『邪視』とは一瞥で相手を害する事が出来るもので、見ただけで身動き出来なくさせたり、死に至らしめる強大な魔力である。
『
ガラス片の様に舞う障壁の残骸すらも、空中で塵となって消えていく。
《!》
『
《ちっ…!》
隼斗は地を蹴り、三つの瞳の捕捉範囲から離脱する。
すると、標的を見失った目玉はぎょろぎょろと忙しなく蠢き、四方八方に視野を広げ始めた。
(飽くまで標的は俺一人か)
(眼球一つでどれだけの視野を持ってるかは知らねェが……!)
衝撃はやがて音を置き去りにする。
残像が地面を踏みしめ、一瞬遅れて硬いもの同士がぶつかり合う音が響き渡る。
気配を感知されない隠密な歩法とは違う、隼斗の
周囲に散りばめられた音と衝撃はやがて間断なく地を叩き、残像は
「nx?jにgtwqかhf!?」
ノイズに阻害された言葉を発し、
その行為が標的を見失っての焦燥から来ているのかは定かではないが、そんな彼女の身体から、『目』の内の一つが弾け飛んだ。
《貰うぜ、その目玉》
彼女がその言葉を聞いた時には既に、三つ全ての『目』が吹き飛ばされた後だった。
「ygぁzgmpmgwd!?」
遅れてやってきた苦痛に、
そんな彼女の目の前に、隼斗は拳を構えて現れる。
ぴたり、と。
《
隼斗の背部から凄まじい濃度のエネルギーが噴出する。
しかし元来の性質とは異なり、その色はドス黒く、形状は雑把に形取られた羽のよう。
エネルギーは背から肩へ、肩から拳へと流れていく。
そうして隼斗の右拳に留まった黒い力は、再び天に向けて立ち昇る。
言うまでもなくそれは、今戦闘が始まって以来
《今楽にしてやるよ》
拳は
最後の一撃を放つべく、隼斗の脳が腕へ、拳へと信号を送る。
「…………wvjた」
その最中、隼斗は確かに聞いた。
ノイズによって言葉の殆どが聞き取れない中、
─── 『見つけた』、と。
悪寒が、隼斗の背中を一気に駆け抜けた。
その正体を彼は見た。
全てが、同一の標的を見据えていた。
そして彼女はもう一度言葉を発する。
─── 『見つけたぁ』。
《く、》
既に彼の拳を纏っていた黒い力も、この世界に対する抵抗力も失われていた。
《……そッ!!》
足裏に力を込め、一挙にその場から離脱する。
身体中から乾いた音が聞こえた。
恐らくは崩壊の影響だろうが、そんなことを確認している余裕はなかった。
《…………ッ》
次いで、右脚から湿った感覚が広がる。先の左拳同様、裂傷を負っていた。
(あの『目』っ……!同じ場所に二度くらえば肉が裂けるってか?………いや、そんな単純なもんじゃねェ。そもそも俺の身体は世界レベルの崩壊から身を守るために防護してたんだ。それが強制的に剥がされたっ!一度目は防護膜、二度目は肉体。つまり睨んだ対象に悪影響を生じさせるナニかがありやがるっ!─── それに……、)
血の滴る右脚を抑え、回道を施しつつ走る隼斗は、その
(
焦りからか、隼斗の額からは一筋の汗が流れていた。
既にこの呪いのような攻撃を四度もその身に受けている。
そう、
湧き上がる焦燥は戦闘の各種動作を鈍らせる。
そんなことはわかっていた。
わかっているからこそ苛立ち、彼は険しい表情を隠そうともせず舌を打った。
《ちっ…》
─── そして、
ふと、それは思い起こされた。
『同じ攻撃を解明できぬまま、何度も受け損じるなど、三流以下のする戦闘だ』
いつだったか、気の遠くなるような遥か昔。
月の軍に所属していた彼が、新兵時代に耳タコで聞かされた教訓だった。
一度目を回避し、生き残れたのは己の運が良かっただけ。だが次は無い。二度目がくれば、今度こそ命を落とすだろう。
それが嫌なら、運良く拾った命で打開策を導き出せ。そして実行しろ。
───── それが劣勢を覆す唯一の方法だ。
《………》
当時から超人としての力を手にし、劣勢に陥ったことのない
人妖大戦で一人地上に残り、途方もない時間が流れた。
友ができ、友を失い、力を失った。
初めて死にかける程の傷を負い、改めて自分の置かれた状況を思い知った。
…………もう自分は無敵じゃない。
傷を負えば血が流れる。
脳や心臓を潰されればあっけなく死を迎えるだろう。
だからこその教訓だったんだ。
自身の力を過信して、胡座をかいている場合ではなかったと気付かされた。
残ったのは後にも先にも立たない後悔ばかり。
あの日を境に戦い方を見直した。
新たな
そうして長年積み重ねてきた実績が、今の彼を支えている強さだ。
(…………………………………………………………………………ざまぁ無ェな)
再び標的を捉えた無数の視線が、一斉に彼の背中を射抜こうと指向されて……、
「dtは?」
次の瞬間には、その場の『目』全てが花火のように炸裂して爆ぜた。
「gmtdぁmdmwああwm ッ!?」
再びノイズの混じった悲鳴が上がる。
《お前にも教えてやるよ。ごく当たり前の教訓をな》
散々見せ付けられた彼女の再生能力や、不死に近い身体という固定概念から、危うく見逃しかけていた。
悲鳴が上がっている。
苦痛を受けている。
─── それなら、
《
「ッッ!!」
ズグズグ と、湿った音を立てながら再生していく『目』を一瞥しながら、隼斗は拳を握り込んだ。
衝撃波が地をかける。
再び飛散する『目』の残骸が、真っ白な世界に降り注いだ。
「khnwhぁ!?」
苦痛に悶える
《根比べといこうや》
前書きで触れましたが、今回サリエルが開眼しているのは、邪視又は魔眼のそれです。
実際?のサリエルも、邪視や魔眼の元祖とされているとか。