東方万能録   作:オムライス_

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183話 一新!博麗神社

 

人里の門口には今日も大勢の参拝客が集まっていた。

列の先頭に立てられている立て札には、『こちらからお並びください』との表記があり、そこから並ぶ里の人々が、順に目の前の広場へと進んでいく。

そうして一定数の人数が集まった時点で、列を分断するように暁美は手の平を差し込んだ。

 

 

「はい、ここまで。次はまた半時後に開きますからお待ちくださーい」

 

 

言いつつ、暁美は慣れた動作で参拝客をまとめると、懐から博麗の印が押されている札を数枚取り出して空中へ放った。

すると札は光を発し、円を描くように展開され、その空間に一つの穴を形成する。

里の者達には知る由もないが、それは幻想郷の賢者が使用する『スキマ』に酷似していた。

 

 

「どうぞお進みください」

 

 

暁美に促され、初めての者は恐る恐る、慣れた者は平然とその穴を潜っていくと、現れたのは大きな鳥居だった。

目の前には参道が続き、付近には手水舎が見える。そしてその奥に建つ本殿。

 

 

「おおっ…!」

 

 

里の者達から、感嘆の声が漏れる。

 

本当に、一瞬にして人里から博麗神社へと移動したのだと、初見の者は特に目を丸くした。

振り返れば、先程通ってきた不可思議な穴は最後尾で入ってきた巫女によって閉じられてしまった。

帰りはどうするのだろう?また半時後か?などと思っていると、「お帰りはあちらです」と巫女が笑顔で指した。

その方向を見ると、今し方潜った穴と同様の穴がもう一つ展開されており、すぐ横の立て札には『お帰りは此方』と表記してある。

 

後々巫女に聞いたところ、あの穴は常時開いており、人里の門口に通じているのだとか。

潜れば一瞬で帰ることができるが、()()()()()()()()()()()と言う。

つまり『入口』にのみ制限をかけ、一方通行の『出口』を開放することで、境内が混み合わぬよう調整しているのだ。

勿論、徒歩で直接参拝に訪れた人々の為の余地も考慮されている。

 

さて、手水舎で身を清め、本殿の方へ視線を転じれば、そこには人里の者たちも馴染みのある現・博麗の巫女が、()()()()()()でお出迎えだ。

その傍らには、博麗の巫女と同い年くらいで、巫女服(相変わらず脇の開いた)に身を包んだ金髪の少女が、やや顔を赤らめながら並んでいる。

 

 

 

 

「な、なあ霊夢。やっぱりこの格好恥ずかしいんだが」

 

「いいから笑顔!」

 

 

耳打ちで囁かれた小さな抗議を、器用にも参拝客へ笑顔を向けたまま一蹴した霊夢は、「うぅ…」と更に顔を赤くする魔理沙へ、諭すように告げる。

 

 

「大丈夫よ、これは博麗神社(うち)の歴とした巫女服なんだから!どこも可笑しいところなんてないわ」

 

 

そうやってさも当たり前のように言うものだから……、

 

 

「……そ、そう言うもん、か?」

 

 

魔理沙は頭の中で、言われてみれば守矢のとこでも似たような格好をしてる奴がいたなーと思い至り、現状の羞恥もあってか、『巫女服とはこういうものなのだろうか?』と安易に結論付けてしまうのだった。

 

 

「そう言うもんよ!─── はーい、お賽せ…げふんっげふんっ、御参拝はこちらでーす。順番に有り金を…ごほんっ、うおっほん!順番にお並びくださーい!」

 

「………お前ホントに巫女だよな?」

 

 

必死に己の欲望を押し殺す赤白巫女に対し、今さっき思い至った自身の考えに早速不信感を抱いた魔理沙であった。

 

 

 

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──────

 

 

 

時刻は昼下がり。

ぽかぽかと陽気な気候が続く今日この頃。

こんな日は庭にでも出て散歩するもよし、近隣に広がる湖を眺めながらティータイムをとるもよし。時たま侵入してくる珍客が、門番によって迎撃される様を、優雅に観賞するのも良い。

 

但し、本来夜行性である彼女ら種族にとっては、今の時間帯は他の種族で言うところの夜であり、彼らが寝静まる時間帯こそが、正真正銘の昼下がりであるのだが。

 

 

「んー、暇ね」

 

 

その小さな体躯で背伸びをし、欠伸を堪えながら呟いたレミリアは、卓上に置かれている紅茶の注がれたティーカップへ角砂糖を一つ二つと落としていく。

 

最近夜更かし気味の……、と言うより昼夜逆転の生活に入りつつある彼女を気に掛けてか、傍に立つメイド長は、静かに角砂糖の入った器を遠ざけた。

 

 

「お嬢様、最近不摂生気味では?」

 

「……そう?」

 

 

頬杖をついて応じる主人へ、咲夜はやや遠慮がちに首を縦に振った。

砂糖の入れ過ぎだけが指摘の対象ではないことを理解してか、レミリアは日傘によって日光の遮られた空を見上げて言う。

 

 

「だってねー……、夜に起きてても特に何かあるわけでもないし。昼間に起きてた方がイベントは起こりそうじゃない?」

 

「イベント……、とは?」

 

「ほら、ここのところめっきり平和になっちゃったじゃない?異変らしい異変の話も偶に聞く程度だし、夜になんか起きてたらただでさえ少ない退屈凌ぎ(イベント)に巡り会えないのよ」

 

 

それって吸血鬼としてどうなの……?、などと言うツッコミを、咲夜は心の片隅へと追いやった。

 

 

「……左様ですか」

 

「むっ、さてはお前吸血鬼らしくないとか思ったろう…!」

 

「そんなことは、ございま、せん」

 

「おいこら目を背けるな」

 

 

まったく、とレミリアは頬杖をついたまま、不意に自分の頭上を高速で横切った影を捉えた。

その影は瞬く間に遠方へ消え、気が付けば卓上には一部の新聞が置かれていた。

 

 

「……」

 

 

レミリアはいつの間にかナイフを抜いて戦闘態勢に入っていた従者を宥めてから、怪訝な表情のままその一面を覗いた。

 

 

「……………………………………………………………………………………………ふっ」

 

 

途端に得意気な笑みを浮かべた主人を怪訝に思いながらも、どうしたのかと尋ねようとした咲夜へ、レミリアは黙って新聞の一面を突き出した。

 

 

 

『一新!博麗神社』

 

 

そんな見出しを筆頭に、博麗神社に関する事項が大々的に取り上げられていた。

 

 

「これは……」

 

「ほら見なさい咲夜。昼間に起きてて正解だったわね!」

 

 

その小さな胸を張り、自信満々にしたり顔を輝かせたレミリアは、こほんと咳払いしつつ従者へと命じる。

 

 

「フラン達をここへ。準備ができ次第博麗神社へ向かうわ」

 

「かしこまりました、お嬢様」

 

 

咲夜は迅速に命令を聞き入れ、一瞬で姿を消した。

彼女はこの館のメイド長でありながら、レミリアが全幅の信頼を置く者の一人。

一度命令とあらば、そこに疑う余地もなく、即座に主人の命令を実行する。

 

 

 

 

その場に一人残されたレミリアは、改めて新聞の一面に視線を落とした。

 

 

(新聞屋め、随分粋な計らいをするじゃないか)

 

 

記事には博麗神社への参拝に関する知らせや、神社近辺に湧き出したる温泉への案内などが記されていた。

 

しかし、彼女の目を引いたのは最後の一文だった。

 

 

 

 

『────幻想郷を守りし英雄の帰還を望む者達へ』

 

 





─── 次回、物語は終局へ。



遅れましたが投稿間に合ってよかったです。
6月は少し立て込んでますので、もしかしたら6月中に間に合わないかも知れませんが、ご了承ください。
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