東方万能録   作:オムライス_

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お待たせ致しました。
本当はもっと早く投稿する予定でしたが、諸事情により一週間程遅れてしまいましたm(__)m




168話 干渉不能の隔離空間

白一色の世界を塗り潰さんと漆黒の波が走った。

放射状に広がっていくそれは、人間界に存在しえない力の込められた虚無の閃光。

 

繰り出した当人、柊 隼斗は掌を突き出したままその先を睨み付ける。

何も存在しない空間に、閃光によって消し飛ばされた化け物等が折重なり形取った円形状の風穴が一つ。

ばらばらと崩れ落ちる残骸を前に、隼斗はその者へ淡泊に告げる。

 

 

《残りの翼を犠牲にしたのは良い判断だぜ。じゃなきゃ今頃塵になってた》

 

 

「何を、したの?」

 

 

声のみが、彼の言葉に応じた。

 

直後、地べたに血だまりを広げる化物の亡骸が盛り上がった。

一度ばらばらになったそれは粘土の様に混ざり合い、やがて人型を形成していく。

 

死の天使サリエルは、既に笑みの消え失せた表情のまま、隼斗を眼光鋭く睨み付ける。

 

 

《珍しく察しが悪いな。()()()()()のが俺の仕業だとでも思ってんのか?》

 

 

隼斗は、サリエルの背にあった筈のものを顎でしゃくってみせた。

 

…………六枚全てが消失した背部を。

 

 

《何故俺が態々こんな場所に連れてきたと思ってる?…………そう言やお前は、此処の特性を軽く見てたな》

 

「!」

 

 

思い起こされた記憶。

彼の言った通り、軽視していたこの異界の特性。

 

 

───『この世界では常に崩壊が付いて回る』

 

 

サリエルは徐ろに掌へ視線を落とした。

 

 

「…」

 

 

この世界へ転移した当初は小さな亀裂だった。

別段気にとめる程でもなく、自身の再生能力によってすぐ様修復されるレベルの極僅かな崩壊。

 

 

「………」

 

 

まるで乾燥によってひび割れた大地の様だった。その中で一際大きな亀裂は掌を飛び出して腕へ、そして肩口へと向かっていた。

 

 

「く、くくっ……」

 

 

一度は消え失せたサリエルの表情に、再び笑みが零れる。

彼女にとって、その様がどうしようもなく可笑しく映った。

 

人体に降りかかった過度なストレスや刺激を緩和させる為に起こる生理現象的な笑いとは違う。

どこか、滑稽なものでも見下ろしているかの様な、下卑た笑み。

 

 

《何が可笑しい?》

 

 

目の前にした彼がそれを疑問に思わない訳がない。その質問に、死の天使は口角を吊り上げたまま答える。

 

 

「だって、可笑しいじゃない!私が!私以外の全ての存在に絶望を与えるべき私が!今まさに、理解不能な崩壊に見舞われているのよ?治る筈の傷は一向に塞がらず、それどころか悪化の一途を辿っている。この亀裂だってそうよ!この世に誰か一人でも存在している限り!『絶望』の根源たる私が高々崩壊によって消え入る訳がないのに!」

 

 

狂気染みた笑みのまま、サリエルは捲し立てた。

 

 

 

 

絶望と希望は対照的であり、その関係性は緊密だ。

 

一人の希望が他の誰かの希望とは限らない。

一人が幸せを掴むことで、他の誰かの幸せが崩れ去ることもある。

 

………希望の裏に潜む絶望。

その理屈を極論化したのが彼女の能力(ちから)だ。

 

死の天使の存在は、人間界、魔界問わず全生物共通の『絶望』であり、彼女はその絶望を核として、新たな絶望を創り出している。

 

即ち、彼女の降り立つ世界に一つでも生命が存在している限り、死の天使と言う存在が消えることはないのだ。

 

 

《……》

 

 

隼斗は一度瞼を伏せ、徐ろに溜息を吐きつつ、

 

 

《此処には……、絶望を感じる者(そんなもん)は一人も居ねェよ》

 

 

低く、そう言い放った。

 

依然、天使の笑顔は絶えない。

 

 

「この場所に居る居ないは関係ないのよ?要は人間界だろうと魔界だろうと……、もっと言えばこの世に存在している限り…………」

 

《だから居ねェってんだよ》

 

 

今度こそ、サリエルは口を(つぐ)んだ。

 

 

《此処はとある奴等の協力を得て創りあげた、『外界との干渉を断つ』異界だ。お前の厄介な能力(ちから)を封じる為のな》

 

 

ついには形を保てず霧散していく天使軍の戦士達を一瞥しつつ、隼斗は突き付ける。

 

その言葉が示す通り、それ以上の意味を持たぬたった一つの、『残酷』な事実を。

 

 

「何を言って……」

 

《気付いてんだろうが》

 

 

有無を言わせず隼斗の低い声が被さった。

 

そう、彼女は気付いている。

気付いた上でその事実に疑いを持っていた。

 

 

だってそうだ。

もし本当に外界との干渉を断ってしまったら、目の前の男はどうやって帰還する?

仮に帰る為の『出口』を後から作れるとして、再び外部と此処が繋がった瞬間、自分は再び能力(ちから)を取り戻すだろう。

そうなれば、例えそれが一瞬にも満たない刹那の時だったとしても、脱出することは容易い。

 

彼にとって、そうなってはいけない筈だ。

 

 

「そう、あり得ない」

 

 

自分へ言い聞かせるようにぼそりと呟いたサリエルは、能力の間接的行使により、ズタボロになった身体を修復していく。

これは飽く迄、サリエル自身の脳内で描かれる絶望を体現しているに過ぎない。

つまり、彼女が脳内で処理し切れる範囲でしか効果を持続出来ないのだ。

 

そして今は激闘の中に出来た間隙。

一時的に戦闘と言う動作が抜けた分を回復に充た為か、身体は見る間に再生していった。

 

 

(確かに彼の言った通り、回復にさえ集中していれば肉体の修復速度が崩壊を下回ることはないわね。……とは言えこれでは埒があかない。なんとか、)

 

 

先の言葉が事実であるならば、少なくともこの場にいる両者を永久に閉じ込めておかなければならない。

 

 

 

(なんとか、脱出する……算段、を…………………、)

 

 

そう、()()()()()()、だ。

 

 

そしてその予想を見透かしているかのようにして、再び滑り込んできた言葉。

 

 

()()()()()()()、そいつは現実逃避だ》

 

 

「─────────!」

 

 

……………そうだ。

この場所では、今まで湯水のように湧いてきていた絶望の気配を一切感じることができない。

 

今までそんなことはなかった。

 

人間界や魔界は勿論の事、先に柊 隼斗と言う特記戦力を外界から切り離し、閉じ込めておく為に用意した異界でさえも、絶えず無限に湧き上がる力の存在を己が身に感じていた。

 

その感覚が、此処へ来てぱたりと途絶えたのだ。

 

 

彼が口にした事実を裏付けるには十分な要素が既に展開されていた。

 

 

「なら、本当に?」

 

 

サリエルはまたも小さく呟いた。

その一度の認識が、いつしか彼女から笑顔を消失させていた。

 

対して、柊 隼斗が口にしたのは、淡々とした冷酷な現実。

 

 

《此処では時の流れすらも崩壊からは逃れられねェ。まっ、時間は腐る程あるんだ。決着つけるにゃ丁度良いだろ》

 

 

ぱきりっ、と音を立てた仮面の一部を、隼斗は反射的に掌で覆った。

 

そして歩き出す。

本当の意味で、『絶望』を突き付けられた天使の元へ、固く拳を握りながら。

 




自分で言うのもなんですが、もし仮に此処でサリエルが駄々をこねてたら、『精神と○の部屋に閉じ込められた魔[ピ─]ウ』だなって。
別に狙ってこの展開に持って行った訳じゃありません。偶然です。ホントに。
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