東方万能録   作:オムライス_

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〜博麗神社へ行こう!〜
博麗神社へ参拝に行きたいけど、神社まで足を運ぶのが大変!
途中で妖怪に襲われたら怖い!

そんなこんなで、今まで参拝に行く事が出来なかった方に朗報です!
なんと博麗神社では近日、無料送迎を実施致します!
人里から博麗神社までの間を、博麗の巫女が不思議な力で瞬時にお送り!!
時刻は日中、半時ごと『道』が開きますので、ご利用の方は博麗の巫女まで。
尚、時間外でも博麗神社に行く事が出来るよう、里から神社までの行路を確保しております!
安心・安全!参拝だけでなくお散歩にも最適!!

詳細は当日、博麗の巫女まで。



──────文々。新聞より





182話 おいでよ 博麗神社

吹き抜ける風から身を強張らせる程の鋭さが失せたのは、つい最近のことだ。

冬季には力が失われていた日の光も蘇り、道行く人々も防寒着の類を手放しつつある、そんな季節。

 

人里で寺子屋の教師を務める上白沢 慧音も、そんな心地よい気候を肌で感じながら、今日も今日とて寺子屋の往路に就いていた。

長年教師として接してきた彼女にとって、道行く人々の殆どが顔馴染みであり、溌剌(はつらつ)と商売に勤しむ若人から、杖を突く老人に至るまでが彼女の元生徒である。

 

 

「おや、慧音先生。今日もご苦労様です」

 

 

そんな中声をかけてきたのは、一組の老夫婦だ。

すっかり弱り切った夫の足腰を、傍の妻が補助しつつ、やっとこさ歩いてきたようだった。

 

 

「やあ。相変わらず二人共仲睦まじいな」

 

 

元教え子の挨拶に、慧音は爽やかに応じた。

 

 

「今日も参拝か?」

 

「ええ、もう日課のようなものです」

 

 

老婦が気品ある笑顔で答え、「ね?」と傍の夫を見遣った。

すると老夫は皺だらけの顔でくしゃりと笑い、楽しそうに大通りの先を指差した。

 

 

「ほれ、最近神社への近道ゆーのが出来ましたでしょう?博麗の巫女さんがこう不思議な力で神社まで送ってくれる。いやー楽なもんですわ!それまでは妖怪やら野盗やらで安心して歩けないどころか、そもそも老いぼれにはちと遠すぎた」

 

「もちろん知っているさ。……と言うかこの話もう三回目だぞ?」

 

 

老夫は「そうでしたか?」と首をかしげると、声高らかに笑い飛ばした。

足腰が弱っても声だけは出るようで、それはすれ違う人々が思わず一瞥する程の声量だ。

慧音も慧音で、元気があってよろしい!と言わんばかりにうんうんと頷いている。

 

 

 

「これも博麗の巫女の力だってんで、儂も長いこと……、()()()()()()()()()()()()、長いこと生きてますが、あんなことができるんですなー」

 

 

ぴくりと慧音の眉が動いたのと、老婦が夫の白髪頭を(はた)いたのはほぼ同時。

しかし、当の本人は気に止めた様子はなく、相変わらず愉快そうに大口開けて笑っていた。

 

 

雑談もそこそこに、慧音は思い出したように大通りの先を見て言った。

 

 

「長々と話し込んでしまったが時間は大丈夫か?確かあの『道』は半時に一回しか開かないだろう?」

 

「あっ、ほれアンタ。もうすぐ次の『道』が開く頃じゃないかしら」

 

「おおっ、そうだったそうだった」

 

 

老夫は懐から年季の入った懐中時計を取り出すと、緩慢な動作でお辞儀をして、夫婦そろってその場を後にした。

 

 

 

「気を付けてな」

 

 

二人を見送った慧音は、小さく息を吐くと、博麗神社のある方角を見遣ると、独り言ちる。

 

 

(……里と神社の間を瞬時に移動させる『道』と、安全の保障された行路か。考えたものだ)

 

 

踵を返し、今日も今日とて彼女は寺子屋へと進んでいく。

 

 

 

──────

 

 

 

幻想郷というものが誕生して、一体どれほどの月日が経ち、何度季節が変わってきたのか、それを一々数えている者など、如何に勤勉な天狗と言えどいないだろう。

何せ彼らは自分達の領土と身内のこと以外には基本的に関心がない。幻想郷内でも珍しい、高度な技術を有する彼らには、山の外との交流がなくとも十分な生活をおくることのできる力があるのだ。

例外として、彼らが他所の事情にも関心を示すものがあるとすれば、それは各々が自主出版している新聞のネタとして使える、ゴシップくらいである。

何か事が起きれば、種族特有の俊敏性を活かしてすぐさま現場に駆け付ける様は、正に風の如しだ。

 

とにかく、年がら年中忙しなく動き回っているのは、幻想郷中どこを探してもこの種族だけだろう。

 

 

「ん、異常なしっと」

 

 

声に出して一人確認をとったのは、まだ若き白狼天狗の少年だ。

ただ一概に子供と言っても彼の場合は歴とした天狗族の戦士であり、その体躯に不釣り合いながらも、真新しい刀を帯びている。

 

そんな彼が今し方巡察していたのは、自分達の住処である妖怪の山ではない。

眼下にはそれなりに整地された林道。

ふと視線を左右に向ければ、人間の住まう里と、その反対には博麗の鳥居が見えた。

 

彼が今見回っているのは、人里と博麗神社を繋ぐ一つの道だった。

 

 

「にしても何でオイラが……」

 

 

彼は碌に説明のないまま管轄外(ここ)の見回りを命じられており、つまらないとばかりに息を吐いた。

すると少し離れたところから話し声が聞こえてくる。

 

 

「おっと不味い」

 

 

白狼天狗の少年が慌てて木の陰に姿を隠すと、程なくして人間の若い男女が林道を歩いてきた。

二人は何やら楽しそうに話しながら、周囲の風景を楽しんでいるようだ。

 

 

「ちぇ、こっちは見つからないように巡警してるってのに。これじゃあまるで斥候だよ」

 

 

小声でぶつくさ垂れつつも、二人組が立ち去るまで待機していた少年へ、どこからともなく声がかかった。

 

 

「こらこら、仮にも上司の前で不満を垂れるのは関心せんなー」

 

「……へっ?」

 

 

少年は間の抜けた声を上げ、周囲を見渡すが、声の主は影も形もない。

 

 

「あー、今は見えないんだったか。兎に角、お互い今は仕事中なんだ。お前はさっさと見回りに戻れ。さもないと鬼だけど可憐な萃香様も怒っちゃうぞ?」

 

「お、鬼!?萃香……様……って!?」

 

「ほら、早く行った行ったぁ!!」

 

「は、はいぃぃいい!!」

 

 

白狼天狗の少年は文字通り飛び上がり、慌ただしく林道の向こうへ駆けていった。

 

 

「やれやれ、奴の上司は私のことを教えてないのかね、まったく」

 

 

何もない空間で声だけが発せられた。

その正体は、肉眼では捉えられないほど微粒化した伊吹 萃香だ。

───より正確にはその分身体。彼女は己の密度を最大まで下げることにより、霧状に変化する事ができる。

 

こうして自ら散ってこの林道に広がり、外側へ妖力を放つことによって、力の弱い妖怪を遠ざけているのだ。

 

 

(まっ、駄賃()貰ってる身だし文句はない、か)

 

 

にししと笑い、萃香は意識だけを先程白狼天狗が飛び立っていった方角へ向けた。

 

 

(……にしても天狗達(あいつら)は何貰ったんだろ)

 

 

小首(無いが)を傾げて思案する萃香。

如何せん彼女も暇なのだ。

 

 

 

「天狗だし……記事のネタかな?」

 

 

などと適当に結論付け、次にやってきた気の弱そうな父親とその子供を見やると、暇潰しとばかりに悪戯を仕掛けた。

 

 

 

 

「ばあ!!!」

 

 

 

 

─── この後、人里では少しの間林道に出るお化けの噂が流れ、利用者が減ったとかなんとか。

博麗神社にて寛いでいた本体には当分の間タダ働きが課せられたのは言うまでも無い。

 

 




今回慧音と爺さんには解説キャラになってもらった。っていうかなってた。

博麗神社送迎バス(笑)については次回詳しい解説をいれます。


平成最後の投稿です。
令和からもよろしくお願いします。

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