東方万能録   作:オムライス_

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23話 VS 怪力乱神

「よし、着いたな」

 

彩芽に言われたとおり山の反対側まで飛んだところ、大きな渓谷があり、したの方に幾つも洞窟が出来ている

 

「うん?何だありゃ」

 

見ると渓谷の中心に闘技場?みたいな者が出来ていてそこに何人か集まっている

 

「…あれは、人間か?」

 

更に近づいて見てみると、闘技場の上では鬼と人間の男が向かい合っていた

 

「た、頼む…勘弁してくれ…!」

 

「何を今更怖気付いてる?私達を退治しに来たんじゃないのかい?」

 

「お、俺が悪かった!だ、だから…」

 

「悪いけど、売られた喧嘩は買うのが鬼の性分でね。見逃す訳にはいかないんだよ」

 

成る程な。つまりあの男は退治屋か何かで、鬼を討つためやって来たはいいが鬼の圧倒的な力を前に仲間は全滅。アレが最後の一人か

 

っと、闘技場の端で最早原型をとどめていない退治屋の残骸を眺めながら推測する

 

「まあ、今回は退治屋が無謀だったって事で助ける義理もないんだけどな」

 

だが流石にまだ生きてる人間を見殺しにするのは目覚めが悪い

 

仕方ないと呟き、闘技場に歩み始める隼斗

 

「うん?誰だお前は」

 

先程から男と話していた周りの鬼より一際妖力の強い額に大きな角を生やした女の鬼が、此方に気付いて尋ねてきた

 

「唯の流浪者だ。部外者の俺が言うのもなんだけど、その人見逃してやってくれないか?」

 

「なに?」

 

睨まれた。そりゃそうか

 

「アンタらだって戦意喪失した相手と喧嘩したって面白くないだろ?」

 

「そういう問題じゃない。この人間共は私達を退治するためにここにやって来た。私達はその挑戦を受けたんだ。殺されたって文句言えない筈だよ?」

 

今度は二本の角を生やした見た目幼女の鬼が言い放った

 

「まあ一理あるな。じゃあさ…」

 

ここで霊力を5割程解放する

 

「俺がそいつ等の代わりにアンタらと戦うって言ったらどうだい?」

 

その瞬間、長と思われる二人の鬼とそれ以外の鬼達が身構えた

 

「!…へえ。中々イイものを持ってるねぇ」

 

俺の霊力をその肌に感じ、嬉しそうに笑う鬼

 

「さあ、どうする?」

 

因みに生き残ってた人間の男は俺の霊圧に当てられて失神していた

 

もう帰れお前

 

「…いいだろう、その喧嘩買った」

 

どうやら納得してくれたようだ

 

ーーー計画通り

 

「一応名前を聞いておこうか」

 

「柊 隼斗だ」

 

「隼斗か…いい名前じゃないか。私は星熊 勇儀。鬼達を束ねる長の一人だ」

 

「同じく長の一人、伊吹 萃香だよ」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「勝負場所は闘技場の上。勝敗は相手を殺す若しくは気絶か、降参するかで決まるものとする。いいね?」

 

「わかった。それで誰が戦うんだ?」

 

「私から行くよ」

 

名乗りを上げたのは長い金髪で額に大きな角の生えた女の鬼、星熊勇儀

 

「隼斗って言ったかい?アンタ変わってるね」

 

「変わってる?何で?」

 

「鬼ってのはその圧倒的な強さ故に周りからは恐れられてるのさ。なのにアンタは恐縮するどころかこうして勝負まで挑んできた。人間を助けるって建前まで付けてね」

 

「…バレてたか」

 

「くくっ、久しぶりに楽しめそうだよ!」

 

そう言って構えを取る勇儀

豪快な構えだが隙がない

 

対して俺も身構える

 

「アンタ素手でやり合う気かい?」

 

「一応術も使えるがそれじゃあフェアじゃないだろ」

 

「ふぇあ?」

 

「公平じゃないってこと」

 

「ふーん。その心意気は嫌いじゃないけど、あまり舐めてると怪我するよ!!」

 

一気に駆け出す勇儀

 

「うらぁっ!!」

 

掛け声と共に繰り出された勇儀の拳。

隼斗はそれを紙一重で躱す。

すると後方にあった木の中心が拳の形で抉れていた

 

「…おおっ、どんな拳圧だよ」

 

「まだまだこれからだよ!」

 

予想以上の怪力に若干驚いた隼斗だったが、直ぐに切り替えて勇儀の乱打を躱していく

 

「ちぃっ、ちょこまかと!」

 

ここで少し大振りのこぶしが放たれた。

隼斗はそれを見逃さず体を捻ることで躱し、その勢いのまま勇儀の横腹に拳を叩き込む。所謂レバーブローと言うやつだ

 

「ぐっ…」

 

肝臓部分に鈍い衝撃が走り、顔を顰める勇儀

 

「もういっちょ!!」

 

続け様に右ストレートをぶち込むが今度は両腕を交差してガードされてしまった

 

「っつつ…中々重い拳だね。少し効いたよ」

 

いや、霊力も込めてたし割と強めに殴ったから普通は少しじゃ済まないんだけどな。

タフだね、鬼ってのは

 

「今度はこっちの番だ!」

 

ドンッと勢いよく地面を蹴り一気に間合いを詰めてくる勇儀

見ると地面が抉れて足型が残っている

 

「そらっそらっそらぁっ!!」

 

「うおっと…!」

 

先程とは比べものにならない速度で連打が放たれる

一発一発が重い

 

そして一発の突きが隼斗の捌きを掻い潜って鳩尾に打ち込まれる

 

「…っ!」

 

一瞬怯んだ僅かな隙に回し蹴りが入った

 

ズドォォンッ!!

 

大砲をぶっ放したと思わせる程の炸裂音が辺りに響く

 

回避が間に合わずモロにくらった隼斗はくの字に折れながら吹っ飛び、競技場の外に投げだされた

 

「しまった…!やり過ぎちまったか?」

 

「…ありゃー、少しは骨のある奴だと思ったんだけどね」

 

勇儀も萃香も周りの鬼達までもが隼斗の負けを確信した直後

 

「あ〜、痛ってえ!くそっ…」

 

一同が声のした方を見ると、闘技場の場外からのそりと立ち上がる隼斗の姿があった

本人は痛がっているがまだ大分余裕がありそうだ

 

「…くくっははははっ!やるじゃないか!最高だよアンタ!!」

 

それが余程嬉しかったのか笑いながら隼斗を褒め称える萃香

 

勇儀も同じ様でそばまで駆け寄り闘技場へ引っ張り上げてくれた

 

「どうも。って言うかさっきまで本気じゃなかったんだな」

 

「まあアンタの力がどんなものか気になったんでね。そしたら思いのほかやるからつい力が入っちまったよ」

 

「さいですか」

 

っとここで萃香から声が掛かった

 

「さて、隼斗。このまま続けるか?私達としちゃあ大分満足出来たしそっちが降参するならそれでも構わないよ?」

 

その言葉に隼斗の眉がピクッと動いた

 

「降参?冗談言っちゃいけねェな。やられたままじゃ終われない。勝負はまだまだこれからだろ?」

 

「ふっ、そうかい」

 

まるでそう返ってくるのがわかってたかのように笑う萃香と勇儀

 

「なら試合続行だ。勇儀!遠慮はいらないよ、本気で行きな!!」

 

「…いいんだな?隼斗」

 

「ああ、俺もちっとばかし本気だすからな」

 

そう言って霊力を八割解放。

同時に両手両足に霊力で形成した籠手を装備する

 

これは幽香との組み手中に思いついた新しい技だ。

唯籠手なので、装着すればパンチ力が上がるわけでも炎などを纏えるわけでもない。

飽くまで腕の防護が目的だ

 

「!…ほぅ」

 

最初こそ驚愕していた勇儀だったが、隼斗から発せられる霊力をその身に受け歓喜する

 

「いいね!この身体にひしひしと伝わる緊張感。久々の強者だ!」

 

拳を握り込み、一層妖力を高める勇儀

 

「そりゃ、どうも」

 

力を失って以降、過去にここまで霊力を出した相手は幽香だけ。

果たして今回はどうかな?

 

「ふっ!」

 

短く息を吐き、一気に霊力を跳ね上げる

 

「…はっ、面白いじゃないか。行くよ!!」

 

地に足が付くたびに地鳴りが起こる程の爆発的な加速力で突っ込み、拳を放ってくる勇儀

 

隼斗はそれを籠手を使い地を踏みしめる形で受け止めた

その余波で衝撃波が発生する

 

「なっ!?」

 

「お前の本気はこんなもんか?」

 

「くっ!うおおおおおおおっ!!」

 

勇儀は咆哮を上げ、怒涛のラッシュを打ってきた

 

その咆哮により大気が震え、木々が激しく揺れる。繰り出される拳や蹴りの一発一発が空圧だけで大地を抉る程の威力だった

 

それでも隼斗はその一つ一つを捌き、受け、躱していく

 

そして勇儀の拳を弾き、大きく空いた腹に拳を叩き込んだ

 

「こんなもん……がっ!?」

 

一瞬耐えたかに見えた勇儀だったが次の瞬間には凄まじい衝撃をその身に受け、吹き飛んだ

 

「ぐっ……!何が起こった?」

 

一瞬呼吸が止まるも、なんとか起き上がる勇儀

流石鬼なだけあってタフだ。

普通なら意識がぶっ飛んでもおかしくない一撃だったのに

 

「異国の武術でな、発勁と呼ばれる技だ。これの前では頑丈さは関係ない。内側にまで衝撃を伝えるからな」

 

「成る程。耐えられなかったのはそう言うことか。……なら打ち合いは些か分が悪いね」

 

「でも……」そしてゆっくりと構えをとり、呼吸を整える勇儀

 

「だからって引くわけにはいかないんだ…!」

 

「上等っ!」

 

再び始まった打ち合い

 

 

だが明らかに勇儀の勢いが増している。

隙をついて隼斗が発勁を叩き込むが、血反吐を吐きながらも勇儀のラッシュは止まらない

 

「っっっ!…まだまだぁ!!」

 

「ぐっ…!!」

 

勇儀の拳が入り、後ろに仰け反る

 

その反動を利用しお返しと言わんばかりに頭突きをかます隼斗

 

「おおおおおらぁぁぁ!!」

 

「はあああああ!!」

 

お互い倒れてもおかしくない程の打ち合いが暫く続き、双方の拳が顔面に入りクロスカウンターの形になる

 

お互い数メートル後退ったところで息も絶え絶えの勇儀が口を開いた

 

「ハァ、ハァ……隼斗、次が最後だ。私の持つ力の全てをぶつける。付き合ってくれるな?」

 

「ふぅー、ああ」

 

俺はその問いに即答した

 

「ふっ、そうかい」

 

勇儀は短く笑い拳を握り込む

 

 

 

 

『奥義・三 歩 必 殺』

 

一歩、その瞬間高密度の妖力が拳に収束される

 

 

 

二歩、その踏み込みにより大地が割れ、更に妖力が跳ね上がる

 

 

 

三歩、勇儀の姿が消え、一瞬で目の前に現れる

そして莫大な妖力が込められた拳を打ち込んできた

 

……隼斗はそれに合わせて一層霊力を込めた籠手を突き出した

 

ゴパァァァンッ!!!

 

その衝撃波により、大気は弾け飛び、周りの木々を薙ぎ倒され、闘技場の石畳みは全て吹き飛んだ

 

 

 

 

 

砂塵が巻き上がった闘技場に影が二つ

 

「…」

 

「…」

 

両者は拳を突き出したまま動かなかった

 

隼斗の籠手は余りのダメージを受けた為か、ひび割れ飛散。

覆われていた腕も皮膚が裂けたのか出血している

 

勇儀の拳も無事ではないらしく血が垂れている

 

そして勇儀が膝をつき、力なく倒れた

 

技の威力は互角。負ったダメージも互角。勝敗を決めたのは余力の差だった

 

お互い互角だったとは言え、武術の心得がある隼斗と、怪力を持つも全てが力任せの勇儀。

 

当然体力を使い果たした勇儀に立ち上がる力は残されていない

 

「はぁ…負けたか……」

 

「立てそうか?」

 

「悪いけど自力じゃ無理だね。肩貸してくれるかい?」

 

「勿論」

 

肩を貸り、なんとか起き上がる勇儀

 

「いい拳だったぜ、勇儀」

 

「アンタもね」

 


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