「……………………………………………………申し訳ありません、サリエル……様……ッ」

 

 

幻想郷と月。

其々を代表する守護者を苦しめた白い悪魔の身体は、まるで日の光を浴びたアンデッドが灰に変わるように崩壊した。

 




漸く天使軍の幹部クラスとの戦いも一区切りつきました。
残す戦いは幻想郷中に出現した天使の軍勢とサリエルのみ!

次回の投稿は1ヶ月以内を予定してます。
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