東方万能録   作:オムライス_

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20日程遅い明けましておめでとうございます!!

少し長引いてしまいましたが、昨年に引き続き書かせていただきます。

今回も隼斗vs天使 戦となります。


167話 一騎打ち

この真っ白な世界には何も存在しない。

正確に言えば何も存在することが出来ない。

この地に存在した物は全て、その瞬間から崩壊していくのだから。

 

ぱきりぱきりと手足の末端から乾いた音が伝い、サリエルの身体は崩壊へと向かっていた。

 

だが所詮は小規模な破壊が連鎖的に起こっているに過ぎない。

あらゆる絶望、即ち彼女の願望そのものを実現させる能力(ちから)はこの程度の損傷など意に介さず再生させることが出来るのだ。

 

 

「ここが何処だかは知らないけれど、これ位で私を終わらせるだなんて………」

 

《そのまま、》

 

 

隼斗は遮るように、

 

 

《精々そのまま治すことに集中しとけ。そうすりゃ、少なくとも繋ぎとめてられるだろうよ》

 

 

エコーのかかった声でそう言い放った男の身体には一見崩壊は見られない。

髑髏状の仮面、そして身体全体を包み込むように浮かび上がる黒い気は、宛らサリエルの配下たる軍勢のそれと酷似する。

 

 

「……信じられないけれど、間違いない」

 

 

彼女はその力の質に覚えがあった。

 

『それ』は……、これまでサリエルが創り出してきた数々の絶望の中でも異彩を放つ存在。

特に猛威を振るっていた時期に於いては、一つの世界を滅ぼしかけ、創造神ニ柱をもってしても消滅させるには至らず、結果二つの世界を巻き込む形で封印された絶望(そんざい)

 

 

名前など付けた覚えはなかった。

 

当時の自分とてほんの気まぐれだったのだろう。

唯の暇潰しか、或いは新しく出来上がった玩具の誇示がしたかったのか。

少なくとも、彼女にとっては()()()の範疇だったにせよ、その存在一つで今回の異変に匹敵するレベルの力は持っていたはずだ。

 

 

人間界(そっち)では『西行妖』……、なんて呼ばれていたわね」

 

 

─── その植物は例え神であろうと無差別に命を喰らう桜の木。

 

 

「そうそう、そうだわ。忘れてた」

 

 

まるで久しぶりに会った知人の名前を思い出したかのような気軽さで、天使は一人納得したように手を打った。

 

つまり、彼女にとってはその程度のことなのだ。

 

絶望を与えることこそが、彼女自身に於ける至高の娯楽、喜び……、生き甲斐と言ってもいい。

 

そして死の天使はある日ふと思い至る。

『そうだ、世界を滅ぼそう』、と。

 

そんな周期的に訪れる発作とも言うべき衝動が、今回の様な……、或いは過去に起きた『死の桜』による世界崩壊レベルの危機を生み出していた。

 

 

「貴方を含めて対象が生命体である以上、アレに抗う術は無い。況してやその力を取り込むなんて真似は不可能の筈よ」

 

《例外もあるってことだ。現に俺はこうして生きてる》

 

 

隼斗が肩を竦めながらさも当然の様に言い返すと、サリエルは此れ迄繰り広げてきた彼との戦闘を思い返し、呟く。

 

 

「……そうね。確かに貴方には私の能力(ちから)は及んでいないみたい」

 

 

「でも」と、付け加えたサリエルの身体から隼斗と同質の黒い力が漏れ始めた。

 

同時に、その体表が青紫色に染まっていく。

 

 

「底を見せてないのは私も同じなのよ?」

 

 

純白だった翼までもが青紫色に染まり始めた直後、サリエルの頭上に直径20メートル程の光の輪が出現した。

 

光輪の表面には黒い雷が這うように迸る。

その様は神々しくも底知れぬ悍ましさを孕んでいた。

 

 

「さ、時間が惜しいわ。始めましょうか ♪」

 

 

柔らかい口調とは裏腹に、地の底から滲み出るようなおどろおどろしい笑みを浮かべ、サリエルは宙を漂い始めた。

徐ろに両の掌が地面へと向けられる。

 

直後、サリエルの眼下に複数の陣が形成された。

当初は掌が指向されていた二箇所に。

そして見る間に地面に出現した陣の数が急増していく。

 

隼斗はその光景に見覚えがあった。

何時ぞや異変での戦闘で、吸血鬼の姉が使っていた魔法。

陣を介して己が契約を交わした魔獣又は使い魔を呼び出す為の術式、つまり。

 

 

《テメェも懲りねェ奴だな》

 

 

彼が吐き捨て、睨み付けるその先。

召喚術式によって生み出された数多の異形達が、理性の欠片も感じられない表情で、血走った瞳を向けていた。

 

だがこの場所は早くも彼等に牙を剥く。

脳天から、或いは爪先から始まる肉体の崩壊。

視線を転じれば、身体が融解し、ドロドロに崩れていく個体も散見された。

 

隼斗は一度視線を伏せ、再びサリエルを見遣る。

 

 

《……》

 

 

この場に召喚された化け物達は皆、僅かな種類の個体が複製された同種が殆どだった。

今も幻想郷を襲っている、髑髏状の仮面に覆われた雑兵とは違う。

 

天使軍として、幻想郷各地に構える一騎当千の猛者達を倒す為に単騎で送り込まれた、()使()()()()()()()()だった。

 

 

前の世界で隼斗が葬った者達に加え、博麗神社に降り立った『白い悪魔』、魔法の森で猛威を振るった『三頭の竜』。

それらの精鋭達が、身体を崩壊させながら、凄まじい速度で増殖を続けていく。

広大である筈の世界も、視界一面が埋め尽くされつつあった。

 

 

そんな光景を目にした男から発せられたのはたった一言……、

 

 

《……憐れだな》

 

 

表情の読み取れない髑髏の仮面を傾けて、隼斗は周囲を一瞥した。

続く言葉に有りっ丈の情を乗せて言い放つ。

 

 

《よォ、聞こえてる奴からでいい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

それだけ言うと、隼斗はサリエルの元へと歩き出した。既に彼の瞳には崩壊にもがき苦しむ化け物達の姿は映っていない。

仮面の向こう側で光る赤い眼光が、サリエルの姿を睨み殺すように捉えていた。

 

 

「今更そんなお情けを口にするなんて、どう言うつもりかしら?」

 

《テメェはもう喋んな》

 

 

憤怒の籠った声に続き、刹那の一瞬で叩き込まれた拳が空中で炸裂した。

その拳撃に一切の配慮は無く、発生した余波は凄まじい衝撃波となって辺り一帯を爆ぜさせる。

間近にいた化け物達の残骸が飛び散る中、笑みを浮かべていたのはサリエルただ一人。

 

全てを破壊する筈の拳は、二枚の重なった翼によって阻まれていた。

 

 

「滑稽ね。それが偽善だと思わないの?」

 

《くだらねェか?元より善行なんざに興味はねェよ…!》

 

 

会話は切れ、同時に力の均衡も崩れ去る。

隼斗はそのまま翼を鷲掴みにし、後方へ転じながら放り投げた。

一瞬で人型の弾丸となったサリエルの身体は、進行上の配下を撃ち抜きながら、遥か遠方まで吹き飛んでいく。

 

だがその刹那、死の天使は配下達へ文字どおり死の宣告を下す。

 

 

『あの男を討ち取れ』、と。

 

 

そして、最早一万やそこらでは効かない数にまで増えた狂気の瞳が、一斉に隼斗へと向けられる。

 

間隙はなかった。

ドーム状に密集する軍勢のほんの一角で囁かれた命令を、既に全員が実行しようと動き出していた。

 

ある者は指がまともに揃っていない腕で弓の弦を引き絞り……、

 

ひび割れた甲殻に覆われた腕を振り翳し……、

 

毒液と共に血反吐を吐き散らす蛇腕を伸ばし……、

 

剣を構え、死に体の獣に鞭を打って迫り……、

 

崩れ落ちた巨腕に構わずメイスを振り上げ……、

 

半分ほど朽ち果てた魔導書から、各々の龍を呼び出し……、

 

砂となり四散していく肉体と武具に臆せず、妙技を繰り出し……、

 

死滅した一頭を捨て置くように残り二頭が其々の魔法陣を形成し……、

 

 

唯一無二の標的へ向けて殺到した。

その中でただ一種、能力(ちから)の恩恵により崩壊を遅らせている白い体表の悪魔もいたが……、

 

 

《……上等だ》

 

 

呟いたその瞬間、彼の周囲で血の雨が降り注いだ。

一拍置いて轟音と衝撃が鳴り響いたが、遠巻きで見ていた連中ですら何が起こったか理解できなかっただろう。

しかし彼らが疑問を抱くよりも早く、目の前の出来事を理解する間も無く、破壊の連鎖は広がり迫った。

 

繰り出された拳は衝撃波となり、衝撃波は弾丸の如く直線状の化け物を貫き、破壊する。

的確に頭部を打ち抜き、『三ツ頭の竜』のような高度な再生力を見るや、即座に連撃へと切り替え塵も残さず蒸発させた。

 

 

「くふっ」

 

 

その最中に、亡骸へと変わっていく配下の間を潜り抜けて、溢れる笑みを隠そうともしない死の天使が迫る。

ビキビキと筋骨を軋ませながら、極大にまで硬化、研ぎ澄ませた翼の先端を超高速で突き出した。

 

 

《!》

 

 

翼は吸い込まれるように化け物等の合間を縫って、背後から隼斗の心臓部へ突き立てられた。

それでも勢いは止まらず、伸長し続ける翼は、振り抜かれた拳撃のように隼斗の身体を吹き飛ばす。

 

 

「逃がさないわ」

 

 

サリエルは青紫色の翼二枚を地面へ突き立て、弓なりに上体を反らした。そして収縮したバネを解放する様に、前方へ向けて一挙に加速する。

そうして一瞬で追い付いた天使の翼が、触手の様に隼斗の脚を絡め取ると、容赦無く地面へ叩きつけた。

 

一つ、二つと世界が震撼する。

只管(ひたすら)乱雑に叩きつけられる肉の音が連続し、やがて挽肉状の血の塊と化した。

 

 

「あら」

 

 

翼による折檻を止めたサリエルは、最早原型をとどめていない亡骸に、()()()()()()()()を見た。

 

 

「いつの間に、カワ゛……ッッ」

 

 

ぐるりと反転する視界。

突如横合いから振り抜かれた拳を顳顬(こめかみ)に受け、首から上のみが錐揉み状に吹き飛ばされていた。

 

 

しかし、

 

 

「見事な変わり身ね。一瞬気付かなかったわ」

 

 

《ちっ、まだ復活する余裕がありやがるか》

 

 

さも当然の様に復活する天使に対して、隼斗の対応も淡泊なものになっていた。

先程翼による刺突を受けた背には衣服の損傷こそあれど、傷一つ負っていない。

その様子に好奇な眼差しを向けるサリエルは、硬質化した自身の翼を軽く撫でた。

 

 

「ふふ、まだ貴方を傷付けるには力が足りないか。それとも、今の貴方はそもそも傷すら負わない無敵の存在にでもなっているのかしら?だったら少し困るわねぇ」

 

 

身体を舐める様に凝視する天使に対し、隼斗は眉間に皺を寄せながら言い放つ。

 

 

《馬鹿言うな。俺はお前みたいに傷を瞬時に治す能力を持ってるわけじゃねェ。当然、脳や心臓を潰されれば死ぬ》

 

「それが難しいんじゃない。試しにさっきからこの世界の空気を排除したり濃度を弄ったりしているのにケロッとしてるし」

 

《んなもん息止めりゃ問題ねェだろ》

 

「………その発言が既に可笑しいのよねぇ。貴方種族は人間の筈でしょう?既に、と言うかとっくの昔にそんな域から飛び出してしまっているわよ?強大な力を得た為に神格化でもしたのかしら」

 

《俺が神ってか?世も末だな》

 

 

 

軽口とは裏腹に隼斗とサリエルは幾度も衝突を繰り返していた。

当初は彼の一撃を前に呆気なく粉微塵になっていた天使の身体も、徐々にその威力を理解し、一度や二度では壊れない耐久力を持ち始めつつある。

 

ぶつかり合うは拳、或いは蹴と翼。

リーチで勝るサリエルは、隼斗が懐に入れぬ様、遠間から四枚の翼を高速で打ち出し、それでも潜り込まれたならば残る二枚が対応する形式を取っていた。

現状、隼斗の攻撃と均衡する程にまで強化された翼の一突きは、死角からの不意打ちとはいえ、彼が受け損じた程の性能を誇る。

 

 

《ちっ》

 

 

隼斗の軽い舌打ちに、サリエルの口角が笑みの形に吊り上がっていく。

 

その顔が見たかった。

優勢から徐々に余力が削がれ、次第に焦燥へと変わる表情が見たかった。

 

慌てることはない。

 

厖大(ぼうだい)な彼の強さは上限からのスタートであるのに対して、此方は際限無く強化することができるのだ。

焦燥(その)先はいつ見れる?

もっと見せつけた方がいいか?

先程はその身体を貫けなかった翼の強度も今では更に跳ね上げてある。そろそろ傷の一つでも付けられる頃か……。

一層の事翼の数を増やそうか?なんならまた分身を創り出してもいい。

 

 

────── (いず)れにせよ、彼が血を流すのは時間の問題だ。

 

 

 

 

(……とでも思ってんだろうな)

 

 

 

怒涛の如き打ち合いの最中、湿った音を立てて天使の翼が千切れ飛んだ。

サリエルがその事実に気付いたのは、自身の背に唐突な脱力感を覚えたからだ。

 

 

《漸く気付きやがったか》

 

 

エコーの掛かった低い声を唸らせ、隼斗は返り血のついた掌を払った。

もう一方の手には、いつの間に捥ぎ取ったのか、更に二枚の翼が握られている。

千切られても尚、びちびちと跳ね回る様は、宛ら陸に打ち上げられた魚を思わせた。

 

 

「………、」

 

 

そして再びサリエルの意識は己の背に、欠損した翼に向けられたが、ここにも明確な異常が生じていた。

普段ならこうして自分が意図せずとも即座に再生へと向かっていた筈の傷口が、一向に修復されない。それどころか徐々に欠損部分が広がっていく。

それはまるで虫喰いの映像を早回しで見ている様な光景だった。

 

 

「何故………」

 

《最初に警告したよな?》

 

 

突き付けられた男の掌。

サリエルは徐ろに顔を向け、丁度視線が彼と重なった瞬間、視界一面が黒い波に包まれた。

 

それは妖力が入り混じった破壊の閃光。

周囲に漂う配下諸共、死の天使の身体は遥か遠方へと消えていった。

 

 

 




千切られてびちびち動く翼ってよく考えたらシュールだな……。シュールでキモい。シュモい。

2018年最初の投稿が1月中にできてよかったです。
今年も引き続き書かせていただきますので、どうぞよろしくお願いします!
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